No.273

News 10-09(通巻273号)

News

2010年09月25日発行
施設外観

下関市に「DREAM SHIP」オープン

施設概要

 本州最西端の都市、山口県下関市に今年3月「DREAM SHIP」がオープンした。関門海峡を進む客船をモチーフとした「DREAM SHIP」は、”下関市生涯学習プラザ”と”下関市立中央図書館”からなる複合施設で市民文化の新しい交流拠点として計画された。

施設外観
施設外観

 生涯学習プラザは、大・小ホールをはじめ、音楽室、大・小練習室、学習室、工作工芸室、和室などから構成されている。本施設は、PFI(Private Finance Initiative)方式により建設され、設計・監理は大建設計、ペリクラークペリアーキテクツジャパン、施工は真柄建設である。

施設配置平面1階、2階
施設配置平面1階、2階
施設配置断面
施設配置断面

遮音計画

 本施設には限られたスペースの中に多くの用途の異なる室が各階にわたって配置されている。このため、各室の配置、使用条件より、コストやスペース効率も考慮に入れながら、遮音グレードを設定した。大ホールの周りに配置された小ホールと音楽室については、小ホールおよび音楽室1・2側を防振遮音構造とした。また、大ホールに隣接する図書館との間の隔壁にはRC壁に加えて石膏ボード21mm厚×4層の遮音壁を設置し、遮音性能の向上を目指した。大・小練習室については、周辺諸室および練習室間の遮音性能の確保のため、それぞれの室に防振遮音構造を採用した。工作などの衝撃を伴う作業が想定される工作工芸室にはグラスウール浮床を設けた。遮音性能は、大・小ホール間でD-75以上、音楽室1→大ホールでD-85以上、図書室→大ホールでD-70の遮音性能が得られている。

室内音響計画

深海や波をイメージしてデザインされた大ホール(海のホール)はワンスロープの客席をもつ客席数805席の音楽主目的の多目的ホールである。平面形状はシューボックス型を基本とし、上部に行く程客席幅が狭くなる断面形状が特徴である。舞台反射板を設置したクラシックコンサートの際に、舞台と客席空間が音響的に一体となるようプロセニアム開口の高さは舞台面から12mとした。上部に行く程客席幅が階段状に狭くなっているため、側壁とその下がり天井を経由する2次反射音が客席に豊富に届く断面形状となっていた。しかしながら、反射音が客席中央部に集中する傾向が見られたため、壁は外倒しとし、更に拡散形状とすることを提案した。最終的には、意匠と音響両方の条件から側壁に外倒しさせた面を持ち、大きさの異なる拡散体をいくつかのピッチで配置したデザインとなった。内装仕上げは、クラシックコンサートの際の低音の豊かな響きを目指し、舞台反射板、客席側壁、天井はいずれもボード多層貼りとし十分な重量を確保した。また、側壁および後壁の拡散体の間には吸音カーテンを設置し、利用者の好みによって多少の響きを調整できるようにした。

木立の間を抜ける風をイメージした小ホール(風のホール)はワンボックスの客席数204席の音楽ホールである。舞台、客席とも、壁には凸面の拡散形状を配置し、その拡散形状の間には吸音(有孔板+GW)を設けた。また、側壁上部の凹曲面は、音の集中が起こらないように段を付けることで曲率を変えた。

大ホール(海のホール)
大ホール(海のホール)
小ホール(風のホール)
小ホール(風のホール)

 大ホールの残響時間は舞台反射板設置時2.2秒−1.8秒(空席時-満席時/500Hz)であり、吸音カーテン収納時と設置時の残響時間の差は中高音域で約0.1秒である。小ホールの残響時間は1.4秒−1.2秒(空席時-満席時/500Hz)である。

開館記念コンサートを聴いて

 3/28(日)、市民待望の開館記念コンサートが中村紘子さんのピアノリサイタルで行われた。当日は満員の観客が迎えるなか、中村さんの輝かしいピアノの音がホールに響いた。音質は非常にクリアであり、設計で意図した音響効果を感じとれたような気がした。会場は大いに盛り上がり、最後はアンコールが4曲も演奏された。この図書館と複合の生涯学習施設「DREAM SHIP」が市民の活発な文化交流の場になることを願っている。(酒巻文彰記)

「DREAM SHIP」ホームページhttp://www.dream-ship.co.jp/

ザイラーピアノデュオ連弾曲連続演奏会inかやぶき音楽堂と
かやぶき音楽堂デュオコンクール

 ザイラー夫妻のピアノデュオの舞台となるかやぶき音楽堂は京都から山陰線で約1時間、胡麻駅で下車、里山風景がひろがる畑の中の道を歩いて約15分、小山に抱かれた集落の一角にある。このかやぶきの建物はザイラー夫妻が福井県の禅寺の本堂を譲り受け、移築再建したもので、120畳敷き、高さ9mの平戸間の空間の両サイドに2段の桟敷席を設け、座布団敷きで約250席の演奏会場として1989年(平成元年)に誕生した。四周は壁の一部を残して紙障子とガラス障子、天井はかや葺きの屋根がむきだし、床は畳敷き、残響を感じない典型的な’和’の空間である。それでも、反響板と響きをもつピアノだから演奏会場として通用する。ザイラー氏からの依頼で筆者が現地で提案した音響上の対策はピアノ背後のガラス戸のガラスを厚くすること、ピアノの上部空間に湾曲した反射板を吊すことであった。 

 わが国ではピアノ連弾といえば、ピアノを習い始めた頃、お稽古の時の先生の伴奏、あるいは発表会で生徒同士の演奏くらいの思い出しかない。しかし、ザイラーさんのお話によれば、ヨーロッパでは、昔から家族の連弾による演奏会は日常的に行われているとのことである。筆者はある演奏会でモーツァルトの2台のピアノのためのソナタを聴いとき、連弾でこのような楽しい曲があることを初めて知った。モーツァルトはじめ、ベートーベン、ブラームス、ドボルザーク、ラフマニノフから最近の作曲家ではサミエル・バーバーなど著名な演奏家のほとんどが、連弾曲、あるいは2台のピアノのための連弾曲を作曲している。ザイラー夫妻は、時間があれば、ヨーロッパの国々の図書館をめぐり、連弾曲の発掘を今日でも続けておられる。興味ある方はザイラー夫妻のホームページにリストが紹介されている。1989年にはじまったザイラーピアノデユオは初夏と秋の2回、数日にわたって午前と午後に行われている。筆者は今年の6月6日(日)の午後の部を聴いた。京都の旅行社の特別ツアーで観光バス2台、80名団体の参加という盛況である。 かやぶきコンサートはいまや、胡麻地区の風物詩として定着している。

閉ざされたホールでの演奏会とちがって、里山の緑と風を感じながらの音楽はひと味違った趣がある。休憩時には手作りのおにぎり、ワインなどのサービスがある。また、1998年以来、ピアノデュオコンクールが2年おきに開催され、今年は第7回目のコンクールが始まっており、7月に第一次予選を終了、第二次予選が10月9日・10日、本選が11月6日・7日に行われる。この本選の入場は自由である。ここでは、A部門 1台のピアノによる4手連弾、B部門2台のピアノデュオで、今年はシューマン、ショパンの作品を中心に、様々な連弾曲が楽しめる。興味のある方は、下記のアドレスへ。(永田 穂記)

(http://www.kayabuki.com)

軽井沢八月祭 軽井沢大賀ホール コンサートシリーズ

“めくるめくクラシック音楽旅行 
〜ショパンが愛した音楽、ショパンを愛した人々”

 ショパン、シューマンの生誕200年を記念して、大賀ホールでは8月2日(月)に’ロマンティック・シューマン’というテーマでシューマンの室内楽、歌曲を、8月25日(金)に標記のテーマでショパンの作品を中心に多彩なコンサートが開催された。筆者は25日の10:30から始まり20:30に終了した5つの演奏会を聴いた。ほぼ、全日にわたったこの演奏会は、単にショパンの主要作品の紹介にとどまらず、ショパンに影響を与えた音楽家の作品からショパンの影響をうけた音楽家の作品までという、時代の流れのなかでショパンの音楽を捉えるという企画であった。朝から夜にまで及んだこの演奏会は、Vol.1〜Vol.5の5編構成で、演奏された曲目は、ショパン、シューマン、リストの作品を中心に、旧くはラモ−、J.S.バッハ、近代ではラフマニノフ、メシアン、演奏者は3名のピアニストのほかに、バイオリン、チエロ、ソプラノがそれぞれ1名という多彩な内容であった。5編の演奏会のテーマ、出演者を表に示す。

中でも圧巻はVol.2、久元祐子氏が弾かれた’ショパンが愛した楽器、プレイエルの響き’であった。このプレイエルというピアノ、1840年製、今年、170歳現役という貴重な楽器である。弱音の美しさが絶妙であった。

 天皇、皇后両陛下がご臨席されたこのVol.2の演奏会は満席であったが、その他の演奏会は平均で50%の入り、大賀ホールはよく響いた。しかし、今年は軽井沢も暑く、演奏と演奏との間の1時間の休憩時間はロビーの椅子も限られており、高齢者には苦痛であった。この種の催し物に対しての来場者への配慮がほしかった。(永田 穂記)