長野市芸術館のオープン
長野市の新しい文化の交流・創造の拠点として、長野市芸術館が5月3日の開館記念式典、それに引き続き5月8日のグランドオープンニングコンサートで本格的に始動した。コンサートでは芸術監督である久石譲氏がタクトをとり、長野市から久石氏に委嘱された「祝典序曲」が読売交響楽団の演奏によりメインホールで世界初演された。春の行楽シーズンでにぎわう長野駅構内には、大きな開館を祝うフラッグも掲げられた。
施設概要
本プロジェクトは、隣接して建てられていた旧長野市民会館と長野市第一庁舎の改築計画であり、新しい計画では長野市芸術館と新長野第一庁舎は合築され、建物全体がひとつの免震建築となっている。敷地は旧市民会館跡地である。
芸術館と庁舎で共有されている1階西側の入口を入ると市民交流スペースなどがあり、中央に設けられた吹き抜けの“ニワ”空間を挟んで、東側に長野市芸術館のメインホールがある。庁舎は総合窓口であるワンストップロビーが西側2階に設けられ、その上層が事務室、最上階に市議会の議場が配置されている。芸術館の施設は、地下にリサイタルホールと創造支援部門という名で整備されたリハーサル室等の練習室群があり、さらにもうひとつアクトスペースと呼ばれる劇場が中央部3階にある。設計は槇総合計画事務所・長野設計共同体で、永田音響設計は長野市芸術館と議場の音響について協力を行った。
メインホール
客席数1,292席の音楽を主体とした多機能ホールであるメインホールは、矩形の平面形を持つ1階席を、バルコニー席が取り囲むように配置されている。ホールは「山並み」をテーマにデザインされ、県産材のクリの木が使用された凹凸のある木仕上げの壁が、舞台を囲む音響反射板から客席側壁に繋がって配置され、舞台と客席の一体感のある豊かな響きをもつホールである。
リサイタルホール
客席数293席の生音のクラシック音楽を使用目的とした音楽専用ホールである。天井高約10m、客席を取り囲む壁面には音場の拡散を図るため、折板形状の上に楓材のランダムなリブ材がついている。
アクトスペース
平土間のブラックボックス型小劇場は、奈落、舞台と客席の上全面にテクニカルギャラリー、客席には引き出し式の段床を持つなど、演劇・ダンスをはじめ、様々な使い方ができるスペースである。台詞の明瞭度や音量感などに考慮し、早めの初期反射音を与える側壁下部は反射性とし、押出成型板で折板形状に仕上げた。
創造支援スペース
地下に外光を取り込むサンクンガーデンに面して配置されたリハーサル室は、メインホールのアクティングスペースと同じ広さを持ち、ガラス面から光が差し込む明るいスペースである。様々な使い勝手に対して音響の調整ができるように壁には吸音カーテンを用意した。その他、生音の音楽用練習室が2室、ドラムセットやアンプが常備されたバンド用練習室が3室、演劇練習室やアトリエなどが用意されている。
施設には今までに紹介してきたように、盛り沢山の室が配置されたため、それらの活発・円滑な運用が行えるように、遮音計画を行った。各室の十分な離隔距離を確保することは限られた敷地の中では難しいため、メインホールを除く2つのホール、リハーサル室、音楽およびバンド練習室には防振遮音構造を採用した。またアトリエには浮床を採用している。
くわえて敷地周辺には地上を走る在来線(現、北しなの線)と高架を走る北陸新幹線がある。メインホール計画位置では、もっとも近い在来線から20m程度しか離れていなかっため、設計当初に敷地で騒音・振動調査を行った。幸いにも新幹線走行による騒音・振動は小さかったが、地上を走る在来線の騒音・振動のための対策が必要であった。振動については本建物が免震構造であったため、地上を走行する在来線に対して免震ピットによる掘り割りの振動低減効果を見込んだ。騒音対策についてはコンクリートで囲われたフライタワー壁の内側に、設備スペースを兼ねた空気層を挟んで、乾式遮音層をもう一層設けた。メインホールは舞台機構も大がかりなため、防振遮音構造を採用せずに済んで良かったと考えている。
メインホールに引き続き、アクトスペースは市民参加型の「KENJI」をテーマとした創作劇、リサイタルホールは長野出身の山本貴司氏のピアノリサイタルで幕を開けた。7月には新たに結成されたナガノ・チェンバー・オーケストラによるベートーベン交響曲全曲演奏会も始まった。「音楽のわかる大人になろう!」の講座シリーズや、オープン前から行われてきたアウトリーチ活動など様々な活動も盛り込まれており、長野市芸術館の今後の文化発信拠点としての活動に期待したい。(石渡智秋記)
長野市芸術館
https://www.nagano-arts.or.jp/
自由学園 明日館でのコンサート
6月末に自由学園 明日館の中央棟ラウンジホールにて開催されたコンサートに出かけてみた。今回はその紹介をしたい。
明日館はJR池袋駅あるいは目白駅から歩いて5〜10分のところにある。周囲は街の賑わいとは少し離れた住宅地であり、庭の緑が美しい。1921年に創立された自由学園の校舎として、近代建築の巨匠フランク・ロイド・ライトにより設計された。その後、ライトが帰国前に残したことばを受け継ぎ、弟子の遠藤新が現在の姿の明日館を完成させたのは1925年のことである。水平線を意識したヒューマンスケールの親しみやすい外観と、斜線を多用した幾何学模様の窓や家具、日本の欄間をイメージさせる扉の装飾などが随所にみられる内部空間が魅力的である。現在は、重要文化財・Docomomo選定建築物として、一般にも公開されている。90年以上の歴史があるこの建築は、1999年から約3年かけて保存修復工事が行われた。その工事は、歴史の刻まれた古材を極力再利用したインテリアや、建設当時の日本では先駆的であったとされる木造2×4構法を基にした建築構造の復元などに加え、恒久性の向上や活用のための改善にも配慮して実施されている。そして建築各部が傷むことを顧みず様々な催し物に利用されており、今回紹介するようなコンサートの他にも、公開講座や落語、結婚式場として積極的に使われている。竣工当時に限りなく近い空間で、用途の違いはあれど人が集まり、活発かつ多様な活動が展開されているその様子は、当時の明日館が活気に満ちていた様子を彷彿させる。まさしく、学園が掲げる『動態保存』というコンセプトを体感できる。
この明日館のホールで今年の6月末、東京藝術大学に縁のあるメンバーで結成されたカルテットアーニマによる、メンデルスゾーンの弦楽四重奏全曲演奏会の第2回目が開催された(3回目は11月に開催予定)。会場のラウンジホールは、前庭の緑を望む大きな窓が印象的である。また、壁面には左官仕上げや削り出した質感が残る大谷石が用いられ、これらによるコントラストが表情豊かな空間を創出している。当日のカルテットアーニマによる演奏は、コンパクトな空間に響く弱音を丁寧に演奏している印象であり、メンデルスゾーンの楽曲が持つ哀愁を存分に味わうことができた。ホールの響きは素直な音色で、各楽器のバランスも良くピッツィカートによる繊細な表現も身近に感じることができた。大きな音楽ホールで聞く室内楽とはひと味違う親密感に充ちたコンサートであった。なお、明日館ではラウンジホール以外に、遠藤新設計の講堂でもコンサートが開催されており、月に一度のホリデーコンサートには、付近の東京音楽大学の学生さんが選曲・出演している(現在は講堂が耐震補強工事中のため中央棟食堂にて開催)。
コンサートの休憩中には、2階の食堂にてコーヒー・紅茶とお菓子がサービスされ、楽しいひと時に会話が弾んでいた。古き良き時代のものが自然体で守られ、人々に親しまれ積極的に利用される様子を見て、活きた文化財として末永くその存在を保ち続けて欲しいと強く感じた。(和田竜一記)
自由学園 明日館 HP:http://www.jiyu.jp/
犬は可愛い!! でも鳴き声はうるさい!?
私のうちには、今年の8月で12才になる犬がいる。ミニチュア・シュナウザーの雌である。犬の年齢を人間に換算すると、私と同じくらいの年齢のようで、最近は寝てばかりの毎日である。ミニチュア・シュナウザーはドイツが原産で、ネズミを捕るのに改良されたそうで、長いひげと長い眉毛が特徴のおじいさんのような顔をした犬である。その風貌から、雄犬とよく間違われる。
吠えないようにしっかりと躾けたつもりなので、家の中でも外でもあまり吠えない。しかし、どうしても駄目なのが、インターホンである。ピンポーンと鳴った途端、けたたましく鳴き始める。恐らくテリトリーの侵害への抗議だろう。もう一つ、食事の準備をしていると、見計らったように、外に向かってワンと吠える。“ちゃんと仕事をしているよ! だからご飯をちょうだい“ と言わんばかりに。
周りにも犬を飼っている家が数件ある。鳴き声は犬種や子犬か成犬かでそれぞれ異なり、その鳴き声から○○さん家の犬が鳴いている・・とわかる。隣のマンションにも子犬がいて、洗面所の電気を点けたり窓を開けたりすると、鳴き始める。いつも見張られているようだ。窓が閉まっている状態では気にならないが、開放されていると、時々うるさく感じる。長い時間鳴いている時があって、そのときには、うるさいと思うよりも、そんなに鳴いて疲れないのかと心配になる。飼い主は何をしているんだ!と、文句も言いたくなる。犬嫌いの人ならば耐えられないだろうと思ったりする。
そこで、犬の鳴き声がどのくらいうるさいのか、うちの犬に吠えさせて測定してみた。犬から1mの音圧レベルと、犬を掃き出し窓から1mのところに座らせて、その窓から1m離れた屋外で測定した音圧レベルを右図に示す。掃き出し窓は引き違いの普通サッシで、ガラスはペアガラス(6mm+空気層6mm+6mm)である。右図のように、犬の鳴き声は1,000Hzが卓越しており、1mでは108dB、屋外では80dBで、レベル差は約30dBである。掃き出し窓の遮音性能は、ハンドブックのペアガラスの音響透過損失値に少し劣る程度である。聴感的には1mでは非常にうるさい。屋外でもうるさい!! それでは10m程度離れた家では、どのくらいになるのか? 距離減衰は20dB程度、受音側の窓の遮音性能を30dB程度と見込めば、隣家の中では聞こえはするものの、それほどにはうるさくはない、という程度までには減衰すると考えられる。
ガラスには、高音域で遮音性能が低下する性質がある。その低下する周波数は、ガラスの厚さなどに関係しており、遮音増加を意図して2重サッシにしても、効果がみられないこともあるので、注意が必要である。ペアガラスは断熱には効果的であるが防音には効果はなく、むしろ高音域に対しては不利になる場合もある。
散歩の途中で糞の始末をしない人、激しく鳴いても全く頓着しない人などを見る度に、このような人たちによって、すべての犬が悪者になっているのかなぁ・・・と悲しくなる。犬が悪いのではないと思う。うちの犬はそれほど利口ではないが、小さい頃に教えたことはしっかり覚えている。キチンと躾けることで、私たちも幸せに生活できると思うのだが・・・。人間もそうだが、躾は難しい・・・??
家に帰ると、玄関まで飛び出てきて甘えてくれる。一瞬で疲れも吹き飛ぶ。犬は可愛い!!(福地智子記)