みんなでつくるふれあいの大屋根=ビッグルーフ滝沢 誕生
ビッグルーフ滝沢は、岩手県中央部に位置する滝沢市に新しく完成した交流拠点複合施設である。施設は、移動観覧席を備えた平土間の大ホール、小ホール、会議室等から成るコミュニティセンター、図書館、産業創造センターの3つのゾーンで構成されている。2016年12月1日にコミュニティセンターと図書館が開業し、2017年4月1日には産業創造センターを含めて全面オープンする予定である。設計は三菱地所設計、施工は三井住友建設である。永田音響設計は設計から竣工時の音響測定までの一連の音響設計を実施した。
滝沢市は、2014年1月1日に滝沢村から滝沢市に移行して新しく生まれた市である。滝沢村の時には、日本一人口の多い村として全国的に知られており、市政施行時には約5万5千人超であった。現在も、盛岡市のベッドタウンとして発展を続けている。もう一つ有名なのが、毎年6月の第2土曜日に開催される「チャグチャグ馬コ」だろう。滝沢市の蒼前(そうぜん)神社から盛岡市の八幡宮まで、カラフルな装束を着けた100頭ほどの馬が鈴を鳴らして行進するお祭りである。お祭りの名前は、鈴の音が“チャグチャグ”と聞こえるところから付けられているとのこと。その音は“日本の音風景100選”にも選ばれている。
建物の概要
白を基調とした外装に、チャグチャグ馬コの装束のようなカラフルな色使いが所々に配された明るい印象の建物である。しかし、なんといっても特徴的なのは建物全体を覆う大屋根である。まさにビッグルーフ。施設名称の由来でもある。
建物入口前には、イベントにも対応できる“たきざわ広場”がある。チャグチャグカラーの舗装が楽しいスペースである。エントランスを入ると、そこは外光あふれる“ふれあい広場”で、2階への階段からはガラス越しに遠くの岩手山が望める。ふれあい広場の右側奥がコミュニティセンター、左側が図書館である。コミュニティセンターの中央にはホワイエが配されており、それを大・小ホールや会議室、スタジオ等が取り囲んでいる。大ホールのホワイエ側はシャッターに、また小ホールは引き戸になっているので、これらを開放すると“大ホール−ホワイエ−小ホール”の連続した空間になり、大型の展示会にも利用できる。また、会議室やスタジオなどもホワイエに面する隔壁にはガラスが設けられており、ホワイエとは視覚的に連続した空間が構成されている。建物内部も外装と同じように、明るく伸びやかな印象である。
このように、本施設は開口部が多かったり開放的であったりと、遮音の確保が難しい空間構成である。しかし、せっかく多くの室を配置するのに、ある程度は同時使用が可能でなければ運用的には制限が多くなり使いにくくなってしまう。設計段階から用途を考慮しながら各室の遮音計画を行い、音楽やダンスなどに利用されるスタジオやアクティブルームなどには、防振遮音構造を採用した。
大ホール
大ホールは客席後部にバルコニー席を持ち、1階部分には浮上式の移動観覧席が装備された平土間のホールである。移動観覧席の設置/収納によって462席の段床のホール/平土間のホールに可変する。また、舞台には可動の音響反射板が設置されており、反射板の状態でクラシックコンサート、幕の状態でお芝居、講演会、式典などの幅広い演目に対応できるホールとなっている。客席前方の床は迫りになっており、上げると舞台と客席がフラットになるので、浮上式の移動観覧席を舞台や客席のあらゆる場所に移動できる。また、ホワイエ側のシャッターを開ければ、ホワイエや小ホールにも移動させて使用することが可能である。
室内音響としては、生音のコンサート時に余裕のある響きを得たいと考え、客席の天井高さをできるだけ高く確保した。また、明瞭性を確保するために初期反射音が有効に得られるよう、天井や壁の形状を工夫してデザインに反映してもらった。残念ながら、まだコンサートなどの催し物を聴いていないのでその成果を確認できていないが、音響測定の際の聴感印象からは意図通りの響きが得られていると考えている。
開業以来、様々なイベントが行われ賑わっていると聞いている。今後、多くの市民に愛され、活発に利用される施設であって欲しいと願っている。(福地智子記)
ビッグルーフ滝沢ホームページ: https://bigroof.jp/
ライス大学のムーディー・アーツセンターがオープン
アメリカ・テキサス州ヒューストンのライス大学(Rice University)内に新しく建設されたムーディー・アーツセンター(Moody Center for the Arts)が、2月24日にオープンした。このアーツセンターは、芸術関連の多分野にわたる教育プログラムが組まれており、ライス大学および地元ヒューストンのコミュニティ活動に幅広く貢献することが期待されている。
ライス大学は、街路樹が連なるヒューストン市の中心部に位置する。1912年に創立され、現在は約4,000人の学部生と約3,000人の大学院生を抱える。米国内大学ランキングの上位20位以内を常にキープしており、教師1人当たりの学生数が6人以下という低い数字が自慢である。本施設は、ネオ・ロマネスク様式の煉瓦造りの建物が綺麗に立ち並ぶ約1.2km2のキャンパス内に誕生した。大学敷地の南西端に位置する新しい建物の床面積は約4,600m2で、総工費3,000万ドルのうちの大部分はムーディー財団からの助成金によってまかなわれている。本施設の建築設計はロサンゼルスのMichael Maltzan Architecture、永田音響設計は室内音響、遮音および騒音制御に関する一連の音響設計を担当した。
建物の概要
芸術に関するさまざまな学問・研究活動に対応するため、この施設には絵画、彫刻、音楽、演劇、映画、ビデオ、デジタル・インタラクティブ・メディアなど、各分野の活動のためのスペースが分散して配置されている。さらに汎用のクラスルームも3室備えられており、大学全体で使えるようになっている。施設の中心部分には、大学キャンパスの象徴的な方庭 – “Academic Quadrangles”に倣うように、平面形状を正方形とした天井の高い“フレキシブル・スタジオ”があり、その周囲を木工、金属加工、塗装および試作ラボの4つのワークショップ・スペースと、デジタル・クラスルームおよび4つのA/V編集室が取り囲んでいる。自然光をふんだんに取り入れることができる広々とした高窓(写真右)が印象的な“スカイライト・ギャラリー”、150席のフレキシブルなブラック・ボックス形式のスペース“スタジオ・シアター”、実験的なパフォーマンスや展示を目的としたオープンな“セントラル・ギャラリー”など、芸術活動のためのやや大きめなスペースもいくつか用意されている。また、多数のスタッフおよび教員のオフィスや、彼らの活動をサポートするための設備を整え、学生のあらゆるニーズに対応することができるようになっている。
この建物の建築設計では、透明性と開放性が特に強調されている。建物の外観としては、濃いマンガン鉱色の煉瓦の大きな塊が、遊歩道の上に浮いているように見える。建物内のワークショップ・スペースおよびクラスルームは、ガラスのカーテン・ウォールによって外の遊歩道と仕切られており、周辺から素通しになっている。上部には、大きめのガラス窓が数多くはめこまれた煉瓦仕上げの空間がいくつか不規則に組み合わされ、そのガラス越しに上階の各スペースも覗くことができる。内部が暗く感じることはまず無いだろう。
この新しい施設の最もユニークな建築的特徴は、建物の端部3カ所が巨大な「灯篭」のようになっていることであろう。そのうちの2カ所は、非常に珍しいスターバースト型の構造柱(写真左)に支えられている。1カ所は施設のブランド・アイコンにもなった、壁に涙の形にくり抜かれた穴のある所で、もう1カ所は透かし積みの煉瓦で覆われた所である。3つめの「灯篭」は、大きな窓が開いた、カフェのある公共スペースである。その窓からは、1つめのスターバースト型柱や、セントラル・ギャラリーを眺められる。
スタジオ・シアター
スタジオ・シアターは、建物の他の大部分を占めるビジュアル・アートのための明るい空間とは対照的な、濃い灰色を基調とした劇場である。フレキシブルな設定が可能なブラックボックスの伝統的形式に従ってはいるものの、黒を基調とした一般的なブラックボックス・シアターとはいささか趣が異なる。客席数は最も標準的な移動観覧席による段床形式の場合に150席であり、各席から幅14m、奥行き6mのステージへの視線が十分に確保されている。客席配置は催し物により変更可能で、席数は199席まで増やすことができる。
このシアターに対する音響設計の目標は、多岐にわたる催し物に対してできる限り幅広く対応できる室内音響性能を実現することであった。そのためこのスペースには、天井高8m、幅14mおよび奥行き19mの、敷地内で最大限に可能なボリュームが割り当てられた。壁仕上げには部分的に吸音用のグラスウールパネルが用いられ、それらには美術作品を直接留められるようになっている。天井からは50cmの空気層を取って吸音パネルを吊下げ、低音域までを含む広帯域の残響を抑えた。また舞台設備を適宜設置できるよう、正面を除く三方の壁に音響的に透過なテクニカル・バルコニーが設けられている。電気音響設備を使用する催し物に対応させるために、必要に応じてその下面に吸音用カーテンを吊り下げるようにした。さらに、正面の壁にもカーテンの設置が可能である。
オープニングフェスティバル
2017年2月24日、ムーディー・アーツセンターの新ディレクターAlison Weaverが、大学とヒューストン一般市民にその扉を開いた。いくつかの大規模な展示がすでに進行中である。デンマークのアーティストOlafur Eliassonの米国における最初の展示となった「Green Light」では、難民危機の問題に取り組んでいる。亡命希望者や経済難民にも創作活動に直接参加してもらい、作品の販売によって得られた収益は難民への義援金となっている。ブラウン財団ギャラリーと名付けられたスカイライト・ギャラリーでは、最新テクノロジーと都市を対象とした、Thomas Struthの一連の作品が展示されている。先月末には、新しいセンターの学際的な目標を具現化するかのように、Dusan Tynek Dance TheatreのメンバーがJames Turrellによるキャンパス近くの有名な作品「Twilight Epiphany Skyspace」に一週間ほど滞在し、音楽学部教授Kurt Stallmann作曲の楽曲に結び付けたパフォーマンスを完成させた。他にも、Diana Thater、日本のチームラボ、そしてGoogleによるインスタレーションや、大学の映像・演劇学科、数学科および音楽学科のコラボレーションによる数々のパフォーマンス、さらには最初のアーティスト・イン・レジデンスとして登録されたMona Hatoumによる展示会など、非常に幅広いプログラムが最初のシーズンに華を添えている。(原文英文、Daniel Beckmann記)
ムーディー・アーツセンターのホームページ: https://moody.rice.edu