複合施設「いわて県民情報交流センター」アイーナ(aiina)
岩手山を望むJR盛岡駅西口に2005年9月に竣工した複合施設「いわて県民情報交流センター」(愛称:アイーナ)が、この5月8日に運転免許センター、パスポートセンター、図書館の開設によりグランドオープンした。この複合施設は、岩手県が新しい時代に向けて大きく飛躍するための県民の生活・サービスや交流・活動などの拠点として、駅西口の開発地区に整備したものである。
施設概要
盛岡駅西口の交通広場に面するマリオス(盛岡地域交流センター:盛岡市民文化ホール、賃貸オフィス、会議室等からなる複合ビル)の隣に建設されたこの県民施設は地下1階、地上9階建で、V字型の柱や、円弧状のガラス外装と大型ルーバーが組み込まれたダブルスキンのファサードが印象的な建物である。盛岡市のマリオスとともに西口開発地区のシンボルともなっている。この地区の先導的役割を担うアイーナには1Fに盛岡運転免許センター、2Fに岩手県パスポートセンター、けんみん住宅プラザ、3~4Fに岩手県立図書館、岩手県立視聴覚障害者情報センター、5Fに国際交流センター、環境学習交流センター、6FにNPO活動交流センター、青少年活動交流センター、男女共同参画センター、高齢者活動交流プラザ、子育てサポートセンター、7Fに岩手県立大学アイーナキャンパスと、何と13もの公共施設があり、ほかに県民プラザ、ギャラリー、多機能型ホール、会議室等の貸出施設などが入っている。この地区で多くの行政、活動、学習、情報、交流、文化等のサービスを受けられることになる。設計は日本設計・曽根幸一環境設計研究所・久慈設計共同企業体である。
施設計画
交通の利便性や将来の発展性が高い立地条件から、様々な施設が複合化されている。この複合施設は、「知」「楽」「学」という空間概念によるゾーニングによって、各施設をわかりやすく、賑わいを感じるように計画したと聞いている。中層部の大きなアトリウムを中心にして、エスカレータやシースルーエレベータを動線軸に、低層部は行政サービス施設や図書館が位置する「知」の空間、アトリウムに面した中層部は街につながる賑わいの場とした交流・発信の「楽」の空間、そしてその上階が多機能ホールや会議室など県民活動の拠点となる「学」の空間、という構成で各施設が配置されている。
ホール計画
7~8Fに位置する「アイーナホール」と名付けられた多機能型ホールは、講演会、シンポジウム、学会、展示会等の使用と国際会議にも対応できるホールとして、約19m×26m、天井高さ約9mの平土間形式で計画された。正面に収納型のスクリーン、後部バルコニーに4室の同時通訳ブースが設置されている。また平土間形式を含む多用途に対応できるように天井には、キャットウォークが約3.5mピッチで7本設けられている。客席前部が客席迫りになっており、これを降下させることで舞台を形成し、移動観覧席275席と可動椅子232席の設置により最大507席の段床客席形式のホールとなる。この床機構は舞台と客席、さらにバックヤードまで同一の床レベルが確保されるため、使いやすく、高齢者対応にも役立っている。ホールの仕上げは正面壁が南部鉄をイメージした重厚なスチールの鋳物、側壁がアルミカットパネルとアルミルーバー、後壁が有孔のアルミカットパネル、天井がアルミカットパネルとスチールメッシュ、床はカバ材フローリングである。上手側壁の一部がガラス(遮光ブラインド付)でサブホワイエを通して眺望のきくような造りである。
音響計画
ここでは複合する各施設間の遮音、空調設備をはじめエスカレータ等の設備騒音・振動の防止、多機能型ホールの室内音響および電気音響設備が音響計画の内容であった。遮音計画では、鉄骨造の建物であり乾式間仕切り壁による遮音区画が基本となるため、配置・使用条件をもとに遮音区画とその区画構造を検討した。躯体相当の区画壁はD-50~55相当の遮音性能を基本に、独立間柱に両面石膏ボード21mm×2、グラスウール充填の乾式間仕切り壁とした。さらに4Fの視聴覚障害者情報センター内のビデオ制作室と録音室、および貸出施設の6Fのスタジオ、練習スタジオ、7Fの多機能型ホールとリハーサル室は、大音量を伴う使用条件あるいは録音・鑑賞等から静粛性が求められるため、グラスウール緩衝材を用いた湿式浮き床型と防振ゴム採用の乾式浮き床型仕様の2種類のBox-In-Boxの防振遮音構造をそのグレードにより選定、採用した。またボディーソニック採用の映写システムが導入された4Fの映写室と、ダンス等の使用も想定された6Fの世代間交流室には湿式の浮き床を採用した。
多機能型ホールの室内音響計画では本施設の性格と隣接施設の多目的ホール、コンサートホールとの補完的役割を考慮し、スピーチの拡声と映像音声の再生を主眼に響きを抑えた空間とした。このため側壁のアルミルーバーの一部と後壁の有孔アルミパネル背面にグラスクロス付グラスウールを設けて吸音構造とし、平均吸音率を0.30~0.35程度とした。
電気音響設備では、段床客席形式でのスピーチの拡声用のプロセニアムスピーカおよびサイドスピーカと、平土間形式での場内放送用のシーリングスピーカという構成を基本とし、映像音声や効果音の再生用として移動式スピーカを計画した。
たくさんの施設とホールからなる複合施設でしかも鉄骨造であるため、それぞれの施設に要求される遮音性能の実現には、鉄骨構造、ガラスのカーテンウォール、建築設備などとの取り合い等々、施工段階での細かい対応とその施工状況の確認が重要であった。環境への配慮、省エネルギー、ユニバーサルデザインなどからアートワークまで積極的に取り組まれた最先端の建物であっても、裏方仕事の遮音に関しては地道な作業を確実にこなしていくしかないようである。(池田 覺記)
いわて県民情報交流センター: http://www.aiina.jp/
電気音響設備シリーズ(2)
拡声に求められる品質とスピーカの重要性
前回(本ニュース2005年12月号)は電気音響設備において話が聞き取りにくい状況とその原因を、幾つかの例を挙げて述べた。今回は電気音響設備に求められる機能と性能の面から整理したい。
電気音響設備の機能
電気音響設備には大きく、拡声、再生、録音、運営連絡という機能がある。拡声はスピーチを中心としたPA (Public Address)とポピュラーコンサートに代表される歌や楽器演奏を中心としたSR (Sound Reinforcement)とに分けられる。いずれも聴衆への音のサービスの他、はね返りスピーカにより出演者が話しや演奏をしやすい環境をつくることも含まれる。またホールでのホワイエや楽屋への音のサービスや病院の呼出などの案内放送も、音源と聴衆が別の空間にあるという違いはあるが拡声の範疇と考えられる。再生はBGM、授業や講演での音楽教材や映像音声、バレエや踊りの伴奏音、演劇やオペラの効果音などで、MDやCD等のあらかじめ録音されたソースが音源となる。録音は会議、講演会等の記録や、コンサート等での演奏音をはじめ、ホールの響きや観客の拍手や歓声などその場の雰囲気音を含めた高品質な音楽録音がある。運営連絡は催し物の進行におけるスタッフ間のコミュニケーションなどである。施設の用途によって必要となる機能やその重要性は異なるが、ホールや劇場に限らず、イベントスペース、集会所、会議室、教会、体育館、学校、講堂、病院、駅など、人が集う場所には電気音響設備が導入される。その最も主要な目的は、肉声では届けられない音声を聞き手に伝えること、すなわちスピーチの拡声である。
拡声に求められる品質
拡声においては情報の内容が正確に伝わることは当然であるが、同時に施設の性格や演目に応じた品質が求められる。最も基本となるスピーチを考えても、単に話の内容が聞き取れるだけなら狭帯域のトランペットスピーカでも可能である。しかし例えば講演会では、講演者その人の声らしく聞こえることや、長時間聞いていても疲れないことが当然求められるし、教会では神父・牧師の声が厳かに優しく聞こえることなどが望まれる。演劇や音楽では質感がより重要になり、役者の台詞や歌手の歌声に込められた感情や微妙なニュアンス、効果音の迫力や立体感など、演者をはじめ演出家や音響家が表現しようとするものを伝えられなければ意味がない。また駅などでは喧噪のなかでも聞き取れることが優先される場合もある。このような品質は音質や音量感、音の方向性などを総合したものである。電話のように限られた周波数帯域の音声でも相手が誰なのか、調子が良いか悪いかなど分かるように、人間は音声に特に敏感であり、言葉が聞きやすい/聞きにくい、聞こえ方や音質が自然/不自然かどうかは誰でも容易に判断できる。しかしそれらは感覚的・主観的なものであり、その評価が曖昧であったり定量化が困難であるためか、ないがしろにされやすい。加えて、適した品質を得るために、数あるスピーカやマイク等の音響機器の中から目的にあった性能のものを選定・配置するのだが、品質を左右する建築、設備条件などの劣化要因についての関心はさらに薄いのが現状である。
マイクと話者
話者の声を電気に変換するマイクは、電気音響設備の音の入口であり、非常に重要な装置である。いかに優れた設備でも入力される音源が良好でなければ出力もそれなりになってしまうため、マイクでの収音の質はそのまま拡声音の質を左右する。しかし使用するマイクの種類、配置、本数は演目や出演者数などによって変わるため特定することはできないし、人によって声量はまちまちで、時には発声がよくなかったり、早口だったり、マイクの使い方が上手くなかったりと、話者側にも拡声品質を大きく左右する問題が存在している。特に日本人は欧米人に比べて人前でスピーチすることに慣れていないように思う。そのためマイクについては使用者やオペレータに委ねることになり、ある程度の不確定要素はスピーカを中心とした出力側で吸収できるようにしておく必要がある。その他、マイクとスピーカが同一空間にあるために生じるハウリングや、室内音響特性の影響、オペレート状態など、拡声の品質には多くの要素が関わるため、その確保が難しいのも事実である。特にホールや劇場と違って音響技術者がいない多くの施設では、オペレートによる効果が期待できないため、それだけスピーカの役割が大きくなる。
スピーカの重要性
上記のとおり、自然で良好な拡声を実現する上で、電気信号を聴衆が聴く音に変換するスピーカは、それ自体の性能とともに設置条件が非常に重要である。本格的な演劇では、演出意図にあわせて全てのスピーカをその都度最適な位置に設置することもあるが、多くの施設の場合スピーカは固定設置される。その配置は、良好な音質と均一な音量、方向感を保ったサービスを、全ての聴衆に対して実現できる位置とする必要がある。室内ではスピーカから放射された直接音が、壁や天井などからの反射音の影響を受けることは避けられない。そのため反射音の影響を最小限に抑え、音響技術者の意図する音創りに反応できる拡声環境を実現するには、スピーカからの直接音が反射音に比べて十分大きいレベルで客席に到達することが必要となる。スピーカが低音から高音までバランスよく音を放射できる範囲は限られているため、その範囲を聴衆に向ける必要があるが、これは聴衆側から見た時に、スピーカ正面がある角度以内に見えなければならないということである。
このことは建築の意匠設計に大きな制約を与えることになる。スピーカは一般に黒くて大きい箱体であり、重く、照明のようにデザインすることもできないため、建築的に納めることが難しい存在である。そのため多少隠れていても音は聞こえるだろうと言って、客席から目立ちにくい位置に配置したくなる気持ちも理解できる。しかしその場合に聴衆に到達しているのは、回折現象により障害物を回り込んだ、障害物の大きさよりも十分に波長の長い周波数帯の音と、壁や天井からの反射音であり、音質は確実に劣化している。音は光と違って目に見えないため理解されにくいが、光と同じように障害物によって陰ができたり波面が乱れたりしているのである。音は聞こえるが明瞭ではないとか、内容が分からないという問題の多くが、このような状況に起因している。スピーカの配置と建築意匠はそれぞれ違った主張があるため、その解決には両者の綿密な理解ある協議が必要である。
音に関するクレームは施設が完成し運用が始まってから浮上するケースが多い。しかも不特定多数が利用する施設では、問題が生じていてもクレームに直結しにくく、問題が長い間放置される場合が多い。これらの原因には、まず計画段階におけるオーナー側や設計側の音の質に対する関心の欠如もある。今後、スピーカや音響調整などについて取り上げる予定であるが、スピーカの重要性がより認識されることに期待したい。(内田匡哉記)
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