ラ・ホーヤ音楽協会の新しいパフォーミングアーツセンターがオープン
ラ・ホーヤ音楽協会の新しい本拠地となるコンラッド・プレビス・パフォーミングアーツセンター(通称「The Conrad」)のオープニングイベントが、4月5日から7日にかけて開催された。本ニュース2015年8月号で御紹介したとおり、ラ・ホーヤは米カリフォルニア州サンディエゴ市の海沿いにあるコミュニティで、市の中心部から車で北に約20分のところにある。
この新しい舞台芸術施設のデザインは、マサチューセッツ州のEpstein Joslin Architectsと地元サンディエゴのJoseph Wong Design Associatesが建築設計を、またTheatre Consultantsants Collaborativeが劇場コンサルティング、永田音響設計が音響コンサルティングを担当した。
The Conradは、513席の「Baker Baum Concert Hall」(以下、コンサートホール)と、最大で128席収容の多目的スペース「The JAI」の、おもに二つのパフォーマンス空間で構成されている。これらのあいだに配置されている中庭「Wu Tsai Qrt.yrd」は、この建物の屋外ロビーとして計画されたもので、一年中快適なサンディエゴの天候が最大限に生かされている。また、音楽協会の事務所やVIP室も施設内に収められた。
コンサートホールは、クラシック室内楽の演奏会を第一に考えてデザインされた。このThe Conradも含めて、ラ・ホーヤ地区に新しく建設される建物には約9 mの高さ制限があったため、最終的にコンサートホールの天井高はやや低めの8.3 mとなったが、建築設計担当者とともに新しい方向性を探っていくことにより、素晴らしい室内楽ホールをデザインすることができた。
まずは、コンサートホールの室容積をできる限り大きくするため、限られた敷地内で最大限の面積をこのコンサートホールに割り当て、垂直方向ではなく平面的にギリギリまで拡大した。メインフロアの客席は中央にコンパクトにまとめ、ややゆったりとした間隔で配置した。平面形状は、ほぼ馬蹄形に近い。
ステージと客席は、音響的に透過な木製のリブ面で囲まれている。リブ面の外にある硬い壁は、重量コンクリートブロックの表面を石膏を使って粗く仕上げたもので、外側の重量壁全体に青い照明を当てている。こうしてリブ面と重量壁のあいだにスペース(図中の薄い灰色の部分)を設けることにより、初期反射音が適切な遅れ時間で到達するようにするとともに、豊かな響きを得るための室容積をできる限り確保した。
また、ステージの三方を囲むリブ面の背後には、演奏者を直にサポートするごく短い遅れ時間の反射音が得られるように、やや低い位置に庇面を設置した。この隙間のスペースの天井面には吸音カーテンを吊り下げるためのレールを設置して、壁の大部分をカーテンで覆うことによってホールの内観を変えないまま響きを抑え、電気音響設備を使った催し物にも十分に対応できるようにした。ステージ背後のリブ面は左右に大きく開き、ピアノなどの大型の楽器を出し入れしたり、スクリーンを設置して映像を映し出すこともできるようになっている。
The JAIは、中庭をはさんでコンサートホールの向かい側に位置するジャズクラブ形式のやや小さめの空間で、ここではさまざまな種類のイベントが開催される。通常は、ジャズクラブというコンセプトのとおり、壁際に設定されたステージに相対して、客用のテーブルと椅子が並べられる。この場合は102席となるが、よりシンプルに椅子だけを並べると最大で128席が収容可能となる。電気音響設備の使用が前提となっているため、部屋の響きはコンサートホールよりもかなり抑えめにした。高さ8.5 mの天井は全面を吸音仕上げとし、両サイドの壁の下部と、バーカウンターと調整室のある後壁全体も吸音処理としている。
4月5日には、カクテルパーティーとテープカットの式典に引き続き、オープニングコンサートが開催された。バイオリンのCho-Liang Lin、チェロのDavid Finckel、ピアノのWu Han、そしてビオラの大山平一郎など、1986年から毎年開催されているSummerFest音楽祭の元・音楽監督の面々を含む、さまざまなアーティストによるパフォーマンスが約1時間半にわたって繰り広げられた。新しい音楽監督となったInon Barnatanのピアノ・ソロに合わせて、Lil Buckがユニークなダンスを披露したり、現在大人気のピアニストJean-Yves Thibaudet、バイオリニストHilary Hahn、ウクレレの名手Jake Shimabukuroおよびビデオ・アーティストOsman Kocの演奏が続いた。最後には、ミロ弦楽四重奏団に他のメンバーが加わり、メンデルスゾーンの弦楽八重奏曲の第1楽章が演奏された。落ち着いたインテリアと穏やかな照明が醸し出す親密な雰囲気が、心地良い響きをさらに豊かなものにしていた。舞台から18 m離れたバルコニー中央の筆者の席からも、個々の楽器の音は非常に近く、またクリアーで、まるでミュージシャンたちと一緒にステージ上に座っているような気分を味わうことができた。
プログラムの途中、スクリーンを設置して、主な寄贈者である故Conrad Prebys氏への謝意を伝えるビデオを上映したり、リブ面背後の照明の色に変化を付けてパフォーマンスごとに異なった視覚の印象を与えるなど、新しいコンサートホールの特長がいくつか紹介された。
アンコールでは、San Diego Youth Symphonyの弦楽器奏者たちと一緒にJake ShimabukuroとLil Buckがステージに上がり、「Over the Rainbow」のとても魅力的なパフォーマンスを披露した。また翌日の4月6日には英国のソウル歌手Seal、4月7日にはスウィングジャズバンドThe Hot Sardinesが、The JAIで演奏会を開催した。
オープン後、6月までのあいだはほぼ毎日公演が続き、今夏にはラ・ホーヤ音楽協会の創立50周年を祝うSummer Fest音楽祭が開催される。米西海岸を訪れる機会があれば、ぜひお立ち寄りいただきたい。(Daniel Beckmann記)
ラ・ホーヤ音楽協会のイベント情報: https://ljms.org/calendar
にぎわいの里 ののいち「カミーノ」
石川県野々市市に、“にぎわいの里 ののいち「カミーノ」”が完成し、3月30日にオープンした。
野々市市は、古くから北国街道や白山大道などの交通の要衝として栄えてきた。近年は、隣接する金沢市のベッドタウンとして成長し、60年以上も人口が増加し続けている。2011年には、市政を施行し野々市町から野々市市となった。また、市内には、石川県立大学と私立の金沢工業大学のキャンパスがあり、とくに、金沢工業大学は、地方の単科大学でありながら、就職率の高さで2年連続日本一になるなど、その指導方法は全国的にも注目度が高い。
「カミーノ」は、これまで市民の文化活動の拠点であった野々市市中央公民館の跡地に建てられ、3階建ての「公共棟」と平屋建ての「民間棟」の2棟からなる。施設の愛称「カミーノ」はスペイン語で「道」を意味し、古くからの街道をイメージしながら、この地の歴史・文化を大切にし新たな道を切り拓いていくことを願い名づけられた。
プロジェクトはPFI方式が採用され、大和リースを筆頭とした事業体制(設計:梓設計と三上建築事務所、施工:フジタ)である。同じプロジェクトの先行施設である図書館を中心とした“学びの杜 ののいち「カレード」”(設計は三上建築事務所)が2017年に完成し、それに続き、この3月に「カミーノ」が完成した。「カミーノ」の設計は梓設計である。
カミーノの「公共棟」には、それまで中央公民館で行われてきた市民活動の拠点としての平土間のホール(約300人収容)や、音楽練習や軽運動のための大・小2つの多目的室、調理室、和室などの「公民館」機能と、市内外の大学や企業と市民が連携して協働できる拠点としての「市民活動センター」(ミーティングルーム、市民活動交流サロンなど)が計画された。
「民間棟」である“1の1 NONOICHI”は、野々市市の観光案内や物産展示の他、食堂・ワークショップなどに利用できるコミュニティリビングや、シェアキッチン、シェアオフィスなどが設けられ、大人のための部活動を開催したり、新たに飲食店の開業を目指す人や、新メニューを開発する企業などにとって、新しい交流やビジネスが生まれる場所となることを目指した施設となっている。
施設は、コスト面と工期的メリットから乾式構造が採用された。ホール部分の屋根や外壁も乾式構造のため、それらの構造(屋根は鋼板と硬質木片セメント板の複合板、外壁はALCパネル)の部材構成の検討とともに、降雨騒音の低減や、屋外・周辺室との遮音性能の確保のために、ホールの内側には石膏ボード15mm×2重の遮音層を設けた。ホールと屋外敷地境界、およびホールと周辺室との遮音性能は、それぞれDr-60、Dr-65が確保されており、PFI事業の要求水準の目標値を満足するとともに、ホールで特に大音量を発生する催しでなければ、周辺に対して問題とならない結果である。
また、平土間のホールは平面形状が長方形のため、フラッターエコー等が起こらないよう、断面的に両側の壁を5度ずつ内傾させた。また、壁面と天井には吸音を分散的に配置することで適度に響きを抑え、市民の多目的な利用に適切な音響空間としている。
2日間のオープニングイベントでは、市民の音楽や民謡サークルなどの演奏、JAZZライブ、展示やワークショップなど様々な催しが行われ、大盛況だったと聞いている。この施設が野々市の新たな文化やビジネスの交流が生まれる場になることを願っている。(酒巻文彰記)
にぎわいの里 ののいち「カミーノ」:
https://www.city.nonoichi.lg.jp/site/camino/
1の1 NONOICHI:
http://www.1no1nonoichi.com