静けさ よい音 よい響き NAGATA ACOUSTICS
ニュースの書庫

News 09-02号(通巻254号)

発行:2009年2月25日

札幌希望の丘教会の竣工

会堂内部
会堂内部

 2008年10月の気持ちよい秋晴れの日に、教会員の皆さんが待ちわびていた礼拝堂献堂式がパイプオルガンの設置工事を前に行われた。献堂式では、お祈り・宣教・賛美の歌声にくわえ工事経過報告があった。まだパイプオルガンが設置されていなかったため、ピアノの伴奏による賛美であったが、礼拝堂内に歌声は心地よく響き渡った。今年で創立50周年を迎えた「札幌希望の丘教会」は、札幌ドームに近い札幌市豊平区の住宅地にある。5年前に教育館が既に建てられており、今回はそれに礼拝堂が増築された。

 仕事のきっかけは、たしか永田音響設計のホームページをご覧になった?という教会員の方からの一本の電話であった。それから当社の教会に関する実績や、教会音響に関する業務内容、音響コンサルタントとの協働に対する設計者の意向、電気音響設備の重要性、コンサルティング費用のことなど、顔を会わせないまま何度かのやりとりがメールや電話で続いた。最初の電話から1年以上も経っていただろうか、音響コンサルティングの発注に関して、最終的に新会堂建設委員会での賛同が得られたというお電話をいただき、契約する運びとなった。それからは、あっという間で、設計・施工とも約半年で建物の完成となった。

 建設委員会では、当然ながらお説教が明瞭に聞こえること、またパイプオルガン設置に伴う豊かな響きへの期待など、日々の教会の運営につながる要望が出された。設計を進めて行く上では、住宅地内であることからの高さ制限やコストの制約もあり、すべてが望み通りにいくわけではなかったが、何を選択していくかを委員会の皆さんと相談しながら、設計を担当した苫小牧の建築計画工房の佐藤氏を交えてやりとりを重ねていった。

聖壇左右に設置されたラインアレイスピーカ
聖壇左右に設置されたラインアレイスピーカ

パイプオルガン
パイプオルガン

 礼拝堂の壁・天井は、拡散を意図した大きめの凹凸形状を設けた。オルガン背後の壁は低音が吸音されることを避け、コンクリート打ち放し仕上げ、またその他の壁・天井は石膏ボード21t×2枚の重めの仕上げとした。マイクを使用する聖壇背後には一部吸音を設けている。礼拝堂の天井高は平均で約7.5m、容積は約2,300m3で収容人数は200人、オルガンバルコニーと聖歌隊席、電気音響の調整用スペースとして使用されるバルコニーがある。

 電気音響設備は豊かな響きのある空間でスピーチの明瞭さを得るために、クリアな音質が得られるコンデンサマイクとラインアレイ型スピーカを採用した。また、出力系統のデジタルプロセッサにより、きめ細かい音質調整を可能にすることで、拡声音の明瞭さは実用上、十分なものが得られている。

 献堂式後、マナ オルゲルバウ(日本)製作の13ストップのパイプオルガンの設置工事とヴォイシングが行われ、11月下旬から使われている。先日、パイプオルガン設置後の音響の最終確認に札幌へ出掛けた。空間の響きは、オルガン音楽のための長い響きというわけではないが、なめらかでパイプオルガンらしい低音も感じられた。説教の明瞭性も必要ななかでバランスのとれたものになったと考える。拡声の面では、今までより響きの長い礼拝堂での電気音響設備の運用に関して、とまどいながらも徐々に慣れてきて使いこなし始めている教会員の方との意見交換をもできた。

 礼拝堂では教会の50周年の記念行事の一貫として、室内楽のコンサートも行われた。ちょっとしたコンサートには手頃な大きさの礼拝堂は豊かな響きもあり、ピアノ、クラリネット、ヴァイオリンのトリオのコンサートは好評だったそうだ。駐車場も広く来場にも便利なことから、今後もいろいろな活動に使用したいと話されていた。4月29日のパイプオルガンコンサートをはじめ、その他にも各種催しが計画されている。

 牧師先生をはじめ「私たちは建設に対して最善を尽くしました。」とおっしゃる教会員の方々にすがすがしさを覚えるプロジェクトであった。(石渡智秋記)



ザルツブルグ祝祭劇場を見学して

 昨年1月にウィーン、ザルツブルグ、パリのオペラハウス、コンサートホールなどを見学した。その中のウィーン楽友協会の練習室、大ホールについてはNews 08-04号News 08-12号で紹介した。今回はザルツブルグ祝祭劇場。テクニカルディレクターのクレッチマー氏にいろいろとお話しを伺ったのでご紹介したい。

祝祭劇場正面(手前がモーツァルト劇場、岩盤ホール、奥が大劇場)
祝祭劇場正面
(手前がモーツァルト劇場、岩盤ホール、奥が大劇場)

玄関ホール(左手に当日券売り場、右手にクローク、正面アーチ奥の右側に岩盤ホール、左側にモーツァルト劇場)
玄関ホール
(左手に当日券売り場、右手にクローク、正面アーチ奥の
右側に岩盤ホール、左側にモーツァルト劇場)

大劇場舞台
大劇場客席
大劇場

モーツァルト劇場
モーツァルト劇場


 ご存知の通り、ザルツブルグ祝祭劇場は、毎年7月末〜8月末(2009年は7月25日〜8月31日)に開催される音楽祭のメイン会場である。2,179席の大劇場、1,650席のモーツァルト劇場、それに屋外の岩盤ホール(1,437席)の3つの劇場から構成されており、細長い施設の右側に大劇場、左側手前にモーツァルト劇場、その奥に岩盤ホールが配置されている。モーツァルト劇場は2006年に改修された後、モーツァルト生誕250年を記念して以前の小劇場から名前が変更された。

 1960年に完成した大劇場は、まさに音楽祭のメイン会場である。プロセニアム開口は18〜32mまで可変でき、開口幅に応じて袖壁が前後する。袖壁は5枚のパネルで構成されており、それぞれが角度を変えられるので、必要に応じてパネルの間に照明器具を設置できるようになっている。大劇場の建築的な特徴はなんといってもこのプロセニアム開口幅が大きいことなのだが、クレッチマー氏は16〜24mの開口で実用上は十分とおっしゃっていた。舞台内部はもちろんオペラハウスの造りであるが、この後に見学したパリのオペラ・バスチーユに比べればとても狭い。コンサートは舞台フライ部に収納されている可動反射板を設置して行われる。多くの反射板を一つずつ並べるのでセットには時間がかかりそうだが、なんと14分で終えたこともあるとのこと。この反射板は劇場のスタッフが製作したもので、モーツァルト劇場にも同様のタイプが使用されている。なお、オケピットを舞台レベルまで上げてプロセニアム部分に金色のシャッターを下ろした状態でも使われており、見学時にはそのようにセットされていた。


 1927年に完成した小劇場(モーツァルト劇場)は、大劇場ができるまで音楽祭のメイン会場だった。度々、改築や改修が行われているが、今回の改修は主に客席部分に対して行われ、バルコニー席が一段から二段に、舞台先端から客席後部の距離が40mから32mに、天井高も12mから16mに高くなるなど、視覚面と音響面での改善が図られた。改修後の音響についてクレッチマー氏に尋ねたところ、上手な演奏はさらに素晴らしく、そうでない演奏はそれなりに聞こえるようになったと話しておられた。


岩盤ホール客席
岩盤ホール客席

岩盤ホール舞台
岩盤ホール舞台

 岩盤ホールは、映画「サウンド・オブ・ミュージック」のコンテストシーンでもおなじみのホールである。もともとは夏の乗馬学校の跡地だったことから屋根がない。現在も舞台側は同様に屋根がないが、客席側は天井・壁で囲われている。見学時には客席は屋根の中のスペースに全て格納され、舞台上にもシートが掛けられていた。舞台部分の上部には照明器具などを取り付けるワイヤーが張られている。1948年にここでオペラを初めて上演したのはカラヤンである。その当時の小劇場がお気に召さなかったためとか。

劇場周辺の街並み(右手手前が大劇場入り口、奥がモーツァルト劇場入り口、遠くの山の上にホーヘンザルツブルグ城)
劇場周辺の街並み
(右手手前が大劇場入り口、奥がモーツァルト劇場
入り口、遠くの山の上にホーヘンザルツブルグ城)

 音楽祭は、約40日の開催期間中にオペラ、コンサート、演劇の約200公演が、祝祭劇場の3劇場を含めて13会場で行われる。来場者は約25万人、出演者は約4,000人(オケ、合唱含む)。音楽祭に関わるスタッフは約170人で、準備には1年をかけている。予算は、その約5〜6割がチケット販売、その他にスポンサーからの寄付、放映権料、パンフレット販売等による収入、そして国などからの補助金でまかなわれている。補助金は全体予算の約2割だが、それを上回る税金を納めており、音楽祭がこの地域にもたらす経済効果は大きいと話されていた。(2008年の詳細なデータはホームページに掲載)。音楽祭は1920年代から行われているが、今のような活況を呈するようになったのは戦後で、カラヤンの力が大きかったとクレッチマー氏は話されていた。

 旧市街から祝祭劇場へ向かう街並み、劇場周辺の雰囲気、エントランスやホワイエの華やかさ、すべてがオペラのセットのようで歩いているだけでもワクワクしてくる。今回は残念ながら見学のみだったので、つぎは音楽祭を体験したい。(福地智子記)

 ザルツブルグ音楽祭ホームページ:http://www.salzburgerfestspiele.at/



ありがとうフェスティバルホール、さようならフェスで一時お別れ

 「大阪国際フェスティバル」の会場として、数多くの公演が行われてきた大阪、中之島のフェスティバルホールが建て替えのため、2008年12月末日をもって一時閉館した。このホール、1958年4月、何と50年前に国際的なレベルの音楽祭が開催できる施設としてオープンした。それ以来、毎春の「大阪国際フェスティバル」をはじめ、クラシック音楽のコンサートからオペラ、バレエに、ポップス、ジャズ、ロック、能・狂言と、幅広く使用され、多くのアーティスト、聴衆に「芸術、音楽の殿堂」として親しまれてきた。

 カラヤン指揮のベルリン・フィルやウィーン・フィル、バイロイト音楽祭の引越し公演、大阪万博第2会場としてリヒテルなどのコンサート、数多くの朝比奈隆指揮・大阪フィル公演、さだまさし、山下達郎たちのソロコンサート等、懐かしく、話題に事欠かない。昨年は50周年の記念公演、そして年末には別れを惜しむ数々のコンサートが開催され、12月30日、大植英次指揮・大阪フィルのベートーヴェンの第9で一旦幕を閉じた。50年間の総来場者数は4,000万人とのことである。

見学会の様子(舞台音響反射板の裏)
見学会の様子
(舞台音響反射板の裏)

記念コンサート
記念コンサート

 ファイナルコンサートの合間を縫った12月22日には、朝日新聞社と(株)朝日ビルディング主催の「50年ありがとう、そして未来へ」と題した見学会・記念コンサートが行われた。多くの市民がホールロビーから舞台袖の楽屋、ステージへと、普段見ることのできないホールの裏まで自由に見学し、舞台音響反射板の裏に遺された数々の著名演奏家のサインに見とれ、また、その後のこのホールゆかりの名曲を集めた「永遠の響き」と題した記念コンサートに、当時を懐かしく思い起こしているようであった。最後は、寂しさのなかにも新たなホールへの期待を覗かせながら参加者全員での大合唱で盛り上がった。

 四つ橋筋を挟んで建つ朝日新聞社と朝日ビルディングの現ビルが2つの超高層ビル「中之島フェスティバルタワー(仮称)」に建て替えられる。新しいホールは、その中に誕生し、2013年にオープンの予定である。(池田 覺記)



オルガンコンサート「オルガンエンターテインメント2」のご案内

オルガンエンターテインメント2

 2004年に友人と始めたパイプオルガンコンサートの9回目のご案内です。今回のタイトルは「オルガンエンターテインメント2」。昨年4月に同名のコンサートを行っており、その第2弾です。第1部ではバッハやレーガーの作品を、第2部では映画やミュージカルなどのポップスを、手足の動きなどの映像も交えてお届けします。演奏の合間にはオルガンや演奏曲に関するトークもあり、気軽に楽しめるコンサートです。オルガニストは前回と同様、若手実力派オルガニスト山口綾規氏。(福地智子記)


  • 演 奏 : 山口綾規
  • 日 時 : 4月12日 (日) 14:00 開演 (13:15 開場)
  • 場 所 : すみだトリフォニーホール大ホール (03-5608-1212)
  • チケット(全席指定) : 一般 2,500 円、学生(4歳以上可)・65歳以上 1,500 円



(株)永田音響設計

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