No.368

News 18-08(通巻368号)

News

2018年08月25日発行
川口市めぐりの森 外観

赤山歴史自然公園と川口市めぐりの森

 本年4月にオープンした赤山(あかやま)歴史自然公園(愛称:イイナパーク川口)に隣接する敷地に、川口市初の市営の火葬施設として、川口市めぐりの森が竣工した。設計は伊東豊雄建築設計事務所、施工は東亜・埼和特定建設工事共同企業体である。永田音響設計は、火葬炉から告別収骨室への伝搬音低減や待合室などの設備騒音低減などの設備騒音・振動防止や諸室の内装などに対する音響コンサルティングを行った。

 赤山歴史自然公園は、首都高速道路川口線の川口パーキングエリアに隣接する約10.9haの広大な敷地に、「広域的な集客性に配慮した“水と緑のオアシス空間”の創出」(実施設計書より)をテーマに計画された公園である。川口市(安行地区)は古くから江戸への植木の主要産地で、公園の周囲にも植木の圃場(ほじょう)が広がっており、園内も緑が豊かである。中央部の調整池の周りには、本火葬施設の他に地域物産館や歴史資料館も整備され(いずれも、伊東豊雄建築設計事務所 設計)、散策しながら水辺や緑を楽しめる回遊式の公園となっている。愛称のイイナパークは公募によって決まったとのこと。“イイナ”は、良いという響きに関連しているのはもちろんだが、もう一つ、公園のそばに陣屋敷を築城した関東郡代伊奈いな)(ただ)(はる)を連想させるというのも選ばれた理由だったようである。

 川口市めぐりの森は、中央部は2階建てで、それを取り囲むように連続する波打ったコンクリートの曲面屋根が印象的な建物である。外壁や屋根が茶色いこともあって、地盤が隆起したようにも見える。2階の建屋周辺には木が植えられており、今はまだまばらだが、数年すれば2階部分は樹木ですっかり覆われてしまうだろう。まさに周囲の自然に溶け込むようなデザインである。

川口市めぐりの森 外観
川口市めぐりの森 外観
川口市めぐりの森 エントランス
川口市めぐりの森 エントランス

 建物中央の高くなっている部分は火葬炉が置かれた機械室になっており、それに隣接して、1階には告別収骨室が7室設けられている。火葬炉は、ひとつの告別収骨室に2基ずつ設置されており、交互に運転して使用することも可能となっている。また、告別収骨室は、照明の色によって雰囲気を変えることで、告別と収骨の儀式を一つの室で行えるように計画されている。このように、運用での対応も考慮しながら施設のコンパクト化が図られている。エントランスから見て、告別収骨室の奥には、待合ホールを介して10室あまりの待合室が配置されている。待合ホールや待合室からは外壁のガラス越しに周囲の水辺や樹木を眺められ、安らかな時間を過ごせるように工夫されている。

 告別式や収骨の儀式では、厳かな雰囲気が求められる。そのためには、ある程度の静けさが必要である。本施設では、火葬炉の運転が告別や収骨の儀式と同時進行する場合もあることから、火葬炉から告別収骨室への伝搬音の低減が必要であった。これに対して、火葬炉等の機器が設置されている室の吸音処理、収骨室との界壁や扉の仕様、ダクトや配管等の遮音構造貫通部の遮音処理などのアドバイスを行った。各室の内装に関しては、発生音は主に会話であり、それもそれほど大きな音量ではないこともあって、天井を吸音処理している程度である。自由曲面が綺麗な待合ホールの天井は、コンクリートに吸音性の不燃断熱材+リシン仕上げである。空間が大きいので残響は少し長めではあるが、高音の響きが抑えられており、落ち着いた雰囲気になっている。

 曲面天井を支える柱の内部は樋になっており、屋根の雨水を調整池に流している。設備の面でも、周辺との調和が意識されている。

 4月2日に開かれた市民向けの内覧会には、約3,000人が来場したそうである。火葬施設のイメージを一新するような建物である。筆者もそうだったが、市民の方々も、恐らく驚き、そして自慢に思ったのではないだろうか。

 イイナパーク川口には、首都高速道路で初めてのハイウェイオアシスも計画されている。完成すると、川口市以外からの利用者も増えると思われる。ハイウェイオアシスで買い物、食事、そして、公園内の散策と、多くの方々の来園が期待されている。(福地智子記)

告別収骨室
告別収骨室
待合ホール
待合ホール
地域物産館
地域物産館

川口市めぐりの森: http://www.kawaguchishi-megurinomori.jp/

日本赤ちゃん学会 プレコングレス 「保育施設の音環境を考える」

 日本赤ちゃん学会第18回学術集会で、「保育施設の音環境を考える−赤ちゃんと子どもの聴力を守る保育室とは−」というテーマのプレコングレスが、7月6日に東京大学本郷キャンパスで行われた。プレコングレスで、このテーマをとりあげるのは4回目だそうだ。

 日本赤ちゃん学会は、「乳児を中心とした子どもに関する学理およびその応用の研究についての発表、知識の交換、会員相互の交流、情報等の提供、啓蒙活動等を行うことにより、総合的な学問領域としての「赤ちゃん学(Baby Science)」の進歩普及を図り、もって我が国の学術の発展と子どもの健全な発達に寄与すること」を目的として設立されている。また、育児・保育あるいは教育の現場からの要望や疑問を研究の場に生かすために、現場と研究者の交流や情報交換の機会を積極的に設けることを進めている。

 会場となった100名以上入れる講義室はほぼ満席、主催者の想定より参加者は倍近い人数になったとのことで、配布資料が間に合わない状況になっていた。質問された方々の様子からは、実際の保育関係者も多く参加されていたようである。当日のプログラムは右に示すとおりである。

当日のプログラム
当日のプログラム

 最初の話題提供者は熊本大学の川井先生で、はじめに乳幼児のために静けさを確保する重要性の例として、海外にある基準や規格などを紹介された。残念ながら日本にはそのような規準や規格はまだない。WHOの環境騒音ガイドライン(1999)にも、「言語の発達段階にある子どもたちに対し、静けさと残響時間0.6秒以下の環境が必要だ」との記載があるそうだ。海外視察での保育園の吸音状況などの紹介もされた。

 また、実際の保育園における吸音仕上げ対策の実験結果について紹介があった。吸音材を天井に設置した時と、外した時の室内騒音の記録を行ったところ、約5 dB程度の差がみられた。これは吸音効果による物理的な音量低減だけでなく、静かになることで子どもの発声そのものが小さくなっていることが考えられるとのことである。また、吸音による効果として子どもの集中度が増す傾向がみられたことや、保育士へのアンケートで疲労度の違いなどに変化が現れたことなどの紹介があった。

吸音による効果(川井先生提供)
吸音による効果(川井先生提供)

 続いて練馬二葉保育園の橋園長からご自身の園舎の改修についてのお話を伺った。保育園を新築したところ、とても魅力的に感じた園舎であるのにもかかわらず、旧園舎から引っ越しして少し経ち、子ども達の落ち着きがない、騒々しいなどの、行動の違いに気がついたとのことである。これらは新園舎の響きの長さなどからくるものだと思われ、同志社大学志村先生の指導のもとに吸音対策を行ったところ、子ども達の集中度や落ち着きが戻ったという、経験談を語られた。そして、保育園の音環境の良さをアピールし、差別化を図っていきたいと話された。

 金沢大学嶋田先生からのお話は、保育の音環境の評価に関する取り組みについてであった。音以外の保育環境には評価方法があるとのことで、同様に音も評価に加えることができたら、保育現場の音環境適正化について動きが進むのではないか、という話であった。

 最後は、同志社大学加藤先生で、乳幼児の聴覚の発達について話された。「聞く」という段階については生後6ヶ月で成人にほぼ近くなるが、「聞き取れる」ということでは小学校6年生でもまだ発達段階だということである。環境が悪いと聞き取りにくくなってしまうため、良い環境で過ごせるようにすることは重要だと話された。

 話題提供の後、会場からの質問や指定討論者からの意見などがあったが、指定討論者のひとり、同志社大学赤ちゃん学研究センター長の小西先生からは、発達障害児の増加などの点において、環境が昔と変わってきていることがひとつの要因と考えるならば、音環境もその要因として考えられるかもしれず、もっと注目されるべきでは、との話があった。

 保育園からの音がうるさい、という話はニュースや新聞などでもとりあげられ話題になることも多いが、保育園の中の音環境が話題となることはまだ少ない。心身の発達が進む大切な幼少期、音も含め良い環境のもとで、生活させてあげたいものである。保育の現場から、また医学的な見地などから、音環境について声が上がると、よりその必要性が社会的に認識されるだろう。私たちは建築音響の技術を用いて、それに応えていけたら良いと思う。(石渡智秋記)

  • 日本赤ちゃん学会: https://www.crn.or.jp/LABO/BABY/index.html
  • 第18回学術集会プレコングレス 発表資料: https://sites.google.com/view/akachan18-cedep/プレコングレス

訃報 永田 穂の逝去

 弊社の創立者であります永田 穂(享年93歳)が病気療養中のところ、去る8月7日に肺炎のため逝去しました。ここに生前のご厚誼に深謝し、謹んでお知らせ申し上げます。