No.181

News 03-01(通巻181号)

News

2003年01月25日発行
富山市民芸術創造センター (既存棟)

富山市民芸術創造センター

 JR北陸本線富山駅より金沢方面に一駅行った呉羽駅の前に富山市舞台芸術パークがある。ここにはかつて、昭和5年に建設された約11万㎡の広さをもつ呉羽紡績(後の東洋紡績)呉羽工場があった。10年ほど前にこの敷地を訪れたことがある。そこは、鋸型屋根の建物や鉄道の引込み線のあるレンガ造りの倉庫などが立ち並び、あたかもアクション映画のラストシーンに出てくるような廃墟となった紡績工場だった。その数年後、この地に富山市民芸術創造センター(既存棟)と桐朋学園大学のオーケストラアカデミー、それに舞台芸術をテーマにした広い公園とが複合する舞台芸術パークが建設された。そして昨年、さらに新たに芸術創造センターの増築棟が完成した。ここではこの施設について紹介したい。

工場施設の再生

 芸術創造センター(既存棟)は旧紡績工場の鋸型屋根の建物施設を再利用することを前提に計画された。工事の過程では鋸型の構造鉄骨と壁の一部だけを残してさらに柱を全て掘り起こし基礎を補強するなど、かなり手間が掛かり、再利用といっても新築よりも工事費がかかったのではないかと言われている。
 しかしながらこの施設の担当であった富山市文化国際課の島氏は言う。「富山市の先人達がこの紡績工場の大規模な誘致に尽力し、その後繊維業が発達するとともに富山も発展してきた。約11万㎡といった広大な敷地をこういった文化施設や公園として使えることも先人のお陰であり感謝しなければならない。この功績を後人たちに伝え、思い起こさせるためにも鋸型屋根の建物を残すことは意義があった。」

富山市民芸術創造センター
(既存棟)

富山市民芸術創造センター既存棟の利用状況

 この施設には、470㎡のリハーサル室、180~280㎡クラスの大練習室が5室、15~25㎡クラスの小練習室が32室、それに演劇用の舞台稽古場と道具製作室、160㎡の美術アトリエなどがある。小練習室のうち30室にはピアノが設置され、2室にはアンプ、ドラムスが設置されている。いずれも発表会の場として使用することはできず、あくまで練習の場所として貸し出しているが、年に一度、芸術パーク祭としてこの施設で練習をしているグループ(個人)が集い、発表の機会を設けている。

 施設は、予約使用制度として1年間の申し込みができる。そのため、個人の練習はもとより、音楽やダンスの教室などにも使われている。このような文化施設の運営に対し見識を持つと言われている舞台芸術環境フォーラム代表であり「これからの芸術文化行政」の著者である衛紀生(えい・きせい)氏は、この施設の運営に対し「はっきり言ってムダ、大失敗である。市民の見識のなさが原因、閑散としている。一般の市民にとって意味の無い施設。」と、ある新聞社での講演で述べられている。影響力のある人の言葉だけに、富山市は無駄な施設を建てたと思わせる発言である。しかし、実際には高い利用率で、特に遮音性能の高い練習室は昼間の時間帯を含めても常に100%に近い。衛氏は、倉庫などを利用して市民が主体となって作ったものは活気があって生きた施設で、役所先行で建てられたものは押し付けで誰も使わない、という先入観を持たれているようだ。

 平日昼間に見に行ってもほとんどの室が使われていた。他市からの利用も認められている上に駐車スペースも十分であり、富山市だけでなく金沢など周辺地域からも利用者が来ると言う。

富山市民芸術創造センターの増築

 このような高い利用率で、使いたくてもなかなか借りられない状態が続いたために、市民の中からも練習室の増築の要望が強くなった。その結果、さらに練習室と保管庫の増築が計画された。

 この増築計画では、プロポーザルコンペが行われ、森俊偉+ARCO建築・計画事務所案が採用された。

 森俊偉氏は現在金沢工業大学建築学科教授で、これまでに室生犀星記念館や越前かにミュージアムなど完成度の高い建築を、主に北陸地方で創出されている。

増築棟エントランス

 ㈱永田音響設計はこの増築計画で初めてこの舞台芸術パークに参画することになった。この新しい施設には練習室が4室計画され、うち2室は床面積120㎡、天井高5m程度の中規模の練習室で、主としてオーケストラやブラスバンドの練習やフラメンコなどのダンスの練習などを主体としており、もう2室は床面積30㎡程度の小規模の練習室でポピュラー系のバンド練習を主体とした練習室である。

 この増築棟の平面形状は半円弧状で既存棟に繋がり、この棟のエントランスから既存棟に続く「観覧のコリドール」と称する幅の広い通路には、外壁面はもとより中練習室にも窓があって室内の活動の様子が垣間見え、内外空間の連続感と開放的な雰囲気をもたせている。

 練習室の遮音性能については、コンペ段階の設計要綱にすでに各室間の遮音性能としてD-75以上と明記されており、高い性能を要求されていた。富山市の島氏は、既存棟の各練習室で様々な練習を聞いてこられ、音楽ジャンルによってどの程度の遮音性能ならこの位聞こえる、という感覚を持ち合わせておられ、我々以上に音の聞こえ方を把握されていた。それだけに、D-75程度の遮音性能がなければポピュラー系のバンド練習を支障なく行うことはできないと判断されていた。これまで既存の練習室でいろいろと経験されてきただけあって音響に対する注文は細かく、竣工検査の際は大太鼓を運び込み、自ら内装のびりつきの検査をするほどに熱心だった。建築工事を担当した林建設工業浜井所長もこの厳しい検査に柔軟に対応し、仕上がった壁のボードを何度も剥がしては貼った。これだけ厳しいチェックの後、最終的な出来に大変満足され、計画に携わった一人として嬉しく思っている。今後とも、この施設が市民の文化活動に盛んに利用されることを期待している。(小野 朗記)

 (財)富山市舞台芸術パーク財団 TEL:076-434-4100         

昨年の演奏会で感じたこと
─コンサートホールにおける拡声の問題─

 コンサートホールにおける拡声、これは音楽関係者、建築設計者はいうまでもなく、音響設計者の間でもあまり関心のない機能ではないだろうか。しかし、筆者は会場のアナウンスの音量、音質はホールの音環境の大事な要素のひとつと考えている。

 拡声装置とはマイクロホン、アンプ、スピーカの3要素で構成される最もシンプルな音響システムである。現在、わが国のコンサートホールの響きの質はいずれも国際的なレベルにあるといえよう。しかし、コンサートホールで聞く拡声音の質の違いは、開始のアナウンスひとつとっても、ホールによってかなり大きいことを筆者は感じている。

 拡声音のよしあしは大きく分けて三つの条件が関わっている。まずはスピーカをはじめとする各音響機器のグレード、ついでスピーカの配置、そして3番目が設備の運用である。

 コンサートホールはもともと響きの長い空間であり、ハウリングなどが生じやすく、拡声には工夫を要する空間である。しかし、適切なスピーカシステムを選定し、それを適切な位置に配置できれば明瞭で心地よい拡声音を得ることは音響技術的には難しい課題ではない。ところが、まず、コンサートホールに大型のスピーカはなじまないという意匠上の問題がある。それと、室内音響設計できめの細かい注文をつけている天井反射面にスピーカ開口部を設けること自体、音響設計部内でも主張の違いがある。この問題を解決するにはスピーカを天井裏に格納し、必要に応じて設置/収納を行う方式しかない。

 天井裏のスペースがないカザルスホールでは、やむなく図−1に示すように6台のスピーカで構成される大型システムを天井から吊り下げるという方式を採用した。この方式は建築設計者の磯崎新氏の協力を得て実現したもので、これまでも一部の方々から抵抗があったが、結局はこれ以外にはない、という結論で落ちついたのである。

図-1 カザルスホール スピーカ

 拡声設備の最後の問題はホール側の運用姿勢にある。演奏開始前に繰り返される数々のアナウンスひとつ取ってみても、場内のざわめきの程度に応じて音量を調整しているホールは少なく、機械的にテープを流している所が多い。催し物の進行に応じて照明は細かく調光されているのに比べ、音はon/offの切り替えだけでしかない。ホール内で実際の音をモニターすることが欠けているのが現状である。

 場内アナウンスの音量、音質についてはまだ我慢することもできよう。しかし、昨年、コンサート最中の拡声音が聞きとれない、という事態を2件経験した。

 まずは“音楽と文学”というテーマの「第18回<東京の夏>音楽祭2002」、第一生命ホールで7月23日に開催された江守徹の語る<イノック・アーデン>&<プラテーロとわたし>での出来事である。やっと入手した席が2階のサイドバルコニー席、前半鈴木大介が奏でるギターはそのニュアンスまで聴こえたのに対して、江守徹が朗読する詩人ヒメネス作の<プラテーロとわたし>の詩の内容はまったくと言ってよいほど聞きとれなかった。関係者に申し出て、後半の<イノック・アーデン>では1階席後方のサイドの席に移ったが、この席では朗読も寺嶋陸也演奏のR.シュトラウス作のピアノもまったく問題なく愉しむことができた。楽器と声、およびスピーカの指向性の違いがこんなに大きいのかをはじめて体験した一夕であった。関係者はスピーカのテストを行ったと言っていたが、多分リハーサル時間の制約のせいで、バルコニー脇の席の聴こえ方まで充分確認できなかったからであろう。サイドバルコニーのあるホールではシューボックスでもワインヤードでもいずれを問わず、拡声には十分に注意すべきである。

 もう一つの事件は毎年、開館を記念して行われているサントリーホールのガラコンサート。16年目の昨年は20のプログラムが3時間半にわたって行われた。それぞれの演奏の合間に司会者の洒脱な語りがあり、これがガラコンサートの一つの風物として定着している。当初は問題があった司会者の語りの拡声であるが、黒柳徹子という名司会者を迎えてからは、聞こえの問題について気になることはなかった。しかし、昨年は司会者が某TV局のアナウンサーに代わったせいか、前半は聞きづらかった。筆者の席はこれまでと同じで、1階のほぼ中央である。周囲はざわざわした空気となった。休憩時間、ホール関係者に現状を伝えたところ、後半は回復し、無事コンサートを終了した。サントリーホールにはこのようなプログラムのために、通常は天井内に格納されているスピーカを図−2のように天井下に吊り下げられるようになっている。ホール側の説明によれば、今回はレーザーディスプレイの障害になるとの理由からこの吊り下げ型スピーカの使用を止めたとのことであった。これもタイトなスケジュールの中の大型番組だけに、司会者の台詞の聞こえの問題まで確認する余裕がなかったからであろう。しかし、視聴者にとって日本語の台詞が聞き取れないくらい、イライラすることはないのである。明瞭で心地よい拡声、これは誰もが判断できる基本的な音響効果である。ホール関係者もこのことを充分知っていただき、拡声についての配慮をお願いしたいのである。(永田 穂記)

図-2 サントリーホール
スピーカ使用状態

US事務所の移転と駐在スタッフ増員

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 また、今月から大嶋美歩(Miho Oshima)が駐在スタッフとして加わり、豊田泰久と2名の体制で事務所の運営にあたります。これまで同様よろしくお願いいたします。

US事務所は2005年6月より下記の場所に移転いたしました。
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