No.354

News 17-06(通巻354号)

News

2017年06月25日発行
外観

香川県観音寺市に新市民会館がオープン!

 今年4月に香川県観音寺市に新しい市民会館がオープンした。施設の詳細についてお伝えしたい。

施設概要

 香川県の西端に位置する観音寺市は、高松市、丸亀市に次いで県内3番目に人口が多い市である。本施設の最寄り駅である観音寺駅から瀬戸内海までは2km程度で、対岸に浮かぶ伊吹島では、香川名物・讃岐うどんに欠かせないイリコが名産品となっている。この観音寺市には旧市民会館(1970年開館)があったのだが、施設の老朽化のため、2012年より新しい市民会館の建設計画が進められ、今年4月にオープンを迎えた。設計は日建設計、施工は五洋建設・藤田工務店JVで、弊社は設計から施工段階の音響コンサルティングと音響測定までを行った。

外観
外観

 新しい市民会館の計画地となったのは小学校の跡地で、もともとあった小学校の体育館は本工事で改修されて多目的ホールとして残され、その多目的ホールを囲むように大ホールと小ホールが配置されている。建物外観は穏やかな瀬戸内海に浮かぶ島々をイメージしたとのことで、大・小ホールのフライタワーや客席、その周囲に巡らされた庇など、様々な高さやボリュームの要素で構成されている。舞台と客席の外壁は内倒し形状で金属折板仕上げになっており、フライタワーが垂直にそびえ立つ一般的な市民会館のイメージとは異なり、低層建物が並ぶ周辺環境のなかにあっても圧迫感を感じさせない外観である。

遮音計画

 大ホール、小ホール、スタジオ、多目的ホール等からなる本施設では、各室の同時利用をなるべく可能にするために遮音性能を高める計画とした。まず、大ホールと小ホールは出来るだけ距離を離した配置とし、両ホール間にはExp.J.を設けて、基礎構造まで切り離した。また、大ホール客席後方の下部に並ぶスタジオ(5室)には防振遮音構造のスタジオ(2室)を1室おきに配置した。多目的ホールと大小ホール間は、既存建物である多目的ホール周囲にExp.J.が計画されたため、音響的にもそれを遮音構造として利用した。遮音性能は、多目的ホールと大小ホール間でDr-80、大・小ホール間ではDr-85以上である。特に大小ホール間の低音域の遮音性能は80dB以上と、室配置とExp.J.による高い遮音性能が得られている。

1階平面図
1階平面図

大ホールの室内音響計画

 大ホールはメインフロアと1層のバルコニーフロアで構成される1,200席の多目的ホールである。舞台には走行式の音響反射板を備え、反射板の奥行きが約12m、10m、7mと可変して様々な編成に対応する。客席の内装仕上げは、ほとんどが杉板型枠の打ち放しコンクリートで、音響的な拡散のために折れ壁形状となっており、さらに意匠的な木柱も取り付いて拡散性を高めている。また、プロセニアム開口の高さ(12m)には、客席全周をまわるように木質の庇(深さ約2m)が設けられている。庇よりも上部の壁と天井は黒色塗装で詳細形状は見えにくいが、外観と同様の内倒し形状が基本となっており、それぞれ折れ壁・折れ天井として音響的に好ましい角度をもたせている。

小ホールの室内音響計画

 小ホールは334席、ワンスロープの小規模な多目的ホールで、室内楽や音楽発表会、講演会利用が想定されている。このホールの特徴は何と言っても石積みの壁で、舞台正面壁と客席側壁には、外壁と同じ庵治石が仕上げ材として使われている。高さは11m程にもなるが、外倒しになっているためか、圧迫感は感じない。音響的には、外倒しの基本形状に加え、石積みによる凹凸、そのザラザラとした表面等で壁からの反射音を適度に和らげ、その重量のある仕上げで重厚な響きを実現している。

各ホールの特徴的な仕上げ

 大ホールのコンクリート打ち放しの折れ壁、小ホールの石積壁、ホール外壁の金属折板等については、施工当初から現場事務所脇にモックアップを作成し、意匠、施工、音響等の各視点から確認をして、現場に反映させていった。大ホールの折れ壁については、打ち放しコンクリートの仕上がり、施工性、音響的な効果を考慮して、設計時よりもややシンプルな形状に調整された。また、小ホールの石積壁は、様々なサイズからなる石の積み方を決めるなかで、石積みの凹凸具合と、石積みの目地によって過度に吸音しないように目地の状況を確認した。ホール外壁の金属折板については、降雨騒音の低減対策の必要性の確認等にも利用している。

 4月1日に大ホールで行われた開館記念コンサートでは、地元の子供達による合唱や吹奏楽が披露された。より多くの子供達を舞台にあげるためか、1曲毎に演奏団体が入れ替わったので、出演した子供達、客席にいた家族にとっても良い思い出になったはずである。今後は開館記念事業として市民ミュージカル等も企画されている。2つの特徴あるホールをもつ本施設が、今後市民で賑わうことを期待したい。(服部暢彦記)

ハイスタッフホール: http://www.kanon-kaikan.jp

大ホール(舞台)
大ホール(舞台)
大ホール(客席)
大ホール(客席)
大ホールの打ち放しの折れ壁
大ホールの打ち放しの折れ壁
小ホール
小ホール
小ホールの石積み壁
小ホールの石積み壁

宇都宮市文化会館 リニューアルオープン

 宇都宮市文化会館が大規模改修工事を終え、2017年4月1日にリニューアルオープンを迎えた。会館は1979年の竣工で、2000席の大ホールと500席の小ホールを持つ。北関東圏最大級の収容人数を誇り、駐車場や搬入スペースも潤沢なため、吹奏楽コンクールや人気アーティストのツアーライブの会場として、市内外の多くの方から親しまれている。

 改修工事のプロジェクトが始まったのは、2014年。施設全体の老朽化対策やバリアフリーの向上、また東日本大震災後に、大空間の天井脱落の対策強化が規定された建築基準法改正に対応するため、大規模な改修が計画された。ホール内は天井の耐震化だけでなく、客席椅子の更新も対象であった。改修工事によるホールの音響へ及ぼす影響が懸念され、永田音響設計は、設計監理チームに協力する形で参画した。設計監理は佐藤総合計画・安藤設計JV、建築施工は中村・渡辺・岩村建設JVが担当した。工事は2015年11月から2017年3月末までの間、施設を休館して実施された。

大ホール舞台
大ホール舞台
大ホール客席
大ホール客席

 設計時にまず行ったのは、現地の音響調査と運営者へのヒヤリングである。そこでは、どちらのホールも電気音響設備を使用するイベント主体の運用とするため、響きを抑えるように設計されており、生音の演奏会には響きが不足気味という意見があった。音響反射板設置時、空席時の残響時間(平均吸音率)を測った結果、500 Hz帯域では大ホールが1.6秒(0.24)、小ホールが1.0秒(0.26)で、確かに最近の多目的ホールと比べデッドな印象であった。そのため、生音のコンサートにもより適したホールとなるよう、天井の形状と仕上げ材の変更を計画した。天井形状は、直接音からごく短い時間遅れで届く反射音がより均一に客席全体へ届くように、仕上げ材は、残響が少しでも長くなるように設計を実施した。

 内装仕上げの変更は大小ホールともに、客席床カーペットを一部撤去すること、客席後壁側の天井面に採用されていた吸音構造を反射面に替えることと、石膏ボード1枚だった客席天井を、2枚に増すこと、である。客席天井はまずは安全性確保のため、もともとの吊り天井を、補強した直天井に作り替え耐震性を高める計画であった。そこで、構造的に安全な範囲で仕上げを重くして、天井面全体の音響的な反射性能向上も図ることとした。改修後の残響時間は、上記と同条件で大ホールが2.2秒(0.18)、小ホールが1.4秒(0.19)であり、生音に対して適度な長さとなっている。

小ホール舞台
小ホール舞台
小ホール客席
小ホール客席

 4月1日には大ホールで東京フィルハーモニー交響楽団による開館記念公演が行われ、オーケストラの演奏を十分に楽しめる響きが得られていることを確認できた。以降、ロックやポップス、演歌に落語など、様々なジャンルの公演も目白押しで、いずれも好評のようである。今後も、末永く愛される施設であって欲しいと願っている。(鈴木航輔記)

輻射冷暖房システム

 現在進行中のサロンのプロジェクトに「輻射冷暖房システム」の導入が計画されている。以前、このシステムについて、あるメーカーのショールームを見学する機会を得た。そのショールームでは、実際にシステムが運転されていて、このシステムによる、温熱的なムラのない快適な環境が体感できた。

 近年の輻射冷暖房システムの導入事例としては、住宅・店舗やオフィスビルの執務空間等の小〜中規模の空間に留まらず、開放的な閲覧スペースを持つ図書館や半屋外空間など、徐々に多様化している。しかし、比較的大空間で、しかも運転状況があまり定常的でないホール、劇場等への採用にあたってはランニングコスト・立ち上がり特性・効率等の観点からまだ課題があるように思う。快適な温熱環境と共に、室用途に合った静けさを実現するためには設備の特徴を把握した騒音低減対策が重要である。輻射冷暖房システムを導入する際にあたって、音響的なメリットや注意すべき事柄について考えてみた。

輻射冷暖房システムの一例
輻射冷暖房システムの一例

 輻射冷暖房システムの多くは、熱媒体を用いて金属パネルを冷却・加熱することで生じる熱の移動により温熱環境を調節する仕組みである。現在主流となっているダクト方式との大きな違いは、換気は別として、冷暖気を送るための送風ファンがなくて済むということであろう。セントラル方式では、送風ファンからの騒音・振動を十分に低減するために、機外騒音の遮音・機器の防振支持・ダクト内伝搬音の消音・他系統とのクロストーク防止措置など、様々な音響的配慮が必要となる。当然これらの対策を行うためには、建築的に相応のスペースを見込まなくてはならない。一概にファンといっても、空調・換気・排煙などその用途は様々あり、輻射冷暖房採用によりこれら全てがなくなるわけではない。しかし、セントラル方式において最も大きな風量を持つファンは空調ファンであることが多く、これが無いだけでも、前述したスペースはコンパクト化され、居室あるいは他設備のものとして転用できる。特に、限られた敷地に建つ小規模なホールや教会、録音スタジオ等、静かな環境を必要としつつも十分な設備スペースを確保しにくいようなプロジェクトにとっては、メリットといえる。

 もう一つのメリットは風切り音の発生がないことである。より高い次元の静けさが必要な場合には、吹出口風速を1 m以下としなければならない場合もある。そのためにダクト径が大きくなっていくことを考えると、輻射冷暖房はこういった点でも、ダクト方式と比べて省スペース化が見込めるだろう。

 次に、導入にあたって音響上の注意点について考えてみたい。熱放射効率の関係からか多くのメーカーでは、輻射パネル部分に金属(主にアルミ)を用いている製品が多いようである。そのため、室内で大きな音が出た際には、金属同士が接する部分でのビリツキに注意する必要がある。ちなみにこの課題については、金属同士が直接触れないように専用の緩衝材を設けるなど、既に対策をしているメーカーもある。

 熱媒体についても注意が必要である。たとえば冷媒水を用いるシステムの場合、配管内を流れる水に空気が含まれていると「チャラチャラ」といった特有の流水音を発生させる可能性がある。きわめて小さな音であるが、クラシックコンサートが計画されていたり、録音に使うような部屋の場合には注意が必要であり、導入するに当たっては実際に製品を確認して、室用途に対して発生音量を許容できるのかどうかを確認することが望ましい。

 冒頭に記したプロジェクトでは、前記した事柄について、導入する製品を入念に確認した。実際運用した際に設計で意図した静けさかどうか確認できるのはまだ先だが、システム導入にあたって今回のショールーム見学は有意義なものであったと考えている。(和田竜一記)