Fisher Center for the Performing Arts at Bard College のオープン
今年の4月25日、アメリカ・ニューヨーク州のバード・カレッジ(Bard College)という大学で、約900席の中規模多目的ホールがオープンした。当事務所が音響設計を担当してオープンしたアメリカで初めてのホールである。バード・カレッジは、ニューヨークのマンハッタンから約150Km北の、ハドソン川に面したAnnandaleという小さな町にあり、1860年に設立された歴史のあるこぢんまりした大学である。
バード音楽祭
このバード・カレッジのキャンパスでは、1990年以来、毎年夏の音楽祭が開催されてきており今年で14年目となる。これまでは仮設のテントという環境で、主にオーケストラ、ソロ、室内楽などを含む10-12のコンサート、またレクチャーを中心に行われてきた音楽祭であったが、今年からはこの新しいホールを中心に、そのプログラミングも、オペラ、劇、ダンスなどまで、幅広く拡充される予定である。この小さな町の小さな大学で行われている音楽祭が国際的に知られているのは、毎年1人だけの作曲家にスポットを当てて、作品だけでなく、その人生、また作曲家を取り巻いた歴史なども合わせて深く掘り下げて紹介するというユニークなプログラムによる。このアカデミックなアプローチがニューヨーク市内からこの地域に避暑に来ている知識層にうまく受け入れられている。
レオン・ボッツスタインとフランク・ゲーリー
この音楽祭を主宰しているのが、バード・カレッジの学長であり、またニューヨークのリンカーンセンターを本拠地とするアメリカ交響楽団(American Symphony Orchestra)の音楽監督兼指揮者のレオン・ボッツスタイン(Leon Botstein)氏である。新ホールはもちろん、大学の教育、パフォーマンスのために作られた場であるが、それと同時にこの音楽祭を通じて、大学および地域の国際的知名度を上げ、学生や観光客を引き寄せることによってそれをまた地域の活性化につなげようという、ボッツスタイン氏の大きな構想の柱として約75億円(62百万ドル)もの予算を掛けて建設されたものであり、そのためにニューヨーク州は約6億円(5百万ドル)もの予算をこのプロジェクトに投資している。新ホールはこのボッツスタイン氏の指導により、コンサートとオペラの上演を可能とした多目的ホールとして計画、設計された。建築設計はロサンゼルスの建築家、フランク・ゲーリー(Frank O. Gehry)氏で、当事務所としては、同氏との共同作業により設計され、現在ロサンゼルスのダウンタウンにて建設が進んでいるウォルト・ディズニー・コンサートホールに先駆ける形でオープンを迎えることになった。
多目的ホールとしての音響性能、ステージ音響反射板
多目的ホールとはいえ、その音響性能に求められたものは決して妥協を許さないワールド・クラスとしてのものであった。そのため、設計当初からそのキーポイントとなるステージ周り、および可動型ステージ音響反射板の設計に大きなエネルギーを注いだ。大型オーケストラの演奏を可能にするためステージの面積を大きく確保し、さらにステージ上部の天井高を十分に確保することに努めた。そのため、オペラ用のオーケストラ・ピットをステージレベルまで上げた状態をコンサート用のステージの一部として利用することによって、コンサート用のステージをできるだけ客席方向に迫り出させた。これにより、従来型多目的ホールにおけるステージに比べて天井高をかなり高く設定することが可能となる。さらに低音域から高音域まで有効な反射音が得られるよう、音響反射板の質量をできるだけ大きく確保した。一方、建設コストを抑える必要性から、反射板の移動や設置に必要な労力と時間に関しては妥協が図られた。反射板を設置する際には5~6人、5~6時間が必要となっている。
音響特性
残響時間(500Hz):コンサート仕様時;約1.9秒(空席時)、約1.7秒(満席時)。オペラ仕様時;約1.3秒(空席時)、約1.1秒(満席時)。(満席時はいずれも空席時測定値からの推定計算値)。
空調騒音は、ホール客席内全体にわたってNC-15以下が実現されている。
オープニング
コンサートホールとしてのオープニングは、マーラーの交響曲第3番という100人規模のオーケストラのプログラムによって行われた。このホールのキャパシティ(コンサート仕様時:約800席)を考えると、室内オーケストラ程度のアンサンブルが理想的なサイズといえるであろう。オープニングのコンサートからこのホールの最大限の可能性を追求するというのが、音楽監督のボッツスタイン氏の面目躍如たる方針であり、同時に我々にとっては大きなチャレンジとなった。
完工後、色々なサイズ、形態のアンサンブルによるチューニング・セッション、オープニング・コンサートのためのリハーサル、そしてオープニングと、緊張の連続であったが、結果としてのマーラーの交響曲は大成功といってよい出来であった。最も心配したフォルティシモの大音量時においても音量的に飽和することはなかったし、ステージ上のすべての楽器がとてもクリアに聞こえた。繊細なピアニシモもホール中に響き渡った。オープニング・コンサートに引き続いて行われたソロや室内楽のアンサンブルによるコンサートは、いずれもこのホールの音響的に大きなキャパシティを示すことになり、ニューヨーク・タイムズなどの新聞評においても高く評価された。この7月25日に、今年のバード音楽祭の一環として、今度はオペラ仕様のホールとして再びオープニングを迎える。今年の音楽祭はチェコの作曲家ヤナーチェクに焦点が当てられ、Osudというオペラが上演される予定である。なお舞台装置のデザインは、アーキテクトのフランク・ゲーリーが担当している。(豊田泰久記)
http://www.bard.edu/fishercenter/
札幌コンベンションセンターがオープン
コンベンション都市としての発展を目指す札幌市が建設を進めていた札幌コンベンションセンターが昨年末に完成し、今年6月にオープンした。札幌の中心部から地下鉄で約6分の東札幌駅から徒歩10分程の所にある本施設は、2,500人収容の大ホールをはじめ、国際会議に対応可能な特別会議場、中・小ホール、15室の会議室で構成され、大型会議から小規模な会議・分科会まで一連の会議と、それに付随する展示会やイベントなどの開催が可能な総合型コンベンション施設である。映像・音響・照明設備、会議映像音声の中継・配信設備、インターネット設備など、情報化・IT時代に対応する設備も充実している。敷地は旧国鉄の貨物基地跡地の一角で、広い敷地を生かし大ホールと特別会議場と会議室群がそれぞれ別棟となり、それらを中庭のあるエントランス空間でつないだゆとりある平面計画となっている。
建築設計・監理は北海道日建設計・日本設計・サン設計・札幌日総建特定共同企業体、設備設計・監理は大洋・環境・塚田・真紀特定共同企業体で、建築主体工事は大林・田中・三井・佐藤JV(A工区)と地崎・丸彦渡辺・岸田JV(B工区)である。当社は一連の音響設計・監理・検査測定を担当した。
大ホール
幅40m×奥行60m×天井高12mの平土間空間で、昇降舞台、可動プロセニアム、吊り物機構、可動観覧席(1,000席)を備え、2,500人収容可能なメインホール機能と展示機能を併せ持っている。また高さ12mの大型可動間仕切りにより分割使用も可能である。可動間仕切り上部の天井裏には遮音壁を設け、分割使用時の隣接室間の同時使用にも配慮した。 内装は2階までの壁面がアルミパネル、その上部がコンクリート打放しで、側壁のアルミパネルは部分的に有孔+グラスウール(以下GW)裏打ちの吸音仕様とし、左右の側壁で向かい合うパネル同士が無孔と有孔の組み合わせとなるよう配置しエコー防止を図った。後壁のアルミパネルは全て吸音仕様で上部はGW貼り、可動観覧席収納部の前面は音響的に透過なアルミ製リブのスライディングウォールとし、収納された可動観覧席の吸音を利用した吸音面とした。天井はストライプ状に配置された600mm幅のパンチングパネルの背後にGWを配置した。また分割時に各室の響きが長くなりすぎないよう、可動間仕切りにも壁面と同様の吸音仕上げを配置した。空室あるいは空席時の残響時間(500Hz)は、平土間時2.3秒、舞台・可動観覧席設置時1.8秒、3分割時1.8~2.2秒である。
電気音響設備は舞台・客席設置時用に6基のメインスピーカクラスタ(L・C・R×前後、昇降式)、分割使用時用のサブスピーカ(L・R×3室、壁埋込)、平土間使用時の案内放送やBGMおよびメインやサブスピーカの補助としてシーリングスピーカを54台(18台×3室)設置した。全部で33系統にもなるスピーカのイコライジング・ディレイ調整には、パソコンにより内部で自由にシステムが組めるDSP(Digital signal processor)ユニット2台をカスケード接続して使用した。これにより機能毎に別々の機器を導入する必要がなくなりシステムがシンプルになるほか、ユニット本体での操作は難しいものの、多くの系統のセッティングを1台のパソコンで集中コントロールできるメリットがある。
大ホールが別棟となっているため周辺主要室との遮音は躯体による区画と防音扉のみである。大ホールを音源側とした場合の主要各室との遮音性能は、特別会議場に対して85dB以上、中ホール・小ホールに対して83dB以上であった。空調設備騒音はNC-25未満である。
特別会議場
6室の同時通訳室を備え本格的な国際会議にも対応可能な700人収容の特別会議場は、幅20m×奥行30m×天井高11mで後部に傍聴・記者用のバルコニー席(固定席)がある。内装は床がカーペット、壁は1階部分が札幌軟石、上部が木製ルーバーで、天井はアルミルーバーの中央に外観の楕円をモチーフとした球面天井が設けられ、そこから北海道の雪を連想させる印象的な照明が吊り下げられている。壁の石張り部分は透かし積みとし、透かし部分をGW+ガラスクロスによる吸音面とした。またフラッターエコー防止のため部分的に凹凸のある割肌仕上げの石を配置した。木製ルーバーは室内側に緩やかな弓形の縦断面をもつもの(断面45×100~200mm)と真っ直ぐなもの(同100×90mm)の2種類を交互に並べ、均等リブに起因する音響障害の低減を図った。ルーバーの背後はパンチング+GWの吸音構造である。空室時の残響時間(500Hz)は1.2秒である。
電気音響設備は、正面の3面マルチスクリーンの両側にメインスピーカを、天井にシーリングスピーカを設置した。空調設備騒音はNC-25未満である。
その他の施設
パントリーを併設しレセプションも可能な中ホール(600人収容)、段床形式の固定席をもつ小ホール(191席)があり、中小の会議室は可動間仕切りにより会議規模にあわせて広さ調節が可能である。施設のホームページ(http://www.sora-scc.jp/)を見ると各種学会や展示会の予定が沢山はいっている。今後益々利用されることを期待したい。(内田匡哉記)
問い合わせ:(財)札幌国際プラザ・コンベンションセンター TEL(011)817-1010
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