No.250

News 08-10(通巻250号)

News

2008年10月25日発行
ACTシアター (撮影:株式会社エスエス東京)

赤坂サカスに2つのホール 赤坂ACTシアター&赤坂BLITZ

 お台場、汐留、六本木。在京の放送キー局は、それぞれ都心の開発地に移転し、「どこか知らないところから放送が行われている」というよりも、最近では人の集まる場所に放送局もあるようだ。今回話題とするのは、その放送局のお膝元、赤坂である。1994年に旧社屋隣に竣工した通称:ビッグハットと呼ばれる現在の放送センターに東京放送(TBS)は移転した。旧社屋跡地には今回紹介するホールの前進ともなる旧BLITZ(ブリッツ)と赤坂ミュージカルシアター(後にACTシアター)が一時建てられていた。その後、付近一帯も含め約1万坪の再開発計画が行われ、今年3月20日、“赤坂サカス”がグランドオープンを迎えた。

赤坂サカス
赤坂サカス

 赤坂サカスは、TBS放送センター“ビッグハット”、東京メトロ赤坂駅に直結した店舗・オフィスからなる180mの超高層“赤坂Bizタワー”、21階建ての高層マンション“赤坂 ザ レジデンス”、そして2つのホール“赤坂ACTシアター”、“赤坂BLITZ”からなっている。坂の多い赤坂周辺を象徴するように“Sacas坂”や“さくら坂”が、それらを繋ぐように配置され、坂の歩道脇には100本を超える桜が植えられた。再開発の設計は久米設計、施工は大林組である。弊社は2つのホールの騒音防止、室内音響について担当した。

赤坂ACTシアター

 ACTシアターは「本格的なエンタテイメントを提供する劇場」を謳ってオープンした。1,324席のミュージカル等の舞台芸術をターゲットとする劇場である。バルコニーを1層持ち、適度な傾斜を持つ客席はどの席からも舞台が見やすい。内装は渋めの赤で、大人の雰囲気を醸し出している。室内音響は基本的に電気音響主体の音響を考慮し、電気音響の音を活かせる短めの響きを目標とした。

ACTシアター (撮影:株式会社エスエス東京)
ACTシアター
(撮影:株式会社エスエス東京)

赤坂BLITZ

 BLITZは横浜でも現在営業されているが、ロック、ポップスを中心としたライブハウスで、使用頻度の高いスタンディング形式で1,298人収容、椅子設置で604席。1層のバルコニーを持つ。電気音響を使用した公演が主体のホールであり、メインフロア後部の客席内に音響・照明の調整ブースが設けられ、大型ラインアレースピーカ、サブウーファ(Nexo GeoT 4805−12台、2815−2台、CD18−5台を2set)がステージ両脇に設けられている。室内音響はこちらも電気音響の音を活かせる、デッドでかつ低音域から高音域までのフラットな周波数特性を目標にした。

赤坂BLITZ (撮影:株式会社エスエス東京)
赤坂BLITZ
(撮影:株式会社エスエス東京)

遮音計画

 本プロジェクトでは2つのホール間の遮音とホールから外部へ漏れる音の遮音が大きな課題であった。

 まず2つのホール間の遮音を確保するために、それぞれのホールは独立した2棟の別棟とした。基本的な遮音構造としては、床と天井スラブは現場打ちコンクリートとしたが、壁については乾式で、2つのホールともに固定遮音層としてPC板(プレキャスト・コンクリート)を用いた。乾式工法を選択した理由には、できるだけ容易に建物が解体できることがあった。それは今後の事業計画によるが、本計画が旧ホールと同様に仮設的な考え方に基づいているためである。

 さらに2つのホールは別棟にはなっているものの、たった約5mしか離れていない距離にあること、またBLITZでの発生音が非常に大きく外部への音漏れも憂慮されたため、BLITZには浮構造を採用した。同時に、BLITZのようなスタンディングで使用されるホールでは曲にあわせて観客がリズムをとり、それによって生じる振動が問題になるため、浮構造はその対策も兼ねている。BLITZの浮構造の概要としては、メインフロアおよび舞台は防振ゴムによるコンクリート浮床、バルコニーはグラスウール浮床程度とし、壁・天井の遮音層はPB(石膏ボード)15mm厚3枚を防振支持している。また2つのホールには、放送局至近ということ、かつ多数のワイヤレスマイクを使用することから、電磁波シールドが設けられた。

公演時発生模擬音の確認

 竣工に際して、BLITZにおいて公演時を想定して音楽CDをホールに設置されたスピーカから再生し、その透過音の状況をACTシアター内部および放送センター前や住宅側敷地境界等の外部のポイントで確認した。BLITZ内で再生された音楽音は等価音圧レベルで126dB、公演を想定してイコライジングされた音は、耳が痛いというよりは低音が大きくホール内に居て心臓に感じるような音であった。確認の結果はACTシアター(暗騒音約30dB(A))と外部(暗騒音約50〜55dB(A))、それぞれの状況下で透過音は暗騒音に紛れて聞こえない状況であり、所期の性能は達成できたと考えている。

乾式工法での遮音性能確保

 今回遮音壁として採用したPC板は低音域の遮音性能には優れているものの、細かな隙間埋めなどの作業には向かない。鉄骨梁との取り合い部分などで、本ホールの施工でもシールでは納めきれない隙間が数多く発生し、鉄板、ロックウール、鉛シート、シールの併用で何とか凌いだ。今後も乾式工法を採用する物件は多くなるだろうが、高い遮音性能を必要とされる施設では取り合い部分などができるだけ簡単になるような検討を計画段階で十分に行い、それにくわえて施工段階での地道で迅速な対応、またその確認体制などが性能を確保する上で重要である。

続々と公演開催

 オープンからACTシアターもBLITZも続々と公演が行われている。サカス一帯も次々とイベントが開催され賑わっているようである。駅から1分と大変便利で、また終演後に赤坂で一杯というのも、楽しみになるかもしれない。2つのホールに是非一度、お運びを。(石渡智秋記)

赤坂サカス http://sacas.net/index.html

Acoustics’08 Paris

 第2回ASA-EAA合同国際音響会議“Acoustics’08”が、76カ国から4,000名の参加を得て6/30−7/4の日程でフランス・パリにおいて開催された。今回の会議はアメリカ音響学会(ASA)・ヨーロッパ音響学会連合(EAA)・フランス音響学会(SFA)の共催で、フランス音響学会60周年に合わせて、第155回ASA会議・第5回EAA会議・第9回SFA会議、さらに第7回ヨーロッパ騒音制御会議(euronoise)と第9回ヨーロッパ水中音響会議(ecra)も兼ねた大きな会議となった。会議は263の口頭発表セッションと167のポスターセッションに分かれ、3,500件を上回る発表が行われた。また、50を超える会社・団体による音響・振動に関連した製品、測定器、ソフトウェアなどの展示も行われた。

 当社からは小口と筆者の2名がこの会議に出席し、コンサートホール音響のセッションで小口が昨年秋にオープンした深圳コンサートホールの音響設計(News07-11 通巻239号)について紹介した。

 我々が直接関係する建築音響の分野では、29の口頭発表セッションと16のポスターセッションが一部並行して行われた。室内音響に関する話題は、コンサートホールの音響設計事例や改修例、結合(残響)室を有するホールの音響、ステージ音響、オーケストラ配置、オペラハウスの音響設計と音響評価、音響設計の歴史と新しい流れ、新しい音響評価指標、コンピュータによる音響予測、など多岐に渡っていた。

パリ国際会議場での オープニング・レクチャーの様子
パリ国際会議場での
オープニング・レクチャーの様子

 全体としては内容の濃い会議であったが、同じような発表が続いてややくどいと感じたセッションもあった。また、発表件数の多さから十分な議論の時間が設けられていなかったのが残念である。そうした中で筆者の興味を引いた発表がいくつかある。Bassuet氏(Arup Acoustics NY)は、Sound-fieldマイクの出力から方向別の反射音を抽出する方法による様々なホールの測定例を紹介した。Lateral Fraction(LF)やIACCなど両耳的な室内音響評価量を超えた3次元表示が興味深く、1980-90年代に早稲田大学の山崎教授が行った世界のホールの同様な測定を思い起こすものであった。また、日高氏(竹中技研)はRECカーブによるシューボックスホールと非シューボックスホールの比較を報告した。RECカーブは、直接音を除く反射音のエネルギーを累積した曲線で、我々が初期反射音の到来状況の観測のためにReflection Energy Cumulative Curveと名付けて用いている物理量である。(※訳注:Sound-fieldマイクとは正四面体[三角錐]の各面にマイクカプセルを配したサラウンド録音用マイクで、後処理によりXYZの各方向成分と無指向成分Wを取り出すことができる。)

 設計例では、現在進行中のプロジェクトである“Philharmonie de Paris Concert Hall”の音響設計についてMarshall Day Acoustics(ニュージーランド)から報告があり、聴講者からの関心を惹いた。なお、既報(News07-05 通巻233号)のとおり、このプロジェクトには我々も建築設計サイドの音響コンサルタントとして参画している。
(Marc Quiquerez 記)

平成中村座と小学館のDVDブック「歌舞伎のいき」

 9月末にJATET(劇場演出空間技術協会)主催の「平成中村座」見学会に参加した。浅草駅から徒歩5、6分の浅草寺本堂裏に設置された仮設の芝居小屋である。仮設ということで建物全体は厚めのテント地で覆われている。舞台および客席の床は、金井大道具(株)の組立て式のアルミ枠デッキになっている。デッキは建築用の足場で支えられているのだが、結合が堅固で揺れも、キシミ音もなく、良くできている。壁は絵の具による書割りだが、提灯が芝居小屋としての雰囲気を醸し出している。

平成中村座
平成中村座

最近、小学館より発刊されたDVDブック「歌舞伎のいき」(全4巻)によると、江戸の三代将軍 徳川家光の時代(1624年)に猿若(のちに中村姓)勘三郎が幕府の許可を得て「中村座」を建てたのが歌舞伎劇場の始まりと書かれている。つまり、この小屋で座布団に座って歌舞伎を観れば、400年前の江戸の人たちと同じ楽しみが体験できるわけである。「歌舞伎のいき」には、58作品もの見どころ・名シーンが収録されているので、これを観てから歌舞伎劇場に行けばより楽しめるだろう。(稲生 眞記)

追悼 若林駿介さん

 7月1日、録音界の大御所の若林駿介さんがお亡くなりになり、9月13日、お弟子さんたちをはじめ、友人、知人たちによる追悼の会が中野サンプラザで行われた。享年78、ねじれを感じる今日の音響界で、まだまだ、活躍していただきたかった方だけに残念である。

 若林さんは、戦後、いちはやくアメリカに出かけられ、クラシック音楽の録音を身をもって体験され、わが国のクラシック音楽録音の体系を確立された方である。300年の伝統の中で育ったクラシック音楽、それと戦後、急速に発達したLPレコード制作、FM放送の間に介在する収音−工学的な知見を感性で包んで対応する‘マイクロフォンテクニック’−について確固たる道を開かれた方である。このミキシングという作業は多くの若者に夢をあたえ、彼らを刺激し、専門学校はもちろん、大学、音楽大学まで、収音技術にかかわる講座が開設され、これが今日にいたっている。

 若林さんが活躍された70年−90年代は、わが国ではレコード文化、オーディオ文化が花咲いた時代である。コンサートホールの誕生、デジタル時代の到来、音楽配信の普及によって、いまや、スタジオ録音が陰を潜めつつある。名演奏、名録音は過去の遺産になりつつある。いま、巷には薄っぺらな音が氾濫している。戦後、一生懸命よい音を求めてきた若林さんをはじめとする私どもにとってさびしい時代となった。

 若林さん、よい時代を送ってこられました。どうぞ天国で、若林さんが創られた奥行きのある音、しっとりした、心地よい音を楽しんでください。(永田 穂記)