新生フェスティバルホール −新たな門出−
2008年末から建て替えのために一時閉館していたフェスティバルホールが、約4年ぶりに、新しくなって大阪、中之島に戻ってきた。4月3日に開業式典が催され、そして4月10日、ヴェネツィアの至宝といわれるフェニーチェ歌劇場によるチョン・ミョンフン指揮のガラコンサートで新生フェスティバルホールの幕が開けられた。旧フェスティバルホールで50回を数えた「大阪国際フェスティバル」は、ガラコンサートに続いて行われたフェニーチェ歌劇場によるオペラ「オテロ」や特別コンサート、ロリン・マゼール指揮・ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団、大植英次指揮・大阪フィルハーモニー管弦楽団などによるコンサートで、第51回として引き継がれ、新たなフェスティバルホールの歴史が始まった。
旧フェスティバルホールは、客席数2,700席、閉館するまでの50年間に約4,000万人が来場し、クラシックの他にポップス、ジャズ、ミュージカル、邦楽などの様々なジャンルの催し物が行われてきた国内有数のホールである。舞台間口30mと幅の広い舞台と客席が特徴で、「天井から音が降ってくる」と評された音響は多くの演奏家やミュージシャンから賞賛され、お客様からも愛されたホールであった。新しいフェスティバルホールは、できる限り旧フェスティバルホールの特徴を継承しながら、客席の快適性の向上はもとより、舞台設備などの機能面では最新の技術を導入するなど、「継承と進化」をコンセプトとして計画された。設計は日建設計、施工は竹中工務店で、永田音響設計は設計から竣工時の音響測定までの音響設計を担当した。
ホールの室形状
旧ホールでは、客席からの舞台の見え方がとても近く感じるというのが大きな特徴だった。新ホールでは客席椅子の幅や前後間隔などが広くなったこともあり、同じ客席数を確保するためにはホールの幅や奥行が大きくなってしまう。そこで、旧ホールの見え方を継承するために1段だったバルコニーが2段になった。また、そのバルコニー席も1階客席を囲むように側方が前方に大きく張り出し、さらに側壁上部にはバルコニーボックス席と呼ばれる2席の小さなバルコニーがそれぞれ9つずつ配置され、客席と舞台がより親密に寄り添う感じになっている。
旧ホールではクラシックコンサートも多く演奏されていたが、舞台反射板を設置した状態での響きは、設置された反射板の隙間が大きかったりで、それほど長くはなかった。しかし、クリアーで解像度の良い響きが、クラシックファンにも好評だった。新ホールでは、明瞭さと響きの豊かさの両立を目標に音響設計を行った。具体的には、舞台反射板設置時の舞台間口を25mと以前より5m狭くし、2、3階席は旧ホールのイメージに近い後方に向かって広がる形状としたが、1階席は中央部の音響条件の改善を意図して側壁を平行とし、折れ壁を設けた。天井の形状は旧ホールの曲面形状を残しつつ、客席に満遍なく反射音が到達するような形状とした。なお、旧ホールで象徴的だった天井の木リブは、新ホールにも寸法やピッチは異なるがイメージの継承と拡散の目的で再現されている。このように、室形状の検討を十分に行い、多くの客席では有効な反射音が得られるようになったが、それでも舞台中央部や1階席中央部では音響的に有効な反射音が到達しにくかったことから、舞台反射板および客席側壁に拡散体を設置することとした。拡散体は旧ホールにもあり、新ホールの拡散体のイメージはそれを継承しているが、音響的には拡散体の下面からの反射音を積極的に客席に返すように意図したため、形状は全く異なっている。拡散体の大きさや形状については、設計段階に意匠的、音響的に入念に検討を繰り返し、その結果として、正面の寸法は約1m角だが、奥行寸法や角度が異なる10種類の拡散体を合計811個設置した。竣工後に行った大阪フィルハーモニー交響楽団による試奏やオープニング後のコンサートにおいて、演奏者からは他のパートの演奏音が良く聞こえる、演奏しやすいという評価を、また客席では、客席間のバラツキが少なく、響きが豊かで音量も大きく、各楽器の音がクリアーに聞こえると言う評価をいただいており、拡散体の効果を実感している。
一方、ポップスコンサートは旧ホールを心から愛されていた さだまさしさん によるコンサートが幕開けとなった。残念ながら聴くことができなかったのだが、ホールの方からとても気に入って下さったという話しを伺い、ホッと胸をなで下ろした次第である。
遮音計画
建物前面の四つ橋筋の地下には地下鉄四つ橋線が走行している。設計段階の初期に行った旧ホールの音響調査の結果から、新ホールにおける走行音(固体音)はNC-25~30と予想された。また、ホールの周辺には店舗や事務所などが配置されており、ポップスコンサートのように大音量を発生するような催し物の演奏音などの伝搬音防止も考慮する必要があったため、防振ゴムによる防振遮音構造を採用した。2,700席の大きな客席空間と床面積約1,600m²、スノコまでの高さ30mの巨大な舞台空間の全ての防振遮音工事は、とにかく面倒で大変だった。とくに客席の2段のバルコニーや側壁上部のバルコニーボックス席、舞台側壁の可変パネルなどについては、施工方法や防振ゴムの選定に多くの時間を費やして検討を行った。竣工後に行った音響測定において、地下鉄走行音はNC-15未満、隣接室との遮音は実際に音楽をホールで発生して受音室で聞き、問題のないことを確認している。
新しいフェスティバルホールは37階建ての中之島フェスティバルタワーの低層部分に配置されている。中之島フェスティバルタワーの外観も、丸みを帯びたデザインや低層部の煉瓦積みなど、以前の建物のイメージを継承している。さらに、旧フェスティバルホール外壁に掲げられていた「牧神、音楽を楽しむ図」も一回り大きくなって以前とほぼ同じ位置に復元されている。四つ橋筋側の入口を一歩入ると、以前と同じ、赤い絨毯が敷かれた大階段が迎えてくれる。ホールの客席椅子や床のカーペットなどの赤色は、旧フェスティバルホールの基調となる色で、新しいフェスティバルホールにも受け継がれている。旧フェスティバルホールを良く知っている方々にとっては、そのイメージを彷彿とさせるものが新ホールのあちらこちらで感じられるはずである。また、多くの演奏者の方々が、新ホールに旧ホールの気を感じられる・・とおっしゃって下さるとのこと。大阪国際フェスティバル後には、前述のさだまさしの他に、山下達郎、中島みゆきなどのコンサートや、狂言、能、バレエ、ミュージカルなど多彩な演目が目白押しである。新しいフェスティバルホールが、旧ホールに負けない位に多くの方々に愛されることを願ってやまない。(福地智子記)
フェスティバルホール: http://www.festivalhall.jp
<生涯学習のまち>美浜町に「なびあす」オープン
「美浜」という名がつけられた自治体や地名は全国に幾つかあるが、今回ご紹介するのは福井県美浜町に新たに完成した施設である。この美浜町は原子力発電所があることで知られているが、若狭湾に面し三方五湖をはじめとする美しい自然に恵まれた町である。
昨年11月、この町に生涯学習センター「なびあす」がオープンした。美浜町は平成16年に町制50周年にあたって「生涯学習のまち」を宣言している。この生涯学習センターは既存の中央公民館の老朽化や町立図書館のスペース不足解消のために計画されたもので、図書館機能と文化ホールを持つ公民館機能が一体となった施設である。愛称の「なびあす」は全国から公募で選ばれたもので、学びの“なび”と私たち(us)の“あす”を組み合わせた造語だという。「私たちの生涯学習センターとして愛される施設となるように」という思いが込められている。
施設概要
本施設は建物の南東側に図書館エリア、北側および西側に公民館エリアが配置されている。メインエントランスを入ると、施設を東西に貫く<学びのストリート>が各エリアへと導いてくれる。公民館エリアには、約500席収容の<文化ホール>、リハーサル、展示会場や会議室として使える平土間の<コミュニティルーム>、ドラム、ギターアンプや録音設備が完備された<音楽スタジオ>のほか、料理、陶芸や絵画などを楽しめる<趣味の部屋>、<和室>などがある。
施設の遮音計画
このプロジェクトでは、建物内にコンパクトに配置された文化ホールをはじめとする公民館エリアの各室や図書館の各室間の遮音性能を確保することが課題となった。そのため、建物中央に設けられた<アートガーデン>と呼ばれる外部空間の西側に文化ホールやコミュニティルーム、東側に図書館や音楽スタジオを配置することで、文化ホールと図書館や音楽スタジオとの間に緩衝ゾーンを設け、離隔をはかった。また、文化ホールとコミュニティルームは学びのストリートを介して隣接しているため、コミュニティルームにグラスウール浮き床の防振遮音構造を採用した。大音量を想定した音楽スタジオについては防振ゴム浮き床の防振遮音構造を採用した。
文化ホールの室内音響計画
文化ホールは音響反射板を備えたプロセニアム形式の多目的ホールである。海に面した町らしく魚の群れや鱗がイメージされた意匠で、舞台から客席まで連続した木製パネルが壁や天井を覆っている。これらのパネルを舞台・客席に豊富に反射音を与える角度に設定すると共に、後壁など舞台へのエコー障害が懸念される箇所のパネルについては有孔板を用いた吸音仕様とした。
文化ホール内観
昨年11月の文化ホールのこけら落としでは、美浜町出身で名誉町民の五木ひろしさんによるスペシャルライブが行われた。数々のヒット曲が熱唱されると共に、文化ホールに新しく購入されたイタリア・ファツィオリ社製のコンサートピアノでの弾き語りも披露されたという。「なびあす」では、町の皆さんにこのピアノの素晴らしい音の響きを体感していただこうと、定期的に“ピアノふれあいデー”を設けている。開館後、文化ホールではウィンドオーケストラ、ピアノ、室内楽、三味線や歌舞伎など様々な催し物が行われている。また、町民が講座や講演会を企画・運営し、町の教育委員会が後援、費用を助成する事業「町民企画型講座」のシステムが設けられ、今年2月にはコミュニティルームで三線など沖縄音楽のコンサートも開催されたそうだ。「生涯学習のまち」で今後、この新しい施設がどのように活用されていくのか、楽しみである。(箱崎文子記)
美浜町生涯学習センターなびあす: http://www.town.mihama.fukui.jp/www/section/detail.jsp?id=1770
オルガンコンサート「オルガンエンターテインメント6」ご案内
オルガニスト山口綾規氏によるオルガンコンサート「オルガンエンターテインメント6」を、横浜みなとみらいホール 大ホールを会場に7月31日(水)に開催いたします。チラシは、ご覧の通り、みなとみらい地区で毎夏、開催される花火とオルガンの競演です。曲目は、その花火に負けない華やかな名曲を取り揃えました。オルガニストの足や手の動きを見たい方には必見、オルガン回りにセットされたカメラによる映像をスクリーンでご覧いただけます。また、多くの方々から好評を得ている、オルガン伴奏による無声映画も上映いたします。
副都心線と東急東横線、横浜高速みなとみらい線の相互直通によって、池袋方面からも便利になりました。真夏の夜、横浜で至福の時を過ごしませんか?(福地智子記)
日時 : 7 月31日(水) 19:15 開演 (18:30 開場)
場所 : 横浜みなとみらいホール 大ホール
チケット(全席指定) : 一般 2,500 円、学生・65歳以上 1,500 円
チケットセンター : 045-682-2000