永田音響設計News 05-08号(通巻212号)
発行:2005年8月25日






逗子文化プラザホールがオープン

 大ホール(なぎさホール)と小ホール(さざなみホール)、練習室3室、ギャラリーで構成される逗子文化プラザが今年6月19日にオープンを迎えた。本施設は逗子市が文化・教育ゾーン整備事業の一環として建設したもので、逗子小学校の建て替えを機に、隣接敷地に本施設と図書館が新築された。小学校棟は昨年3月に竣工し、翌4月から子供たちのにぎやかな声が聞こえている。ホール・図書館棟は今年3月に竣工し、新図書館は4月にオープンしている。今回の文化プラザのオープンで一期工事が完了し、この後二期工事として建設予定の生涯学習棟を残し、主要施設が動き出したことになる。設計・監理は日総建、施工は大成建設他で、当社はホール・練習室の音響設計・監理・検査測定を担当した。

■遮音計画
Location of the halls and other rooms (section)
 本施設では大ホールの上手側に図書館が隣接し、下手側に小ホール・練習室が上下に配置されている。断面図を右に示す。大ホールと図書館の間にエキスパンション・ジョイントを、小ホールと練習室の1室に防振ゴム支持の防振遮音構造を採用し、各室間の遮音性能の向上を図った。その性能は大ホール→図書館:D-70、大小ホール間:D-75~80、練習室(防振あり)→大小ホール間:D-90、練習室(防振なし)→大ホール間:D-70~75、同→小ホール間:D-75である。

■室内音響計画
 555席のなぎさホールはプロセニアム型の舞台に音響反射板を備え、クラシック系のコンサートから講演会・演劇まで幅広い演目に利用できるよう計画されている。室形状はシューボックスを基本としたワンスロープで、天井面は音響反射板から客席空間まで緩やかなカーブを描き、舞台と客席とが音響的にも意匠的にも連続した形状とした。内装には陶板(舞台正面中央)、石膏ボード、コンクリート、木、スチール(後壁と側壁のマリオン)など様々な素材が使用されており、それら素材の特徴を生かして拡散形状を計画した。演劇や講演会などのプロセニアム形式時には舞台幕による吸音に加え、客席の側壁上部に設置した吸音幕を併用し残響時間の短縮を図った。大ホールの残響時間(500Hz、空席時)はコンサート形式時が1.9秒、プロセニアム形式時が1.2秒である。客席側の吸音幕の併用により、プロセニアム形式時の残響時間を短く抑えながら、コンサート形式の残響時間をこの規模のホールとしてはやや長めに設定することができた。またコンサート形式時に吸音幕を設置すると残響時間が0.2秒短くできるため、演目や楽器編成、好みなどに応じた調整用としても利用可能である。

Concert style stage of NAGISA HALL
Audience side of NAGISA HALL

 160席規模のさざなみホールは矩形の平土間空間であるが、昇降式舞台と絞り上げ式の舞台幕を備え、幕形式の舞台も構成できるようになっている。展示会や講演会、各種発表会など様々な市民活動に対応する多目的スペースである。壁面は全面スチールパネルで、横長の穴がある格子形状の鋼製パネル(ビル屋上の床や壁等に使われるもの)と無孔のパネルを組み合わせている。スチールは共鳴により特定周波数の音が残ることが懸念され、施工段階においてダンピング方法を検討・実験し、有孔部はゴムを貼り付けた田の字型の鋼材を背後から押しつけ、無孔部は裏面にウレタン40mm吹き付けとした。様々な用途に対して中庸な響きの長さとなるよう有孔部の背後にグラスウールを分散配置した。残響時間(500Hz、空室時)は0.7~0.8秒である。

Interior of SAZANAMI HALL
SAZANAMI HALL's steel panel wall

■舞台音響設備計画
 なぎさホールのスピーカはプロセニアム2基、サイド、ステージフロントでの構成とした。プロセニアムとサイドのスピーカは露出設置されたため、スピーカのもつ音質が十分に発揮されている。その分、取付金物を極力見せないよう配慮し、サイドスピーカは写真のように背面を自在金物で支持しワイヤーで向きを固定した。サブウーハはステージ両端の框下に紊めた。プロセニアムスピーカはスピーカ上部の天井仕上げごと天井裏に引き上げてメンテナンスできるようにした。さざなみホールのスピーカは舞台形式と平土間形式への対応としてプロセニアム2基とシーリングスピーカ6台での構成とした。舞台音響設備の動作特性は下表の通りである。明瞭で自然な音質が得られている。

Side loudspeaker of NAGISA HALL
Characteristics of sound system


■オープニングコンサート
 逗子文化プラザホールは小山実稚恵さんのピアノリサイタルで幕を開けた。今後、市民の様々な文化・交流活動の場として賑わうことを期待したい。(内田匡哉記)

 逗子文化プラザホール http://www.city.zushi.kanagawa.jp/syokan/plaza/


愛・地球博 ポーランドパビリオン

Exterior of Polish Pavilion
 愛知万博も余すところ、あと1ヶ月となった。見所はいろいろあるが、万博に付きものの各国館も100ヶ国以上の参加で、これらを巡るのはちょっとした世界一周気分で楽しい。本報では、遅まきながら音響コンサルティングを行なった施設の中からポーランド館について紹介をしたい。ポーランド館は長久手会場内のEXPOドームに隣接する北欧・東欧など個性豊かな15パビリオンからなるグローバル4にある。ハノーバー(ドイツ)で行われたEXPO2000の各国パビリオンは独自に建設され様々な形態を見せていたが、愛知では1モジュール18m×18m×高さ9mの鉄板で覆われた箱を最大5モジュールまでの範囲で選択し、その箱の中に各国が作り込むといった方法が採られた。ポーランドは2モジュールを使い、マルチメディア映像での自国の紹介とポーランドの作曲家ショパンを中心としたピアノコンサートを行うイベントスペース、古都クラクフ近郊にあるヴィエリチカ岩塩鉱の洞窟内の再現がメインとなっている。設計はポーランド国内のコンペで優勝したIngarden & Ewy, Architectsで、日本の設計組織ADHが実施設計および監理を協力して行い、それに永田音響設計は加わった。

 音響の課題はすぐ裏手にある各種公式イベント等が行われるEXPOドームの発生音に対する遮音であった。基本モジュールは天井がグラスウールをサンドイッチした金属折板2枚、壁が鉄板一枚といった倉庫のような造りで、当初博覧会協会から提出されたEXPOドームでロックコンサートを行なった場合のポーランド館内での予測透過音は騒音レベルで約75dB、これは音声提示やコンサートを考えるポーランド館としては運用上支障が生じると考えられた。そこで遮音対策として内装用の鉄骨(モジュールを支える鉄骨には各国が独自に行う内装分の重量は考えられていない)に遮音層:PB21mm×2を支持し、基本モジュールの外装に加えてもう一層の独立した遮音層を設けた。すでにEXPOドームとの同時使用がお互いに種々のイベントで行われている。

 当初は日本国内企業への発注が予想されたが、施主であるポーランド商工会議所は国際発注を選択し、図面はすべて英語、音響性能値も日本で使われる空気音遮断性能等級Drとポーランドで使われているRA1を併記して記載した。工事はHoltmann Messe+Event GmbH(ドイツ)とZBiD(ポーランド)のコンソーシアムに、日本での建設業許可を持つ(株)新東通信の協力という形で進められた。施工中の打合せや現場確認にも参加したが、打合せは英語で進められ、議事録や現場指示書も英語で取り交わされた。現場に運び込まれる鉄骨はポーランド製、防音扉はドイツ製、現場では国内の作業員の他、ポーランド人、ドイツ人等々、グローバルコモン4の別の外国館も同様にいろいろな国の人たちが作業をしており、EXPOの現場内は日本とは思えないような状景でこれも万博ならではであろうか。

GALISIA Piano in Polish Pavilion
 基本モジュールが一緒なのでファサードのデザインが各館の勝負どころの一つで、ポーランド館は最新のコンピューター技術を駆使してデザインされた立体構成を、写真のように手工芸の職人が白いこり柳を編んで(枝編み竹細工)表現している。ハイテクとローテクの双方が調和しつつ繋がっているダイナミックな形状が圧巻である。イベントスペースでは、週末にショパンの曲を中心としたコンサートが、ポーランド製ピアノGALISIAで聴ける。その他、併設のレストランではポーランド特産ズブロッカ(ウォッカ)を飲みながらのポーランド料理、その脇では特産品の琥珀を使用したモダンなデザインのアクセサリーの販売もある。コンサートのスケジュールやポーランド館の詳しい紹介は次のホームページを参考にされたい。(石渡智秋記)

愛・地球博 ポーランド館WEB http://www.expo2005.info.pl/?nodeid=1&lang=JA


オルガンコンサートのご案内

 あまり聴く機会のないオルガンの音に馴染んでいただき、多くの方にオルガン音楽の楽しさを体験してもらいたいと考えて昨年1月から始めたオルガンコンサート「オルガンの魔術《も第4回の今年9月で最終回を迎えます。第1回目「オルガン・オーケストラ《ではオーケストラ曲を取り上げ、ドラムスのリズムに併せてボレロを演奏し、2回目「オルガン・ジャズ《ではサックスとの競演でジャズを演奏し、3回目「オルガン・ソング《では来場されたお客様にも参加していただく形で童謡や歌謡曲などを演奏するなど、オルガンの魅力をいろいろな角度から探ってきました。今回は最終回ということで、オルガン本来の音を聴く、楽しむコンサートをお届けしたいと考え、前半では聴く機会の多いオルガンの吊曲を、後半ではスコット・ショウ指揮・立教学院諸聖徒礼拝堂聖歌隊をゲストに迎え、これも馴染みのある聖歌をお届けします。今までにもミラーボールやカラフルな照明を使ったり、演奏の合間にはオルガニストの﨑山さんによるオルガンに関する楽しいお話があったり、演奏を聴くだけではなく観ても楽しいコンサート作りを心がけてきましたが、今回もさらに楽しいコンサートにしようと考えています。タイトルは「オルガン・イリュージョン《。どこがイリュージョンかはホールに来てのお楽しみ。

 日時:2005年9月24日(土)14:00開演(13:15開場)
 場所:すみだトリフォニーホール 大ホール
 チケット(全席指定):一般2,500円、学生・65歳以上1,500円


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永田音響設計News 05-08号(通巻212号)発行:2005年8月25日

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