No.297

News 12-09(通巻297号)

News

2012年09月25日発行
ヴァイオリン博物館外観

クレモナのヴァイオリン博物館・室内楽ホールが完成! !

 イタリア北部を流れるポー川のほとりに位置するクレモナは、ミラノから東南方向に車で1時間ほどのところにある小さな街で、ヴァイオリン作りの中心地として世界的に有名である。今日、我々が知っている現代のヴァイオリンは、元々はバロック・ヴァイオリンがここクレモナのヴァイオリン製作者であったアンドレア・アマティ(Andrea Amati)によって1500年代の中頃に改良されたものと考えられている。その後、アマティの子供や孫達、弟子達によって引き継がれて行ったヴァイオリン作りの技は、それからおよそ200年後にアントニオ・ストラディヴァリ(Antonio Stradivari)とジュゼッペ・ガルネリ(Guiseppe Guarneri)によって頂点の域にまで引き上げられた。クレモナには今も100以上のヴァイオリン工房があり、そしてヴァイオリン製作者を養成する専門学校がある。数々の貴重な楽器のコレクションを擁し、また、三年に一度のヴァイオリン製作コンクールも開催されている。クレモナは今でもヴァイオリン作りのメッカなのである。 

 地元クレモナの実業家ジョヴァンニ・アルヴェディ(Giovanni Arvedi)氏がストラディヴァリウス財団とその歴史的な楽器コレクションのためのヴァイオリン博物館を新設してクレモナ市に寄贈することになり、その博物館には475席の室内楽ホールが併設されて歴史的な楽器の演奏やヴァイオリン製作のコンクールにも使われることになった。 

既存建築物を改修して新ヴァイオリン博物館に

 新ヴァイオリン博物館の元々の建物は、1930年代にイタリアの合理主義アーキテクトのカルロ・コッチャ(Carlo Coccia)によって設計され、1940年代に建設されたものである。小さなクレモナの街なかで最も大きな広場の一つであるマルコニ広場(Piazza Marconi)に面する大型の(床面積:6500u)、そしてその外観全体が素焼きのレンガで積み上げられた建物は、それだけですでに十分に存在感のある建物であった。 

ヴァイオリン博物館外観
ヴァイオリン博物館外観

 広場に面する二つの大きな矩形の建物に挟まれた小さな広場が博物館の入口となり、その奥の建物が新しい室内楽ホールとして計画された。このホール用の建物は、元々は地元の女学校の体育館として使われていたものである。ヴァイオリン博物館全体の建築設計を地元クレモナに事務所を構えるArkPaBiが担当し、室内楽ホール部分の音響設計を永田音響設計が担当した。

室内楽ホールの音響設計  

 元々の体育館としての空間は36m(L)x14m(W) x10m(H)という直方体で、音響的には天井の低さがネックとなるものの、いわゆるシューボックス型のコンサートホールにそのまま適用できそうな空間であった。音響的に必要な天井高を確保するための様々な方策を検討した結果、最終的にコンクリート床を約4m掘り下げることによって約14m(ステージ床面より)の天井高を確保した。ホールにおける演目はソロ楽器と室内楽に限定されたことから、ステージの広さは約85uと比較的小型なものとなった。これにより、ステージと客席のレイアウトに関してより自由度が増したことから、475席の客席に対してステージを室の中央近くに配置したアリーナ型の客席レイアウトを採用することにした。 

 ホールの天井や壁面の多くは、既存のスペースにおける元々の建築デザインによって大きくは決定されていたため、建築と音響の設計の多くの時間をこの客席のレイアウトの検討に費やした。結果として、ステージとあらゆる客席の距離が、物理的にも心理的にもより一層近くなり、また向かい合った客席どうしもお互いの顔が見えることにより、より親密感の増したレイアウトとなった。ステージと客席、あるいは客席どうしの親密感を確保する工夫は、両者のレイアウトを平面的に検討するだけでなく、立体的な検討についても行っている。すなわち、ステージをホールの最下部に設置し、客席をいくつかのブロックに分割した客席群として立体的に配置することにより、客席空間を三次元的により親密なものとしている。また、これら客席群を立体的に配置することによって生じる客席周りの壁面の角度を適切に設計することによって、これらを音響的に有効な反射面として利用している。なお、ステージ背後の客席は、必要に応じてコーラス席として利用される。 

室内楽ホールに供された元の空間
室内楽ホールに供された元の空間
工事途中の室内楽ホール
工事途中の室内楽ホール

ホールの音響特性と演奏の試聴

 ホール内の工事が完成に近づいた段階において、ホールの音響特性として残響時間を測定した。結果は、空席時において約1.5秒(中音域/500Hz)で、周波数特性もほぼ平坦な良好な特性であった。 

 音響の測定と同時に、様々な楽器、アンサンブルの試演、試聴も合わせて行った。ソロ楽器としてヴァイオリン、チェロ、ピアノ、男声、女声、アンサンブルとして弦楽四重奏、木管八重奏、合唱(小編成〜中編成)などである。奏者達にはステージでリハーサル演奏するとともに空席の客席にて聴衆としてもお互いに聞き合ってもらった。その結果、音響に関してはステージ上からも客席からも非常にポジティブな印象が返ってきた。新ホールの音響の印象をとりまとめると、いずれの楽器、アンサンブルもホール空間において非常に豊かに鳴り響くと同時に、細かい動きまで明瞭に聞き取れる。また、ステージ上での自分の音、他奏者の音、いずれも良く聞こえ、アンサンブルがし易い、とのことであった。今後、ヴァイオリン博物館としての他のスペースの工事完成をみた後、2013年の3月の竣工、オープンが予定されている。ホールの方ではそれまでもさらに色々な奏者によるリハーサルを含めた調整が行われる予定である。(Daniel Beckmann記) 

室内楽ホール内観
室内楽ホール内観

台中メトロポリタンオペラハウスプロジェクト いよいよ地上へ!

 2009年末に本ニュース268号(2010年4月)で着工を報告した台中メトロポリタンオペラハウス(設計:伊東豊雄建築設計事務所)。着工から約2年半が経過し、この8月に打ち合わせのために現場を訪れた。 

 このプロジェクトは2,000席のオペラを主目的としたグランドシアター、800席の演劇主目的のプレイハウス、200席規模の実験劇場等からなる文化施設である。建物はカテノイドと呼ばれる壁にも床にもなる3次元曲面と、そのカテノイドによって創られる空間を分割するプラグと呼ばれる平面で構成される。 

 オペラハウスの建設が進む台中は、台北から南へJR東日本の新幹線にそっくりな台湾新幹線で1時間弱。現場は、商店が建ち並ぶ古い街並みの台鉄台中駅から海に向かってタクシーで約10分の場所にある。この周辺は区画割りが大きく、台中市政府や大型デパート、大きな公園、高層マンションが並ぶ。

 現場の進捗状況だが、2つの劇場(グランドシアターとプレイハウス)のフライタワーの鉄骨はすでに姿を現し、カテノイドもいよいよ2階付近まで立ち上がってきた。

 カテノイドはトラスウォール工法と呼ばれる”垂直方向に2次元トラスを構成する鉄筋を並べ、それらを横に繋ぐ。そして、その両面にいわゆる型枠代わりになる網を貼って、コンクリートを流す。”方法で造られている。現場打ちのコンクリートである。このカテノイドの複雑な配筋は、いったん工場で組まれた後、ユニットにカットされて現場に運び込まれ、現場で再び接続される。現場の仮置スペースには、接続を待つ配筋が所狭しと並べられていた。

全体模型(コンペ案)(写真提供:伊東豊雄建築設計事務所)
全体模型(コンペ案)
(写真提供:伊東豊雄建築設計事務所)
カテノイドの施工(写真下部)
カテノイドの施工(写真下部)
カテノイド用配筋の準備と周辺風景
カテノイド用配筋の準備と周辺風景

 工事は地元台湾の施工者(麗明営造)によって進められており、今回は音響に係わる工事の注意事項の説明や音響上のディテールについての打ち合わせ、施工状況の確認を行った。 

今後、練習室や実験劇場の防振遮音構造の工事も始まる。詰めなければならない点はまだまだあるが、着実に工事は進んでいる。(石渡智秋記)

牛久エスカードホール リニューアルオープン

 JR 常磐線牛久駅前に新たに音楽小ホールが誕生した。駅前のエスカード牛久ビル4 階にある生涯学習センターがリニューアルされ、253 席のエスカードホールと多目的に利用できるエスカードスタジオが完成し、8 月5 日にオープニングの式典と記念イベントが開催された。 

 エスカード牛久ビルは1987年に西口再開発事業で建設された4階建てのビルで、食料品や衣料品店、本屋、医療機関、銀行などが含まれた複合ビルである。以前の生涯学習センターには平土間の200名程度が着席できるホール、図書室、講座室などが設けられていた。ホールは小さな舞台がついているものの音響反射板はなく、コンサートなどの催し物には多少使いにくかった。一方、牛久市では、以前から中規模ホールの建設が多くの市民から要望されていたが、諸事情から実現できない状況だった。このような中、市民が利用しやすい駅前という最適な立地条件にある生涯学習センターをリニューアルして、コンサートなどがきちんとできるホールへと改修することとなった。設計は環境デザイン、工事は常磐建設である。 

 複合ビルということで、ホールの隣は耳鼻咽喉科、階下は本屋、スタジオの直下は銀行と、多様な用途の施設に隣接している。また、既存の空調機械室は屋上に配置されており、直上ではないもののホールに近い。そこで、改修設計を開始する前に、既存施設の遮音性能や空調設備騒音の測定を行い、遮音構造や空調騒音の防止の検討を進めた。また、音楽ホールとしては高い天井高さが必要であるが、階高が5.5m位しかないためにいろいろな工夫をしてもホールの天井高さは最大5m程度しか取れない状況だった。ホール設置階が最上階のため、スラブを壊して高い天井高さを確保しようというような冗談めいたことも一時期は検討されたが難しかったため、とにかく可能な最大高さを確保し、さらに音響的に好ましい天井形状を計画することで、音楽に指向した響きの確保に努めた。

改修工事前のホール
改修工事前のホール
改修工事後のエスカードホール
改修工事後のエスカードホール

 エスカードホールは、拡散効果を意図したレンガタイルによるシックな雰囲気のホールに生まれ変わった。舞台には開閉式の音響反射板が設置され、開閉することでコンサートや舞踊などの催し物が可能である。さらに楽屋も舞台裏に配置されて、機能面でも充実した。新しく完成したエスカードスタジオには、階下の銀行への遮音を考慮して防振遮音構造を採用した。ダンスや音楽の利用が可能になり、市民の利用の範囲が広がった。

 オープニングでのイベントで、参加された方々のお話しを伺ったり表情を見ていると、このような場所を皆さんが待ち望んでいらしたことを痛感した。これからも活動の拠点として大いに利用していただけることを期待している。(福地智子記) 

牛久エスカードホール : http://www.city.ushiku.ibaraki.jp/section/chuuou/sisetu/escard/escard%20info.html.