No.365

News 18-05(通巻365号)

News

2018年05月25日発行
ワルシャワ国立音楽学校本部新校舎 建設現場 (2018.05.08撮影)©Konior Studio

ワルシャワ国立音楽学校の新校舎建設始まる

 ポーランドの首都ワルシャワの国立音楽学校 “State Music School Complex Nr 1″ (ポーランド語では ” Zespol Szkol Muzycznych Nr 1″ あるいは “ZPSM Nr 1”) の本部新校舎の建設工事が始まり、定礎の式典が去る2018年4月16日に行われた。新校舎は、既存のネオゴチック調の赤レンガの建物を改装するとともにそれに増築する形で計画・設計された。増築部分には320席のコンサートホールが計画され、そこでは音楽学校生のオーケストラや客演の音楽家らによるコンサートも予定されている。

 建築設計のコンペは2015年の夏に実施され、永田音響設計はポーランドの建築家 Tomasz Konior (Konior Studio) のチームに招かれて新コンサートホールの室内音響設計を担当することになった。前年に完成した同じポーランドのカトヴィツェの新コンサートホール(NOSPR、本ニュース2014年11月号参照)における協同作業の成功がきっかけとなって、再度同じデザインチームが結成されたものである。2015年9月にはコンペの結果が発表され、Koniorチームが勝利して翌年2016年末まで延長された設計作業を担当することになった。

ワルシャワ国立音楽学校本部新校舎 建設現場 (2018.05.08撮影)©Konior Studio
ワルシャワ国立音楽学校本部新校舎
建設現場 (2018.05.08撮影)©Konior Studio

 20世紀初期に建設された既存の建物が改装され、その後方のU字形の建物内に形成された正方形状の中庭に、直径約24mの独立した円筒形状の建物として新ホールは計画された。新ホールの重要な用途の一つは、6-18才の生徒達に対してそのステージ上での実際のアンサンブル、演奏体験を通じた音楽教育を行うことである。従って、そのホール空間の設計においては、若い音楽家達が如何にお互いに気持ち良い環境で演奏でき、また同時に如何に聴衆を身近に感じることができる環境を提供できるか、という点に注意が払われた。

 建築デザイン側からホール外部の平面形状として真円形状が提案されたことから、ホール内部の壁面はその逆の凸面形状となるようにいくつかの部分に分割して、音の集中を防ぐとともに音が拡散されるように考慮した。 その結果として、コンクリート造の外部壁・屋根構造と内部の帆状の壁面パネル、およびステージ上14mの天井高の内装天井の間に大きな空のスペースを確保できることになった。そして、帆状の壁面パネル間と天井との間の隙間を開放することによって、背後の空間をホール内部空間と音響的に一体化させてホール空間の容積を大きく確保し、残響を長くできるようにしたものである。一方でこの空間に吸音材を設置すれば、残響を短くコントロールすることも可能である。これらの残響調整は、音響的に重要な初期反射音のための反射面に影響を与えることなく可能であり、客席からも見えない。

 客席は通常のホールのようにステージ正面側に、古代円形劇場のような比較的急な段床上に配置されている。また側方とステージ背後に2列の客席がテラス状に配置され、ホール空間に対してよりコンパクトな印象を与えるとともに、ステージ上の奏者と聴衆の距離をより近いものにしている。ステージは、80名までのオーケストラが乗ることが可能なサイズを確保しており、半円形状のオーケストラ用電動迫が設置される。

 建設工事は2017年の後半に始まり、2019年の9月の完成が予定されている。プロジェクトについてのより詳細な情報は、次のウェブサイトを参照されたい。(Marc Quiquerez 記、原文英文)

コンサートホール内観 (レンダリング) ©Konior Studio
コンサートホール内観 (レンダリング)
©Konior Studio
コンサートホール内観 (レンダリング) ©Konior Studio
コンサートホール内観 (レンダリング)
©Konior Studio

愛媛県今治市 大三島(おおみしま)「ふるさと憩の家」竣工

 広島県尾道市と愛媛県今治市を7つの橋で結ぶ瀬戸内しまなみ海道は、瀬戸内海の大小の島々を巡りながら、風光明媚な景色も楽しめることから、昨今、国内外のサイクリストたちに人気のスポットとなっている。大三島は、そのしまなみ海道沿いの島で、今治市の最も北、尾道市との県境に位置している。島の中央に位置する鷲ヶ(わしが)頭山(とうざん)の麓には、推古天皇の時代に創建されたと伝えられる大山祇(おおやまづみ)神社があり、古来、神の島として多くの人たちの信仰を集めてきた。

 大三島では、伊東豊雄氏を塾長とする伊東建築塾によって、「大三島を自給自足の島にする」を目標としたプロジェクトが、全島で進められている。ここで紹介する旧宗方小学校の校舎を改修して、宿泊施設「ふるさと憩の家」とするプロジェクトも、その一環として行われたものである。

 4月21日、晴れ渡る青空の下、今治市長も参列して竣工式が執り行われた。設計は「NPOこれからの建築を考える 伊東建築塾」である。施工は地元の職人さん方を中心に行われたが、その方々による指導の下、伊東建築塾の有志や愛媛県今治北高校大三島分校の生徒たち、そして近在のボランティアの方々も参加されたとのことで、本当に手作りによって完成に至ったということをお聞きした。随所に、多くの人たちの思いや心意気が感じられた。竣工式の前の見学会には、昔、この小学校に通ったという方々の姿もあって、あちらこちらでそのときの思い出話に花が咲いていたようである。

 筆者は、今回初めて大三島を訪ねた。行く前までは、新幹線とバスを乗り継ぐ旅が少しばかり億劫だったのだが、帰る時にはもっといたいという気持ちが強くなった。島内には多くの観光スポットがある。前出の大山祇神社はもとより、今治市伊東豊雄建築ミュージアムや小学校のそばには今治市岩田健母と子のミュージアムなどもある。このような施設を訪れるもよし、ゆっくり自然を満喫するだけでも元気になれる島だと思う。食べ物もとても美味しい!! LIXILギャラリー(東京)で「伊東豊雄展 聖地・大三島を護る=創る」が、6月17日まで開催されている。大三島に興味がある方はいらしてみてはいかがでしょう?(福地智子記)

ふるさと憩いの家
ふるさと憩いの家
客室前の廊下
客室前の廊下

 小学校は、私たちの年代にとって懐かしい木造校舎である。改修前は、雨漏りがひどく、カビ臭く、湿気も多く、シロアリ被害もあったりと、快適さとは無縁の建物だったということだが、改修により、外観はほぼそのままだが内部は都会風のおしゃれな洋風の客室に変貌した。木造建物の改修工事なので十分な遮音確保は難しいが、改修によって得られる空間の快適性に加えて、音響面においても少しでも快適に過ごせるようにしたいという設計担当者の思いに対して、客室間の遮音や洗面所の設備騒音の低減などに関して音響面からのアドバイスを行った。音響関連の工事は、一般的にボード貼り接合部の隙間をしっかり塞がなくてはならなかったり、逆に設備配管などは振動を壁に伝えないように壁と接触しないようにしなければならなかったりと、通常の工事とは方法が異なっており注意が必要である。施工にあたられた方々から、こんなことをしなくてはいけないの? という声も聞かれそうな面倒なお願いもしたが、見学時に聴感的に確認したかぎりではあるが、遮音はそれなりに確保されていたようである。

 小学校のすぐそばには浜がある。2階サロンからは海がかろうじて見えるが、1階客室からは残念ながら見えない。しかし、その海を見ながら入浴できる展望風呂がある。海は、瀬戸内海特有の鏡のように静かで、一日ボーッと見ていても飽きない。

 伊東建築塾のプロジェクトでは、2年後の完成を目指して、美味しいワインとお料理、そして快適な宿泊を提供するオーベルジュも計画している。ワインはもちろん大三島醸造所生産である。

客室内部
客室内部
小学校のそばの浜
小学校のそばの浜