プラッツ習志野オープン
習志野市は、京成大久保駅前の大久保公民館、市民会館、勤労会館のある大久保地区公共施設再生事業に取り組んでおり、その要となる生涯学習複合施設「プラッツ習志野」が11月2日(土)にオープンした。プラッツ習志野は野球場やパークゴルフ場などのある広大な敷地の中央公園を挟んで建てられた北館と南館から構成されている。北館は旧市民会館の公園側に新設された建物で、旧市民会館に代わる市民ホール、集会室や研修室、音楽スタジオ、図書館、公民館が設けられている。勤労会館が改装された南館には、アリーナやこどもスペースが整備されている。
この事業は、民間資金を活用したPFI事業として実施されたもので、スターツコーポレーション(株)を代表企業とするグループによる設計、施工で完成した。北館の設計は(株)三上建築事務所、南館の設計は(株)青木茂建築工房、施工はスターツCAM(株)である。永田音響設計は、北館の市民ホール、音楽スタジオ等の室内音響、遮音、設備騒音防止について、設計から工事完了時の音響測定までの一連の音響コンサルティング業務を行った。
北館は、京成大久保駅前の道路から下る勾配地に建てられており、施設はその勾配をうまく利用して計画されている。駅前の道から坂道を下ると、建物の2階レベルである市民ホールや図書館などの施設の入口に到着する。このルートが駅からのアクセスとなる。一方、中央公園側には2階から下る大階段が設置されており、中央公園側に設けられた駐車場からはこの大階段を利用するルートがアクセスとなる。今後、旧市民会館が解体されてカフェなどが計画されている民間による建物が完成すると、駅から北館や中央公園へのアクセスはとても快適なものになると予想される。建物は白一色。その中で大階段がとても印象深い。オープニングの日には、中央公園でも様々なイベントが開催されており、新しい施設に来る人やイベントに参加する人が大階段を行き来し、その様がさらに賑わいを増していたように感じられた。市民ホールは2階以上に配置されており、市民ホールの下階には集会室3室が配置されている。そのほか、1階には、音楽スタジオ3室、和室2室などが設けられている。また図書館側は、2階に受付カウンターなどが置かれ、3階、4階に閲覧室などが配置されている。今後、隣接する旧大久保図書館が改装される予定で、北館別棟をして学習室やこどもフロアが2020年7月に開館予定である。
市民ホールは、324席のワンフロアのホールである。習志野市は、市内の小学校、中学校、高等学校が、吹奏楽や管弦楽アンサンブル、合唱など様々な音楽のジャンルのコンクールで優秀な結果を残しており、「音楽のまち」といわれている。このような背景の中、当初は多目的利用が可能なホールとして計画が進められていたのだが、設計途中からできるだけ音楽に適した音響にしてほしいという要望を受けて、形状を再検討した。まずは、天井高さの確保である。屋根の高さや勾配を建築設計で検討して可能な限り高くし、次に音響的に好ましい形状をコンピュータシミュレーションによって検討した。その結果、クラシック音楽に対しては十分とはいかないが、最大高さ約8mを確保できた。舞台は音響反射板設置状態が基本で、必要に応じて幕を設置する方式である。残響時間の測定値は、空席時1.2秒(500Hz)である。
市民ホールの直下には集会室が、また上階では廊下を挟んで公民館施設が配置されているため、これらの室との遮音を考慮して防振遮音構造を採用している。竣工時の遮音測定結果は、市民ホール~周辺室間で75dB程度(500Hz)である。また、音楽スタジオ3室も防振遮音構造としている。それぞれの音楽スタジオ~周辺室間の遮音性能測定結果は、80dB程度(500Hz)である。
オープニングでは、習志野市立第二中学校吹奏楽部、習志野市立第六中学校管弦楽部、習志野市立習志野高等学校(習高)吹奏楽部のそれぞれの演奏が披露された。いずれも素晴らしい演奏だったが、圧巻は習高。その中でも野球部応援メドレーで、演奏が始まるとホールは甲子園かと思われる熱狂に包まれた。習高のキャッチフレーズ“美爆音”が小さなホールに充満し、うるさいという表現とは少し違う大音量に曝されて、とにかく興奮した時間を過ごした。
オープニングを前に、ピアノの慣らし弾きをしているときに立ち会い、音を聴かせていただく機会があった。少し短めの残響がピアノにはちょうど良いようで、演奏者からもとても弾きやすいというお話しをお聞きした。
このホールが、習志野市の音楽を愛する方々に末長く愛されて、活発に利用していただけることを願っている。(福地智子記)
習志野プラッツホームページ:https://narashino-future.jp/
藤田皮膚科医院 待合室 「fホール」
10月22日、岡山市の藤田皮膚科医院で行われたミニコンサートを訪れた。きっかけは年初に届いた藤田院長からのメールである。お父上から引き継いだ皮膚科医院の建て替えでコンサートを行える待合室を計画しており、音響関連の相談に乗って欲しいという依頼であった。院長自身ヴァイオリンをお弾きになり、地元の演奏家や愛好家の方によるホームコンサートなどを行いたいというご希望や図面とともに、室のイメージとしてヴァイオリンの内部を撮影したベルリン・フィルのポスターが添えられていた注)。小さな演奏空間の響きに関われる貴重な機会であり、また弊社を紹介いただいた近藤桂司さん(福山市立大学教授・福山シンフォニーオーケストラ音楽監督)が大学同窓ということもあり、お手伝いさせていただくことになった。相談を受けたのは待合室のアウトラインがほぼ固まった段階であったので、仕上げを中心に音響的なアドバイスを差し上げた。設計は株式会社新谷建築設計事務所である。
待合室は入口側が2層吹き抜けで、片流れの屋根に沿って天井が張られている。斜め天井のエリアの平面形はほぼ長方形である。東と北向きの上層壁面には大きなガラス開口が設けられ、柔らかい光が待合室に降り注ぐ。また西側の上層面はヴァイオリンの胴の側面を思わせる曲面がデザインされている。天井中央には、室の名称にもなっている「f字孔」が切られていて、その上のトップライトからも外光が降り注ぐ。
本来の用途である待合室としては天井に吸音仕上げを配して中庸な響きとするのが一般的であるが、演奏空間としてはライブにしたいところである。受付から待合席までの距離が短いこと -したがって響きは長めでもでも明瞭度は保てそうであること、また木造であるため極端にライブな空間にはならないことを確認し、特に吸音面は設けられていない。柔らかい反射を期待して面積の大きな天井面の仕上げにはザラつきのある珪藻土クロスを選択し、また西側の曲面にも音の散乱要素としてリブが取り付けられている。床仕上げは、木軸組の上に合板+フローリングで裏面に断熱材張りの構成である。ステージとしてはやや薄めに思えたが、実演奏で特異な響きは感じられず安堵した。残響時間は、待合席も配置された使用状態で1秒弱(空席時、中音域)であった。
演奏位置は当初より天井の高い入口側とすることを進言し、この日も入口側をステージとしてコンサートが行われた。地元で活躍されている中野了さん(ヴァイオリン)と小川園加さん(ピアノ)のデュオを中心に、藤田院長も何曲かアンサンブルに加わり、充実した1時間であった。限られた天井高さのもと、音量過多(うるさくなる)になるかもしれないという一抹の不安もあったが、音が大きすぎることもなく余裕すら感じられ一安心した。壁上部のリブや天井のザラツキが、柔らかい響きに一役買っていそうな感触も得た。
後日、藤田院長の音楽歴を伺った。
藤田淳史(ふじたあつし)
1969年岡山市生まれ。4歳よりピアノ、9歳よりヴァイオリンを始め、11歳より岡山市ジュニアオーケストラで演奏活動を行う。垪和猛夫、木村善之、永見信久、川島秀夫、安永徹の各氏に師事。鳥取大学フィルハーモニー管弦楽団、米子室内管弦楽団、Win Strings, 西日本医科学生オーケストラ、全日本医科学生オーケストラ、福山夢オーケストラ、西日本医科管弦楽団などでコンサートマスターを務めた。A.ピアソラの楽曲を演奏するピアノトリオTrias Porteñoとして活動中。
「病院の建築は、建物そのものが人を癒やすようなものでなければならない」という院長の思いの実現をお手伝いできたのが何よりである。これからのコンサートにも機会を見つけて訪れたい。(小口恵司記)