No.208

News 05-04(通巻208号)

News

2005年04月25日発行
Exterior of Akinada Kouryukan

みかんの島に安芸灘交流館“堀ばたホール”がオープン

 温州みかんの大ブランド「大長みかん」のふるさと広島県の豊町に本年2月、安芸灘交流館がオープンした。豊町は人口約3000人、広島県の呉、竹原、三原港等から高速船で約30~60分、瀬戸内海の大崎下島にある。この島の南東端には江戸時代から北前船の寄港地として、また参勤交代の諸大名が立ち寄ったとされる潮待ち、風待ちの港として栄えた御手洗地区がある。この古い町並みが重要伝統的建造物群保存地区として残されている。穏やかな海と急な斜面に覆い尽くすばかりのみかんの段々畑が印象的な島である。

Exterior of Akinada Kouryukan

 みかんの集積地区の大長港に程近く、北堀と南堀の中間に建設された安芸灘交流館は将来、隣に建設予定のみかんメッセージ館と一体となった複合施設である。豊町のふれあい拠点施設として建設されたこの施設は255席のホール、図書室、調理室、多目的室、文化教室、和室等がある。住民参加型の施設づくりを目指した豊町では「堀ばた会議」と名づけられた町づくりワークショップを実施し、町並みに似合う瓦屋根、バリアフリー、ホールの形態等々、施設のハード面から運営方法まで町民のアイデアを施設の設計に反映させたという。設計は株式会社 都市環境研究所、株式会社 龍環境計画である。

 ホール棟はみかん畑のあちこちにあるみかんの収納倉のように、素朴で、外観の山形の屋根と換気、採光のための4本のハイサイドライトの塔が印象的な建物である。舞台はあるが、フライタワーはなく、とくにプロセニアムアーチがあるわけでもない。客席は2段のコの字型のギャラリーを持つ平土間形式である。舞台と客席が一体となった空間は、米松集成材を用いた小屋組み構造、木軸、天井に張られた杉板など、木質系の構造と内装が独特の温かみを感じさせてくれる。移動観覧席187席に可動席68席の小規模なこのホール、公募により「堀ばたホール」という愛称が付けられている。

View from audience area
View from stage

 ホールの舞台は正面に固定の反射壁があり、これに引割り幕、バック幕、袖の東西幕という幕類の構成である。側壁は390mm×190mm角の中に110mm角の穴が2つ開いた穴あきコンクリートブロック(150mm厚)積みの仕上げで、その背後の一部に吸音のためグラスクロス付きグラスウールを配置した。後壁は表面をリブ仕上げとしたグラスウールの吸音構造である。響きをやや抑えた仕上げ構成で、舞台幕設置、移動観覧席設置時の残響時間は0.8秒(500Hz)である。なお、舞台音響設備のメインスピーカは上部のキャットウォークに、またはね返りスピーカは舞台サイドのギャラリーに露出で取付けられている。

 オープニングイベントには参加していないが、広島県呉市との合併前のこの2月、豊町産業文化祭など各種のイベントが満席の中、盛大に行われたそうである。町民のふれあいの拠点であるとともに観光客との交流の場ともなるであろう施設が、まずは町民が親しみやすい施設として活用されていくことを期待したい。春、みかんの白い花の咲くころ、甘い香りが漂う島へいかがですか。(池田 覺記)

安芸灘交流館 広島県呉市豊町大長5915-3 tel. 08466-6-2111

開館10周年を迎えた那須野が原ハーモニーホール

 1994年、当時20代の若き建築家、早草・仲條両氏(セル・スペース)の設計により、大田原市と西那須野町の広域文化施設として那須野が原ハーモニーホールが竣工した。(本ニュース1995.1 通巻85号

 文化施設が地域に貢献するには建物を建てるだけではない、いかに運用するかに因っているとは今更言うまでもない。単なるパフォーマンスを見せる場に留まらない、このホールの10年間の活動をご紹介したい。

Nasunogahara Harmony Hall

丹羽正明館長の信念

 開館以来この施設の館長を音楽評論家として広く知られる丹羽正明氏が務められている。10年程前の開館当初、各地に多くの文化施設が建てられ、著名音楽家や文化人が公共ホールの館長や芸術監督に就任されることもあった。しかしその後、運用に対する役所や運営財団との考えの違いや、バブル崩壊後の予算削減などで志し半ばでやめられるケースも多くみられた。そういった社会情勢の中で、丹羽館長は就任当初から着実に成果を挙げられ、市長や町長をはじめ役所からの信頼はもとより、市民からも支持を得て、現在も尚、益々精力的に指導を続けられている。

養成講座

 ホール開館以来、文化団体育成事業としていくつかの養成講座が行われている。オーケストラ養成講座、合唱団育成講座は既に10年、その後、演劇講座、2002年からは少年少女合唱団育成講座も始まり現在も続けられている。練習はいずれも月に1回のペースで、音楽系は大ホール(コンサートホール)、演劇は小ホール(演劇ホール)で行われている。個別のパート練習は練習室にて行われる。講師は、オーケストラでは音楽監督のほかに弦楽器と管楽器の指導者が、合唱については、合唱指導者のほかにヴォイストレーナーが毎回指導する。いずれも無料。さらに少年少女合唱団の子供たちには、空席があれば、ホール主催の公演を無料で鑑賞できるという特典がある。これらのほかに舞台操作技術者養成講座が開かれ、ホールの技術スタッフである財団の舞台技術系職員が講師となって、将来ホールで働きたいという夢を持つ若者たちを指導している。

 丹羽館長は、これらの講座参加者に、単なるカルチュアセンター受講者では終わらずに、プロレベルの高い技術を持ったオーケストラ・合唱団になることを期待している。養成講座が始まって3年くらいは各講座100人前後の参加者があったが、ここ6年くらいは50人程度で安定している。今でもこの講座には開館当初から長く参加している方が多く、全体の演奏レベルはかなり向上した。これは丹羽館長の思惑どおりであり喜ばしい方向であることには間違いないが、一方でこれから参加しようという人にとってはついて行きづらく、途中から参加されてもすぐにやめてしまう人もいる。そろそろ能力別に複数クラスに分けることも検討しなければならないのではないかと、ホール事務局主幹の小林氏は語る。

自主事業

 年間の自主事業のうち約半分はクラシック音楽系である。事業企画も担当する小林氏は、「自主事業は赤字になる」と最初からあきらめた気持ちは持っていない。本施設まで1時間圏内のエリアに対し、新聞、TV、ラジオを使って宣伝する。最近は集客も増え、地元出身の音楽家ならば利益が出ることもあるという。

10周年記念行事

 10周年記念行事の一環として、オーケストラ、合唱団の参加者が総力をあげて取り組める音楽作品の創作委嘱を行い、東京芸術大学教授の佐藤眞氏の作曲、リンボウ先生こと林望氏の作詞により合唱組曲「美しい星に」が完成した。内容は、那須野が原の自然を題材とし、四季を追って歌い上げるという壮大なテーマで、5部構成の大曲となっている。昨年12月に行われた開館10周年記念式典・合同演奏会では、前半の記念式典に続き、後半大ホールにおいて講座に参加しているオーケストラと混声合唱団、児童合唱団のメンバーによるお披露目の演奏会があった。自分たちのために作られた管弦合唱組曲をもつ地域の方々。この日、この地域に暮らすことの幸せをかみしめたに違いない。さらに、この合唱組曲はこの地域にとどまらず、全国、全世界で歌われるというビジョンが丹羽館長にはある。そういう意味で、この日の演奏会は“世界初演”となった。

The 10th anniversary concert

ホールのこれから

 丹羽館長は、これまでの音楽評論活動に加えてホール運営に携わり、様々な貴重な経験をされ成果を残された。本施設では来る5月19日(木)、「音楽ホールに未来はあるか」と言うタイトルでシンポジウムが行われ、丹羽館長が基調講演を行う。ホールを運営する自治体担当者にとってはぜひ聞きたいテーマであろう。(小野 朗記)

那須野が原ハーモニーホール URL
http://www.nasu-hh.com//

NSCA Systems Integration Expo 2005

 3月10日から12日の3日間にわたり、NSCA(National Systems Contractors Association)による音響・映像製品を中心とする展示会がアメリカ・フロリダ州オーランドで開催された。毎年恒例となっているこの展示会は今年で25周年を迎え、年々増える出展ブースの数も今回は約600となり、大勢の参加者で大変な賑わいであった。

 1階の大きな展示場には、スピーカやマイクロホンなどの音響製品と、プロジェクタ、モニターおよびスクリーンなどの映像製品に加え、会議システム、監視カメラ、音響機材をネットワーク制御するためのハードウェアやソフトウェアなど、多種多様な製品が所狭しと並べられていた。

Exhibition
Exhibition
Demo room
Demo room

 2階には、14のスピーカデモルームがディーラーごとに設定され、計22社の新製品説明と試聴が繰り返し行われた。パソコン画面をスクリーンに映し出しながら製品の詳細を説明するのに加え、ずらりと並べられたスピーカを次々と試聴して行く際には、音が出ているスピーカをスポットライトで照らし出すなど、プレゼンテーションの方法が各社工夫されていて大変わかりやすかった。音響製品の核となるこのスピーカに関しては、2Wayあるいは3Wayボックス型の改良版と、小型ラインアレイタイプの発表が目立った。

 3階の約20の会議室では、各社製品の取り扱い説明やソフトウェア操作のセミナーに加えて、NSCAによる教育プログラム(防災計画のマネージメント、電気設備全般の計画と施工の能力認定、音響設備の計画とチューニング、AV設備間のネットワーク接続、AV会議設備の計画、宗教施設のAV設備計画など)が随時行われていた。

 以上、膨大なプログラムを事前にざっと眺め、興味の対象をある程度絞り、順番を考えながら場内を歩き回って行くと、短期間で効率良く情報が得られた。特に、2階と3階で行われたデモとセミナーは、日本国内で行われる展示会ではなかなか体験できない大規模なものであり、大変有意義に感じられた。展示会場やデモルームの片隅にはミーティングができるちょっとしたコーナーが設けられているところが多く、そこでの各社の担当者とのコミュニケーションは、ネットサーフィンでは得ることができない貴重なものであった。来年はラスベガスで開催が予定されている。(菰田基生記)

問い合わせ http://www.nscaexpo.org/

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