静けさ よい音 よい響き NAGATA ACOUSTICS
ニュースの書庫

News 08-03号(通巻243号)

発行:2008年3月25日

みなさんに親しまれるホールに!三原市芸術文化センター ポポロの開館

ホール外観
ホール外観

反射板形式
反射板形式

客席を臨む
客席を臨む

 昨秋、広島県の南部に位置する三原市に、市民待望の三原市芸術文化センター“ポポロ”がオープンした。三原市は瀬戸内海に面しており、蛸の町としても知られている。2005年には3町と合併し、人口10万6千人余りの市となった。

■建設計画 文化センターは築後40年を経た旧三原市文化会館の老朽化に伴い、2004年プロポーザル方式により設計者の選定が行われた。全国からの応募の中から槇総合計画事務所に決定、設計期間を経て2005年に着工、昨年9月に完成した。施工は熊谷組・セイム・山陽建設JVである。槇総合計画事務所に協力して、永田音響設計は音響設計・監理・測定を担当した。

■施設外観 施工途中、客席天井を覆うことになる曲面に組まれた鉄骨が、その色の印象からかアルマジロの胴体のごとく見えていた。その後トラスウォール鉄筋によるメッシュ型枠工法でのコンクリート打設、さらに金属が葺かれて写真のような“まあるい”頭が完成した。設計者の槇文彦氏曰く、多摩川に現れたあざらしの“たまちゃん”のように、愛嬌のあるいつまでもみなさんに愛される施設であって欲しい、とのことである。本施設は山陽新幹線沿いに三原駅から九州方面に少し向かった付近にあり、新幹線の車窓からも、“たまちゃん”が目に入る。

■配置計画 施設は1,200席の多目的ホール、リハーサル室、練習室2室、展示も行えるホワイエなどから構成されている。前述のように、敷地は細い道路を挟んで敷地の一辺に沿って山陽本線・新幹線の高架軌道が隣接していたことから、鉄道騒音、振動にともなう固体音の影響が懸念された。基本設計のはじめに行った敷地の騒音・振動調査結果に基づき、建物は敷地内のできるだけ鉄道から離れた位置に計画することを提案した。さらに、鉄道側の地盤内躯体壁面および底盤にゴムを主とする緩衝材を設けるとともに、建物内の配置計画においても、もっとも静けさの要求されるホールは、鉄道から最も遠ざけて配置した。その結果、鉄道側に配置されたリハーサル室と練習室は、鉄道の影響のみならず、お互いの室同士またホールとの間の遮音性能を確保するために、3室とも防振遮音構造を採用した。

 オープン後、ホールの舞台技術者の方に話を伺っても、通常の運用状態で鉄道騒音はホールで気付かれなかったようである。

■ホール ホールは可動反射板を備えた、講演会・式典・演劇からクラシックコンサートまで幅広く対応する多目的ホールとして計画された。反射板設置時には舞台空間と客席空間の連続性が視覚的にも音響的にも達成されており、コンサートホールのような一体感を創出している。室容積は12,000m3、残響時間は反射板設置時1.7秒(中音域・満席時)である。ホールの響きは残響時間の数値より、聴感的には長めで拡がりのある印象である。一方、舞台幕設置時での残響時間は1.2秒(中音域・満席時)で、反射板による可変幅は0.5秒ある。この値は多目的ホールとして十分な可変幅である。

プロセニアムスピーカと背後反射面
プロセニアムスピーカと背後反射面

 拡声を主たる目的として計画したスピーカは、プロセニアムとサイドにあり、大きなサランネットの開口の裏に設置した。プロセニアムに設けたスピーカ開口はプロセニアム開口から客席に向かう天井面中央にある逆三角形状に見える面の頂点付近に設けられているのだが、施工上の努力もあり、ほとんど開口部分と反射面との見分けがつかない。室内音響的には反射面として重要な舞台に近い天井面に(側壁に)大きな開口を設けたくない!電気音響的にはスピーカの前には十分な開口が必要!と、折り合いが付きにくい部分だが、今回はスピーカ開口の背後に反射面を設け、室内側の内装面には大きな開口を設ける案とした。仕上がりが良かったこともあり、設計者からも好評である。

緞帳
緞帳

 本ニュースとしては珍しく、緞帳の写真を載せてみた。絵とその額縁のようにホールにお似合いの緞帳である。緞帳の選定にも設計担当者が参加しており、緞帳とホール建築の調和がうまくとれた成功例ではないだろうか。

■開館記念公演 式典に引き続き、倍賞千恵子さんの講演、夜に中村紘子さんによるピアノ開きが行われた。倍賞さんの講演では、時に壇上から降りられて身振り手振りに歌を添えての軽妙なおしゃべりに客席も沸いた。ピアノコンサートでは、ショパンなど親しみ易い名曲が続き、空間を感じる伸びやかなホールの響きが聴けた。アンコールまで市民のみなさんも十分に楽しんでいたように思う。

■ポポロを楽しんで 昨年、市民の人たちにステージを体験してもらおうと、「ポポロdeトライ」という企画が年末まで催され、週末にたくさんの市民がステージに上られたようである。多くの方々が舞台を体験することで、ホールが特殊な場所でなく身近で日常的な場となればうれしい。ホワイエの前には気持ちの良い芝生の広場も広がっている。ホールに用がある人もない人も、ぜひ気軽にポポロを楽しんでいただきたい。(石渡智秋記)

三原市芸術市民文化センターHP: http://www.mihara-popolo.com/top.html

シンポジウム「公共多目的ホールの可能性」開催

 「公共多目的ホールの可能性(その1)『大ホールの音響の取り組み』」と題するシンポジウム(主催:日本音響学会建築音響研究委員会、日本建築学会環境工学委員会音環境運営委員会)が、いわき芸術文化交流館アリオス 大ホールにおいて2月9日(土)に開催された。シンポジウムに先立ち、施設の見学会と小山実稚恵さんのピアノ試奏会も行われ、市民の他に多くの建築・音響関係者が訪れた。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

 「いわき芸術文化交流館アリオス」は、PFI(Private Finance Initiative:民間資金の活用による公共建物整備)方式によって、既存の平市民会館(昭和41年開館)が建て替えられた施設で、1期工事で大ホール(1,705席)、小劇場(233席設置可能)、大・中リハーサル室、4室のスタジオが完成しており、2期工事で中劇場が完成する予定である。隣接する既存の別館も改修工事によって新しく音楽小ホールに衣替えしており、1期工事で完成した部分と併せて4月8日に第一次オープンを迎える。さらに中劇場が竣工する来春にはグランドオープンし、本格的な運用を開始する。また、アリオスとは少し離れた敷地にある文化センターの改修計画(音楽中ホール)もPFI事業の一環として進められており、これら全ての工事が完了するといわき市には多目的利用の大ホール、音楽用の中・小ホール、演劇用の中・小劇場の5つのホールが整備されることになる。その中核となるのが、今回シンポジウムが開催された大ホールである。設計・施工は、事業提案コンペによって選ばれた清水建設をSPC(Special Purpose Company:特定目的会社)の代表企業とする「いわき文化交流パートナーズ」(設計監理:清水建設、佐藤尚巳建築研究所、永田音響設計、シアターワークショップ、施工:清水建設、常磐開発、福浜大一建設、カヤバシステムマシナリー、丸茂電機、ヤマハサウンドテックJV)である。

 大ホールは多目的ホールという位置づけであるが、まずはクラシックコンサートに最適なものとする一方、演劇、ポップスコンサート、吹奏楽などにも充分対応できることがコンペ時の要求水準として定められており、響きの長さの調整方法や各催し物に対する音響的な考え方なども細かく示されていた。室内騒音値もクラシックコンサートを意識してNC-15以下の確保が提示されていた。さらに、音響に限らず舞台設備(機構・照明・音響)についても詳細に仕様が記述されており、多目的ホールとはいえ様々な用途に対して専用ホール並みの音響性能と機能を備えることが課題としてあげられていた。このようなことから、上記表題によるシンポジウムが開催されたようである。シンポジウム前半は「芸術文化交流館に市が求めたもの」と題して市の担当者やアドバイザーとして要求水準書の作成に関わられた環境デザイン研究所の齋藤義氏や安岡正人東京大学名誉教授、山崎芳男早稲田大学大学院国際情報通信研究科教授からの説明と「提案から設計および施工」と題して事業者からの報告(建築設計、音響設計)が行われ、後半は参加された方々からの質問の内容を話題にして前半の説明・報告者によるパネルディスカッションが行われた。

 近年、公共ホール建設にもPFI方式の採用が増えてきており、その方法も建設から運営までを事業者に委託する方式や、建設のみあるいは建設および維持管理までが事業者に任される方式等、様々である。いわき市の場合には建設と維持管理が事業者に委託され、施設の運営はいわき市直営で行っている。市の担当者曰く、これは質(機能や性能)よりも量(金額)が優先されがちなPFI方式の欠点を少しでも避けるためだそうである。市直営というとサービス面においてあまり良い印象がないが、いわき市の場合には運営・技術スタッフの充実によって公共ホールのもつイメージの脱却を図っている。その意味では、新しいホールの作り方の一端を示しているようにも思われる。いわき市のこの事業への取り組み方や今後の運営方針等については、ホームページ(http://iwaki-alios.jp/)に詳細に記述されているので参照されたい。(福地智子記)

スタンフォード大学の新コンサートホールの音響設計を受注

スタンフォード大学
スタンフォード大学

 米国サンフランシスコ郊外のスタンフォード大学が、このほど900席規模のコンサートホールと500席規模の劇場から成るパフォーミング・アーツ・センターを計画・建設することになり、その設計者を選ぶコンペが2007年の春から夏にかけて実施された。その結果Nagata Acousticsの所属するPolshek Partnership (New York、http://www.polshek.com/)のチームが選ばれた。

 設計者選定のコンペは、予め大学側の設計者選定委員会によって書類審査が行われ、建築設計者、劇場コンサルタント、音響設計者の各々2社が絞り込まれたうえで以下の設計2チームが構成され、最終的な選考に残った。

  1. William Rawn Associates (Boston) + Theatre Projects Consultants (Norwalk, CT)
    + Kirkegaard and Associates (Chicago)
  2. Polshek Partnership (NY) + Fisher Dachs Associates (NY) + Nagata Acoustics (LA)

施主も含めたデザイン会議
施主も含めたデザイン会議

 この2チームを対象にデザイン・ワークショップ+インタビューが実施され、最終的な設計チームとしてPolshekチームが選定され、設計が委託された。まずコンサートホールの設計・建設がプロジェクトの第一段階として進められ、その後、劇場が第二段階として着手されることになる。

 計画されているコンサートホールは2007年5月現在、床面積:約70,000sqf(約6,500m2)、総工費:約4,000万USドルで、設計:約2年、工事:約2年の後、2011年の完成が予定されている。(豊田泰久記)


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