松本市に「信毎メディアガーデン」オープン
4月28日、信濃毎日新聞社の新しい松本本社ビル「信毎しんまいメディアガーデン」が、松本市の中心市街地にオープンした。信濃毎日新聞は、長野県内では“しんまい”と呼ばれて広く親しまれている新聞で、今年で創刊145周年を迎える。その本社は、長野市と松本市にある。松本本社は、1970年までは松本城近くの市の中心地にあったが、その後、南松本に移転した。節目となる本年、松本の中心地に戻ったことになる。
敷地は、松本駅からの伊勢町通りと松本城につながる本町通りの交差するところで、まさに松本観光の要となる場所である。建物は地下1階、地上5階で、1階〜3階は市民活動を支援するゾーンあるいは様々なショップやレストランのゾーンで、4階、5階は信濃毎日新聞のオフィスとなっている。信毎メディアガーデンから発進する地域のニュースや情報をまとめたタブロイド紙「MGプレス」の編集室も4階にある。
設計は伊東豊雄建築設計事務所、施工は北野建設である。「信(しん)毎(まい)メディアガーデン」の名称は、伊東豊雄氏の「人々がさまざまな活動の場を回遊し、交流する情報の庭園」という考えに由来しているそうだ。永田音響設計は、1階のホールや3階のスタジオの室内音響設計の他に、建物全体の遮音や内装、設備騒音の低減などの検討を行った。
建物入口の前には、各種イベントが行える屋外広場「スクエア」が設けられている。信毎メディアガーデンのパンフレットには、祭り舞台の展示や屋台の出店もできることが書かれている。オープニングの式典では、ここでテープカットが行われた。建物に入ると、エントランスホール中央に総合受付「まちなか情報局」がある。情報発信あるいは収集の場として新聞社と利用者の接点の役割を担う。その奥には「ホール」と名付けられた天井高約 5m の多目的スペースが配置されている。エントランスホールとは壁などで仕切られておらず、催し物がない時には、エントランスホールと連続する屋内公園になり、ゆっくりくつろげる場となる。東側の外壁はガラスで、その中央部にはガラス戸が設置されている。この扉を開放すると、正面入口からエントランスホールを通って東側へと通り抜けができる。イベントによっては、このような使い方も可能である。一方、エントランスホールとは区画して使用したいという要望に対しては、遮音性能を多少加味したカーテンで対応している。カーテンは、エントランスホールとの間に設けられており、使用しない時には蓋付きのスペース内に納まっている。エントランスホール側の他に外壁側にもカーテンが設置されており、遮光の他に用途に合わせた残響調整も可能である。ホールの両側の壁は、平行面で生じるフラッタエコー(鳴き竜)を防止する目的で、大小さまざまな折れ壁をデザインしてもらった。天井にはグリッド状の固定バトンが設けられており、催し物に合わせて、照明や音響の設備を設置できるようになっている。
3階には、会議等の利用の他にダンスなどの練習も可能な多目的スペース「スタジオ」がある。壁は廊下に対して開放的な透明ガラスであるが、周辺との遮音を考慮して2重とし、床はダンス等で発生する床衝撃音の低減を意図して浮き床とした。その他に、料理の実演会、食事会などに利用できるキッチンも3階に設けられている。周囲とはカーテンで仕切ることも可能なオープンな空間にキッチンの諸設備が配されている。
伊東豊雄氏は、まつもと市民芸術館の設計も行っている。そのまつもと市民芸術館 芸術監督の串田和美氏が信毎メディアガーデンの企画プロデューサーに就任されている。串田氏は、一昨年、信毎メディアガーデン建設中の敷地内で「フライングシアター」を上演しており、その時の印象から、信毎メディアガーデンでやりたいのは演劇そのものではなくて、人が集まってさまざまな意見を交わす場をつくることだとおっしゃっている。まさにメディアガーデンである。
建物には免震構造が採用されている。また、冷暖房の熱源には近くを流れる蛇(へび)川(がわ)の水や地下水を利用し、さらに太陽光発電機を備えるなど、環境にも配慮している。
2階には松本ならではと思われるアウトドア用品を販売しているショップや地元の美味しいものを集めたお店が、3階にはそれらを食することができるレストランもある。3階の正面入口の真上のテラスからは、晴れていれば北アルプスの雄大な山々を眺めることができる。ショッピングや松本の市内観光に疲れたら、ビール片手にテラスからの眺望を楽しむのもお奨めである。(福地智子記)
信毎メディアガーデンホームページ: https://www.shinmai-mediagarden.jp