大和市文化創造拠点シリウス(Sirius)のオープン
昨年の11月3日の文化の日に、神奈川県大和市の大和市文化創造拠点シリウス(Sirius)がオープンした。
施設概要
施設は小田急江ノ島線と相鉄線が交差する大和駅の東側再開発事業として計画され、「芸術文化ホール」(メインホール、サブホール、マルチスペース、ギャラリー)、「図書館」、「生涯学習センター」(練習スタジオ、講習室、会議室、和室等)、「屋内こども広場」からなる複合施設である。建物は、東棟と西棟からなり、東棟にはメインホールが、西棟にはメインホール以外の室が配置されている。また、施設の1階には“FMやまと”のラジオ放送スタジオが配置され、施設の外から生放送の様子を見ることができる。また、元々この場所にあった大和天満宮の新社殿が、施設の2階に移設されている。施設の愛称「シリウス」は、おおいぬ座を代表する明るく輝く恒星の名前から付けられ、施設がどの星よりも光り輝き、市民に愛される施設となるようにという願いがこめられている。再開発事業は特定業務代行方式が採用され、設計および施工は、佐藤総合計画と清水建設が担当した。施設の運営は、サントリーパブリシティサービス株式会社、株式会社図書館流通センター、株式会社ボーネルンド等からなる指定管理者「やまとみらい」が担当している。永田音響設計は、基本設計段階から施工段階の音響監理、完成時の音響検査測定まで、一連の音響コンサルティング業務を担当した。
施設の騒音防止計画
施設は大和駅より東側に徒歩およそ5分の場所に建設された。施設に面する遊歩道の地下には相鉄線の地下軌道が走行しており(地下軌道から施設外壁まではおよそ10m)、施設の南西およそ1kmには米軍厚木海軍飛行場と海上自衛隊の厚木航空基地がある。そのため、相鉄線走行時の固体伝搬音と、航空機騒音のホールへの伝搬防止が大きな課題であった。設計段階の早い時期に、敷地での相鉄線走行時の振動と、航空機および周辺の道路交通騒音等の調査測定を行い、これらの低減方法の検討を行った。測定結果から、ホールにおける相鉄線走行時の固体伝搬音はNC-35程度、航空機騒音はNC-35〜40程度と、室内騒音の目標値(NC-20〜25)を大きく上回ることが予想されたため、メインホールとサブホールはそれぞれ、ホール全体を防振遮音構造(防振ゴム浮床)とした。また、ホール以外のマルチスペース、練習スタジオ、講習室、放送スタジオについても、可能な限り周囲の室との同時利用ができるよう防振遮音構造を採用した。
メインホールとサブホールの防振遮音構造については、構造設計からの強い要望により、地震時の3.3Gの横揺れに耐えられる構造とするため、防振遮音層の天井と壁の取り合い部分にはスリットを設けることが求められた。そこで、スリットによる遮音性能の低下をふせぐために、スリット部分には2重のゴムを設置することで、遮音性能を確保するとともに、地震時の横揺れにも対応できる計画とした。完成時の相鉄線騒音は、メインホール・サブホールとも運用上支障のない静けさにまで低減されていることを確認した。また、航空機騒音は、ホール内でまったく検知できなかった。
西棟の外部サッシュについては、図書館や屋内こども広場に対する航空機騒音の伝搬を防止するため、1級防音(サッシュ単体の遮音性能(音響透過損失)で33dB以上)の新型サッシュ(2重ガラス)を新たに開発・採用した。
メインホールの室内音響計画
1007席のメインホールは1層のバルコニー席をもつ多目的ホールである。舞台には可動式の舞台反射板が備えられ、反射板を舞台幕に転換することで生音のクラシックコンサートから演劇、講演会、式典等まで対応できる。生音のコンサートに対して、豊かな残響と明瞭な響きの確保を目標に、十分な室容積を確保するとともに有効な初期反射音が得られる形状を検討した。プロセニアム高さは舞台床より12mとし、舞台と客席ができるだけ一体となる形状とした。舞台上と客席の中央部へ壁からの有効な反射音を到達させるため、舞台の正面・側方反射板および客席側壁には外倒しの面をもつ約150個の拡散体を設置した。拡散体は施工のしやすさから1.6mm厚の鉄板とし、鉄板に起因する特異な鳴りを防止するため、鉄板の裏には繊維混入石膏板10mm厚×2重を貼り、表にはダイノックフィルム貼りの6mm厚のケイカル板を貼りつけている。メインホールの残響時間は、舞台反射板設置時2.2秒/1.7秒、舞台幕設置時1.5秒/1.2秒(空席時測定値/満席時推定値、いずれも500 Hz)である。
サブホールの室内音響計画
272席のサブホールは、移動観覧席を有する平面形状が矩形の多目的ホールである。舞台の側壁には開閉式の反射板を設け、移動観覧席設置時には反射板を開閉することで小規模なクラシックコンサートから演劇・講演会まで、移動観覧席を収納した平土間時にはダンスなど幅広い利用に対応できる。舞台と客席の側壁には3種類の寸法の異なる縦リブをランダムに配置し、縦リブの表面には外倒しの角度をつけ、平行面が対向しないよう配置することでフラッターエコーを防止している。サブホールの残響時間は、移動観覧席設置時の反射板形式で1.1秒/0.9秒、舞台幕形式で0.7秒/0.6秒(空席時測定値/満席時推定値)、移動観覧席を収納した平土間形式で1.6秒(空室時測定値、いずれも500 Hz)である。
1/7(土)にメインホールで行われたウィーン・フォルクスオーパー交響楽団のニューイヤーコンサートに足を運んだ。オーケストラに、ソプラノとテノールのソリスト、2名のバレエダンサーが加わり、新年にふさわしい華やかな演奏会で、ホールの豊かな響きを存分に楽しめた。ホール以外の図書館やエントランスのカフェにも老若男女たくさんのお客さんが訪れ、また、天満宮には初詣の参拝客が列をなし、施設がすでに市民の生活の一部になりつつあると感じた。今後、‘シリウス’のように光り輝き、よりいっそう市民に愛される施設になることを願っている。(酒巻文彰記)
大和市文化創造拠点シリウス: http://yamato-bunka.jp/
空気調和・衛生工学会の送風機騒音に関する規格について
厳しい音響性能が求められるホール、スタジオ等、その基本的な音響条件に室内の「静けさ」がある。この静けさを確保するためには、外部の環境から建物内までの様々な騒音、振動に対しての遮断、低減が重要となる。その防止計画にあたっては騒音、振動源の性状の定量的な把握が必要になるが、ホール、スタジオ等での主たる騒音、振動源である空調設備、その主要な騒音源となる送風機騒音について考えてみたい。
空調設備のダクト系の騒音防止設計は、ダクト内に放射される送風機の騒音出力(音響パワ−レベル)を正確に把握することからはじまる。類似の実測データがあればよいが、それが適わない場合、いくつかの実験式等を用いて音響パワーレベルを推定し、減音装置としての吸音ダクト、消音器等を決めるための消音計算を行う。送風機の駆動電動機の定格馬力から簡単に算出できるBeranekの実験式や、ASHRAE(アメリカ暖房冷凍空調学会)のハンドブックに紹介されている推定式等がそれである。ASHRAEでもいくつか提案されているが、送風機の型式でなく、静圧効率が変化することによる特性の変動に基づいて、風量、静圧、運転効率等をパラメーターとした推定式がある。しかし、送風機の種類、構造、能力や動作条件等、限られた範囲でのこともあり、我々は工場検査時に実機の送風機の音響パワーレベルを簡易的な測定方法で確認し、より精度を高めるといった手順で騒音防止設計を行ってきた。その測定方法は1968年にNHK技術研究所で提案されたものである。防風スクリーンを装着した騒音計のマイクロホンを送風機の吐出口、あるいは吸込口内に設置し、気流中での送風機騒音の音圧レベルの測定と、その測定断面積から音響パワーレベルを求めるという実用的なものである。この方法はマイクロホンの風雑音が測定点の音圧レベルより小さいことが前提であり、ホール等で採用される大型の送風機では工場等での暗騒音の影響も受けることなく、十分可能な測定方法である。工場検査でのこの方法による実測値の集積から、実務レベルではあるが、設備設計の初期段階において音響パワーレベルが算出できるように風量のみに着目した推定方法を提案し、これをもとにして騒音防止設計を行っている。
以上の測定方法は高い精度を要求するASHRAEやAMCA(アメリカ空調機器協会)の規定では実用的でないことから考案された現場測定法であったが、送風機騒音の測定に関してはいくつかの国内規格がある。JIS B 8330 「送風機の試験及び検査方法」やJIS B 8346「送風機及び圧縮機- 騒音レベル測定方法」は、送風機周辺の騒音、機外騒音を対象としたものである。その値は送風機騒音の大きさの目安とはなるが、ダクト内に放射される音響パワーレベルではないので消音計算のためには適さない。消音計算に必要な送風機騒音の音響パワーレベルの測定方法としてはいくつかの方法が提案されているが、空気調和・衛生工学会では1969年にHASS 110 「送風機の音響パワーレベル測定方法」を制定している。これをASHRAEや、AMCA 、英国規格、ISO(国際標準化機構)などの動向を踏まえ、SHASE-S 110として改訂している(2007年制定)。この規格では接続ダクトに放射される送風機騒音の音響パワーレベルについて、実務レベルでの精度を基本とし、送風機の口径、ダクト内の気流速度などから測定環境まで多様な状況に応じた適切な測定方法が選べるよう4つの測定法が規定されている。音響測定のための残響室、無響室等の特別な空間を要しない”ダクト内法”は、音響測定用ダクト内の平均音圧レベルの測定によって音響パワーレベルを求める方法である。”準自由音場法”は、準自由音場において音響測定用ダクトを介して放射される騒音をその開口端を囲む閉曲面上の平均音圧レベルの測定によって、また、”準拡散音場法”は、音響測定用ダクトを介して放射される騒音を準拡散音場内での平均音圧レベルと、音響パワーレベルが既知の基準音源の平均音圧レベルの測定の比較から求める方法で、置換音源法ともいう。”音響インテンシティ法”は、音響測定用ダクトを介して放射される騒音をその開口端を囲む閉曲面に垂直な音響インテンシティレベル、または開口端中心からの法線方向の音響インテンシティレベルの測定により求める方法である。あまり知られていないが、空気調和・衛生工学会では他にもSHASE-S 113「個別空調機の音響パワーレベル測定法」、SHASE-S 114「空調機器騒音測定方法」などの規格がある。快適な環境づくりに欠くことのできない空調設備、その騒音防止のために参考になれば幸いである。(池田 覺記)
駅の音サイン〜音響案内設備〜
音響案内の目的
駅の改札で待ち合わせをしていて、「ピ〜ンポ〜ン」という音が定期的になっているのを聞いたことがないだろうか?意識していないとあまり気付かないかもしれないが、実はほとんどの駅でこの音が鳴っている。ちなみにこの音は、視覚障害者に対して駅の改札口の位置を知らせる音響案内である。今回は身の回りにあるこのような音響案内について考えてみたい。
音響案内は交通機関や特定の建物を対象として、その設置が義務付け、または推奨されている。駅を例とすると、改札口の他にトイレの入口、プラットホームの階段、地下鉄の地上出入口等に計画されており、視覚障害者が目的とする場所・方向に円滑に移動できるように、点字ブロックや触知案内図だけでなく、音・音声を使った音響案内によって位置情報を知らせている。自分が今どこにいて、行きたい方向はどちらなのかを知りたい視覚障害者にとっては、その音が聞こえる・内容が聞き取れるだけでなく、どこから聞こえるのかも重要な要素である。
駅の改札
さて、右の写真は私の自宅の最寄駅(駅A)の改札口である。有人改札へと誘導するように、足元には点字ブロックがあり、改札の壁には音響案内用のスピーカが設置されている。また、次の写真(駅B)は隣の駅の改札口で、改札機よりも内側のコンコースの天井にスピーカがついており、同じ路線の駅でも設置状況が全く異なっている。どちらも駅構内の主動線上でスピーカの死角となるエリアがあり、空間の響きが付加されて回り込んで来る音を聞くことになってしまう。点字ブロックの補助的な役割なのかもしれないが、音響案内だけを頼りに改札まで辿り着くのは難しそうである。知り合いの視覚障害の方を見ていると、基本的には点字ブロックをガイドとしながら、他の利用者が自動改札機を通過するときに鳴る「ピッ」という音や、それらの記憶も頼りにして通常の自動改札を利用する人もいるようである。
駅のホーム
駅のなかで最も危険な場所がプラットホームである。ここには電車から降りたあとに、改札へ繋がる階段まで誘導するように点字ブロックが設けられているが、その階段の上部にスピーカが補助的に設けられる場合がある。ここでは「ピヨピヨ」という鳥のさえずりが使われることが多いが、利用者や電車本数が多い都内の主要駅では、電車走行音、案内放送、利用者の喧噪に紛れて、気付きにくい音響案内である。しかし、余計な案内放送がなく、利用者・電車が少ない時間帯であれば、吸音が少ない地下鉄のプラットホームであっても聞き取りやすいと感じることがある。
音響案内設備の聞き取りやすさは、駅の構造によるスピーカ設置状況や空間の音響条件、時間帯等によって様々のように感じる。先日、視覚障害者の乗車に対して原則として駅員が介助することを求める方針が国土交通省から出された。ハードの整備状況が多様ななかで、ソフト面での対応に力を入れるということである。しかし、ただでさえ忙しい駅員さんに全てを任せるのではなく、まわりの利用者である我々が気軽に声掛けできるような運動や教育が進んでいけば良いと思う。(服部暢彦記)