様々な孔あき板(その1)
石膏ボードや合板などの板状材料に多数の孔を開けた孔あき板を表面仕上げ材に用いる孔あき板吸音構造について取り上げてみたい。板の厚さ3~12mm、孔の形状は円形でその孔径4~13mm、が国内で一般的に使われている孔あき板の仕様である。また、板面積に対する孔の割合(開孔率)は3~28%である。そして、大きな吸音効果を得るために孔あき板背後にグラスウールなどの多孔質材料を裏打ちするのが普通である。
吸音原理:孔あき板吸音構造は、孔の気柱が首で背後の空気層が胴となるヘルムホルツ・レゾネータが並んだもの、と見なすことができる。音が入射して孔の気柱が振動するとき、孔の壁面の抵抗やグラスウールなどの裏打ち材の抵抗で熱エネルギーへの変換が生じて吸音されるのである。ヘルムホルツ・レゾネータは、気柱部分が“質量”として、また背後空気層が“バネ”として働くので、ある特定の周波数で共鳴(共振)現象を生じる。気柱はこの共鳴周波数付近で最も激しく振動するので、結果としてレゾネータはこの周波数域で最も大きな吸音性を示す。
吸音特性:孔あき板吸音構造の吸音特性は、共鳴周波数を中心とした山型の特性を示す。共鳴周波数付近では孔まわりの摩擦損失により、孔あき板の背後に多孔質材料が無くてもある程度の吸音率(共鳴周波数付近で最大で0.5程度)を示すが、多孔質材料を挿入するとさらに抵抗が増して1.0に近い吸音率を示す。孔あき板の板厚、開孔率や背後空気層の厚さを変えることで,低音域吸音、中音域吸音、高音域吸音、あるいは広帯域吸音のいずれかに分類される孔あき板吸音構造が実現されるのである。前田建設工業(株)技術研究所の菅広見氏による数年前の調査では、様々な機関から公表されている吸音率データ1,100件のうち、孔あき板吸音構造が約350件を占めている。このように吸音特性の実測データが豊富なこともあり、孔あき板吸音構造はホールやその他の音響空間に限らず、様々な場所で必ずといってよい程使われている。
さて、様々な吸音特性が実現できる孔あき板吸音構造であるが、ホールや音楽練習室では広帯域を吸音する構造がよく使用される。その仕様は、開孔率20%以上の孔あき板+多孔質材料(グラスウールやロックウール)+背後空気層厚さ300mm以上の構成である。その吸音機構は,孔あき板と大きな背後空気層の組み合わせによるヘルムホルツ・レゾネータ型の中低音域の吸音域と、背後空気層の数次の気柱共鳴による中高音域の吸音域が組み合わされたものである。
最後に孔あき板の例をいくつか紹介する。A.最も一般的な円孔の孔あき板(ドリル穿孔)、B.角孔の孔あき板(打ち抜き穿孔)、C.ランダムな孔あき板(レーザー加工)、D.長孔の孔あき板を用いた天井。近年、国内でも円孔以外の孔あき板が手に入るようになり、意匠的な選択肢が広がった。次回はMicroperforated Panel Absorberを紹介する。(小口恵司記)
サンクトペテルブルグの新コンサートホール(Mariinsky3)
サンクトペテルブルグ(ロシア)のマリインスキー劇場の新オペラ劇場の設計が進行中であることは、本ニュース2月号(206号(2005年2月))にて紹介したとおりであるが、これとは別に同じくマリインスキー劇場に所属する新しいコンサートホールの設計も同時に進んでいる。現存のオペラ劇場(Mariinsky Theatre)に対して、新オペラ劇場は Mariinsky2と呼ばれているが、この新コンサートホールは Mariinsky3と呼ばれている。
一昨年(2003年)の9月に、マリインスキー劇場に所属する倉庫(舞台装置や衣装などが格納されていた倉庫で、劇場の建物から数ブロック離れたところにある)で火災が発生し、そのほとんどが焼失してしまったのである。舞台装置のやり繰りなど一時は大変な騒ぎとなったようであるが、芸術総監督のワレリー・ゲルギエフが考えたことは文字通り「災い転じて福となす」、すなわち、消失した倉庫の跡地を利用して新しいコンサートホールを建設することであった。幸いにも倉庫の跡地は、中型のシューボックス型コンサートホールに適した広さと形状であったため、ゲルギエフは直ぐにサンクトペテルブルグ地区管轄の役所に掛け合い、予算の確保に尽力した。そして、新たに1,100席規模のコンサートホールがマリインスキー劇場に加わることになった。
新コンサートホールは、シューボックス型の形状を基本としながらも、ステージの周辺にも客席を配置したり、客席メインフロアにかなり勾配を付けたりして、既存の著名なシューボックス型コンサートホールとは多少趣を異にしている。
建築設計は、パリのアーキテクト”Fabre/Speller/Pumain Architects”が担当している。永田音響設計は、Mariinsky2の新オペラ劇場に引き続き音響設計を担当することになった。現在、実施設計がほぼ完了しており、今後、現場施工図の作成と実際の建設が同時進行する予定である。完成、オープンは2006年中が予定されており、スケジュール的には大変タイトなプロジェクトである。(豊田泰久記)
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