No.193

News 04-01(通巻193号)

News

2004年01月25日発行
Yamaguchi Center for Arts and Media (YCAM)

山口情報芸術センター ─ ビッグウェーブ山口 ─

 山口市が建設を進めていた山口情報芸術センターが昨年11月にオープンした。2002年4月の市長選挙で建設計画の見直しを掲げた合志栄一・現市長が当選し、工事を中断して市民による見直し検討が行われたことで話題となった施設である。工程上は、建物の骨組みとなる鉄骨全体がほぼ組上がった状態での工事中断であった。

 見直し検討のために市民を中心に100名で構成された“見直し市民委員会”が組織され、その会議の冒頭で合志市長は見直しの目的について、“市民の理解と支持のもとに建設され、活用されてゆく施設にすること”という考えを表明した。“メディアアート”、“マルチメディア”など馴染みの薄い言葉が並んだこの施設の事業内容について、説明が不十分であるという市民の声がその根底にあったようである。市民委員会会議録を辿ると、100名もの委員を擁する会議体であるので当然様々な方向性を持つ意見が出されている。大別して、施設解体と用途の再構想・文化施設以外への用途変更・文化施設として中身を見直す・現行計画どおり、の4つの選択肢から委員の選択を求め、最終的には“中身変革案を提言し、他の案を併記”した提言書がまとめられた。この提言を受けて市長は約2ヶ月間中断していた工事の再開を指示した。

Yamaguchi Center for Arts and Media
(YCAM)

 “中身を見直す”という具体的な内容は、市民参加を基本とした事業展開と事業予算の圧縮で、ハード面の変更はほとんどなく施設は昨年3月に完成した。

波状大屋根の下に配列されたスタジオと図書館

Section of YCAM

 敷地は、白狐が傷を癒したという伝説のある湯田温泉と山口県・市の行政の中心地区との中間に位置している。山口市が中心市街地の創出をめざして開発を進めている地区の核施設の一つである。敷地北側では現在NHK山口放送会館の移転工事が進められおり、南側の山口ケーブルビジョンも合わせて、地区全体が“情報”という言葉で結びついている。

 センター内には、市立図書館とスタジオと呼ばれる3つの劇場を中心とする文化施設が収容されている。建築デザインは磯崎新氏で、施設全体を覆う大屋根は周囲の山並みに呼応してうねり、それぞれの山の部分に高さの必要なスタジオAのフライズとフラット床のスタジオBが機能的にうまく納められている。外壁は異なった模様が織り込まれたガラスのカーテンウォールで構成され、また大屋根の谷の部分にもガラスで仕切られた中庭が設けられていて、建物内部に自然の光がふんだんに取り入れられている。その分、遮光と遮音確保のための端部の収まりの検討が重要な設計課題の一つであった。

3つのスタジオ

 最も大きなスタジオAの客席は可動式で、客席段床パレットを空気圧で移動させ迫り機構で奈落に収納すると、床面積約800㎡の平土間空間に転換できる。収容人員はエンドステージ・段床形式で約500席である。劇場にふさわしく、内装は黒系統色に統一され、音響的にも壁・天井は吸音素材で仕上げられ響きを抑えた空間となっている。段床形式・空席時の残響時間は0.7秒である。

 スタジオBは一転、白を基調とした展示・身体や映像表現のための箱型空間である。南側は中庭のガラスを挟んで図書館に接し、北面はやはり中庭を挟んでホワイエに接している。可動間仕切りによりこれら南北のガラス面を塞ぐと白い壁面の空間に転換する。スタジオ内での大音量発生を想定してボックス・イン・ボックスの防振遮音構造が採用されている。可動間仕切りの走行レールが防振支持されているので、間仕切りを閉めた状態でボックス・イン・ボックスが成立する。


 スタジオCは固定席100席の映像・講演会のためのホールである。最近のシネマ・コンプレックスと同様に、床・壁・天井すべて吸音仕上げとゆったりした椅子の仕様である。

市民参加とオープニング

 本センターでは公共施設の計画としては珍しいことに、工事初期の段階から地元山口大学で教鞭を取られていた吉光純也氏や東京・世田谷パブリックシアターで経験を積まれた岸正人氏が運営の専門スタッフとして活動を開始していた。“中身の見直し”で打ち出された市民参加型の事業展開の一環として、企画運営会議が設けられて事業の内容等の調整が行われ、また市民のニーズを調査・収集して事業を企画する市民委員会も活動している。

 オープニングシリーズでは、携帯電話で発信されたメッセージが光の明滅に変換されて夜空を飛び交うインスタレーション(アモーダル・サスペンション)や、前もって撮影された動きを映しながら踊るダンス(イリス)など、“現代アート”・“メディアアート”と呼んでよさそうな催し物がふんだんに登場しているが、子どもも楽しめる企画・展示があったり、ホワイエの白い壁を利用して“小津安二郎監督作品”が上映されたり、結構みんな楽しんでいるように感じられた。また、企画運営会議でも一連のオープニングに対して好意的な評価がされている。まずは順調な滑り出しではないかと思う。中断・見直しの良い効果の持続に期待したい。(小口恵司記) 

最近のホール用補聴システムについて

 近年、様々な所でバリアフリー化が進んでいる。公共ホールの電気音響設備の分野では公共施設という性格から、従来から聴覚障害をもつ観客が催し物の音声を明瞭に受聴できるように補聴システムが導入されてきた。聴覚障害(難聴)といってもその程度は様々で、軽度では「小声での会話が聞き取り難い」程度から、最も重度の場合には「かなり大きな音でないと感じられない」程にもなる。難聴者=補聴器使用と思いがちだが、軽度難聴者には補聴器を使用していない方も大勢おられ、正確な統計はないが、わが国の難聴者は約600万人(人口の約5%)にも達するという報告がある。高齢化社会の進行につれ、加齢性難聴者もますます増えていくであろう。これら全ての人にとって、マイクで集音した必要な音声のみをヘッドホンや補聴器で直接聞くことができる補聴システムは大きな助けとなる。一般的な補聴システムには、現在、以下のような方式がある。

磁気誘導方式

 対象エリアを囲むように敷設(床埋込みが多い)したループアンテナに催し物の音声信号を流し、補聴器の誘導コイルで受信し聴取する方式である。誘導コイル付き補聴器(耳かけ型やポケット型、中~重度難聴用)であれば、使い慣れた補聴器がそのまま使えるのが特徴で、従来、多く導入されてきた方式である。しかし、コイルのない耳穴式補聴器を使用する場合や補聴器を使わない軽度難聴者は利用できず、また磁気誘導を利用するため音質の劣化が生じ、補聴器の身に付け方や種類により感度差が生じやすいという難点がある。機器構成はシンプルであるがアンテナ敷設にコストがかかるため、施設規模が大きい場合には特定のエリアに限定して設置されることが多い。最近でも新築時に導入されるシステムの約半分が従来からの流れでこの方式であるが、性能的には後述の電波方式や赤外線方式が上回っている点は否めない。

電波方式

 音声信号を送信機から電波(300MHz帯や教育福祉専用電波75Hz帯)で送信し、専用受信機で受信する方式である。音質が良く、受信機にイヤホン等を接続して受聴するので、補聴器を持たない軽度難聴者も利用でき、インダクタをつなげばコイル付き補聴器(磁気誘導利用)でも受聴できるのが特徴である。また、受信エリア内では座席を限定されずに利用可能である。ただし、その範囲は概ね送信機から30~50m程度であるため、小~中規模施設に適している。小型の送信機を1台設置するだけで大がかりな施工が不要であり、建築意匠への影響も少なく、改修でも簡単に導入することができる。難点としては、電波の性質からデッドポイントが発生する場合があることやトラック無線など強力な外来電波によりノイズが発生すること、専用受信機が必要なのでその貸し出しや管理業務が発生すること、補聴器利用者には扱う部品が多くなることなどが挙げられる。業務用は機器(特に受信機)が高価で磁気誘導方式と同程度のコストがかかるが、民生用は安価で小規模施設には最適である。最近ではFM受信機を内蔵した補聴器も発売されてきており、今後、補聴器と連動したシステムとして発展していく可能性がある。

赤外線方式

 音声信号をラジエータから赤外線で送信し専用受信機で受信する方式で、受聴形態は電波方式と同様に柔軟である。オーディオ用のワイヤレスヘッドホンに採用されているように音質が良い点と、受信状態が安定していて座席による差が少ない点、ラジエータの台数を増やせば受信エリアを拡張でき大規模な施設にも対応が容易な点が特徴である。赤外線は壁などを透過しないため、隣接室でも混信なく同時使用でき、多チャンネル送信が可能であることから、多国語同時通訳システムに多く採用されている。ステレオ受聴が可能な機種もあり、性能・機能は大変充実している。施工は、送信機の設置と配線程度なので比較的容易である。難点は、電波方式と同様に、専用受信機が必要なこと、太陽光が直接当たる場所では使用できず遮光が必要なこと、機器が高価であることが挙げられるが、最近では磁気誘導方式と同程度にまで低価格化が進んできている。

 専用受信機を必要とするシステムを導入した公共ホールの場合、受信機は10台~客席数の3~5%の数を用意するのが一般的である。また、多くの受信機に付属しているインナーイヤホンは衛生面から好まれないため、オープンイヤホンを揃えておくのがよい。難聴者にとっては、密閉型ヘッドホンを利用し両耳で受聴する方が望ましいが、ほとんどの受信機がモノラル端子であるため、両耳ヘッドホンの接続にステレオ─モノラル変換コネクタが必要になるのが難点である。メーカに改善を望みたい。

 上記のような各種補聴システムが多くの公共ホールに導入されているが、その存在が利用者に認知されていないことが多く、利用頻度が低いのが現状のようである。利用者には好評で、一度利用した人は次も利用することが多い。ホール入口などにシステムの案内掲示をするなど積極的なアピールを望みたい。また、赤外線方式や電波方式では専用受信機が必要となるため、その管理と貸出業務が発生する。少人数のスタッフで運営されている多くの会館では大変な業務となるが、利用を促すためにも積極的な対応を望みたい。一方、メーカには利用者にとっても管理者にとっても使いやすいように配慮された機器の開発と、更なる低価格化を期待したいところである。(内田匡哉記) 

日本オルガン会議のご案内

 日本オルガン研究会は、オルガン演奏家、建造家、研究者、オルガン音楽愛好者の団体で、今年で創立30周年を迎えます。その記念事業のひとつとして、3月25日(木)から27日(土)の3日間、横浜みなとみらいホール、国際基督教大学(東京都三鷹市)においてオルガンコンサート、講演会、シンポジウムを中心とした国際大会を開催します。

 今回はスウェーデンのイェーテボリ・オルガン・アート・センターで長年歴史的オルガンの研究とその復元の仕事に携わってこられた横田宗隆教授をお招きし、世界で唯一ともいえるオルガン研究のメッカ、イェーテボリ研究所のオルガン研究活動の現状についての講演の他、オルガンの様式と展望についてのシンポジウム、その間にR.ギエルミ氏によるオルガンコンサートなどが予定されています。

 大会の参加費は10,000円ですが、オルガンコンサートのみの参加も自由です(各コンサートとも、入場料は3,500円)。申し込みおよび詳細は、日本オルガン研究会(Tel:03-3237-0340)まで。(永田 穂記)

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