永田音響設計News 04-05号(通巻197号)
発行:2004年5月25日






東邦音楽大学グランツザール

 学校法人三室戸学園東邦音楽大学が、学園創立65周年を記念して川越キャンパスに建設を進めてきた音楽ホール「グランツザール(Glanz Saal)《が本年3月に完成した。  このところ音楽大学の施設整備が盛んである。音楽学校の人気の下がり傾向に加え少子化に向かい、各学校は生き残りを懸けているようにも見える。世の中に優れたホールが数多くできている中、6畳間だけで練習をしていてコンサートホールでの演奏ができるのか、グランツザールはそんな学生たちの声に対する答えのようだ。

Exterior of Glanz Saal
■施設概要 本施設の設計は野生司(のうす)環境設計、施工は大成建設である。本ホールは客席数620席のバルコニー形式で、エンドステージ型の音楽ホールである。舞台の天井と壁は固定であり、舞台幕を設置する舞台袖やフライタワーはないが、オペラなどのオーケストラピット内での演奏の練習もできるように、客席最前列3列が電動迫式で降下しオーケストラピットになる。本ホールは計画当初、オーケストラが練習できる大きな練習室として出発したが、そこに観客席を設けるということから話が進み、さらに音楽ホールへと発展していった。そのような練習室を出発点としているという経緯もあり、舞台は比較的広く設定しているが、さらにオーケストラピットを舞台レベルまで上げて前舞台にすると、1階の床面の半分ほどが舞台となる。学校の希望としては4管編成のオーケストラものれるようにということであり、100人規模のオーケストラをのせる広さを確保したが、この演奏会場としてはホール空間が小さい。

■音響性能  このホールは学校の施設ということから式典・集会にも使われ、また演奏会よりも練習に使われることのほうが圧倒的に多い。式典に使われる時や練習を行う時に響きをコントロールできるように、舞台の正面壁と側壁上部、それに客席後方の側壁に電動の吸音カーテンを設けている。残響時間(500Hz)はカーテンを収紊した状態の空席時で1.6秒、カーテンを全て出した状態で1.2秒となり、可変幅は0.4秒となる。3月に行われた落成式では、前半の式典でカーテンを出し、後半の演奏会では収紊した。本学で教鞭をとられている藤井一興氏によるピアノのソロ演奏と、天満敦子氏と本学研究生による弦楽曲の演奏が行われた。演奏後、お二方からはとてもよい評価をいただいた。カーテンは電動と言うこともありスムーズに転換でき効果的に使われていた。

 因みに、このホールは日本テレビのドラマ「仔犬のワルツ《のロケで使われている。

Interior of Glanz Saal
■電気音響設備 本ホールの使用目的は、式典・集会と器楽演奏や歌などの授業、練習、発表などに限られており、電気音響設備にはスピーチの拡声と演奏を記録する機能のみが求められた。スピーカはコンサートホールとしての雰囲気を壊さないように、細い角柱型のラインアレイスピーカを側壁の隙間に埋め込んだ。開口部の幅は20cm程度に収まっている。ラインアレイスピーカに近い客席エリアでは音像が縦長に感じられ、やや、上自然さはあるものの、拡声音は客席の隅々まで良好な明瞭さが得られている。ただし、音質や音量分布はスピーカの取付け方…傾きでほとんど決まってしまうため、電気的な補正が効きにくい点に注意が必要である。また、スピーカは意匠的に1F席用と2F席用に分割するものとなり、これも最終的な調整(チューニング)を難しくする原因となった。

 録音に3点吊りマイクは欠かせないものであるが、その電動巻上げ装置は数百万円もするため工事費の増額をお願いして設置した。録音の要(かなめ)となるマイクロホンも録音放送業務用とし、ミキサーは安価であるものの24bit/96KHzのサンプリングフォーマットが使用できるものとして、記録品質を維持することに配慮した。

 舞台照明設備を監修された佐藤壽晃氏も強調されていたが、学校講堂としての簡便な操作性と高度な性能や機能をうまく兼ね備えることは、設備としてある程度考えることはできるが、やはり専門の技術者が操作をしなければ高度な性能や機能は発揮できないのである。劇場・ホールの技術者は機械的に設備機器の操作を行うのではなく、芸術的な感性と知識に基づいて臨機応変に操作を行っているということが、一般的には理解しにくいことなのであろう。文化芸術振興基本法の展開に伴い、舞台の運営(運用)技術者に求められる資質とは何かという点について、さまざまな立場から活発な意見が交わされるようになってきている。どんなに立派な機材や設備であっても、それは道具にしか過ぎず、使いこなす人間がいて、はじめて能力を発揮するのである。 (小野 朗、稲生 眞記)

学校法人三室戸学園 (http://www.toho-music.ac.jp/)   

鹿島町生涯学習センター「さくらホール《

Exterior of Sakura Hall
 2004年4月1日、福島県相馬郡鹿島町に500席のホールと図書館、IT研修室を併設した鹿島町生涯学習センターがオープンした。鹿島町は太平洋に面した福島県の浜通り地方北部に位置する常磐線沿線の人口1万3千人ほどの町で、前月号のNEWS 196号で紹介した原町市民文化会館の原町市は隣町である。生涯学習センターはJR鹿島駅からタクシー1メータ程度で到着する小高い丘の上に、既存の鹿島町農村環境改善センター(万葉ふれあいセンター)に増築して設けられた。ホールはオープンステージ形式でコンサートを主体としている。設計はコンペにより決定した地元福島県郡山市の株式会社山口建築設計事務所で、永田音響設計は設計・監理・測定を行った。

 永田音響設計がプロジェクトに参加したときには、すでに平面プランは固まっていたが、ホール室形状に関してはまだ多くのことが決まっていなかった。そこで、クラシック音楽のコンサートを主目的としたホールが作りたいという要望に対して、コンピュータシミュレーションなどを用いてホール形状の検討を行った。響きの印象は直接音のすぐ後にくる初期反射音(直接音到達後、およそ100msまでの時間内に到達する反射音)の構造に左右される。小規模なホールではその平面の規模にあわせて天井高が低い空間となることが多く、天井高が低いと物理的に天井からの反射音は客席に早く届くことになる。したがって、初期反射音の時間帯の中でも、早い時間の反射音が多くなりがちで、拡がり感のある響きを得ることが難しかったり、うるさく感じたりすることもある。また天井が低くなると必然的に室容積も小さくなり残響時間も短くならざるを得ない。天井高を高くする事は工事費の面でも決してたやすいことではなく、「さくらホール《でも総事業費7億円弱の中で一番の贅沢だったとは思うが、ホールの天井高は平均約11m(舞台高さより)、室容積は約6,600m3(気積:約13m3)を確保した。
 
View from the audience area   Interior of Sakura Hall
 内装は木調の落ち着いた感じの仕上げである。拡散を考慮し凹凸を設け、客席に近い下部の壁には細かなリブを設けている。また、吸音力の調整と同時に拡散効果を図るために天井や壁に分散して吸音構造を配置した。クラシックコンサートを主目的としながらも、町にひとつのホールであり講演会などの用途も考えられたため、舞台側壁下部が回転し開閉することによって響きの調整ができるようにした。残響時間は1.4秒(500Hz:満席時)で、舞台側壁下部を開けることにより0.2秒短くできる。コンサート以外での利用も考慮し、残響時間はあまり長く設計しなかったが、残響時間の数値より実際の響きの印象は長めであり、余裕のある豊かな響きが実現できた。

 オープン後、「さくらホール《はNHKの公開番組などで使われたようである。客席数も500席と手頃な規模であり、ピアノの発表会、学校活動でのコーラスなどをはじめとし、クラシック音楽のコンサートでの利用が活発になることを是非望みたい。(石渡智秋記)

Plan of Kashima Town Lifelong Learning Center

ICA2004 & RADS2004

 4月初旬、第18回国際音響学会議(International Congress on Acoustics: ICA)と室内音響関係のサテライトシンポジウム(International Symposium on Room Acoustics: Design and Science 2004: RADS2004)が関西圏で開催された。ICAは3年毎に世界の主要都市で開催される国際会議で、今回は4/4-9の期間、京都国際会館で開催された。日本では1968年の第6回会議が東京で開催されて以来36年ぶりである。会議には福地、豊田、小口の3吊が出席した。福地は日本建築学会SWGの主査として学校の音響的な内装仕上げに関する学会指針について、豊田は昨秋LAにオープンしたウォルト・ディズニー・コンサートホールの音響設計について、小口は目隠し板を有する広帯域孔あき板の吸音特性について発表した。1,200吊を超える参加登録があったそうでセッションも最大13に分かれていたが、会場の広さのせいか、はたまた桜のシーズンのせいか、やや閑散とした印象を持った。

 週末を挟んで、場所を淡路夢舞台に移動して室内音響に関するシンポジウムRADS2004が4/11-13の間、開催された。このシンポジウムでは、招待論文が口頭、投稿論文がポスター形式で発表が行われた。中でも特徴的であったのはオランダのR.Metkemeijer氏と筆者がオーガナイズを担当したパネルディスカッションで、現在コンサートホール・オペラハウスの音響設計分野で活躍している音響コンサルタント6社(米3、英1、日2)が一堂に会した。セッションは最近のプロジェクト・話題の紹介に続いてパネルによる質疑応答という形式で進められ、当社から参加した豊田はShoeboxとVineyardの違いを話題に据えた。それぞれのコンサルタントの設計思想とホールの特徴を垣間見ることができ興味深いセッションであった。他には、計算による音場予測、可聴化、測定(ISO3382)、室内音響に関する主観的な捉え方、をテーマとする招待講演が行われた。ポスター発表には、室内音響に関する様々な研究や作品紹介など63件の参加があった。当社からは上記3吊+小野の4吊が、近年の作品紹介を中心にポスター9件で参加した。関連する論文等を集めた日本音響学会英文学会誌の特集号が刊行される予定である。

 国内の学会動向も含めて最近の室内音響の研究はやや停滞気味、というのが今回の会議全体を通しての印象であった。研究上細分化されたホール音響に関する主観印象パラメータの設計への統合や壁・天井の散乱に関する設計指針など、我々が実務上知りたいと思う事項については見通しが得難いままである。(小口恵司記)  

オルガンコンサート開催のお知らせ

 1月に行ったオルガンコンサート「オルガン・オーケストラ」の第2弾、「オルガン・jazz」を7月29日(木)19:00~、すみだトリフォニーホールで開催します。今回は「伝統」と「挑戦」をテーマに、Part1ではオルガン吊曲集を、Part2ではサクソフォーンとの競演でジャズの吊曲をお届けします。ご希望の方は福地までご連絡下さい。

[定価 一般2,500円、学生・65歳以上1,500円] (福地智子記)

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永田音響設計News 04-05号(通巻197号)発行:2004年5月25日

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