松下グループ総合情報受発信拠点「パナソニックセンター」
昨年9月、新しい施設が次々にオープンしている東京臨海地区の一角、東京臨海高速鉄道りんかい線の国際展示場駅の横に、松下グループの総合情報受発信拠点としてパナソニックセンターがオープンした。施設は大きく2つに分かれており、りんかい線国際展示場の駅側に配置されたいわゆる松下グループのショールーム的な性格のガラス張りの一般公開施設と、お台場側に配置されたパナソニックセンター有明スタジオの2施設から構成されている。一般に公開されているエリアはガラス張りの建物の1階から3階で、4階とスタジオはビジネスエリアとなっていて一般には公開されていない。
設計は日本設計、施工は大成建設で、永田音響設計は有明スタジオの音響設計と工事途中の音響監理を行った。なお、機械、電気、特殊設備等、松下グループ関連工事はもちろんすべて松下グループが工事に参加していることはいうまでもない。
〈パナソニックセンター一般公開エリア〉
9月のオープニングの際に配られた資料によると、パナソニックセンターは「ユビキタスネットワーク社会の実現」と「地球環境との共存」を2大テーマとした施設で、この2つのテーマに即した様々な実証実験が本施設で行われていて、見学者は展示を見る、あるいは触れることによって、ここで展示されている事柄が商用化されていくプロセスを体験することができると書かれている。「ユビキタスネットワーク社会」とは、いつでも、どこでも、誰でもが高度な情報ネットワークを活用できる社会のことを指す(らしい)が、ガラス外壁に設置された大型映像画面や1階および3階に設置されているデジタル ネットワーク ミュージアム(林原自然科学博物館“Dinosaur FACTory”)がその実証現場として提供されている。また「地球環境との共存」というテーマに対しては太陽光発電システムや雨水利用システムなどが導入されていて、見学や体験が可能となっている。
〈パナソニックセンター有明スタジオ Panasonic Center ARIAKE Studio〉
パナソニックセンター有明スタジオは、多くの劇場やテレビ番組の企画・制作を手がけてきた吉本興業と松下グループが出資して設立した有明スタジオが運営を行っている。前述のオープンニング時の資料にもあるように、ブロードバンド時代の双方向エンタテイメントの実証実験場として、単なる収録スタジオに止まらずコンテンツ制作なども行っていくことが計画されているようである。
有明スタジオは、約150坪のAスタジオと約30坪のBスタジオから構成される建物である。AスタジオとBスタジオは廊下を挟んで隣接しており、Bスタジオ上部に両スタジオの副調整室とアナウンスブースが、さらにその上に空調機械室が配置されている。本施設の北側には高速道路湾岸線が走っており、さらに敷地北側の地下には東京臨海高速鉄道りんかい線が敷地をかすめるように通過している。工事初期に大成建設技研によって行われた騒音測定での敷地の騒音レベル(Leq)は71dB(A)で、高速道路沿いに建てられた工事作業所内は話しをするのも困難なほどであった。また振動加速度レベルも、防振構造としない場合には電車通過時にはスタジオ内で固体音を検知できるレベルと推定された。このように屋外の騒音・振動はスタジオという静けさの必要な室の立地条件としては好ましいとはいえず、設計初期から構造も含めて騒音・振動の防止についての検討を行った。まず構造はRC造とし、Aスタジオ、Bスタジオともに防振ゴムによる防振構造を採用した。スタジオといえば電磁シールドの工事が不可欠であるが、本施設でもスタジオ、副調整室に電磁シールド工事が実施された。電磁シールドで難しいのは扉やシャッターなどの開口部と電気配管や空調ダクトなどの貫通部である。電磁シールドでは、とにかく隙間なくシールド材を貼らなくてならないのだが、設備の貫通部の処理では音響と電磁シールドの取り合いが複雑で、工事の方法や手順を決めるまでにかなりの時間がかかった。また、シャッターも基本的には電磁シールド性能を確保するのは難しいのだが、開口面積を大きく取りたいという施主側の要望もあり、工期、経費も考慮してシャッターが採用された。シールドについては完成後の調整で何とか目標のシールド量を確保できたようである。
完成後に実施された音響測定の結果、Aスタジオ、Bスタジオ内ともに空調停止時においても道路交通騒音および鉄道騒音は全く検知できず、Aスタジオ~Bスタジオ間の遮音性能も音源側の発生音レベルと受音側の暗騒音とのレベル差は99dB(500Hz)の性能が得られており、同時使用には全く支障ない性能であることを確認した。また空調設備騒音は、Aスタジオ:NC-25、Bスタジオ:NC-20と目標値が達成されていた。完成後約半年を経過するが、音響的なクレームは発生していない。
スタジオの音響設計は今までいくつか担当したが、これほど本格的なものは初めての経験で、私としては非常に勉強になった。工事を担当された方の中には多くのスタジオを経験されている方がいらして、その方たちの意見は非常に参考になったし、助けられた面も多かった。とくに電磁シールドについては、同じ波動現象を取り扱っていても似て非なるものとはこのことで、その対応は全く異なることを実感した。(福地智子記)
Panasonic Center:http://www.panasonic-center.com/
有明スタジオ:http://www.ariake-studio.com/
ホール用スピーカの動向
ホールで使われるスピーカに関する話題については、これまでに何回か取り上げた。今回は最近の動向を断片的ではあるがいくつか紹介する。
ホール用のスピーカとは?
ホールという施設自体にも様々な形態があるから、ホール用のスピーカと一口に言っても、要求される機能、規模にはかなり大きな幅がある。催し物の性格によって、ホール側で用意しなければならないスピーカは変わる。ホールでは、客席用のスピーカだけでなく、ステージ内のモニターや、バックステージ、調整室等にもスピーカが必要になる。
客席用だけを考えてみても、国内に数多くある多目的なホールでは、場内アナウンスやスピーチの拡声に使うスピーカは固定設備として導入しているが、電気音響がメインとなるコンサートにおいては、移動型スピーカをステージ上の両サイドに設置するのが、これまで一般的であった。プロのバンドグループのコンサート等では、超低音用のスピーカも含め、さらに大規模なスピーカが外部から持ち込まれる。
クラシック音楽専用ホールにおいても、最近は場内アナウンスやスピーチ拡声が頻繁に行われるため、生音の本来の響きとホール内装の意匠をできるだけ損なわないように、スピーカを配置しなければならない。また劇場等には、プロセニアム(=舞台額縁)の周りや客席の天井および壁の中に、演劇効果音の再生用として、あらかじめスピーカが埋め込まれていることが多い。
以上のようにスピーカの使用目的は様々で、再生音量や超低音域の扱いに違いはあるものの、ある音源をスピーカから再生し、客席全体をできるだけ均等にカバーすることが、ホール用スピーカの基本的な機能であることに変わりは無い。
スピーカクラスタ
1台のスピーカだけで大型ホールの客席すべてを均等にカバーすることは、難しい状況にある。ホールが大きくなると、スピーカと客席までの距離にかなり大きな差が出てくる。それによる聴取音量の差をスピーカ側であらかじめコントロールできるような単体の製品を、ホールの形状に合わせて短期間に開発、製品化することが困難なのである。ただし、小型ホール用のスピーカとしては既にいくつかそのような製品があり、実際に設置されて機能している例が多数ある。
現状では、大きなホールになればなるほど、複数のスピーカを数多く組み合わせて設置する方法を採用している。まず個々のスピーカが担当する客席の部位をあらかじめ想定して台数と向きを決め、距離差に応じてそれぞれの出力、つまり再生音量を変えるのである。
ここで問題になるのは、個々のスピーカから出る音が互いに干渉を起こし、全体の音質が損なわれてしまうことである。メーカー各社は、スピーカクラスタの状態をあらかじめ想定して、ドライバー本体の改良はもちろん、ホーンや筐体の形状に工夫を凝らす。またスピーカ内部の各ユニット間の位相を揃えるための物理的な配置やプラグの形状、さらには内部ネットワークや外部プロセッサの電気的な回路の検討など、できるだけスピーカ間の干渉を減らそうと努力している。しかし、スピーカクラスタを構成する条件はホールごとに異なるので、個々のスピーカの配置には十分気を付けなければならない。設置後の電気的な調整作業によっても結果が異なってくるので注意が必要である。
ラインアレイスピーカ
スピーカクラスタ内で音が干渉する問題を解決するため、複数のユニットで組み合わされたスピーカクラスタを、あたかも1台のスピーカであるかのように動作させることができないだろうか、というのが、各スピーカメーカーの最近のテーマとなっている。もともとこの考え方自体は古くからあるが、ここ10年くらいのあいだに10社近くの製品が開発され、大きなホールや野外コンサート等で使われている。主流となっているのは、左の写真にあるような、横長のスピーカを縦に数多く並べて吊り下げるタイプのもので、客席の形に合わせてその弓形の形状を決める。個々のスピーカの音量は同じにしたまま、弓形の形状を変えることによって、客席における聴取音量を調節しようというのが基本的な考え方である。実際にこの方式で再生された音を聴いてみると、確かにこれまでのような音の干渉が少なくなっているのが実感できる。
スピーカの収まり
国内のホールでは、スピーカを天井や壁の中に隠して設置することが圧倒的に多いが、海外では露出させることが案外と多い。右の写真は、前述のラインアレイスピーカを改修時に導入したアメリカの劇場である。
今後のホールにおいては、昇降機構で天井内に収納する方式の検討や、照明設備等と調整をしながらこのようなスピーカをいかに収めていくかが、重要な課題である。
パワーアンプ
最近の傾向として、移動型スピーカを中心に、パワーアンプが内蔵されているタイプの使用頻度が徐々に高くなっていることを挙げることができるが、ホールに固定されるスピーカに関しては、導入例は依然として稀である。太いスピーカ線を延々と配線しなくて済むのが魅力だが、もしアンプが壊れて音が出なくなったときに応急処置をすることが難しい。発熱を放射させるためのファンのノイズがホールの静けさを邪魔する可能性もある。
内蔵しないで使う場合でも、専用のパワーアンプを開発、製品化して、スピーカとセットで導入するように指定するメーカーも出てきた。スピーカの音質を保証するためには当然の要求ともいえる。今後、このようなスタンスのメーカーが増えていく可能性もある。(菰田基生記)
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