No.377

News 19-05(通巻377号)

News

2019年05月25日発行
スターツおおたかの森ホール 外観

流山市に「スターツおおたかの森ホール」オープン

 千葉県流山市に、「スターツおおたかの森ホール」が4月1日オープンした。場所は流山おおたかの森駅北口に新しく誕生したNorth Square 63内である。このNorth Square 63は、流山市とスターツコーポレーションを代表企業とするグループとの官民連携のプロジェクト「流山おおたかの森駅前市有地活用事業」によって計画され、ここで紹介するホールの他に、ホテル、商業棟、集合住宅棟が建設されている。ホテルと商業棟はホールと前後してオープンし、集合住宅は現在建設中である。スターツおおたかの森ホールの設計・施工は大成建設で、永田音響設計は事業受注後に参加し、音響設計全般を監修するとともに室内音響および舞台音響設備に関して設計から施工段階の音響コンサルティングと工事完了時の音響検査測定を実施した。

スターツおおたかの森ホール 外観
スターツおおたかの森ホール 外観

 流山市は、千葉県の北西部、江戸川沿いに位置しており、古くは江戸川の水運で栄えた街である。また、日本料理には欠かせない本みりんの原型である“しろみりん”発祥の地でもある。さらに、新撰組・近藤勇や俳人・小林一茶とも縁があり、陣屋跡や記念館が江戸川沿いの流山本町に残されている。歴史の街・流山本町へは、流鉄流山線の流山駅が最寄り駅となる。一方、ここで紹介するスターツおおたかの森ホールは、2005年に開業したつくばエクスプレスの流山おおたかの森駅が最寄り駅である。つくばエクスプレス開業後、東京の秋葉原まで最短25分と至便なこともあって、その沿線は急速に開発が進み高層マンションが盛んに建設されている。ホームページに、“都心から一番近い森のまち”、“母になるなら、流山市。”などのキャッチフレーズが見られるように、自然との触れあいや、子育てに優しい街を前面に押し出しているためか、とくに若い世代の人口が増加しているそうだ。

 つくばエクスプレス流山おおたかの森駅の改札を出て左側に見えるペデストリアンデッキを渡ればすぐにホールである。ホールのパンフレットには、駅北口直結・徒歩1分と書かれている。ペデストリアンデッキから見える外倒しのガラス壁と真っ白な壁がスタイリッシュで新しい街に似合っている。ペデストリアンデッキを渡ると、左側がホール、右側が商業棟になっており、1階にはリハーサル室とスタジオ2室が、2階に市民窓口センターや観光情報センターが配置されている。リハーサル室やスタジオは、ホールとの同時利用がある程度可能なようにホールと多少離して配置し、さらにスタジオの1室には防振遮音構造を採用している。駅に至近ということは、鉄道の軌道に近いということである。施設の南側にはつくばエクスプレスの高架が、ホール建物の西側には道路を介して東武線が地上を通過している。そばには踏切もある。電車走行時の固体音遮断に関しては、大成建設が検討を行い地下躯体外壁に防振材料を貼っている。音響測定やコンサートでは走行時の固体音は全く気にならなかった。

 ホールは、生音のコンサートをはじめとする各種コンサートや式典、講演会などが可能な多目的ホールとして計画された。側部と客席後部にバルコニー席を持つシューボックス形状の平土間のホールである。1階部分にホール内を前後に移動できる移動観覧席が装備されており、これを設置すると移動椅子と併せて494席の段床形式のホールとなる。客席後部は移動間仕切りとなっているので、それを開放して移動観覧席を舞台側まで動かせば、ホールとホワイエの一体利用が可能となる。このホールの特徴の一つに、舞台に近い前方の椅子がある。移動椅子なのだが、どっしりしたデザインで座り心地も良い。2列目から床が高くなっているので舞台上もよく見える。演奏者をとても近く感じられ、見ても聴いても楽しめる席である。

 ホールの室内音響設計としては、クラシックの生音のコンサートについて室全体に音が充ち、余裕のある響きを得るために、天井高さは舞台先端で10.5mを確保している。天井は、当初水平だったが、舞台上を少しでも高くするためと初期反射音確保の観点から、屋根形状と同じように、舞台から客席後部に向かって徐々に下向きに傾斜させ、その中に凹凸を設ける形状とした。また、天井からこもれびが差し込むように音が降り注ぐというコンセプトに基づいて、設計当初、天井に多くの開口が設けられていた。しかし、この開口が音響的に上手く活かせそうにないことや天井面はしっかりとした反射面としたいことなどから、開口は全て中止した。1階の側壁は、平行を避けるために2度外倒しとし、さらにその面からできるだけ優しい反射音が得られるように表面は不規則な間隔のリブ仕上げとしている。

 舞台設備は、バトンや照明、スピーカなどほぼ全て露出で、幕は演出に応じて設置する方法である。また、広範囲な利用に対応するために、側壁上部にカーテンを設置して残響の可変を行っている。移動観覧席設置時の残響時間(満席時推定値・500Hz)は、舞台幕無し状態で1.6秒、舞台幕設置時1.1秒である。

スターツおおたかの森ホール(移動観覧席設置時)
移動観覧席収納時
スターツおおたかの森ホール(移動観覧席設置時)
移動観覧席収納時
移動観覧席収納時
客席前部の椅子
客席前部の椅子

 ホールのオープンを前に行われた竣工式では、日本管楽合奏コンテスト全国大会で最優秀賞を獲得した流山市立北部中学校吹奏楽部の演奏が行われた。吹奏楽曲の他にポピュラーな音楽も取り混ぜた演奏やダンスもあったりでホール内はわき上がった。また、オープンを記念して1年間のシリーズで開催されるオープニングコンサートの第1弾に、錦織健 テノールリサイタルが催された。日本歌曲やオペラのアリア、そして最後にはクィーンまで飛び出した。ギターを抱えて客席をくまなく歩いての演奏や曲の合間の軽妙なお話しで、アッという間の楽しい2時間であった。オープニングコンサートはほぼ毎月、週末に予定されている。週末、流山でリフレッシュはいかがですか!(福地智子記)

スターツおおたかの森ホール: https://otakanomorihall.com/

ガスタイク・暫定フィルハーモニックホール(Interim Philharmonic Hall)

 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団は、ドイツ・ミュンヘン市の中心部に1985年に完成したガスタイク文化センター(以下、ガスタイク)を本拠地にしている。施設内には、生涯学習センター、市立図書館および州立音楽・演劇大学が含まれており、年間1,800件以上のイベントが開催されている。

 2015年の初めに、ミュンヘン市によって建築および音響に関する現状調査が開始された。そして2017年、ガスタイクにはコンサートホールを含む施設全体にわたるさらに大規模な改修が必要であるとの結論が下された。この改修プロジェクトには数年の期間が見込まれたため、その間、現在ヴァレリー・ゲルギエフが首席指揮者を務めるミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団が定期公演とリハーサル活動を続けるためのホールが必要となった。こうした経緯から、コンサート活動だけでなく、運営スタッフをも同時に収容するための施設が、市のサポートを受け、ミュンヘンの南ゼンドリング地区に暫定的に計画されることになったのである。

 複数の建物で構成されるこの暫定地区が「Interim Quartier(IQ)」と呼ばれることから、新たに建設されるコンサートホールの名称も「暫定フィルハーモニックホール」 (Interim Philharmonic Hall)となった。建築設計を担当しているのはGerkan, Marg and Partners (gmp) である。2018年の春には、暫定フィルハーモニックホールの室内音響の設計者を決めるためのコンペが行われ、永田音響設計が指名された。IQ全体の建築音響はMüller-BBM、劇場コンサルティングはKunkel Consultingが担当する。

ガスタイク・暫定地区の外観 (右の切妻の建物から入り左側の建物が暫定フィルハーモニックホール) (写真提供: gmp Architects)
ガスタイク・暫定地区の外観
(右の切妻の建物から入り左側の建物が暫定フィルハーモニックホール)
(写真提供: gmp Architects)

 このIQの敷地は、ミュンヘン地下鉄のBrüdermühlstrase駅から簡単にアクセスでき、背後には大きな公園が広がる。また既存のガスタイクからは、イーザル川に沿って自転車でわずか15分ほどの距離にある。この暫定フィルハーモニックホールとその他の建物を含むIQ全体の計画に対して、9,040万ユーロ(日本円換算でおよそ112億円)の予算が承認された。

 ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団と客演オーケストラのコンサートおよびそのリハーサル用途に必要とされた客席数は1,800以上で、その他のイベントに対しては、ステージの最前部を客席床レベルまで下げて座席数を1,900まで増やすことができる。

 ホールの平面形状は長方形で、ステージ奥の両側の角が少し削り取られたような形になっている。客席はメインフロア、テラスおよびバルコニーの各レベルに分かれており、ステージの背後と両側に設置した約100の客席は、合唱団席としても使用可能である。外部からホール内へは、以前はミュンヘンの公共事業のために使用され、その後改装された既存の建物「ホールE」から入ることになる。

 この暫定フィルハーモニックホールの設計には、ガスタイクの改修期間にのみ使用される一時的な建物としてできるだけ簡略化するとともに、コンサートホールとして必要十分な機能を確保することも求められた。ステージ上に不可欠なオーケストラ用の電動迫りはきちんと装備する一方で、その装置を設置するために必要となるステージ下部の掘削は最小限に留めることにした。この他にも、コストを抑えるために、コンクリート構造はできるだけ避けて鉄骨構造+木の複合材を使用する、ホールの内装の形状としては曲面よりも平面形状の部材を多用する等の提案が建築設計サイドからなされ、音響設計の側からもそれらをできるだけサポートした。その結果、フラッターエコーの防止と反射音の拡散を意図して、のこぎり型の断面形状が天井と壁全体にわたってデザインされた。

ホール内観
ホール内観
ホール断面 (レンダリング提供:gmp Architects)
ホール断面
(レンダリング提供:gmp Architects)

 現在は実施設計が完了した段階で、まもなく工事開始となる。そして暫定フィルハーモニックホールのオープンは2021年の後半に予定されている。(Erik Bergal記)

ガスタイク・暫定地区のウェブサイト: https://www.der-neue-gasteig.de/gasteig-interim