藍住町総合文化ホールのオープン
昨年11月、徳島県板野郡藍住町に藍住町総合文化ホールがオープンした。町役場に近い敷地で、その周辺にはこれまで町民会館、福祉センター、保健センター、勤労青少年ホーム、緑の広場管理棟などの町関係施設が集中していた。これらはいずれも老朽化が進み、耐震性能にも問題があるということから、この5施設全てを解体し、複合拠点施設として藍住町総合文化ホールが再整備された。
施設の設計ならびに監理は株式会社教育施設研究所によって行われた。施工は西松建設株式会社である。永田音響設計は建築音響、機械設備を主とする騒音制御、舞台音響設備について、設計段階から竣工検査測定までの一連の音響コンサルティング業務を担当した。
徳島県の阿波藍
徳島の特産品というと、全国的に人気の高いすだち、竹輪などを思い浮かべるが、国内で圧倒的なシェアを誇るのが藍の染料である。かつて藍住町は、町名のとおり徳島県産の藍「阿波藍」の日本最大の藍作地帯で、その中心地だったという。藍は一度作ると土の養分をほとんど吸収してしまうため、連作に不向きなのだそうだが、吉野川と旧吉野川に囲われたこの土地は、押し寄せる川の洪水により、上流から肥えた土壌が頻繁に運び込まれるため、毎年同じ畑で質の良い藍を作り続けられたという。藍住町にある歴史館 藍の館(旧奥村家屋敷)は、そういった藍関係の民俗資料の保存や展示など、藍の専門博物館、情報センターとしての役割を担っている。この「阿波藍」の持つストーリーは、昨年文化庁より「日本遺産」に認定された。東京2020オリンピック・パラリンピックの公式エンブレムにも日本の代表色として藍色(ジャパンブルー)が採用され、さらに注目されつつある。本施設の外壁や内部、緞帳、さらに客席椅子にも藍色が使われており、藍の町であることを思い起こさせる。
施設室配置と遮音計画
本施設は、冒頭に記したようにいろいろな用途の室が集まった複合施設であり、それら各室はさまざまな使い方が想定されている。音楽利用の室は楽器演奏を行うため各室間の遮音がとくに重要になる。この施設計画では、諸室をホールから離すとともに、その間に「あいずみモール」とよばれる吹き抜け空間を介し、ホールを取り囲むように配置している。楽器演奏が想定される各室についてはなるべく分散して配置し、室相互の音の影響を少なくする配慮がなされている。計画途中の工事費高騰の折の大幅な減額により、当初計画していたマルチルームと呼ばれる音楽室の高性能の遮音構造はだいぶ削減され、マルチルーム5だけに高性能の遮音構造、いわゆるボックスインボックス(防振遮音構造)を採用した。竣工時に行った各室とホール間の遮音性能測定結果(Dr値)を平面図中に示す。隣接している室間でDr-75以上を得るためには、通常防振遮音構造が必要になるが、本施設の場合ホールと諸室とはほとんどが隣接していないため、高い遮音性能が得られている。
大ホールの内装デザインと室内音響計画
ホール音響の良い条件は、舞台から直接届く音に続いて0.1秒くらいまでの早い時間帯に壁や天井から到達する反射音が、たくさん、いろいろな方向から時間のバランスよく次々と届くことであると考えている。
この633席のホールは、基本平面形を扇型としている。扇型のホールは、側壁が客席後方に向かって大きく広がっていることにより、側壁で反射した音の多くが後壁へと向かうため、一般的に良い音響になりにくいと言われる。さらに後壁の面積が広く全体に舞台中央を向くことから、後壁を反射面とすると舞台への反射音が集中してエコー障害を起こす可能性があり、多くの場合全面を吸音面とする。そのため、側壁で反射した音が後壁で吸音され、客席の中央に到達しにくくなるのである。
このホールでは、バルコニー席をコの字型に設け、両サイドのバルコニー席前方が1階席まで下がる型になっている。このバルコニー形式は、平面的にみると人の顔のもみあげのように見えることから、通称「もみあげ席」などと呼ばれている。このもみあげ席(バルコニー席)により囲われた1階席は、そこにできた壁面からの早い時間の反射音を得ることができる。さらに2階後壁は、舞台への強い反射音が行かないように吸音面ではなく木リブによる音の拡散面としている。これにより後壁に向かった音はその拡散面で拡散し、後方からの遅めの柔らかな反射音として中央の席に返る。こうして、後方からの反射音も含め空間全体から客席に反射音が届き、観客は音にやさしく包まれた感覚で、空間の広がりを感じることができる。
ホール全体の壁下部は、高音域の刺激的な反射音を和らげる目的で、後壁と同様の音を拡散させる木のリブを施している。木リブはその間隔をランダムにし、特定の周波数の特定方向への反射を防ぎ、視覚的にも均等間隔のリブのような単調さはなく、リズミカルな印象を保っている。このような暖色系の木質壁に加え、壁上部および天井は漆喰調とし、全体に優しく明るいイメージに仕上げられている。天井面は、全体をFGボード(繊維混入石膏板)により大きな凸曲面とし、反射音をまんべんなく観客席全体に届けている。
このホールのこけら落とし公演として、11月4日にNHK交響楽団メンバーと仲道郁代さんの室内楽の演奏が行われ、重厚な室内楽アンサンブルの響きに聴衆は魅了された。これからも、こういった一流のアーティストによる本格的な演奏会が行われることが期待されるとともに、多くの町民の方々に親しまれる施設になってもらえることを願う。
本施設近くの人気店
余談であるが、本施設のすぐそばにパンケーキのおいしいおしゃれな「お池カフェ」がある。モネの世界から抜け出たような蓮の池があり、ゆったりとした気分になれるラグジュアリーな空間である。それとまた、本施設から歩いて10分くらいのところに、農園を経営されている方の直営のレストランがある。人気の少ない町の中を散策中に前を通りかかると、まだ11時過ぎだというのにすでに開店を待つ列ができていた。これはもしかして人気店?と並んで11時30分にオープン。店内は結構広かったが、12時にはすでに満席。農園直営とのことだけあって、野菜が本当においしく、思いがけずクオリティの高いランチをすることができた。文化レベルが高く優雅な町という印象を受けた。(小野 朗記)
藍住町総合文化ホール:https://www.town.aizumi.lg.jp/bunka-h/