No.241

News 08-01(通巻241号)

News

2008年01月25日発行
施設の外観

永田音響設計ニュース発行20年を顧みて

 今月号で本ニュースは通巻241号を迎える。普段、号数にしか関心がなかっただけに、朝の打ち合わせの席で、発行20周年になるという池田社長の発言で改めて20年という本ニュースの歩みを思い起こしたのである。

 本ニュースの創刊は1988年1月である。サントリーホールがオープンして1年余りたった時であった。事務所が信濃町にあった時代である。全国各地に建設された公共ホール、それに首都圏最初のコンサートホールとしてデビューしたサントリーホールのインパクトは大きく、音響設計についての重要性は建築界のみでなく、行政側にも浸透していったことは事実である。しかし、当然のこととはいえ、ホールの音や響きについての関心や理解の程度はまちまちであり、また音の世界の常として様々な主張や神話が交錯する。このような状況に対して、何とかホールに関わる音や響きへの理解と音響設計業務の推進を円滑に運ぶためにも、事務所としてのPR誌を発行すべきだと思いを深めていったのである。

 この思いを所員に話し、ニュース発行のチームを結成したこともあった。しかし、連日遅くまで仕事に追われている当時の状況では、これを強いることは無理であった。そこで、当分は私個人で原稿の作成から、印刷、発送までの一連の仕事をする以外にない、という覚悟を決め、1987年の暮れから正月にかけて原稿を書き上げ、新年の15日の発行を目標に、家内、娘の手を借りて発送にこぎ着けたのであった。

 ニュース第1号の発行部数は100部あまり、記事の内容は開館後1年たったサントリーホールの使用状況の紹介と学会誌、業界誌、新聞記事などに載ったサントリーホールに関する文献、記事の一覧、それに松本市のハーモニーホールにオルガンが設置されたニュースなどであった。

 発行に当たって心がけたことは、軌道にのるまで、誰の手も借りずに毎月発行を続けることであった。当時、文章は東芝のワープロ、図や表は業務ファイルからのコピー、そのはめ込みは糊と鋏の手作業、コピーは自宅にあった古いコピー機、手作業は大変と言えば大変であったが、その気になれば、原稿の題材はいくらでもあった。

 さて、本ニュースであるが、50号くらいまでの原稿の殆どは私が執筆し、少しずつ所員に原稿を依頼していった。ときには事務所以外の方にもお願いしたことがある。今日ニュースの企画は編集会議で検討し、原稿作成までの具体的な計画はニュース担当者−現在は小野朗−が行っているし、印刷原稿の最終仕上げは所員が毎月交代で担当している。ニュース発行という業務をとおして、所員一同に広報という仕事の重要性が浸透したことは、一つの成果である。

永田音響設計NEWS第1号
永田音響設計NEWS第1号

 本ニュースは1号(88年1月)より永田音響設計ホームページで閲覧できるし、112号(97年4月)から英訳も掲載されている。その翻訳者は在日の経験があり、日本の文化、音楽
界事情に詳しいローリさんで、その格調たかい英文は海外からも評価されている。翻訳さ
れた英文の記事に改めて目をとおすと、新鮮さとともに一種の畏れを感じるときがある。

 本ニュースは50号毎にまとめ、これまで、3回合本として発行した。1992年3月に1〜50号、1996年4月に51〜100号、2000年6月に101〜150号である。郵送による発行部数は一時600部を越えたが、希望者には電子メールによる配信へ移行しており、現在は300部弱である。20年という歩みをとおしてPR誌としての役割は十分果たしていると思う。とくに、ホームページによるPR効果は大きい。しかし、それだけに、表現の仕方などについて慎重にならざるをえなくなっている。

 今回、あらためて初期の記事に目をとおすと、当時のホール界、音響界の動きについての驚きや感動が新鮮に伝わってくる。最近の記事は印字も見やすく、写真も図も美しく外装は立派になったが、ホールの紹介記事が資料化している事は否めない。正しい資料を読みやすい形で提供することは本ニュースの大事な使命であることに間違いないが、ホール界について様々な問題が渦巻いている今日、別の切り口からの問題提起、啓蒙記事の充実を図るべきだと考えている。たとえば、クラシック音楽愛好者の減少、施設運営の問題やあり方から、今、建築界を揺さぶっている様々な問題、音響技術に関しては、コンサートホールや教会における拡声の問題など様々である。日常の業務の中から、はっとする内容の記事を生みだし、それをかわら版のセンスで包み込んでお届けできればと思っている。

 ここで読者の皆様にお願いがある。執筆者にとって皆様からのお声は何よりの励みであり、喜びである。忌憚のないご意見、ご批判をお願いする次第である。 (永田 穂記)

桑名市民会館のリニュアル

 「その手は桑名の焼き蛤」。十辺舎一九の著作「東海道中膝栗毛」で弥次さん・喜多さんが伊勢参りの途中、桑名の焼き蛤を肴に酒を酌み交わすといった小話に登場する有名な文句だ。当時は浜で捕れた蛤を焼いて旅人達に売っていたが、今では漁獲量が激減し、そのような店は見当たらない。しかし、この文句により桑名の名前は多くの日本人に知られることになった。

 この桑名に桑名市民会館が建てられたのは40年前である。この桑名市民会館の大ホールの内装リニュアルと小ホールおよび付属施設の増築計画が進められ、昨年9月に竣工した。設計監理は、大建設計名古屋事務所で、設計事務所6社によるプロポーザルコンペにより選出された。

施設の外観
施設の外観

施設概要

 リニュアル計画は、1388席の大ホールおよびホワイエを耐震補強するとともに大ホールの室内音響性能を向上させるため内装、すなわち天井・壁の仕上げと形状の更新を行った。さらに約300席の音楽ホールやエントランスホールなどの付属施設を増築した。

大ホールの音響改修

 これまで多目的ホールとして様々な用途に利用されてきたが、改修前の調査において、残響時間が短い、1階客席に早い時間に到達する反射音が少ない、舞台反射板の隙間が大きいなど、クラシック音楽にはあまり好ましくない音響空間であることが判った。そこで音響改修の内容としては躯体と客席の位置を変えずに、壁・天井を全て撤去し、残響時間の伸長とともに1階客席への反射音を増やす新たな室形状とした。この結果、残響時間は舞台反射板設置状態で1.8秒(500Hz空席時)に伸長され、1階客席の音場も改善された。

大ホールの内観
大ホールの内観
大ホールの内観
大ホールの内観

小ホールの増築

 さらに新設された約300席の小ホールは、クラシック音楽を主体としたシューボックス型の音楽ホールである。客席規模から市民利用が主と考えられ、側方反射板を操作の容易な縦軸回転開閉式とし、演劇や講演会、ポピュラー音楽などの催しにも対応させた。残響時間は1.4秒、側方反射板を開け幕形式とした状態で1.0秒(いずれも500Hz空席時)となる。

小ホールの内観
小ホールの内観
小ホールの内観
小ホールの内観

遮音計画

 増築した施設には小ホールの他にリハーサル室、展示室などがあるが、増築された大小ホール共通の楽屋は、ホールが使われていないときでも練習室などに利用できるように遮音性能を高めている。大小ホール間の遮音性能は、既存建物と増築部分との構造体を分けることにより固体伝搬音が遮断され相互の発生音が全く感知できず、あらゆる催しの同時使用が可能である。

新しいフォーラムの提案

 本施設計画上の提案の大きな特徴は、エントランス空間をフォーラムとしてデザインしたことである。フォーラムとは色々なお店や施設の中心となる広場というような意味合いだが、この施設の中心で各ホールへの導入部であり、リハーサル室を使う若者や展示会を行っている人の溜まり場であり、市の広報活動におけるインフォメーションの場でもある。これは単に賑わいを演出する仕掛けではなく、市民によるコミュニティの場、すなわち福祉的な役割も期待できる空間なのである。

エントランス空間
エントランス空間

 東京のある自治体の調査で、高齢者が自治体に期待するサービスとして最も多かったのは「市民会館等で人と語らい趣味となる教室活動ができること」であった、と本紙で紹介したことがある。高齢者社会において、地域の市民会館施設には、若年層から高齢者までがともに接触し活動できる場を提供することが求められている。この桑名市民会館のフォーラムは、そういった桑名市民の語りあうことのできる場として期待できる。(小野 朗記)

 桑名市 http://www.kosya-kuwana.jp/

ホールマネージメントエンジニア育成ユニットの紹介

 九州大学大学院の芸術工学専攻における副専攻に、2008年4月、劇場・ホールの活性化推進を担う人材を育成するコースとして、ホールマネージメントエンジニア(HME)育成ユニットが新たに設置されることになりました。

 全国には数多くの劇場・ホール等の文化施設があります。中には活発に活動している施設もありますが、企画や運営に悩んでいる施設も少なくありません。そこで、専門性の高い劇場やホールの建築・音響の特性・管理・企画・運営について、知識や能力を併せ持つ人材を育成し、文化施設の活性化を推進させようという目的で開設されたのが上記のコースです。カリキュラムは、「ホール芸術科目群」、「ホールマネジメント科目群」、「ホール工学科目群」、「ホールマネジメントプロジェクト科目群」から構成されており、大学院生の他に社会人も学ぶことができます。詳細は九州大学大学院の下記ホームページに書かれていますので、興味のある方は是非ご覧下さい。 (福地智子記)

 九州大学大学院 http://hme.design.kyushu-u.ac.jp/index.html

オルガンコンサート「オルガンエンターテインメント」のご案内

 すっかりお馴染みになったパイプオルガンのコンサートをご案内します。「オルガンエンターテインメント」というタイトルからもわかるように、今回は、パイプオルガン曲として作曲されたものだけではなく、映画やミュージカルなどの曲もオルガン用にアレンジしてお届けします。オルガニストの山口綾規(りょうき)さんは、国内はもとより海外でも活躍されている新進気鋭で、クラシックからジャズ、ポピュラーまで幅広いレパートリーに定評のある方です。

 さらに今回は、普段あまり見たり聞いたりする機会の少ないオルガンの構造や響きに少しでも馴染んでいただこうと、コンサート当日の10時、11時、12時からポジティヴオルガン体験教室も開催します。ポジティヴオルガンは小型のパイプオルガンです。コンサートチケットを購入された方に限りますが、ご希望の方はポジティヴオルガンに触れていただくことができます。

 お花見にもちょうどいい頃です。すみだトリフォニーホールの近くには桜の名所も多いので、オルガンを聴いた後に桜を観るというのはいかがでしょうか? (福地智子記)

 演 奏 : 山口綾規 (ゲスト : 勝山雅世)
 日 時 : 4 月 5日 (土) 14:00 開演 (13:15 開場)
 場 所 : すみだトリフォニーホール大ホール
 チケット (全席指定) : 一般 2,500 円、学生・65歳以上 1,500 円