行徳文化ホールI&Iがオープン
市川市行徳に昨年10月、市川市の公会堂である「行徳文化ホールI&I(あいあい)」がオープンした。本施設は市川市立第七中学校の校舎を複合施設として建て替えるPFI事業によって整備されたものである。完成した施設には校舎・給食室の他、公会堂、ケアハウス、デイサービスセンター、保育園が設置されている。学校の校舎がこのような複合施設として整備されるのは全国的にも前例がないそうである。設計・監理は日本設計、施工は大成・スターツ・上條建設共同企業体、公会堂の劇場計画はシアターワークショップで、永田音響設計は主に公会堂の音響設計・監理・検査測定を担当した。
建物は長方形の平面形状をしており、行徳駅に近い西側の端に公会堂が配置されている。公会堂の1階は可動間仕切りで3つに分割可能な大会議室(180人収容)で、2階から上がホール(647席)である。ホールは音響反射板と舞台幕とを備えており、反射板を設置したクラシック系コンサートやプロセニアムアーチを構成した講演会・軽演劇など、幅広い演目に利用できるよう計画されている。客席は1階席が移動観覧席と移動椅子で、これらを収納することで客席部分を平土間にすることもできる。2階席は固定椅子である。また通常は前舞台が増設された状態であるが、これを取り外すことで最大718席となる。
建物の高さ制限のため、クラシック系コンサートでの適度な響きを得るのに必要な室容積の確保が困難であったが、天井高さを可能な限り高くし、なんとか6m3/席の気積を確保した。また吸音面はエコー防止に最低限必要な後壁面にとどめた。1階席の側壁とバルコニー席の手摺壁は、音の拡散を意図しやや太めの木リブ仕上げとした。木リブは太さと表面のテーパーの向きがそれぞれ異なる6種で、間隔も3種類とし、大きさの異なるリブを、間隔をランダムに変えて並べた。平土間時の床と天井でのフラッターエコー防止のため、天井の格子状に分割された面と正面バルコニー下の天井に、僅かに前後方向の傾斜をつけている。ホールの残響時間は反射板設置時:1.3秒、舞台幕設置時:1.1秒(何れも空席時、500Hz)である。
ホールの階下に配置された大会議室と給食室との遮音のため、ホールにはグラスウール浮き床と1階席レベルの壁に防振遮音層を設置した。本来ならホール全体を防振遮音構造とすべきであるが、スペースに余裕がない点とコストの面から部分的なものとなった。それでも大会議室や給食室に採用した防振天井とあわせて、ホールとの遮音はどちらも80dB以上(500Hz)の性能が得られている。極端な大音量を発生しない通常の用途であれば支障なく同時使用できると考えている。
ホール舞台音響設備のスピーカ構成は、拡声のメインとしてプロセニアムセンター・サイド・ステージフロントの各スピーカに加え、サイドバルコニー席と1・2階席後部用に補助スピーカを設置した。特にサイドバルコニー席用のスピーカは、舞台上にスピーカを持ち込んで使用する際にサイドバルコニー席がカバーできないことに配慮したものである。また演劇効果音およびDVD等のサラウンド音声の再生にも対応するようシーリングスピーカとウォールスピーカを設置した。操作面では、簡単な拡声・再生や映像提示が容易に行えるよう、舞台袖に簡易操作卓を設け市民利用に配慮した。舞台音響設備の動作特性は、最大再生音圧レベル:90dB以上、伝送周波数特性(160~5,000Hz):偏差10dB以内、音圧レベル分布(4kHz):偏差6dB、安全拡声利得(マイク5種類):-6~-9dB、残留雑音レベル:NC-15以下(いずれも舞台幕設置時)で、聴感的にも明瞭で自然な音質が得られている。
ホールは「国府弘子スペシャルトリオPiano Concert」で幕を開けた。ジャズでのこけら落としは新鮮だった。その後、会館記念公演として「N響メンバーによる弦楽五重奏団」などのクラシックコンサートから、フォーク、講演会など多彩な催し物が行われた。今後は市民の様々な文化・交流活動の場として賑わうことを期待したい。 (内田匡哉記)
行徳文化ホールI&Iホームページ
http://www.city.ichikawa.chiba.jp/iandi/
ホームシアター考察 その1
最近、個人宅のホームシアターのコンサルティング業務が急増している。これはDVDソフトやビデオプロジェクタなどAV機器の普及に伴っていることは明らかである。施主の注文も「DVDソフトを大画面で観たい」、「DVDでオペラを鑑賞したい」など、映像が中心ではあるが「よい音で」ということも必ず付け加えられる。また、遮音や吸音といった建築音響上の設計・監理だけではなく、AV機材の選定や販売店との交渉、さらに施主が満足する結果が得られるまで設置・調整に立会うことが業務の一環として要求される。
2004年の夏に中村研一氏の設計によるK邸(山桜のあるコートハウス)が完成した。当社はその中の床面積36m2(約22畳)、天井高3.4mのホームシアターの音響設計を担当した。室の使用目的はDVDソフト、LPレコード、CDの鑑賞で、K氏の嗜好はオペラなどの歌曲を中心にクラシック音楽全般、ジャズである。そこで1970年代の末から1980年代にかけて実施した40件余りの個人宅やオーディオ関連メーカ、出版社などのリスニングルーム設計を振り返りながら、特にスピーカやリスナーの配置と室の共鳴現象との関係、反射音の再生音に及ぼす影響などに注目して音響設計・監理を実施した。ここでは、ホームシアターの基本的な考え方を整理しつつ、K邸における実施例を紹介したい。
思い返すと1980年代ではリスニングルームの基本的な設計条件も宙に浮いたままブームが去り、そこにまた映像再生も加わったホームシアターのブームが来てしまったのである。これでさらに設計条件の整理が難しくなることが予想されたが、すでに機器配置のよりどころとなる基本条件が存在した。それは映像を伴うマルチチャンネル(5.1/7.1ch.サラウンド)再生を行なう場合のスクリーン/ディスプレイとスピーカの配置を規定したITU-R BS.775-1という推奨規格である。サラウンド収録/編集を行なうスタジオのコントロールルームもこの規格に従って作られているため、再生室についてもとりあえず同様の機器配置にすればよいと考えられ、これがホームシアターの出発点ともいえる。
小さな室における今までの試聴経験から、いくつか問題点が残っていると感じられる。室の響きの影響は、スピーカの性格や置き方などのオーディオ装置の設置状況による音の変化やプログラムソースに含まれる様々な響きなどと複合した結果として、リスナー位置で受聴される音量、音質、音像などに表われてくる。これが特定のリスナー位置における受聴音を平均吸音率や残響時間といった物理量のみで一義的に予測できないことの大きな要因となっているのではないか。従来からも、スピーカからの直接音に干渉する反射音や室の共鳴、フラッターエコーなどの影響によって生じる音質や音像の好ましくない変化を吸音構造と拡散体を適切に配置することで抑制しようとしてきた。クラシック音楽かポピュラー音楽かといったプログラムの内容によってそれらの配置や量を変えるとそれぞれマッチするパターンがあることも実験的に確かめてはいる。しかし、さらにコントローラブルな設計手法にするべきだと常に気にはなっていたのである。
一方、コンサートホールや多目的ホールの室内音響設計においては、20年ほど前から直接音に対する反射音の遅れ時間に着目した設計手法に重点がおかれるようになり、一定した評価が得られるまでになってきている。また、電気音響設備のSR/PAの分野においても反射音の影響が引き起こす不具合に対する認識が高まってきている。そこで、K邸のホームシアターでは特に反射音の遅れ時間と室の共鳴現象である定在波に着目して設計することを試みた。
その結果、完成したホームシアターは従来のリスニングルームとはかなり違った形になったのである。スピーカに向かって室が横長の形状で天井が高く、吸音構造や拡散体(凸凹)が極端に少なく平坦で大きな壁・天井面などの特徴をもつ。そして両サイドの壁は上に向かって開くように傾けてあり、天井は逆ドーム形状、つまり下に向かってカーブさせてある。このつづきは次回に。(稲生 眞 記)
日本建築学会環境基準について
日本建築学会では、多様化・高度化する要求や新たな技術の進展に速やかに対応できる設計・施工技術の発展を誘導するために、学会が刊行する規準・標準仕様書の作成体制を見直し、規準・指針等の実務的支援文書のあり方について検討を進めてきた。2001年4月には、その結果として、学会規準・仕様書等の意義と役割、文書の定義、作成のプロセス等についてまとめられた「学会規準・仕様書のあり方検討委員会 報告書(答申)」が提出されている。これに基づいて、日本建築学会の中の環境工学分野(音・振動・熱・空気等)をとりまとめている環境工学委員会でも、アカデミック・スタンダードWGを設置して、各環境工学分野におけるアカデミック・スタンダード:建築学会環境基準(AIJES: Architectural Institute of Japan Environmental Standard)の整備を徐々に進めている。
ここでいうアカデミック・スタンダードとは、「学会基準」「規準」「学会標準仕様書」「指針」「その他の文書」の総称である。「基準」は原理・原則をまとめた文書ということで、日本建築学会内の常置委員会の研究分野ごとにまとめたものにつけることが決められていて、環境工学分野におけるアカデミック・スタンダードということで「建築学会環境基準」と命名されている。作成にあたっては、①性能規定化への対応、②作成プロセスにおける中立化と透明性の確保、③信頼性・整合性の確保、④目的・用途の明示、⑤国際化への対応、等を考慮しシンポジウムや査読によって外部からの意見を取り入れることが明示されている。現在までに刊行されたものは「建築物の振動に対する居住性能評価指針・同解説」だけであるが、この他に、企画刊行1、音環境1、熱環境5、空気環境3、建築設備1の合計11のアカデミック・スタンダード作成が進められている。音の分野では、行政レベルでの「騒音に係る環境基準」や日本工業規格での建物の音響性能に関するJIS等が制定されており、また建築学会からも「建築物の遮音性能基準と設計指針」(1997年第二版)でいろいろな施設に対する音響性能が示されているのに対して、空気・熱の分野では既存の基準等が少ないことや近年ホルムアルデヒド等のトラブルが多いことなどから、アカデミック・スタンダードの刊行が盛んに計画されている。
音環境からは「学校施設の音環境保全規準」の刊行を計画しており、教室をはじめとする諸室における音響性能(室内騒音、室間の遮音性能、床衝撃音遮断性能、響きの程度)の推奨値の提案を予定している。近年増加しているオープンスペースを伴う教室配置での遮音不足や、ガラスを多用した天井の高いアトリウムやランチルームなどでの長い響きによる音響的なトラブルは学会でも多く報告されている。学校は子供たちが発育期の多くの時間を過ごす場所であることや、計画時において少しでも音響への配慮があれば改善される例が少なくないことから、多くの施設の中でとくに学校施設を取り上げてアカデミック・スタンダード作成に取り組むことが決められ、2002年秋から「学校施設の音環境アカデミック・スタンダードSWG(主査:福地)」において検討が進められてきた。そして昨年12月に、これまでにまとめた内容に対する研究会を開催し、多くの方から貴重な意見をいただいた。今後これらを反映し刊行する予定である。(福地智子記)
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