まつもと市民芸術館オープン
まつもと市民芸術館は、松本駅から東に約800mの旧市民会館跡地に建設された松本市の施設で、主ホール、小ホール、大・中リハーサル室等からなる。今年の8月29日、主ホールはサイトウ・キネン・フェスティバル オペラ「ヴォツェック」、小ホールは館長兼芸術監督の串田和美氏演出・出演の「スカパン」でオープンした。プロデューサー兼支配人には、以前に東急文化村文化事業部のチーフマネージャーをされていた渡辺弘氏が就任された。
敷地北側のエントランスを入り、外壁のGRCパネルにはめ込まれたガラスから柔らかく光が差し込むのを眺めながら正面の幅の広い階段をあがると、3Fのロビーに到着する。このロビーは主ホール、小ホールのホワイエをつなぐ共通のエリアであるが、その広々とした空間は本施設が狭い敷地に建てられていることを忘れさせるほどだ。階段を上がりきってすぐの主ホール後舞台用調整室のガラスの壁面から舞台内部を覗くと、本舞台の奥の客席まで見通すことが出来る。主ホール後舞台およびロビー直上の5Fレベルには大・中リハーサル室が位置する。設計は伊東豊雄建築設計事務所、建築施工は竹中・戸田・松本土建特定建設工事共同企業体が行なった。
主ホール
主ホールは4層バルコニー、馬蹄形の平面形状を持ち、最大1,800人を収容するホールである。室内に足を踏み入れると、まずその色彩に目を奪われる。壁面・客席椅子が舞台に近い側の黒色から舞台から離れ上階にいくに従って淡いピンク色へとグラデーションで変化していく。バルコニーのオフホワイトの天井面とそれを縁取る照明と合わさって、とても華やかな印象であり、自然と気持ちが高揚するのを感じる。
本ホールでは演劇・オペラ・コンサート等、多目的利用に対応するため、各用途に対する機能、客席数、残響時間等の適切な条件を、昇降天井・昇降反射板の上下、オーケストラピット・前舞台、ポータルブリッジを利用した舞台反射板の設置により実現した。昇降天井はバルコニー2段分下がり、室容積が約4,500m3減少する。(本ホールでは、昇降天井が高い状態を大ホール、低い状態を中ホールと呼んでいる。)また、後舞台は移動観覧席を備え、実験劇場として使用するように設計されている。
室内音響設計としては、馬蹄形という基本形状により客席中央部で初期反射音が得にくく、舞台上で円弧状の後壁からの反射音がエコーになりやすいという問題を解決する必要があった。これらについては設計段階のコンピュータ・シミュレーションによる検討に引き続き、現場監理段階で1/20縮尺模型を用いて検討を行なった。その結果より、側壁前方の波型壁およびシーリングギャラリー下面に音響的に有効な角度を含む曲面を設け、客席へ初期反射音を到達させた。エコー防止のためには、バルコニー手摺りや後壁に波形状を採用した。また、側壁前方や昇降反射板、シーリングギャラリーの表面は拡散を意図して細かい波形状とした。コンサート形式時の残響時間は1.4秒(満席時)である。
小ホール
小ホールは主に演劇利用として計画された箱型のホールである。舞台袖壁やギャラリー壁面に必要に応じて吸音カーテンを設置し、響きを調整できるようになっている。また、舞台上部屋根面にはトップライトが設置されており、仕込み時等の照明を担っている。ここの遮音はスライド式の防音パネルを設置することで対応した。
大・中リハーサル室
大・中リハーサル室は、天井から吊した空調用グラスウールダクトを吸音、フラッターエコー防止にも活用し、壁面にはアルミパンチング吸音パネルを分散配置した。また、主ホール~大・中リハーサル室間および大・中リハーサル室間の遮音性能を確保するため、各リハーサル室に防振遮音構造を採用した。大リハーサル室は屋上庭園に面するガラス壁を全面解放することが出来、とても気持ちの良い空間である。ここでは、アクターズ・トレーニング・スクールなどのワークショップも催されている。(箱崎文子記)
舞台音響設備
舞台音響設備の設計は、市來邦比古氏(世田谷パブリックシアター)のアドバイスのもとに行ない、施工はヤマハサウンドテックが実施した。
主・小ホール共に、舞台音響設備は多目的ホールに求められる機能と性能に加えて、本格的なオペラや演劇の上演を満足すべく、効果音の編集・再生機能や舞台連絡設備を充実させた。主ホールでは主舞台を逆向きに使い、奥舞台に可動客席を展開すると360席の実験劇場となる。そのため移動型の機材を充実させ、大・中リハーサル室も含めて対応できるように考えた。
主ホールのメインスピーカは2Wayワンボックス型+サブウーハの3Way方式とし、プロセニアムL, C, Rとサイド下手・上手から構成した。従来から、囲われたスピーカ収納部で音がこもったり、クリアさが低下する現象を防止するために内部の吸音処理を行なってきたが、本ホールではさらにサイドスピーカ収納部の背後を、音をよく透過する材料…黒い幕地とした。これは実際に施工中の現場で試聴試験をして決めたのであるが、ボード材と比較すると低音がかなりクリアになり、不思議なことに舞台中央部への音の回り込みが軽減される効果もあった。当然、音質補正も無理なく行なうことができ、結果として拡声音はクリアながらも温かみと深みのある良好な音質となった。さらに演劇効果用として大型シーリング、ウォールスピーカなどを多数、設置した。また、音響調整卓はフルスペックのデジタル卓とした。小ホールは発表会、芝居など様々な利用を考慮して、小型デジタルミキサーや移動型スピーカなどを中心とする柔軟な機材構成とした。スピーカとパワーアンプは館内での利便性を図り、そのほとんどに独d&b社製のものが選ばれた。このアンプは各スピーカの音質補正用フィルタを内蔵し、さらにパソコンから電源のON/OFF、ミュート、レベル設定や監視、エラー監視などが可能なため、機材の日常的な点検・仕込み作業を容易にし、確実な運用を支援する効果も得られた。
本施設ではオペラや演劇などの演目に対して、単発的な引越し公演のみならず、ここで企画・制作し、ある期間上演するという運営方針が建築と舞台設備の規模やグレードを決め、機材選定条件ともなった。つまりそれは、想定される上演組織(プロダクション)が必要とする機能や性能を、建築や舞台設備がどこまで具備すべきか…ということである。
プロダクションの運行に必要なものとして舞台連絡設備は重要である。連絡設備は音声モニタ、映像モニタ、楽屋呼出、演出・仕込みトークバック、インターカム、インターホン、キューサインランプなど多岐にわたるが、これにより演出家や各デザイナーの意図を隅々まで伝え、設備操作の指示を出し、作業の安全性を確保することができる。当事務所では1980年代の末から、この連絡設備の機能を整理し、使いやすさを改善しつつコストの低減を目指して計画を続けてきた。やっと最近になって、小規模ながらも公共多目的ホールにも組み入れることができるようになってきた。本ホールにはフルスペックで設置しているので、機会があれば、ぜひ舞台裏もご覧になっていただきたい。
ちなみに、舞台照明は朊部基氏(あかり組)、舞台機構は小栗哲家氏(アートクリエイション)がアドバイザーとして指導され、本杉省三氏(日大理工学部)が総合的にとりまとめられた。舞台照明設備の施工は松村電機製作所、舞台機構はカヤバシステムマシナリーが実施した。(稲生 眞記)
まつもと市民芸術館(http://www.city.matsumoto.nagano.jp/mpac/)
事務所設立30周年を迎えました
お蔭様で私ども永田音響設計は、設立30周年を迎えることができました。これを記念し、先月28日、トッパンホールでこれまでのお礼の気持ちを込めまして「感謝の集いコンサート」を行ないました。コンサートではハーピストの吉野直子さんに演奏とお話をお願いしました。「自分が出そうとしている音をなるべくそのままで、良い形で聴いてもらいたい、これが一番の願いである。」「トッパンホールはハープのソロにとって最高のホールの一つ、適度の響きがあって、でも響きの中で細かいことが埋もれてしまうのでなく、表現したい細かいニュアンス、素直な響きをそのまま伝えてくれる。」とおっしゃる吉野さんが、ハープのいろいろな響きを楽しめるようにと、バロックの古い時代のものからピアノ曲として親しまれている曲等のプログラムを組んでの演奏でした。繊細なハープの気持ちよい響きが堪能できた集いであったかと思います。「ホールもひとつの大きな楽器みたいなもの、楽器と同じくらい大事」と図らずも私どもの仕事に大きなエールを送って下さった会にもなりました。
なお、この催事に際し頂戴いたしましたお祝いの一部をこのたびの新潟県中越地震及び兵庫県台風災害被災者への義援金とさせていただきました。(池田 覺記)
DVDソフトウェア
「建築と環境のサウンドライブラリSMILE2004」のご案内
日本建築学会 環境工学委員会より「建築と環境のサウンドライブラリ(Sound Material in Living Environment) SMILE2004」が発行されたので紹介する。最初の予定では各種音源のデータ集の作成ということで2000年から活動が始まったのだが、時代に即したwavファイルでの収録ということに変わり、このために構成された「建築・環境音源集成WG」の各委員がマイクロフォンとDATを担いで収集に走り回って集めた音源がなんと913個も収録されている。建築音響の測定や実験に使用される音、日常生活の中で発生する音あるいは聞こえてくる音、無響室録音された楽器演奏音など広範囲にわたる。周波数特性や音圧レベルも併記されているうえに録音箇所の写真も掲載されており、検索も容易に行えるようになっているので、建築音響に従事している研究者、実務者にとっては非常に利用価値の高いものになっている。また音源だけではなく、授業を想定した教育用や実務者用のプレゼンテーションにも使用できるようにまとめられたものも含まれており、さらに無響室録音とインパルス応答のたたみ込み積分などの専用ソフトも添付されている。書店では取り扱っていないので、お求めは下記までファクシミリ(名前・住所・TEL・商品名・本数を記入)をお送り下さい。定価65,250円(税・送料込)。(福地智子記)
技報堂出版㈱営業部サウンドライブラリーDVD係
TEL:03-5215-3165 FAX:03-5215-3233
オルガンコンサートのご案内
今までに2回ほどご案内したオルガンコンサートの第3弾「オルガンSONG」を下記の通り開催します。今まではオーケストラ曲をオルガンで演奏したりサックスと競演したりして、オルガンの魅力や可能性を探ってきましたが、今回は“歌”を取り上げました。オルガン音楽に密接に関係している宗教曲だけではなく童謡や歌謡曲などにも挑戦します。大きな声で一緒に歌いませんか?
日時:2005年1月8日(土)14:00開演(13:15開場)
場所:すみだトリフォニーホール 大ホール
チケット(全席指定):一般2,500円、学生・65歳以上1,500円
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