ドルトン東京学園 中等部・高等部 調布新キャンパス
ドルトン東京学園中等部・高等部の新校舎が、東京都調布市に完成した。ドルトン東京学園は、もともと東京都目黒区にキャンパスを構えてきた129年の歴史をもつ男子校「東京学園高等学校」に中等部を新たに設置し、共学の中高一貫校「ドルトン東京学園中等部・高等部」として、調布の新キャンパスにこの4月から開校する。
ドルトンの教育メソッド
“ドルトン”とは、およそ100年前にアメリカの教育家ヘレン・パーカストが、当時多くの学校で行われていた詰め込み型の教育に対する問題意識から提唱した、学習者中心の教育メソッド “ドルトンプラン” を指す。ドルトンプランは、「自由」と「協働」の2つの原理に基づき、「ハウス」「アサインメント」「ラボラトリー」を3つの軸とすることで、一人ひとりの生徒の知的な興味や探究心を育て、個人の能力を最大限に引き出すことを主眼においた教育メソッドである。
「ハウス」とは、通常の授業を受ける「クラス」の他に、異学年で編成するコミュニティである。異学年の生徒との交流によって、物の見方や考え方の幅を広げるような仕組みである。「アサインメント」は、生徒個人の学習意欲を引き出し、自主性や計画性を養うための仕組みで、アサインメント(課題)に取り組む第一歩として、生徒は自ら学習計画を作り、計画的に学習に取り組む姿勢を身につける。そして、アサインメントを実践するための場所と時間のひとつが「ラボラトリー」である。生徒は自らが立てた学習計画に沿って、個人または少人数のグループで、学びたいことを究めていき、授業内容を補うために使ったり、授業で得た知識を深めたり、「ラボラトリー」の目的を自由に設定できる。
新校舎の計画
このような “ドルトンプラン”を実践する新校舎の計画は、「多様な学びや交流が生まれる仕掛けのある校舎」をコンセプトとしている。その中心となる校舎の中央に配置された「ラーニングコモンズ」は、明るく開放的な空間に図書やテーブル・ソファが置かれ、一人で本を読んだり、協働で課題に取り組んだり、様々な形で利用できる。各教室の2面の壁にはホワイトボードが設置され、多様な学び方に対応できるとともに、各教室の前には机・椅子・ホワイトボードを設置したアクティブスペースがあり、教室内外のどこでも自由な学習ができるような設えとなっている。校舎の設計は、松田平田設計、施工は松井建設東京支店である。永田音響設計は、講堂を中心に、設計段階から施工段階における音響コンサルティング業務、竣工時の音響検査測定を担当した。
ドルトンプランを実践するための生徒の様々な活動を支えるのが、245席の講堂である。講堂は、プロジェクト開始当初、演劇や講演会などが主な利用用途であったが、施工段階において、生音の音楽にも対応できる多目的な利用が求められた。通常の市民会館などの多目的ホールで、生音の音楽と演劇などの異なる舞台条件に対応するために設置される可動式の舞台反射板は、本プロジェクトではスペース・コストの両面から採用が困難であった。そのため、舞台は固定の反射壁と反射天井とし、舞台バトンや照明設備は舞台天井面に露出させた。舞台幕は、舞台サイドの反射壁に設けられたスリット部分を通って舞台内に設置され、音楽形式と舞台幕形式の転換が可能となっている。舞台サイドの反射壁の下部は、開閉式の壁パネルとなっており、舞台袖との動線の確保とともに、舞台袖空間に吸音材を設置することで、開閉パネルを開けると講堂の響きを抑えることができる。また、舞台正面壁の下部には、移動間仕切りが設けられ、移動間仕切りを開けるとガラス窓から外部の鮮やかな緑をのぞくことができ、開放的な雰囲気を作っている。舞台の反射壁や客席の壁には寸法や間隔をランダムにしたリブを設置し、壁からの反射音を適度に散乱させた。意匠的にも、客席椅子と合わせて新緑の森をイメージした内装となっている。
この4月から、いよいよ新しい学校生活が始まる。はじめは、中等部新1年生のみでのスタートとなり、中等部・高等部全学年が揃うのは5年後である。この新しい充実した校舎で若い才能が育つことを願っている。(酒巻文彰記)
ドルトン東京学園中等部高等部:
http://www.daltontokyo.ed.jp/
ロンドンの新コンサートホールプロジェクト “Centre for Music” ーデザインコンセプトの発表ー
ロンドンのバービカン、ロンドン交響楽団、ギルドホール音楽演劇学校(The Barbican, London Symphony Orchestra, Guildhall School of Music & Drama)は、ロンドンに新コンサートホールを中心とした音楽施設を建設するプロジェクト “Centre for Music” の最初のデザインコンセプトを発表した。これは商用施設を含むプロジェクト全体のうちの一部についてのもので、ロンドン市自治体(City of London Corporation)は、今後のプロジェクトの設計を進めるにあたって、前記3団体に対して249万ポンド(約3億7千万円)の予算の執行を約束している。
永田音響設計は、プロジェクトを遂行する上記3文化団体による設計者選定のプロセスを経て、2017年9月に音響設計者としての指名を受けた。そして翌月の2017年10月には、Diller Scofidio + Renfro (New York) と地元英国の Sheppard Robson のチームが、プロジェクトの建築設計者として選定され、その後の設計作業を他のコンサルタントとともに進めて行くこととなった。
(以下は、プロジェクト”Centre for Music”によって2019年1月に発表されたプロジェクト概要を日本語訳したものである)
「Centre for Music の理念は、すでに国際的に広く認知されている “バービカン、ロンドン交響楽団、ギルドホール音楽演劇学校” の3文化団体の英知を結集して、音楽を愛する次世代の人達に感動を与えられるような、ワールドクラスのコンサート施設、そしてあらゆる音楽のための教育の場を提供することにある。
Centre for Music には、最新鋭のコンサートホール、リハーサルや教育、そして実際のコンサートも可能な各種スペースが設けられ、そこでは、あらゆる年代のそして色々な環境の人達が、直に音楽づくりの喜びを経験できるような施設計画が策定されている。
Centre for Music が、建築設計者 Diller Scofidio + Renfro を中心とするデザイン・チームによるコンセプト・デザイン形成の一翼を担って、現在のロンドン博物館(Museum of London)の敷地に建設予定の新しいランドマーク施設の可能性を示すことができたことは、非常に重要で素晴らしいことであった。ロンドン市自治体は、ロンドン博物館が希望通りに隣接する West Smithfield に移転した後、その跡地を Centre for Music の敷地とすることに基本的に合意している。
Centre for Music プロジェクトの実現は、ロンドン市の Culture Mile (The Barbican, London Symphony Orchestra, Guildhall School of Music & Drama, Museum of London, の4者の芸術文化団体によるパートナーシップ) に対して新しい象徴的な玄関口施設を建設することを意味する。次の十年、あるいはそれ以降のこの地域への人の流れを導き、この地区における屋外活動をも巻き込んで、既存の施設や新しく計画される文化施設へ人々を誘うものとなる。」
(Marc Quiquerez 記)
“Centre for Music” のウェブサイト: https://www.culturemile.london/centreformusic