No.198

News 04-06(通巻198号)

News

2004年06月25日発行

深川市文化交流ホール「み・らい(見・来)」

 東京人にとって「深川」といえば、深川めしで有名な下町の「深川」を思い浮かべるのではないだろうか。しかし、今回ご紹介する深川市は、北海道のほぼ中央、旭川市の隣に位置する人口約27,000人の、冬雪深く、夏緑豊かな、のどかな街である。 この街に本年4月、深川市文化交流ホール「み・らい(見・来)」がオープンした。この愛称は地元の小学生によるもので、広く市民から募集した結果、数ある応募案の中から選ばれた。「見に来る」という意味だそうだが「未来」という語もイメージされている。

 本施設は、久米設計と柴滝建築設計事務所の共同設計で、施工は地元深川市を拠点とする寺岡工務である。柴滝建築設計事務所は、かつて旭川市クリスタルホールの設計を担当された、旭川でトップの設計事務所である。

Interior of the hall

施設概要

 本施設は、691席の多目的ホール、ワークショップホールおよびその他の付属室で構成されている。ワークショップホールは、音楽、ダンスなど各種練習や簡単な発表会のできる平土間のスペースであり、オープン以来多くの市民の方々に利用されている。このホールは多目的ホールの舞台と隣接する位置にあり、同時使用も有り得ることから、ホール舞台との界壁を2重壁とし、さらに防振遮音構造を採用することで、遮音性能を高めている。その結果、多目的ホールとの遮音性能は90dB/500Hz であり、様々な催し物に対して同時使用が可能となっている。

多目的ホールの利用状況

 多目的ホールの計画段階で市側から出された要望は「演劇主体のホール」であった。これは、地元深川市に演劇団体が4つあり、それらが盛んに活動しているということからだった。この規模の公共ホールの場合、「演劇主体のホール」といっても、実際の利用の半分以上が音楽に使われるということが多い。しかし、このホールの開館記念事業は、市から委託された演劇団体である深川芸術劇場などにより企画され、市が主催する公演のうちの半分が演劇関連であり、当初の要望どおり、演劇主体の利用状況となっている。今後の盛んな利用が期待される。

残響時間

 多目的ホールの残響時間は、クラシック音楽から演劇まで、それぞれに適した値を目指し、コンサート形式である舞台反射板設置状態で1.5秒、舞台幕形式の状態で1.1秒(いずれも満席時推定値、500Hz)となっている。

舞台音響設備計画

 多目的ホールの舞台音響設備は、スピーチ拡声の機能を基本として考えられており、プロセニアム上部および両サイドにおもなスピーカが配置されている。また、調整室内に設置されているデジタル調整卓は、舞台袖のノート型PCからリモートコントロールが可能で、簡単なスピーチであれば舞台袖だけで操作することができる。(小野 朗、菰田基生記)

深川市文化交流ホール TEL:0164-23-0320         

なら100年会館をたずねて

 設計から現場まで数年にわたって担当した施設は、その一つ一つがかけがえのない自分の足跡である。旧友のごとく時にふれ、思い出す。都内などの近郊にあれば公演に出かけることも比較的容易だが、新幹線や飛行機を使って…となると、残念ながら様子を窺いに行くことが難しい。“なら100年会館”にもしばらく訪れる機会が持てずにおり、元気でやっているかなぁ?と思っていたが、昨年12月に奈良方面への出張と中ホールのコンサートのスケジュールがうまく合い、会館を訪れることができた。

Exterior of Nara Centennial Hall

 なら100年会館は、1992年に国際コンペで選出された磯崎新アトリエの設計による特徴のある施設である。1999年2月のオープンから、はや5年が経過した。大ホールは、センターステージやエンドステージなど、ステージと客席設定が8通りに変化するフレキシブルなホール(イベント空間と呼んだほうが私はイメージが湧きやすいと思う)である。中ホールは、純粋にクラシック音楽の演奏会を目的としたシューボックススタイルのガラスを用いたコンサートホールであり、残響時間も2.0秒という長い値としている。詳しくはNews 99-03号(通巻135号)や、公式ホームページを御覧いただきたい。

 国内に数多くある市民会館(可動の音響反射板を持つ、いわゆる多目的ホール)とは異なるこの施設に対して、竣工からオープン当初、運営を任された館長をはじめとするスタッフのみなさんには、とまどいがあったように思う。大ホールについては「オーケストラを呼んでくるつもりなのに音響反射板はないのか?」、中ホールは「規模的には講演会に使いやすいが(434席)、響きが長すぎて講演には上向き」といった、あらかじめ想定された用途とは異なる使い方ではあるものの、いろいろな不満の声が聞かれた。結局、大ホールには、音楽利用に対する補強として、豊富に用意されていた道具バトンから吊り下げられる浮き雲状の天井反射板と、舞台を取り囲むことができる衝立方式の反射板(キャスター付)が追加された。

Interior of Main Hall

 以上のいろいろなことを思い出しながら、コンサートが始まる前に事務室を訪ねたところ、オープン当初から変わらない椊村館長、駒田室長の懐かしい顔が見えた。「どうもご無沙汰しています。今日はコンサートを聴きに来ました。」という私の挨拶に、駒田室長の「やぁ、がんばっていますよ」との第一声がたいへん元気で明るかった。続けざまに「すごいでしょ。いろいろ言われもしたけれど、今は全国でトップクラスの稼働率ですよ。」と新聞記事を見せられた。それは奈良新聞と産経新聞の“なら100年会館黒字は目前”という収支比率などを記した記事であった。

2004.12.04 Sankei Shimbun Report

 5年に一度行われる全国公立文化施設協会加盟1500施設を対象とした「平成13年度自主文化事業実施状況調査」によると、同会館の実績は、事業数37、公演回数46で入場料収入額は8451万5千円、総支出額は9909万円で、収支比率は85.3%。これは練馬文化センター、宇都宮市文化会館に次いで第3位とのこと。さらに奈良市文化振興センター調べでは、14年度は10%向上の見込み、とのことである。この記事に書かれるホール収支決算はホールごとに算出方法が違うようなので一概には何とも言えないが、お二人とも、とても溌剌とされていた。他にもいろいろお話をうかがった。

  • プロモーターと契約し、ホームページやパンフレットなどを刷新してPRに力を入れた。
  • チケットを必ず売り切ることを目標に、生協などの団体誘致など、事務室の面々が自らの足を使って毎回奔走する。
  • 人気アーティストの公演を始めたところ、大阪からの交通の便が良いので(JR奈良駅前)、大阪公演を購入できなかったファンが奈良公演を買い求めに来て売り切れるということがわかり、徐々に“なら100年会館”で公演を行なうアーティストが増えた。
  • 当初はとまどっていた一般的な市民会館とは異なる大ホールの造りも、センターステージなどが可能なフレキシブルな空間が売りになって、集客力のある幅広い公演を呼べることがわかった。
  • クラシックコンサートといっても、公共のホールでは底辺を拡大するような気軽に楽しめるコンサートの需要が高く、そのような公演は本格的なコンサートホールでなくても大ホールで趣向を凝らした公演が可能との話も聞けた。クラシックコンサートについては、館長は曲の合間に客席に向かって指揮者や演奏者から話をしてもらうようにお願いしているそうである。お客さんにクラシックコンサートをなじみやすくし、再びコンサートに足を運んでもらえればという戦略である。
  • 中ホールについては、当初申し込みのあったカラオケ大会などは、使ってみてそぐわないことがわかり、だんだん消えていったそうである。反対にクラシックコンサートについては、一度使うと、毎年使用してくれるリピータが多いとのこと。私としては施設建設時の意図通りにそれぞれのホールが使われてきているようで、大変うれしい話であった。

 さて、その日のコンサートだが、中ホールで「ならチェンバーオーケストラ」の公演があった。客席はほぼ満員。老若男女様々である。はじまりを知らせる陰アナウンスが入り、やはり拡声には響きは長めだなぁと改めて認識。オーケストラの演奏は豊かな響きの中にもクリアな音質で楽しめた。曲の間に指揮者からの挨拶と曲目紹介があった。指揮者のしゃべり方が良いのか、陰アナウンスと違ってスピーチは明瞭に聞こえ、レクチュアコンサート程度であれば問題ない音質だと感じた。また、「指揮者からのプレゼント」と題して、客席から希望者を募ってヴェートーベン第5交響曲「運命」の冒頭を指揮する体験コーナーが設けられた。すぐに手を挙げた初老の男性はスコア全部を暗記しているとのことで感激もひとしおにオーケストラを指揮された。コンサート終了後、指揮をされた飯森範親氏にお話を伺ったところ、「よく響くホールですね。でも、舞台ではお互いの音がよく聞こえて演奏しやすいとみんなで話していました。」とのことだった。

 というわけで旧友は私が思う以上に元気でかつ成長を遂げており、溌剌としていた。私にとって、とても有意義なホール訪問であった。(石渡智秋記)

アテネのオリンピック施設訪問

 去る5月に、オリンピック施設や新空港に納入されたTelex プロオーディオグループの音響設備機器を見学するためアテネを訪問した。グループの社長を始め、販売代理店、施工会社、音響コンサルタントなどの関係者が、世界各地から約100名、アテネに集結した。

 最初に、2001年にオープンした新空港を訪問し、独ダイナコード社の新製品「プロマトリクスシステム」を見学。空港のアナウンスシステムに、そのデジタルオーディオネットワーク製品群が採用されている。航空会社のカウンターなどに置かれたページング子機からネットワークを通じて音声および制御信号がブラックボックスに導かれ、そこでルーティング、音量・音質等が調整されて、音声はパワーアンプへ、制御信号は出力リレーへと送られて、必要なエリアに放送ができる。エリアの設定からスケジューリング、パワーアンプの制御や監視、音質調整まで一括してPCでコントロールできるようになっている。

 次に、お目当てのオリンピック施設を見学に行く。屋内外の馬場、ビーチバレーの会場、体育館などを訪問。これら会場のスピーカはすべて米エレクトロボイス社製である。各会場はオリンピック後に解体撤去されるらしく、同社のSX/RXシリーズなど安価な製品が中心に設置されているが、試聴した拡声音の音量、音質、明瞭さなどは競技者の紹介や案内放送に対して十分である。無理は承知で音楽CDも試聴したが、ギリシャの澄んだ青空や強い陽射しにマッチしたラテン系の開放的な音が印象的だった。すべての会場で英マイダス社製の小型アナログミキサーが使用されており、日本のように大規模な音響調整卓を設置することもなく、実用的でリラックスした雰囲気が好ましかった。スピーカはしっかり設置するが、ミキサーはシンプルなものでよいという割り切った考え方は米国や欧州のスポーツ施設に共通するものでもある。

Speakers under the roof
at Beach Volley Stadium

 もちろん、夜は…ライブハウスに行きました。観光客向けの店ではあったが、客も歌ったり踊ったり、地中海に面したレストランでもDJブースがあり、かなりの音量で唄や音楽を流していた。何事にも思いっきりの良いお国柄である。

 今回のツアーで印象的だったのは次期オリンピック開催地である中国から来ていた「国家体育場」などの関係者で、その好奇心が旺盛なところはまるで我々の二、三十年前を見るようであった。音響機材の知識も十分あり、設計や施工を少し経験すれば、世界に十分通用するのではと思われた。高度成長期の日本のようなその勢いが続けば、中国が名実共に世界一の大国になるのは時間の問題であろう。数十年後?のその時、日本人はアジアの東端でどのような生活を送っているのだろうか。欧州東南端のギリシャの人たちのように、家族や友人とリラックスした日常生活を楽しむのもいいかもしれない。(稲生 眞記)

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