No.215

News 05-11(通巻215号)

News

2005年11月25日発行
Façade on station side

茅野市民館「誕生祭」でグランドオープン

 JR中央線 茅野駅前に竣工した茅野市民館が10月1日、2日の「誕生祭」の開催で産声を上げた。茅野市民館は、既存の市民会館の改築という形で計画されたもので、多目的利用の大ホール:マルチホール(800席)、小規模コンサート利用の小ホール:コンサートホール(300席)およびリハーサル室のほかに、茅野市美術館と図書室を併設した複合文化施設である。設計はプロポーザル方式で選ばれたNASCA+茅野市設計事務所協会設計共同企業体(代表:古谷誠章氏)、建築工事の施工は清水建設・丸清建設 建設共同企業体である。

Façade on station side
Façade on station side

市民参加型の施設づくり

 計画の早い時期に設立された「茅野市の地域文化を創る会」により、基本構想づくりや建築家の選定などから建物の基本的な仕様の決定までが行われてきた。

施設概要

 茅野市民館は、JR茅野駅に隣接した細長い敷地に建設された。この敷地の一部にあった市民会館を取り壊し、改築したものである。建物全体の平面配置はコの字型で、JRの軌道に沿って図書室とマルチホールを、また軌道から最も遠い位置にコンサートホールを配置している。コの字に囲まれた中央の部分は広場になっており、「誕生祭」ではここで大道芸が披露された。建物は駅側と駅から遠い側でそれぞれの顔を持っている。駅に面する側はガラス面で構成されて開放的であるのに対して、反対側は一部ガラス面があるものの、PC板が大勢を占める少し閉ざされた表情である。正面入口は駅から遠い側となっているが、駅のコンコースに直結した部分にも入口が設けられていて、車や徒歩による来場者と、電車による来場者のそれぞれに対応している。駅に沿う空間はガラス張りで天井が高く、駅側の入口から市民館の中央部に位置する共通ロビーへの緩やかなスロープに、図書室を隣接させている。ここから市民館に入ると、催し物のないときでも、書籍の温かさにもよるのか、このような建物に特有な空気の停滞する感じがなくてホッとする。

鉄道走行時の固体音防止および室間の遮音

 JR電車走行時の振動伝搬による固体音に対しては、事前の測定結果をもとに対策を検討した。マルチホールについては、室内騒音の低減目標値がNC-25だったこともあり、躯体の剛性増加で対応することとした。目標値NC-20のコンサートホールについては、JR軌道からできるだけ離したために振動伝搬への対策は特に必要なかったが、階下の美術館やレストランに対する遮音性能の確保の点から防振遮音構造を採用した。工事完了時における測定で、電車の騒音に関しては目標値を満足していることを、またコンサートホール~レストラン間の遮音性能は88dB(500Hz)で、使用不全く支障のないことを確認している。

マルチホール

 マルチホールは多目的な利用を意図したプロセニアム形式のホールで、客席の側方と後方にバルコニー席が設けられている。クラシックコンサートには舞台反射板の設置で、また、短めの響きが適当な催し物には客席側壁部のカーテンの設置で対応できるようになっている。メインフロアーでは、空気浮上式(エアーキャスター内蔵)の段床ボックスに椅子が固定された客席ユニットを自由に配置することで、様々な客席形態を作ることが可能である。また、客席後壁が可動間仕切り壁になっており、それを収納すると共通ロビーと連続し、さらに共通ロビーの広場側のガラスを開放すると、広場からホールまで見通せる空間となる。

Multi Hall
Multi Hall

コンサートホール

 コンサートホールでは、矩形平面の角の部分に設けられた舞台を取り巻くように客席が配置されている。側壁の開き角度はちょうど90度である。このように両側壁が広がっていると客席中央部に側方からの反射音が届き難くなるが、それを補うために客席後壁の中央を凸形状の曲面として手前に傾け、この部分からの反射音が舞台あるいは客席に返るように計画した。天井高は最高で12m程度だが、これは大音量の楽器や楽器編成が少し大きめな場合にも余裕を持った響きが得られるように意図したものである。後壁両サイドは、ボード壁の表面にステンレスメッシュを貼った仕上げである。このステンレスメッシュに関しては、音響的には透明となるように、できるだけ繊維が細く、開口率の大きいものを選定した。また舞台周りの横リブは、反射音が刺激的になるのを防ぐために設置したものである。横に広がった客席のためか、席による響きの違いはシューボックス形状のホールに比べると大きめではあるが、おおらかで暖かい響きが得られている。また、思わぬ席で予想もできないような素晴らしい響きに出会える楽しみもある。

Concert Hall
Concert Hall

「誕生祭」

 市民参加型の施設ということで、オープニングイベント「誕生祭」においても、よくあるような著名な出演者による催し物ではなく、茅野市出身者によるポップスコンサートや室内楽などが行われた。さらに、2日目夕方のマルチホールはライブハウスに変身し、若者たちの熱気に包まれた。このほかにも芝居や大道芸、寄席などがいたるところで催され、全館挙げてのお祭りムードが市民館全体を包んだ。

管理・運営

 茅野市民館の管理・運営は、指定管理者制度の導入に伴い株式会社 地域文化創造が行なっているが、ボランティアの協力など、市民との協働作業が続いている。(福地智子記)

問い合わせ:0266-82-8222
http://www2.chinoshi.net/shiminkan/

Danish Radio Concert Hall Project

 当事務所で音響設計を進めてきたデンマーク放送コンサートホール(Danish Radio Concert Hall)のプロジェクトは本格的な施工段階に入った。今回はその概要を紹介する。

プロジェクトの概要

 本プロジェクトはデンマーク国立放送局(Danish Radio、以下DR)を移転し、首都コペンハーゲン市の新興開発地域に新しい拠点を建設するというかなり大規模なもので、市内のあちこちに散在している建物の機能を1ヶ所に集中させて放送業務の効率を上げるという目的を持っている。プロジェクトの名称となっているデンマーク語の「DR Byen」は、英語で言うと「DR City」となる。

 施設は大きく4つの建物に分かれており、1) 主要TVスタジオを中心に、その放送技術およびIT、プログラム制作関連、2)報道、娯楽等の番組制作、アーカイブ関連、3) ラジオ局関連と会議室群、4) コンサートホールや制作スタジオからなる音楽とメディア関連、という構成である。コンサートホールは1,800席収容で、これが既存のオーケストラ(Danish National Radio Symphony Orchestra)の新しい本拠地となる。またオーケストラ、ビッグバンドおよびコーラス用の3つの大きな制作スタジオのほか、オーケストラ各パートの練習室群や録音・編集スタジオ群が同じ建物内に配置されている。この工区の建築設計・監理はコンペで当選したフランスのジャン・ヌーヴェル事務所(Ateliers Jean Nouvel)が担当しており、2007年9月までの工期、その後の音響テストなどを経て、2008年初めのオープンを目指している。現在は現場打ちコンクリートの施工が進み、コンサートホールのおおまかな形がわかるようになってきた。他工区のオフィス部門等は先行して完成し、来年にはスタッフの大移動が始まる予定である。

Danish Radio Construction Site
Danish Radio Construction Site

コンサートホールの音響模型実験

 コンサートホールの施工に先立ち、音響特性をさらに詳細に検討するために、昨年の初めに音響模型実験を行った。現場敷地の片隅に模型小屋を設け、1:10の縮尺模型を製作してもらった。使用する測定機材の大半は日本から持ち込んだが、小屋の施工、模型の製作、模型内部のモニターカメラやライトのセッティング、内部の壁などの部分的な変更から窒素ボンベの用意に至るまで、今回特別に採用された1人のコーディネータ(建築家)が指揮を執り、現地各担当者の作業が進められた。模型の製作開始から実験終了までには約半年の時間を要した。

1:10 Scale Model
1:10 Scale Model

 音響模型実験の利点は、事前に実際に音を出し、その結果を波形として観測、分析、あるいは聴感上で確認できることである。音源スピーカに指向性/無指向性の2種類、また測定用マイクロホンについても無指向性/双指向性の2種類を用意して、目的によって使い分けた。音源位置はステージ上に前後2ヶ所を設定し、測定位置については、ホール形状が左右非対称なため、ステージ上と客席内を合わせて43ヶ所となった。有害なエコーが生じないかどうか天井や壁の形状を入念にチェックして、最終的には壁の傾き等を数ヶ所変更することにした。また、吸音仕上げの範囲を決めて、実験の最終段階では窒素を充填して残響時間を測定し、当初の目標に近い値が得られていることを確認した。

 模型は意匠やライティングの検討にも使用された。また、筆者は打合せの際に現在も時折この模型小屋を訪れており、設計監理のツールとして大変有意義なものと感じている。

地下鉄の振動対策

 敷地は地下鉄の駅に程近く、現場近辺の軌道は高架式であるが、軌道から建物の最も近い場所まで水平距離は僅か10数メートル程度である。幸いにも車両はやや小型で走行時の発生騒音はさほど大きくないが、振動の伝搬を抑える必要があることが調査から明らかになった。その対策として、建物躯体に沿って地中に撥水性のロックウールが設置されている。右の写真は施工途中のものである。日本ではあまり見かけないが、現場近郊の他の施設や他国の物件では既にいくつか実績のある工法である。

 筆者は本年4月末から現地に赴任して本物件の音響設計・監理業務を行っている。北欧コペンハーゲンの街は本格的な冬の季節を迎えた。機会があればぜひお立ち寄り下さい。(菰田基生記)

Rock Wool Barrier
Rock Wool Barrier

プロジェクトのホームページ:
http://www.dr.dk/drbyen/english/default.asp

オルガンコンサート新シリーズのご案内

 昨年から4回のシリーズでオルガンコンサートをお届けしてきましたが、来年からはまた新しい趣向でオルガンコンサートを始めることにしました。今度のオルガニストは、豊田市コンサートホール専属オルガニストの椎名雄一郎さんです。椎名さんは、今年から10年がかりでバッハのオルガン作品の選曲演奏に取り組んでおられるなど、目下活躍中のオルガニストです。今回のコンサートでは、前半は来年のモーツァルト生誕250周年にちなんで「モーツァルトのオルガン風味」と題して、オルガン曲にかかわらずモーツァルトの名曲をお楽しみいただき、後半は椎名さん厳選のオルガン曲のフルコースを堪能していただこうと考え、ただいまメニュー(曲目)を考慮中です。当日のお楽しみ、乞うご期待!ということで、今回のコンサートのタイトルは「オルガン・シェフ」。椎名シェフのお薦めするお料理(オルガン曲)が、皆様のお耳に心地よく届くようなコンサートにしたいと思っています。

日時:2006年1月15日(日)14:00開演(13:15開場)
場所:すみだトリフォニーホール 大ホール
チケット(全席指定):一般2,500円、学生・65歳以上1,500円

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