No.373

News 19-01(通巻373号)

News

2019年01月25日発行
施設外観

宮古市中心市街地拠点施設(イーストピアみやこ) オープン

2011年の東日本大震災で、宮古市市街地には10mを超える津波が襲い、広い範囲に甚大な被害をもたらし、市役所本庁舎は2階まで浸水、保健センターは全壊し、その他の公共施設も大きな被害を受けた。宮古市では、旧市庁舎の耐震性などに問題もあることから、「災害に強いコンパクトな街」を目指し、災害時に必要な役割を果たす防災性を高めた拠点施設を新たな整備した。

イーストピアみやこ 配置図
イーストピアみやこ 配置図

施設概要

 宮古市中心市街地拠点施設(愛称:イーストピアみやこ)は上記の計画により、市本庁舎、保健センターと市民の交流と活動を支える市民交流センターの3つの施設を一体にした複合施設として計画された。敷地は、道路交通の利便性や中心市街地の活性化への貢献、施設の安全性と津波被害の回避を考慮し、浸水エリアから離れたJR宮古駅に隣接する駅南側の未利用の鉄道用地が選ばれた。また、中心市街地のある宮古駅北側の駅前広場と本施設の2階との間に、市民の生活動線として24時間通ることができる自由通路「愛称:クロスデッキ」が同時にできたことで利便性を高めている。

市庁舎機能に新たに加わる市民交流センターには、講演会や音楽発表会に利用できる移動観覧席による約200席の「多目的ホール」、演劇の練習やバンド演奏を前提とした「音楽スタジオ」、スポーツジム機能の「運動スタジオ」、こどもが遊べる「ふれあいひろば」、東日本大震災の経験や復興の経過、過去の災害の歴史や資料などを紹介する「防災プラザ」などがある。「多目的ホール」や「音楽スタジオ」については、「議場」などの市庁舎機能の諸室や保健センターに対しての遮音性能を高める必要があり、「多目的ホール」は、床と壁を防振遮音構造とし、また「音楽スタジオ」についてはバンド演奏や和太鼓の練習を想定し、防振遮音構造(ボックスインボックス)とした。この結果、「多目的ホール」「音楽スタジオ」で想定している使われ方では、「議場」においてほとんど音が聞こえず、複合施設においてもこういった遮音構造を採用することで、文化活動を行う諸室との共存は十分可能であるといえる。

本施設の設計・施工は、プロポーザルにて選ばれた鹿島・日本国土開発・久米設計共同企業体であり、永田音響設計は市民交流センター内の「多目的ホール」「音楽スタジオ」ならびに市庁舎エリアの「議場」などの音響コンサルティングを行った。

施設外観
施設外観
クロスデッキ
クロスデッキ
多目的ホール
多目的ホール

公共施設の複合化について

 内閣府の主導による公共施設の複合化・集約化が進めている背景には、施設の一体運用によるスペースの削減、管理運営の効率化やランニングコストの低減化など経済的な目論見がある。被災地においては、地域の高齢者率の増加や財政健全化などを踏まえた上で公共施設のあり方を考えると、施設の原型復旧に留まらず、経済性を重視した新設複合化という選択がなされていくのだと思う。その一方で、複合施設にはそれぞれの施設を訪れる人たちが居て、役所の窓口に来た人が文化活動の様子を見たり、活動の情報を知ったりする可能性があり、市民の交流の結接点ともなる。複合施設においては、必ずしも経済的な理由だけに留まらず、施設内でのコミュニティなど、市民会館など単体の文化施設では期待できないようなメリットが期待できる。そういった意味では、建物のハード側だけでなく、運用のソフト面での対応も重要になると考える。「イーストピアみやこ」は、こうした複合化により、中心市街地自体の復興に加え、離散しがちな地域コミュニティを維持し文化活動の拠点ともなる、まさに市民の交流を図るといった役割を担うものとなろう。

交流プラザ
交流プラザ

復興させることができた宮古市の名勝「浄土ヶ浜」

宮古市の浄土ヶ浜は、三陸復興国立公園(旧陸中海岸国立公園)の一画で、宮古駅から車で10分くらい行った海岸部の景勝地である。鋭くとがった白い流紋岩が林立する様子が印象的である。震災後、環境省と地元自治体や地元住民により見事に復興させることができた。この浄土ヶ浜の高台にあるパークホテルは震災直後、被災した地域住民の受入場所として被災者に開放し、1ヶ月にわたり避難所となった。その後は捜索活動を行う警察官を最盛期で約500人、その他医療チームなどを9か月間受け入れた。地元の方に「浄土ヶ浜」というと必ずと言っていいほどこの話をされる。宿泊客の数は震災前の95%までに回復したという。復興の街と、この見事な景勝地を訪れてみてはいかがでしょうか。(小野朗記)

浄土ヶ浜海岸
浄土ヶ浜海岸

イーストピアみやこ: https://eastpia-miyako.jp/
三陸復興国立公園(環境省): https://www.env.go.jp/park/sanriku/guide/view.html

Auditorium Acoustics 2018

やや旧聞になるが、昨年10月4日-6日、Auditorium Acoustics 2018がハンブルグのエルプフィルハーモニーで開催された。この国際会議は、コンサートホールやオペラハウスが新しくオープンした際に、その視察を兼ねて不定期に開催されてきた。主催者は英国音響学会で、グラインドボーンの新オペラハウスがオープンした翌年の1995年に第1回目が開催された。その後何回かの英国内での開催を経て、コペンハーゲン、パリなど英国外のヨーロッパの都市でも開催されてきた。今回が10回目である。

既報のように、エルプフィルハーモニーは2017年1月にオープンした(本ニュース350号(2017年2月))。以来、ハンブルグの新しいランドマークとして注目を集め、連日多くの訪問者で賑わっている。中心施設である2つのホールについても、コンサートチケットだけでなく見学ツアーのチケットも入手困難な状況が続いている。そうした中、今回の会議が開催され、音響コンサルタントや研究者を中心に32カ国から200名が参集した。論文発表申し込み件数も80件を超え、口頭発表とともに一部はポスターによる発表が行われた。永田音響設計からは、豊田・Quiquerez・小口が参加し、大ホールの音響設計と設計プロセスの中で実施した音響模型実験の2件の口頭発表を行った。

論文発表は小ホールで行われた。小ホールは様々な用途に対応するために、客席段床を後壁に収納して平土間形式に転換することができる。今回の会議はこの平土間形式で行れ、前部にスクリーンと演台、中央部に客席が設けられ、後部のスペースでポスター展示・発表が行われた。ホール正面・側面には音響可変のためのロール式吸音カーテンが設置されているが今回は降ろされておらず、したがって響きの長い状態で口頭発表が行われたことになる。拡声設備のオペレーションは客席最後部に設けられたブースで行われており、口頭発表の音質・明瞭度・定位の自然さのどれもが申し分のないものであった。マイスター制度に根ざした質の高いオペレーションを改めて認識し、見習うべき点が多いと感じた。

さて、論文発表では、客席・ステージの音響の評価、設計のためのモデリング手法とその実践、コンサートホール・オペラハウスの事例紹介、コンサートホールの形体とその特徴比較、壁・天井のテクスチャーと音響、など様々なテーマが取り上げられていた。その中で、コンサートホールのいわゆる2つの形体であるシューボックス型とサラウンド型の比較と、壁・天井の拡散形状とその音響的な役割に関する議論が記憶に残っている。どちらも、エルプフィルハーモニー大ホールの特徴と関連するテーマである。前者について、今世紀に入って大ホールのような客席がステージを取り囲むサラウンド型が次々にオープンしているが、音響も含めてコンサート空間としては伝統的なシューボックス型が優れているとする主張があった一方で、これまでの響きの質に関する研究には、聴衆のコンサート体験から評価するという視点からの検討が希薄ではないかという議論があった。同じホールでも座席位置や演奏者・曲目によって響きの印象は変わるものであり、ホールの単純なタイプ分けで音響の全てを語ろうとする姿勢には疑問が残った。後者について、拡散形状の大きさを人体部位のサイズとの対比で色塗りしてみると、様々な色に塗り分けられるホールがある一方で、この大ホールはモノトーンとのことであったが、ブロック分けされた客席がステージを取り囲むという複雑さの考慮が欠けているように思えた。それ以外では、両耳受聴とホール音響の関連に関する議論が無かったことにやや驚いた。この辺りは既に議論し尽くされたということであろうか?むしろ、評価量に関する研究の中で初めの頃に提案されたEDT(初期残響時間)の有効性に関する発表が何件かあったのは興味深い。

プログラム表紙
プログラム表紙
スクリーンと拡声オペレーションコンソール
スクリーンと拡声オペレーションコンソール
ポスター展示を望む
ポスター展示を望む

会議最終日6日の午前中には、大ホール内部の見学とリハーサル試聴が行われた。会議の目玉スケジュールである。見学の最中には、壁・天井の拡散形状の造り方やステージ背面のグリルの音響的な役割について多くの質問を受けた。その後、ケント・ナガノ指揮ハンブルグ・フィルハーモニー管弦楽団(Hamburg Philharmonic State Orchestra / ハンブルク州立歌劇場のオーケストラ)の演奏会プログラムの中からチャールズ・アイブスの交響曲4番の最終リハーサルを試聴した。大ホールのレジデント・オーケストラであるNDRエルプフィルハーモニー管弦楽団の演奏ではなかったことや、我々が標準と考えている弦楽器群を含めたオーケストラの立体的配置を会議参加者に試聴していただけなかったのは残念であった。

リハーサル前の大ホール
リハーサル前の大ホール

今回の会議は改めていくつかのトピックについて考えを巡らせるきっかけとなっており、会議を企画・開催した英国音響学会関係者に感謝したい。(小口恵司記)

Auditorium Acoustics 2018: https://www.ioa.org.uk/sites/default/files/civicrm/persist/contribute/files/AA%20Final%20Programme(1).pdf