白鷹町文化交流センター「AYu:M」(あゆーむ)
山形県の南中央部の町、西置賜郡白鷹町に文化交流センター「AYu:M」(あゆーむ)が昨年秋、オープンした。白鷹町は白鷹丘陵、朝日山系に囲まれ、中央に最上川が流れる自然豊かな町である。山形市、米沢市より約30〜35kmの位置、東京からは山形新幹線で「赤湯」、そこから荒砥に至る山形鉄道フラワー長井線に乗り換え、文化交流センターすぐ近くの駅「四季の郷」まで、悠々とした最上川を眺めながら出かけることができる。
文化交流センターは白鷹の「鮎」、文化交流の拡大に向けての「夢」と「歩み」に由来するという愛称「あゆーむ」に込められたように、地域の文化、芸術を通じ町内外の人々との交流の場として計画された。この施設は文化伝承発信ゾーン、ギャラリー、ホールの3つの施設とその前庭の多目的交流広場からなる。3つのゾーンが交流回廊と呼ばれる広めの廊下で繋がり、多目的広場を取り囲むように配置されている。設計・監理は本間利雄設計事務所、施工は地元建設会社の那須・丸ト特定建設共同企業体である。
文化伝承発信ゾーンは一部屋を可動間仕切りで2〜3分割できるマルチスペースで、油彩教室、工芸教室等のワークショップスペースとして、また、講演会、展覧会等の会場として使用できる。ギャラリーは2室あり、白鷹町出身の洋画家、梅津五郎作品の常設展示用と町民の創作活動の発表の場としての貸し出し用のギャラリーからなる。文化伝承発信ゾーン、ギャラリーと交流回廊を一体利用した企画展示会場としても展開できる。
ホールは平土間に、木製の可動椅子200席程度が設置できるオープンステージ形式である。四角の平面形を角使いに、一方がステージ、その後方に楽屋ゾーンが配置され、客席は後方2面がガラスの折れ引き戸で、芝生の多目的交流広場に面している。ガラス戸を開けると広場と一体となった使い方もできる明るい、開放的なホールでもある。とは言え、外部騒音の遮断も考慮した二重のガラス戸で、遮光カーテンも設置されている。音楽を主軸に考えられたこのホールは木質系の仕上げで、ステージと客席が一体感ある平面形であるばかりか、その断面形状にも特長がある。8角錐状の高い天井と中央部の凸曲面の天井により、豊かな響きを創り出している。また、後方2面に設置された吸音カーテンにより、響きの可変もできるようにした。
白鷹町では、既存の中央公民館大ホールが天井部材のアスベスト問題で使用ができなくなっており、急遽、本施設のオープン前から新ホールが様々な催し物に使用された。音楽に重きを置いたこのホールの性格は既存施設との役割を考慮したものであり、白鷹町誕生55周年記念事業として開催された昨年10月4日のオープニングでの古部賢一+鈴木大介のオーボエ+ギターのデュオコンサートをはじめ、ピアノ、室内楽演奏ではその響きがすばらしいとお褒めを頂いたが、その現状に、より多目的な利用に対しての対応も求められている。小ぢんまりとした施設ながら教育委員会のセンター担当者の熱意ときめ細かな運営はホームページからも知ることができる。そこで、この3ヶ月間の活動を振り返りみても町民の交流の場となりつつあることが伺える。(池田 覚記)
白鷹町文化交流センター:山形県西置賜郡白鷹町大字鮎貝仮換地24-1 http://ayu-m.jp
ラジオ・フランスの新コンサートホールの起工式
ラジオ・フランス(フランス公共ラジオ)の本社ビルの改修工事の起工式が、去る2009年12月16日、パリにおいて執り行われた。46年前に建設された本社ビルは “Maison Ronde”(仏語で円形ビルの意味)と呼ばれているが、改修工事は建物の内外装、計100,000u以上の広範囲に及ぶもので、全体で200近い色々な会社が関与することになっている。実際の工事はすでに昨年の6月に開始されているが、全体の工事は約80ヶ月に及び、2016年の1月竣工が予定されている。起工式では、新しい外装のガラス窓の一部がフランス文化相のミッテラン氏、ラジオ・フランスCEOのヘス氏らの手により設置された。
この改修工事に伴って同じ敷地内に新しいコンサートホールの建設が予定されていることは、本ニュース(News06-03号)でもご紹介したとおりである。新ホールは1500席規模のクラシック音楽専用コンサートホールとして計画されており、ラジオ・フランスに所属する、フランス国立管弦楽団、フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団、フランス国立放送聖歌隊合唱団(Orchestre National de France, Orchestre Philharmonique de Radio France, Choeur and Maitrise de Radio France)の4つの団体の本拠地となることが予定されている。
新ホールの建築設計は2005年より開始され、地元の設計事務所であるArchitecture Studioが担当、永田音響設計はその音響設計を担当している。基本設計に続く実施設計段階において、1:10縮尺の音響実験用模型が製作され2006年10月〜2007年2月にわたって音響テストを実施した(本News07-02号参照)。その後、設計途中段階でホール内にオルガンが新設されることが決定され、Gerhard GRENZING(バルセロナ、スペイン)がオルガン製作者として選定された。現在、オルガン設置によるホール内の設計変更の作業が進行中である。(Marc Quiquerez記)
天井高の聴き比べ…… 日本音響学会 音楽音響・建築音響研究会
日本音響学会では春と秋に行われている研究発表会の他に、月1回程度で開かれている分野ごとの研究会がある。昨年11月に建築音響研究会と音楽音響研究会が合同で「音楽と空間」をテーマとした研究会を行った。
午前中の講演発表に引き続き、午後は特別企画で東京藝術大学奏楽堂において「音楽演奏と室内音響の関係−奏楽堂ホール・可動式天井を用いて」をテーマに、実際に演奏をホールで聴く機会が設けられた。
奏楽堂については本ニュース(News98-06号)に掲載しているが、邦楽、声楽、器楽...、パイプオルガンと様々な専攻を持つ東京藝術大学が教育や発表の場として使うホールとして、響きの可変性を考慮し、舞台天井にくわえて3分割された客席天井の高さを、それぞれ動かすことが出来る造りとなっており、演奏楽器や演奏形態などによってパターン設定ができる。ざっくり言うならば、天井高の変化により演奏者や客席に届く天井からの反射音の遅れ時間が変化し、初期反射音の時間的分布が変わる。また残響時間は室容積に比例するので、天井高が変化するとすなわち容積が増減するので残響時間も変化する。天井のパターンは演奏内容によって異なるものが利用されており、竣工してから10年以上の間に試行錯誤の上、いろいろ変化を遂げてきているそうだ。
今回の企画では上図に示す4つの天井パターンで木管楽器のデュエット(オーボエ、フルート)、ヴァイオリン、声楽(テノール)、琴の短い演奏が繰り返し行われた。また、試聴会の後には演奏者の感想を聞く座談会が行われた。
あくまでも筆者の個人的な感想であり、その日の参加者数などの条件下での話であるが、それぞれのパターンでの印象の違いはあるものの、どの設定がどの楽器にふさわしいというような感想は演奏のどこに着目するかの視点によって異なり、同じ楽器でも曲によってその感想がずいぶん異なる事を感じた。演奏者からは座談会で、例えば木管楽器の奏者(プロのオーケストラの方)からは「もう少し時間があれば空間にあわせた演奏ができたのだが」という空間を意識した話を伺った一方で、琴の演奏者からは「自分の音と反射音は分けて聞きながら演奏をしている、反射音がない方が自分の音を邪魔されず弾きやすい」といった話もあった。
これだけの天井の昇降装置を持つホールはめずらしく、また何人もの演奏を一度に聴ける機会も少ないためか、参加者は125名もあったそうだ。私は、10年以上の期間でそれぞれのパターンが選ばれてきた経緯、その理由なども興味あるところだと思った。(石渡智秋記)
劇場プロデューサ・伊東正示さんを囲んで
師走に入った12月7日、伊東正示さんをお招きして劇場計画と運営に関するお話を伺うとともに懇談の機会を持った。伊東さんは、早稲田大学建築学科卒業後、大学院で劇場建築や公共建築の研究中に新国立劇場の設立準備に参加し、その後日本の劇場コンサルタント企業の草分けである株式会社シアターワークショップの設立に参画して現在代表を務めておられる。同社は劇場・ホールの施設構成、舞台機構や照明設備など劇場技術(ハード)のコンサルタントとしてスタートし、後に劇場・ホールのあり方や完成後の運営と管理に関するコンサルタントなど劇場のソフトに関する分野に業務を広げている。また、1997年には、催事の制作や劇場・ホールの企画・施設管理・運営を行う株式会社シアターサポートがグループ会社として設立された。我々も各地のプロジェクトで協働することが多い。
伊東さんは、”職能としての劇場コンサルタントの確立と一連の業績”で2008年日本建築学会賞(業績)を受賞された。ユニークなのは、中身のないハコモノと批判される公共ホールの計画・設計段階で、市民の参加を募って施設のあり方や使い方を議論する”ワークショップ”を重ねて新しいホールの方向性を纏め上げる活動である。北上市文化交流センター(本News04-03号)や茅野市民館(本News05-11号)はその代表例であり、両施設とも市民に支えられ賑わっている。
今回の勉強会では、建築学会賞受賞記念講演のために準備されたパワーポイントに沿って生い立ちからお話を伺った。伊東さんは成城学園のご卒業(成城っ子)である。同学園のカリキュラムは独特で、国語・算数・理科・社会といった一般的な教科の他に、”散歩” “遊び” “劇”といった複合的な教科も組まれている。”劇”では、生徒は実際の芝居を創る過程で自己表現の仕方を学ぶという。この芝居を創る楽しさが、伊東さんが劇場研究、そして劇場プロデュースの道に進む源流となったとのことである。
話題は会社設立、劇場ソフトのコンサルタント業務への進出、業務経歴と進んだ。その中で、劇場・ホール建設の企画に関して”なぜ劇場が必要か?”を説く機会がよくあり、それを上手く説明する材料を常々考えておられるとのことであった。お話の最後に、その一つを伺った。それは、観客として受け取る側の感動だけではなく、創り演ずる側の感動を生む”場”の提供である。プロフェッショナルの演奏や劇団を楽しむ場としてだけではなく、市民自らが創り演ずる機会と場所としてのホールという位置づけは、地域社会に根付き活発に使われる施設として重要な立脚点の一つと言える。
ハコモノではなく、賑わい・活気ある場としての劇場・ホールのプロデューサとして益々のご活躍に期待したい。(小口恵司記)