都城市総合文化ホール MJ グランドオープン!
今春、都城市のJR都城駅前地区に竣工した都城市総合文化ホール(愛称:MJ)が、7月のプレオープン、新市誕生の合併記念式典などを経て10月22日にグランドオープンした。
都城市は宮崎県でも鹿児島寄りに位置する南九州の中核都市で、霧島連山ほか、三方を山に囲まれた盆地にある。島津氏発祥の地でもあり、今も残る島津家の居城、「都之城」が地名の由来といわれている。この都城には建築的にも話題になった都城市民会館(1407席)がある。1966年にオープンしたこの市民会館は、菊竹清訓氏の建築と都市の新陳代謝を図るというメタボリズムの設計思想に基づく作品で、梁が放射線状に突き出たデザイン・構造が強烈なインパクトを与え、長い間、市のシンボルとして市民に親しまれてきた。また、私どもでもお手伝いし、2004年にオープンした中心市街地の活性化のための施設、ウエルネス交流プラザ内にも小規模ホール(ムジカホール:293席)がある。ここに紹介する総合文化ホールは、これらの市内文化ホールとの効果的な役割分担、連携など、様々な規模の文化活動を積極的に支援する広域的な文化施設の拠点として計画、整備された。
施設概要
総合文化ホールは「文化まちづくりゾーン」として位置づけられた駅前周辺地区の緑多い神柱公園に隣接した場所にある。新しい市のシンボルとして公園と一体的に整備されたこの施設には、ホールゾーンと創作練習ゾーン、それらを結ぶ交流ゾーンの3つがある。霧島の山並み、都城の伝統的工芸品の大弓をイメージさせる曲線を取り入れた外観、動線等、親しみやすさを演出したというデザインと、交流ゾーンの中心をなす半屋外空間のアートモールが特徴である。ホールゾーンには規模、性格を異にする多目的の大・中ホールが、交流ゾーンには駐車場から神柱公園へと繋がるアートモールを中心に、マルチギャラリー、情報スペース、レストラン、ロビーなどが配置されている。このゾーンは往来の場であるばかりか、公園との一体利用によるイベントスペースとしても計画されている。また、メインアプローチ側に配置された創作練習ゾーンにはCATVのスタジオ、練習室、創作室、ワークルーム、会議室、和室など、市民の活動拠点となる諸室があり、これらの日常的な利用による賑わいが期待されている。設計・監理はプロポーザルで選定された株式会社 NTT ファシリティーズである。
ホール概要
「きりしま」と名付けられた大ホールは音楽を主体とした多目的ホールで、1階席989席、2階席472席の計1461席の、サイドまで張り出した1層のバルコニーを持つプロセニアム形式のホールである。また、「あさぎり」と名付けられた中ホールは大ホールと同形式ながら性格としては演劇主体の多目的ホールという設定で、1階席447席、2階席235席の計682席の中規模ホールである。同形式ではあるが、性格、規模の異なる設定の両ホールの内装は大ホールが明るめ、中ホールがやや濃いめの色調の木質系の仕上げで、拡散を意図した凹凸は、弓、矢などがモチーフとなっている。
創作練習ゾーンの概要
このゾーンには美術、工芸、衣装、舞台小道具などの製作のための創作室、OA機器を設置し、ポスター、チラシなどの製作ができるワークルームをはじめ、打合せ、研修のための会議室ほか、TVスタジオ、ラジオスタジオと3つの練習室がある。練習室1・2は音楽、演劇等の大人数での練習用、練習室3はドラムセットなどが設置されたバンド練習用である。スタジオと練習室はその使用条件から上下左右に配置されており、外部からの音の進入を拒むスタジオと、大音量を伴う使用が設定された練習室2・3はとくに遮音性能を重視した。練習室のアートモール側には大きな二重のガラス窓が設けられており、開放的な雰囲気の練習スペースになっている。また、交流ゾーンとの視覚的な一体感によりホールでの催し物がないときでも、日常的に利用されるこれらの施設の賑わい、出会いが施設全体の賑わいを演出している。
音響計画
まず基本となる遮音計画は、ホールと創作練習ゾーンの間にアートモールを挟むことで、ホールゾーンの2つのホール間にはEXP.J.を設けることで、また互いに隣接するスタジオ、練習室には防振遮音構造を採用することで各室間の遮音性能を確保した。室内音響計画では、大中ホールは性格設定の違いはあるものの、プロセニアム形式であることと、クラシック音楽にも対応できることが条件であり、舞台反射板を設け、その転換と室形状により、響きの質、量に関しても多目的対応が可能となるよう計画した。大ホールはその性格から舞台反射板設置時、舞台と客席が一体化した比較的高い天井の響きの豊かな空間を、中ホールは視距離を考慮した臨場感のある空間をイメージし、初期反射音に着目した室形状の検討を行った。また、舞台音響設備計画では舞台設備とのバランスを考慮した機能、操作性の優れたシステムの構築から拡声音の質感、明瞭さ、分布性状に着目したスピーカの選定、設置スペースの確保など運営者を交え検討した。
オープニング
すでに7月に完成式典が終了していただけに、10月の開館式典は長い祝辞もなく、小学生2人の司会進行でさわやかに行われた。開幕ファンファーレの後、都城らしく花道からの見事な弓裁きによる礼射、祝典の三番叟、初代館長で作編曲家の朊部克久氏の挨拶と演奏、地元出身のソプラノ歌手、それに市民、子供達の合唱団が加わってのエンディングと盛りだくさんではあったが、個性的なセレモニーに感じられた。市民と専門家の参画、数多くの協議によって築かれたハードとソフトの融合、関係者の長い時間をかけての地道な努力に敬意を表したい。これまでのプロセスがこれからもホール運営に活かされて、子供達へのほんとうの贈り物になれば嬉しい。(池田 覺記)
財団法人 都城市文化振興財団 TEL:0986-23-7140 (http://www.0986.jp/mbunka/)
津軽で出会った音と響き
空襲の被害を免れた弘前市には、明治、大正時代の建物が保存されており、市内には100年の歴史をもつ教会が今でも活躍している。筆者が昇天教会で歴史的なリードオルガンを聴いたのは1957年の桜が終わった5月であった。今回は雪の訪れも近い11月、カトリック弘前教会に弘前バッハアンサンブルのコンサートを聴きにいった。
弘前バッハアンサンブルは1985年、バッハの作品演奏を目的に、チェンバロ奏者の島口和子氏により結成された楽団である。筆者は1988年、カザルスホールでのカンタータとチェンバロの演奏会で初めてこの楽団の演奏を聴いた。素朴で親しめるバッハ、いつか本拠地弘前で、できれば教会で演奏を聴きたいと思っていたところであった。
陽の落ちるのが早い北の町、小雨の煙る中たどり着いた教会、窓のステンドグラスからの光が鮮やかだった。しかし、内部は漆喰こうもり天井の素朴な空間である。正面にアムステルダムの聖トーマス教会から贈呈された祭壇がいかめしく鎮座していた。
編成は指揮者を含め器楽13名、合唱9名、曲目はモーツァルトの宗教曲とオルガン曲、バッハのカンタータと器楽曲などであった。会場は脇部屋まで満席という盛況、戦前の木造の講堂を思わす心地よい響き、これは今日、出会うことの少ない響きであった。
演奏会の翌日、音響仲間の相澤昭八郎氏から聞いていた五所川原の阿部邸を訪れた。阿部さんのお屋敷は旧五所川原の町はずれ、敷地15,000坪、リンゴ畑に囲まれた広大なお屋敷である。敷地には狸やフクロウまでが住んでいるという。
ご主人の阿部郁也さんは五所川原市の教育委員長、ご夫人の寿子さんはお家でピアノを教えておられる。長女の菅野美奈さんはピアニストで、ベーゼンドルファーを使って各地で演奏会をされており、このお屋敷の米倉を改造したホール“ザール・カザン”で行われた最初のコンサートの録音を相澤さんが担当されたのである。この“ザール・カザン”は70~80名収容できる規模の空間で、壁の吸音パネルによって響きはかなり押さえられていた。相澤さんのご厚意でCDの解説にある写真をここに転載した。
このホールに響くベーゼンの音は確認できなかったが、お屋敷にあるご夫人のピアノ室には国産のグランドピアノと古い縦型のピアノがあった。これがベーゼンドルファーのアップライトであった。実はこのアップライトの音がすばらしかった。そのしっとりとした優美な音質に打たれたのである。現在、巷では聴けない音である。今日、楽器からオーディオ機器、ラジオ、テレビまでその関心が大音量、小型化、サラウンドなど水平方向へ発散しているように思う。奥行きのある音、しっとりした音、優美な音への追求が忘れられているのではないだろうか。津軽の町の古い教会と古いお屋敷の片隅にあったピアノで体験した心地よい音と響きの話しである。(永田 穂記)
劇場におけるサラウンド実験会
去る10月31日に、昨年に引き続き「劇場におけるサラウンドの検証 Part2」という実験会が東京厚生年金会館大ホールにおいて開催された。日本舞台音響家協会(SSAJ)と(社)劇場演出空間技術協会(JATET)の主催である。
演劇においては、映画と同様に『効果音』が演出上、大変重要な要素となっている。風雨嵐、動物の鳴き声、都市の喧騒、電話のベル、銃声・砲声、歩行音、扉の開閉音、乗り物の音、救急車やパトカーのサイレンなど多種多様な効果音は、その場(シーン)の雰囲気を作り出し、観客の感情に訴え、演出の意図を実現する有力な手段なのである。これらの効果音は、一般的には音響効果部門のプランナー(サウンドデザイナー)が台本の内容(演目のイメージ)や演出方針を汲み取って立案し、実際に収録された音や擬音を元に編集・加工され、通常、いくつか組み合わせて再生される。ここでは、機材の選定・構成・操作といった技術的な側面も無視できないが、芸術的な側面(感性)のほうが重視されているように見受けられる。
この効果音を劇場・ホールで再生する場合には『自然さ』が求められる。それは、演劇では役者の声は生が基本であるからであろう。同時に、演出にマッチするかどうかといった心理的な側面も求められる。我々が普段聞いている音は、音源から直接到達する音のみならず、物体により透過・反射された音や室の響きなどが入り混じり、様々な方向から到来する。その立体的な音を5.1チャンネルなどのマルチチャンネル再生によりどの程度再現できるのか、また、現場で進行に合わせてコントロールすることができるのか、これがこの実験会の主眼である。それが可能になれば、現場の仕込みや調整の効率が上がり、さらに、より自然で効果的な表現が追求できるようになるのでは、という目論見である。
今回の実験会は、モノラル音源を用いた音量変化(パン・フェーダ)や遅延時間の可変による音像移動、ステレオ(2ch.)再生、4ch.再生、5.1ch.再生、14ch.以上の多チャンネル再生と順を追って再生チャンネル数が増す構成について、役者になったつもりで効果音の聞こえ方を実際に舞台上で確認するなど、大変興味深い内容であった。スピーカは舞台奥に3基、会館のサイドカラムSP、吊込みのプロセニアムSP、1階席を取り囲むように中小型SPを11台配置するなど大掛かりなものとなった。5.1ch.再生では飛んでゆくカッコウの鳴き声が特に自然に聞こえ、多チャンネル再生では音像が移動する効果が客席内の広い範囲で認められたこと、舞台内に吊り下げた一対の12面体スピーカのステレオ再生がかなり自然に聞こえたことなどが印象的であった。(稲生 眞記)
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