渋谷公会堂 LINE CUBE SHIBUYA オープン!
超高層ビルの開業や商業施設の建て替え再オープン、渋谷は今年もいろいろ話題豊富な街であった。その全容が現れるのはまだ先のようではあるが、駅の再開発も進行中である。その渋谷の名所のひとつ、いろいろなアーティストや観客に愛されてきた“シブコー”こと渋谷公会堂も建て替えを終え、装いも新たに”LINE CUBE SHIBUYA”という名称で10月にオープンを迎えた。この新名称はネーミングライツによるものでネーミングライツ事業者としてLINE株式会社が選定されている。
旧公会堂の歴史
2015年に閉館、解体された旧渋谷公会堂は、公会堂としてのオープン前の1964年の東京オリンピックにおいて、ウェイトリフティング競技会場として使用され、三宅義信選手が日本選手金メダル第1号を獲得した舞台となった。その後、テレビの公開収録や歌番組の生中継会場として、シブコーの名は広く知られることになり、ついでロックの殿堂と呼ばれる時代に入る。近年はイベント会場の大型化に伴い、シブコーの次は武道館、その次はアリーナへとステップアップを目指すアーティストの登竜門となる会場となっていた。
建て替え事業
そのシブコーは、2000年以降の首都直下地震等の防災対策の強化が広く求められる中で、すでに開館後35年以上を経ており、同時に建設された区庁舎とともに耐震強化が必要となった。財源等の問題から、まずは長寿命化を図るという方針のもと、耐震強化工事が2005年から2006年にかけて行われた。そのときの改修については、本ニュース227号(2006年11月)で紹介をしている。その後、東日本大震災後、再度実施された耐震診断で建物の劣化がさらに進んでいたことがわかり、特に区庁舎は防災の要の建物でもあることから、建て替えが課題となった。区庁舎と公会堂は一体として計画されており、区庁舎の建て替えとともに公会堂も建て替えることになった。
今回の建て替えプロジェクトは、公共事業としては珍しい方式となっている。区は民間事業者から提案を公募、その結果、敷地の一部に定期借地権を設定し、その対価として区庁舎と公会堂を建設する方式が採用された。選定された事業者は、三井不動産株式会社(代表企業)、三井不動産レジデンシャル株式会社、株式会社日本設計の共同事業体である。この計画に従い、庁舎の建て替えを中心に公会堂についても配置変えが行われた。定期借地権が設定された部分には、現在、高層集合住宅の建設が進行中である。また区庁舎は公会堂に先立ち、2019年1月にすでに運用が始まった。永田音響設計は公会堂の設計を担当した日本設計に協力して本プロジェクトに参画した。施工は東急建設株式会社である。
ホール計画
建て替えでは、旧渋谷公会堂と同様2,000席規模、また区民会館として、式典、講演会、演劇、クラシックコンサートまで様々な用途で使用される多目的ホールとすることが求められた。
ホールの形状は、配置換えにより与えられた敷地が長方形であったこともあり、平面的にシューボックスタイプの形状で、2層のバルコニーを持つ。客席数は1,956席である。賑わいの創出や客席へ初期反射音を返す面としてしても機能しているサイドバルコニーは舞台の見やすさなどを考慮し、客席は1列のみになっている。毎年恒例の区民による第九演奏会など、クラシックコンサートに対する音響性能の向上のために、旧公会堂で8mと低かったプロセニアム高さを、今回は約12mまで高くし、反射板設置時にできるだけ舞台と客席が一体化となるようにした。また、舞台反射板も以前と比べ、音をしっかり反射させるために、重たい隙間の少ないものとした。舞台機構の納まりなどからの仕様でもあるが、反射板の天井、正面、側面がそれぞれ分割のない1枚ものになっており、分割数が少ないため隙間も少なくできている。区の行事で行われてきたオペラにも対応するためオーケストラピットも設けられており、第九公演の際には前舞台として使用して舞台面積が確保できる。
遮音計画
本プロジェクトにおける音響上の大きな課題として遮音があげられる。ここでいう遮音は、施設内の遮音対策ということではなく、屋外への音漏れについてである。敷地にゆとりを持つことは、場所柄から難しいところであるが、今回の配置換えによって旧公会堂の時よりさらに公会堂は敷地境界線に近づくことになった。一番近いところで約2mである。今までの公会堂の公演実績から、建て替え後も電気音響設備を使用した大音量を伴う催しが行われることが予想された。敷地境界線がかなり近いため、あらゆる公演での発生音をカバーできるとは言えないが、今までの発生音測定例などを参考に110dB(A)程度のロック演奏発生音を想定し、複合施設でもなく鉄道が隣接して走行しているような状況でもないため珍しい例ではあるが、屋外への音漏れ対策として舞台すのこも含めホールには概念図で示すような防振遮音構造を採用した。隙間防止や防振支持の簡便さなどを考慮し、遮音層はできるだけ単純な形状とした。凹凸のある壁の内装などはその内側に別途設けられている。ホール客席から普段は見ることのできない、ホールを支えている防振ゴムを参考として写真に示す。防振遮音工事の施工中は、防振側と非防振側の接触や遮音層の隙間処理など、日々の工程で注意が特に必要である。今回の現場でも、施工のポイントごとに私たちも含め、設計監理者、施工者で現場巡視を行なった。それにくわえてきめ細やかな確認が施工者と設計監理者により積極的に行われたことが、確実な施工につながったと考える。すでにオープンから様々なコンサートが行われているが、心配していたような話は聞いていない。
舞台設備の工夫
旧公会堂の改修の際にも、持ち込みスピーカの吊り下げ設置が可能なように、天井に吊り下げフックを設けていた。今回は持ち込まれるスピーカや照明の吊り込みを考慮し、一歩進んで前舞台上にすのこを設けている。メインスピーカ上の天井パネルは開閉式となっており、メインスピーカの下へ持ち込みスピーカを共吊りし、パネルを開けてメインスピーカごと吊り上げる事が可能である。すのこからチェーンなどを下ろすことが出来るようにも考えられている。また、プロセニアムより客席側に持ち込み用スピーカスペースや地震時の転倒防止フックの用意などもしている。
LINE CUBE SHIBUYAの誕生
LINE CUBE SHIBUYAは、10月13日に開設記念の式典やイベントでオープンする予定であったが、残念ながら台風の影響でイベントは中止となり、幕開けはテクノポップグループのPerfumeによる公演となった。その後も多数のコンサートや恒例の第九演奏会も行われた。
筆者はなかなかイベントのチケットがとれず、公演に行く機会が持てなかったのだが、やっと先日、「MUTEK」というデジタルアートと音楽の催しに行くことができた。このMUTEKは渋谷のいくつかの施設で連続して行われたイベントで、そのラストを飾る公演がLINE CUBE SHIBUYAで行われた。電気音響設備を使用する催しのため反射板は収納されてはいるが、普通は舞台反射板が設置されるときに使用される最も高いプロセニアム開口を用い、正方形に近い大きなプロセニアム開口に対して映像が投影された作品は、とても迫力があった。大音量、低音のビートの強い音楽は、明瞭で自然な音質で聞くことができて楽しめた。客席入口扉上に設けた配線用のフックを利用して客席内に設置されたスピーカへ配線が行われていたり、バルコニー先端に設けられた照明等演出用機材置場にレーザー光線を発する機材が設置されていたりと、設計での工夫が使われているところも見ることができた。今後はこのような電子音楽の公演も増えていくのだろうなと思った。新しいイベントを新しいホールで体験し、今後のシブコーもおもしろくなりそうだなと感じた。(石渡智秋記)