川越聖書教会 新会堂の完成
埼玉県川越市にある川越聖書教会で、3月14日に新会堂の献堂式が行われた。川越聖書教会は、1962年に「川越聖書センター」として創設されたプロテスタント教会であり、1968年に川越聖書教会と名称が変更され現在に至っている。旧会堂は1985年に献堂され、その後30年間、教会員の方々に愛され大切に使われてきたが、教会員が増えたこともあり新会堂の計画が進められた。そして待望の新会堂が、計画からおよそ10年の歳月を経て、昨年12月に無事完成した。設計はペリカン建築設計スタジオ、施工は北野建設株式会社である。
新会堂は、旧会堂から向かいの道路を渡った至近の場所に建てられた2階建ての建物で、1階には事務室やホールなどの諸室、そして2階に礼拝堂が配置された。礼拝堂は座席数234席で、聖壇に向かって右側には、旧礼拝堂に設置されていたドイツ・ケーベル社の6ストップのパイプオルガンが移設された。全体的に白を基調とした内装面に対して、壁の高い位置に設けられた窓から差し込む日の光が、時間によって様々な表情を見せている。
新しい礼拝堂の響きについては、プロテスタント教会としてお説教がしっかりと聞きとれる上で、パイプオルガンや聖歌隊の合唱、楽器演奏のため、響きとしてはやや長めの空間となるよう計画した。礼拝堂の基本形状は、幅:約12m、奥行き:約17m、天井高:約5.5mで、天井高は旧礼拝堂より1〜2mほど高くなった。聖壇側の壁は外観からもその形が分かるように、一見すると礼拝堂内部に対して凹面の形状に見えるが、凹面の部分を極力少なくするような直線の組み合わせで構成し、音の集中が起こらないような形状とした。天井は基本的に床と平行であるが、楽器演奏の際の音源位置となり得る聖壇側の天井については、フラッターエコーが生じないよう若干の曲率をつけた凸面としている。礼拝堂の内装仕上げは、後壁側にグラスウール、天井の周囲に岩綿吸音板を配置した以外は基本的に反射性の材料とし、吸音面積としては必要最小限とした。完成した礼拝堂の残響時間は、椅子を設置した状態の空席時で約2秒(500Hz、椅子設置前の測定値からの推定値)で、人が座ると響きはさらに短くなるが、意図したとおりやや長めの響きの空間が得られている。拡声設備については、天井にシーリングスピーカを分散配置し、出力系のデジタルプロセッサによりスピーカの音質の調整を行うことで、長めの響きの中でもしっかりとした明瞭度をもった拡声音が得られている。
3月14日に行われた新会堂の献堂式では、工事関係者が招待され、祈りとともに新会堂の建築経過が報告された。来賓として初代の宣教師のご子息が遠くアメリカから出席され、お祝いの言葉とともに、生まれ育った川越の思い出などを話されるなど、終始和やかな雰囲気に包まれていた。聖歌隊による合唱、パイプオルガンの演奏に加えて、ピアノとヴァイオリンの二重奏の演奏も幸いにして聴くことができ、礼拝堂の響きを生かしたとても美しい演奏を楽しめた。教会の方からも、礼拝堂の響きについて好意的なお言葉をいただくことができた。
4月から6月にかけて、春のコンサートと題してパイプオルガン、マリンバとヴァイオリン、弦楽四重奏の3つのコンサートが予定されている。小規模なコンサートができる場所として、そして教会員の方に末永く愛される教会であって欲しい。 (酒巻文彰記)
東京経済大学 大倉喜八郎 進一層館 Forward Hall
東京経済大学の旧図書館が、創立者の大倉喜八郎氏の名を冠した、「大倉喜八郎 進一層館 Forward Hall」(325席)としてリニューアルされた。旧図書館の設計は鬼頭梓氏によるもので、第20回日本建築学会賞受賞作品(1968年竣工)である。ホールの名前になっている「進一層」とは、大倉喜八郎氏が唱えた、建学の精神の一つで、いまで言うチャレンジ精神を意味するそうだ。
東京経済大学国分寺キャンパスは、東京都国分寺市の緑豊かな武蔵野台地にある。キャンパスの中に国分寺崖線が通っており、旧図書館の建物はちょうど崖線のところに、段差になっている地形を生かして建てられている。エントランス側からは1層の平屋建てに見えるが、反対側からは3階建ての建物で、崖線側の窓からは武蔵野の緑が美しい。東京経済大学では2013年に新しい図書館(設計:佐藤総合計画)が竣工したため、旧図書館は建築を残して別用途に転換されることになった。旧図書館の改修設計も新図書館と同じく佐藤総合計画によるもので、永田音響設計は音響面での協力を行った。
ホールは、エントランス階の四周にガラスが使われた図書館閲覧室だった空間を区画して設けられた。主たる用途は式典や講演会である。リニューアルに際しても、ホールからきれいな緑が望めるように、ホールはガラスで区画することになった。遮音面では、外部との間にすでにあるガラスに加えて、空間を挟んでもう一層ガラスを設け、2重のガラスによりコンクリート1層程度の遮音性能を確保した。また、建物内部のホールとロビースペース間の遮音については、ホールで静けさが必要とされる催しを行う場合には、ロビーまでを含めて人の出入りをコントロールするなど、運用上の配慮を前提にガラス1層(開口部は召し合わせ付防音扉1枚)で計画を進めた。ロビー空間は床にカーペット、天井に岩綿吸音板を用いて吸音性にし、ガラスも1層ではあるものの防音合わせガラス12+12tを使用したことで、扉近傍を別にすれば、ロビーでの軽いおしゃべり程度は、ホール内部で支障にならない遮音性能が確保できている。
ホールの音響については、拡声が主となる用途にあわせ、短めで自然な響きを目指した。基本的に室に必要な吸音力は、天井高が4mと低く容積も大きくないため、床のカーペットと固定の劇場椅子で足りる状況であった。しかし後壁側ガラス面からの反射音がロングパスエコーとなったり、舞台背後のガラス面からの反射音がマイクに入力することにより拡声音の明瞭性が低下することが懸念された。そこで、催しものによっては遮光も必要なため、吸音性能も合わせ持たせた遮光幕をガラス前面に引くことができるように用意した。かつ、遮光の必要がない時には、できるだけ幕を引かずにホールが使えるように、いくつかの対策を行った。まず、スピーカは舞台周辺から客席へ向けて配置するのではなく、天井に分散配置とし、ガラス面に向かう音を少なくした。また、ロングパスエコー対策として、ガラス面を平面的に角度をつけた折半形状とするとともに、天井面も断面的に角度を付けた折半形状として、舞台へ戻る強い反射音を軽減させた。竣工時に行った拡声の試聴結果では、舞台から最後部客席まで約15mというコンパクトな空間でもあり、長時間の講演会などでなければ幕を使用しなくても支障はない程度となったことが、確認できた。しかし、拡声の質・明瞭度をさらに向上させるには、舞台背面のガラス前面に幕を引くことの効果は大きく、くわえて客席後壁側のガラス前面に幕を引くと、さらに拡声の明瞭度は向上した。催し物に応じて幕の使い分けをしてもらえるように、それらの結果は大学へ報告した。
新緑の季節、窓の外が目に入って講演に身が入るか?と心配してしまうぐらいであるが、気持ちの良い空間なので、活発に利用されることを期待したい。(石渡智秋記)
音響学シンポジウム“いい音を作る”
今年の日本音響学会 春季研究発表会は、弊社に近い中央大学理工学部(後楽園キャンパス)において3/16-18の3日間行われ、その前日の3/15には特別企画として標記のシンポジウムが開催された。同学会の研究対象である音の中から、可聴周波数帯域(人が聞くことができる周波数帯域20?20,000Hz)の音について、「いい音を作る」をテーマとする様々な研究分野の専門家による8件の講演が行われた。シンポジウム参加はオープンで、会員ばかりでなく広く音響学に興味を持つ方々の参加があり、最初の講演が終わったところで会場をより収容人数の多い階段教室に変更せざるを得ないほど盛況であった。
講演者の研究分野は、音声認識、音声合成、聴覚、電気音響、音楽音響、音楽情報処理、室内音響、騒音制御と多岐にわたっており、我々の業務と関連の深い最後の2分野以外の講演はほぼ初めて接する内容であった。各講演から、いずれの分野も、音そのものや音がもたらすものの機械的・平均的な評価から、音を聴いたとき感じる様々な印象の評価(音のテイスティング)に向っているという共通性を感じた。以下、各講演の概要を記す。敬称・所属略、筆者の理解不足や消化不良はご容赦いただきたい。
中川聖一:《音声認識にとっての悪い音声の克服》
人にとっては自然でも、機械で認識する場合には厄介な様々な変動(平均からのズレ)をいかに克服してきたかを振り返る。
山岸順一:《音声合成で良い音を作る!》
音声合成の場合の“いい音”とは明瞭性の追求が第一で、“自然さ”の追求はこれからである。音声合成のコンペティションが毎年開催されている。
柏野牧夫:《聴覚と身体の潜在的結合》
音に対する情動(喜怒哀楽)が意思とは別に潜在的(無意識的)に体の変化として現れることがある。モーションセンサーを使って抽出されたピッチャーの投球動作データから合成された音の反復聴取で、プロ選手の投球動作に近づくことができる。
小野順貴:《マイクロホンアレイ信号処理の非同期分散録音への展開》
様々な音源から到来する音が混じり合っている現実の中で、多数のマイクロホンを使って特定の音源からの音の性質を知る技術を紹介する。
山田真司:《「いい音」から「いい音楽」へ》
音色を説明する因子抽出で用いられたSD法(対立する形容詞を両端に置いた物差し上に評定者の印象を答えてもらい因子分析する方法)が、音楽から受けるイメージを説明する分析ができるか?“萌え声”やポピュラー音楽の印象を説明する因子の抽出を行う。
片寄晴弘:《音楽の生成と理解 + Rencon の概要紹介》
音楽に含まれる特徴(個性)の抽出から曲のイメージを設定して機械的に作曲を行うシステムを作る。
尾本 章:《いい音・いい響きの工学的な再生と芸術的な創造》
良い響きの特徴抽出から音場再生システムを構築する。本物を忠実に再現することから、本物とのズレを認めつつ結果として良い音場を創る(創臨場感)ことが、新しい芸術表現のためのツールとなり得る。
戸井武司:《製品のサウンドデザインによる機能的な環境の創造》
“モグラたたき”のように大きな騒音から抑えてゆくこれまでの低騒音化から、聞いたときにバランスのとれた音に整えるという考え方と実践を紹介する(快音設計・サウンドデザイン)。
さて、弊社WEBのトップページでは、我々が目指す音環境を“静けさ・よい音・よい響き”の3つのキーワードで表している。この場合の“よい音”は、明瞭で心地よい拡声音の意味で用いている。前記のように今回のシンポジウムは途中で会場変更が行われた。講演は明瞭に聞き取れたが、新たな会場の準備不足からか拡声音量がやや過大で、また文節の終わりに残る響きが耳につき、必ずしも心地よいものではなかった。“いい音を作る”話を“よい音”で聞けなかったのが少し残念であった。(小口恵司記)