東大阪市文化創造館がオープン!
大阪府東大阪市に新たな市民会館が完成した。2016年夏にPFI方式による新市民会館の事業者が選定されてから、今夏の開業までわずか3年でのオープンである。
プロジェクト概要
今まさに開催されているラグビーのワールドカップ。その会場にもなっている花園ラグビー場がある東大阪市は、”ラグビーのまち”として、そして町工場が多くあることから”モノづくりのまち”としても有名である。東大阪市は、ラグビー、モノづくりといった地域の魅力の発信、伝統文化や技術の継承、文化芸術の創造・発信を目的として、2009年に「東大阪市文化芸術振興条例」が制定し、それぞれの活動・発信に力を注いでいる。そのなかの一つ、文化芸術活動に関しては、東大阪市立市民会館(1967年開館)が拠点となっていたのだが、築40年を超えた施設は老朽化のため、2015年に惜しまれつつ閉館を迎えた。その旧市民会館にかわって、文化芸術活動の新たな拠点となるべく、新市民会館の建設計画がすすめられた。
新市民会館の整備・運営にはPFI方式がとられ、大林組を代表企業とする事業者チームが入札提案により選定された。施設の設計・施工は大林組と佐藤総合計画が担当し、弊社も協力企業として、設計から施工段階の音響コンサルティングと工事完了時の検査測定を行った。
施設概要
施設は旧市民会館や花園ラグビー場と同じ沿線、近鉄奈良線の八戸ノ里駅の近くにあり、駅から数分歩くと、芝生が広がる庭とガラスのファサードが迎えてくれる。建物内には、1500席の大ホール、300席の小ホール、多目的室、音楽スタジオ、会議室等の文化創造支援諸室に加えて、「まちライブラリー」と呼ばれる地域住民が持ち寄った本でつくられる図書スペースや、特製ピザが売りのカフェ等、地域住民による賑わいが生まれるように事業者から提案されたスペースが開放的な庭に面して配置されている。
このような複数のホール、練習室、居室で構成された施設内の遮音計画に関しては、Exp.Jや防振遮音構造の採用といった項目が、整備運営事業の要求水準で求められていた。我々の提案では、大ホール、小ホール、多目的室の各室間にExp.Jを設け、多目的室と音楽スタジオ(3室)に防振遮音構造を採用しており、各ホールで同時使用が可能な高い遮音性能を実現している。
大ホール
旧市民会館にかわる文化芸術活動の新たな拠点として期待される大ホールは、クラシックコンサート、オペラ、バレエ、演劇等、幅広いジャンルを対象とした1500席の多目的ホールで、可動式の舞台音響反射板、オーケストラピット、吸音カーテンを備えている。客席はメインフロアと2層のバルコニーフロアで構成され、舞台上での各種催し物に対する視線に配慮して、サイドバルコニー席は緩やかに傾斜している。
ホールの内装は、木質系の仕上げを基本としており、舞台から客席後方にかけて折れ壁が連続している。その客席の壁の一部(出入口の上部)には、”河内木綿”と呼ばれる東大阪市の伝統工芸の生地が仕上げ材として使われており、木質系の空間のなかで、藍染めの河内木綿がアクセントとなっている。
音響的には、客席空間の幅を22~27mと1500席のホールとしては比較的狭い箱型の空間とし、舞台・客席が一体の空間となるように壁や天井の反射面を舞台から客席にかけて連続させた。客席の天井は、舞台天井反射板との連続性をもたせ、舞台照明用の室を収めつつ、それぞれ効果的に音を反射させるように分割した曲面形状とした。また、舞台と客席により多くの反射音を返すため、3層のサイドバルコニー席の軒下と舞台反射板の庇も反射面として利用した。舞台反射板の庇は、反射板をフライタワー内に収納する方式のため、表面に大きな張り出しを作ることが難しく、反射板の壁面を一部彫り込むことで庇の深さを確保し、彫り込みの前面は音響的に透過とみなせるような木ルーバーとすることで、反射板の意匠にも配慮している。
小ホール
小ホールは300席の多目的ホールで、内倒しの折れ壁の表面に厚みの異なる薄板を取り付けることで、凹凸のある仕上げとしている。300席と小規模ではあるが、舞台には可動式の音響反射板を備え、客席後壁は吸音仕上げとはせずにロール式の吸音カーテンを備えることで、響きを少し抑えたい音楽公演や、舞台幕状態での演劇や講演会等、催物に応じて響きを可変出来るようにしている。天井高は最大で約12m、舞台と客席後部との距離も約13mと近く、300席規模にはもったいないと感じるほどの贅沢な空間である。
多目的室
エントランスロビーに面した多目的室は、大小ホールのリハーサル利用の他、小規模ライブや発表会等、単独での利用も想定された平土間のスペースで、2層吹き抜け空間の上部には技術ギャラリーや吊り物設備を備えている。正面性をもたない平土間空間ということで、床レベルには吸音仕上げ(有孔板+GW)を分散配置させている。
隣接するエントランスロビーとの視覚的な連続性が求められる一方、大音量の発生音も想定されたため、エントランスロビーに対しては、遮音のために3枚(固定側2枚、浮き側1枚)のガラスを設けた。さらにロビー側には、暗転用のカーテンとそれを囲うガラスもあり、あわせて4枚のガラスが設けられている。ガラスで仕切られた両スペース間では、お互いの音は聞こえなくても、相互の賑わいが視覚的に伝わるようになっている。
開業準備~こけら落とし
要求水準で求められたことも理由の1つであるが、設計・施工段階より、事業者を構成する運営企業が主体となって、施設のアピールをかなり積極的に行ってきた。例えば、大阪で開催されるイベントでの広報・宣伝活動、大ホールの内装仕上げにも使われた河内木綿の苗植〜収穫の体験会の実施(地元の小学生を対象)、施設内に常設されるアートやサウンドロゴ(ホールの開演ベルや施設内の時報)の公募、ピアノ選定会参加者の公募、Facebookによる工事状況等の情報発信、等々、オープン前から完成後のホールを市民にイメージしてもらい、興味をもってもらうイベントを数多く実施してきた。
そのアピールの甲斐もあって、8月の竣工記念式典、9月のこけら落としは多くの市民で賑わった。竣工記念式典では、地元・近畿大学の吹奏楽部が、舞台空間めいっぱいに広がってマーチングバンド演奏を行った。大音量の演奏でも余裕のある空間であることを実感するとともに、何よりも地元の学生がもつ若いパワフルなエネルギーを感じた。また、こけら落とし公演では、藤岡幸夫さん指揮のもと、関西フィルハーモニー管弦楽団により、ワルキューレやマーラーの巨人といった有名な曲が次々と演奏された。反射面からは比較的遠い客席中央付近で聴いていたが、ヴァイオリンの音色は艶やかで、各パートもそれぞれクリアに聞こえてきた。曲間に挟む藤岡さんのMCでは、曲の解説にとどまらず、新市民会館の計画に関する市長とのエピソードや新しいホールの印象なども語られ、会場は終始和やかな雰囲気となった。
こけら落とし公演を行った関西フィルは、2015年に「文化芸術のまち推進協定」を市と締結し、旧市民会館の閉館後も市内で演奏会等を開催している。指揮者の藤岡さんも新市民会館の計画初期から懇話委員を務め、こけら落とし当日には市の特別顧問にも任命されており、今後も東大阪市や新市民会館との取り組みが期待される。また、会館のオープニング事業では、様々なジャンルの音楽演奏会以外に、地元学生とのコラボ企画、ホールのピアノの体験演奏、バックステージツアー等の多彩な企画も組まれている。PFI事業としてはこれから15年間の運営期間が、会館としてはそれ以上続く歴史がスタートしたばかりであるが、若いパワーや地域密着のオーケストラ、多彩な企画・運営等、今後の可能性に期待が膨らむばかりである。(服部暢彦記)