No.178

News 02-10(通巻178号)

News

2002年10月25日発行
Fig.1 Promenade

幕張ベイタウン・コア

 千葉市美浜区の幕張ベイタウンは、入居開始から7年が経過し、既に1万人以上が住む集合住宅群で、スケールの大きな全体計画とともに、各住戸と街並みのデザインがユニークなことでも知られている。現在は計画戸数の約半数が供給された段階で、当初のスケジュールからは開発が遅れているものの、依然として高い人気を保っている。

施設概要

 いくつかある中層住戸群「パティオス」の中心に位置する「ベイタウン・コア」は、住民が待ち望んでいた、街区内で初めてのコミュニティー施設である。
 建築主は千葉県企業庁で、設計者を選ぶためのプロポーザルコンペが行われ、設計・計画 高谷時彦事務所が指名された。新日本建設の施工により本年3月末に開館し、管理・運営は千葉市が担当している。
 施設内には、公民館、図書室の分館、子どもルームに加え、クラシック音楽の生演奏が楽しめるような200人収容のホールがあり、それらが中庭を挟むような形で配置されている。ガラスがふんだんに使われていることもあり、全体として、開放的な気持ちの良い空間となっている。

Fig.1 Promenade

住民参加のプロジェクト

 このベイタウン・コア建設プロジェクトの大きな特徴は、住民が計画、設計に直接参加したというプロセスにある。「参加した」というよりも「行政、建築家および施工会社の力を借りて自分たちで作った」というほうが、実態には近かったような気がする。最近の文化施設のプロジェクトでは、行政側が主導して住民を設計に参加させる、ワークショップ形式と呼ばれる手続きがとられるようになってきたが、このプロジェクトに関しては、まさに住民側が主導したケースと言って良いと思う。

 街開きから3年目の1997年春、住民有志によるコミュニティーコア研究会(通称コア研)が発足し、街区の中心となる施設に関する議論が始まった。当初のメンバーは20~30人ほどだったということだが、自主的に参加する住民は増えていき、分科会活動が活発に行われるようになった。各種の打ち合わせのほかに、タウン誌を創刊したり、インターネット上のホームページを立ち上げたりと、その活動はあっという間に広がっていったのである。設計側との打ち合わせも住民主導で行われ、その内容はホームページ上に公開されて、さらに活発な議論が交わされるようになった。

 住民側に相当の熱意があり、また専門的な知識を持つ方が何人もいた今回のようなケースは稀かもしれないが、実際にこれから施設を使用する住民が自分たちの希望を実現していくプロセスは、かなり興味深いものになったはずである。

ホールの概要

 ホールには建設計画当初から、「小さくともきらりと光るベイタウン独自の施設」にしたい、という大きな期待が寄せられていた。住民のあいだには実際に音楽を演奏するのが好きな人が多く、ピアノのコンサートやバンド演奏など、使い方に関するさまざまな要望が提出され、設計者側も含めた集まりのなかでは、響きをどのように設定するか等、細かいところまで突っ込んだ議論が交わされた。

 こうした要望にできる限り応えられるように、まず、ピアノなどの生音のコンサートに適した響きを得るため、天井をできる限り高く10mとし、空間に余裕を持たせるようにした。基本となる室形状についても検討を重ね、エコーなどの障害が出ないように拡散形状や吸音構造の分散配置等も考慮した結果、素直な気持ちの良い響きが得られている。椅子が設置されていない空室状態における残響時間は約1.3秒(500Hz)であり、椅子を設置して満席状態となった場合の残響時間を推定計算すると、ピアノ等のコンサートに適した1秒前後(500Hz)になる。

Fig.2 Makuhari Baytown Core
Concert Hall

 一方で、講演会やバンド演奏など、響きが比較的短いほうが好ましい催し物にも対応できるように、正面の壁と側壁の下部にはカーテンを設置して、響きの量を調節できるようにした。両方のカーテンを使うと残響時間は約0.2秒短くなり、聴感的な響きの印象はかなり変わる。

 音響設備は、スピーチ拡声用として、舞台両サイドの壁にスピーカを固定設置とした。また、簡単なバンド演奏くらいまでは対応できるように、移動型スピーカのシステムも用意し、必要に応じて使用できるようにした。

 舞台機構としては、電動の昇降舞台を設置し、さらに舞台を広げたい場合にも対応できるように、普段は折り畳んで収納する仮設舞台も用意している。舞台正面には前述の幕やスクリーン等が吊り下げられるような三角バトンを、また舞台上と客席中央上部には、演出照明用の灯具が吊り下げられるバトンを設置した。照明器具については、バトンに吊り下げるもののほかに、スタンド付きのフォロースポットも用意している。

建設後の施設運営

 施設のオープン後は、住民が主催するコンサート等が数多く開かれ、他の公民館施設、図書館および中庭を含めて、全体が活発に使われている。3月に仲道郁代さんのピアノ、6月には仲道祐子さんのピアノと天満敦子さんのバイオリン、また9月には藤原真理さんのチェロのコンサートが催されている。建設時と同じく、施設運営についても、住民が中心となって自分たちの手で行なっている。現在のホームページには、コンサート情報等が非常にわかりやすく、また綺麗に紹介されており、建設プロジェクトの経緯も詳細に記録されている(www.baytown.ne.jp/core/)。ピアノの購入計画も着々実現に向けて進められているようである。これからもこの施設が住民に末永く愛されることを願っている。(菰田基生記)

改修と音響設計《5》 海外ホールの例

 ホール音響改修シリーズの一環として、海外ホールの改修の状況、実例について紹介する。

 1970-80年代にかけての高度経済成長時代の多目的ホール、それに引き続く1980年代後半から1990年代前半にかけてのコンサートホール建設ブームと、日本では新しいホールの建設が続いたが、既存ホールの音響性能を含めた改修の例というのは、これまでそれ程多くはなかった。しかしながら一方海外では、ホール建設の歴史そのものが長いこともあって、既存のホールが改修されるケースはかなり頻繁にあるといってよい。特にアメリカにおいては、かつての映画ブームの折りに数多くの映画用のホールが建設されてきており、これらを一般的な多目的ホールやコンサートホールに改修しようというプロジェクトがかなり多く見られる。また、各地のオーケストラが本拠地とするコンサートホールなども、これまでに多くのホールが改修されてきている。

 昨2001年の6月にシカゴで開催されたアメリカ音響学会では、特別セッションとして1981-2001の20年間にオープンしたホールを紹介するポスターセッションが行われた。アメリカ内外のプロジェクトが一同に集められ、総数は90にも上った。永田音響設計も日本のコンサートホールを中心に24のプロジェクトについて紹介した。我々が紹介したのはすべて新設ホールである。ところが、それ以外のアメリカのプロジェクトを中心とした66のホールのうち、実に30%に相当する20例が既存ホールの改修のプロジェクトだったのである。我が国に比べていかに改修のプロジェクトが多いかがうかがい知れる。

 以下にオーケストラの本拠地として有名なホールの改修の例をいくつか紹介しよう。改修の規模によっては数年掛かるようなケースもある。ここでの改修年はいずれも改修後に再オープンした年を示している。

(1) ニューヨーク・カーネギー・ホール(オープン:1891年、改修:1986年):
 オープン100周年を記念して大改修が実施された。ただし、改修は古くなった設備の更新やエレベータの新設などが主で、音響に関しては元の優れた特性を維持するように意図されたものの、再オープン後は一時的に不評であった。再度の改修が音響のためだけに行われた。

(2) サンフランシスコ・デイヴィス・ホール(オープン:1980年、改修:1992年):
 サンフランシスコ交響楽団の本拠地。特にステージ上の音響性能について不満が聞かれることが多かったため、ステージ周りを中心とした改修が実施された。吊り下げ反射板の変更、ヒナ段迫りの新設、ステージ上部の壁の変更などが実施された。

(3) シカゴ・オーケストラ・ホール(オープン:1904年、改修:1997年):
 シカゴ交響楽団の本拠地。US$120,000,000-(約146億円)という、ほとんど新しいホールの建設が可能な金額を使って、しかも当初の建築デザインをできるだけ残した形での音響改修が行われた。ステージ上のキャノピーの他、天井の上部の音響的な空間の拡大が図られた。楽屋などのバックステージ機能、オフィス、教育のための施設も新設された。

Fig.3 Chicago’s Orchestra Hall, Stage

(4) ワシントン・ケネディ・センター・コンサートホール(オープン:1971年、改修:1998年):
 ナショナル交響楽団の本拠地。ステージ上部の反射板の全面的な変更など、特にステージ周りの音響改修に重点を置いた改修が実施された。

(5) クリーブランド・セバランス・ホール(オープン:1931年、改修:2000年):
 クリーブランド管弦楽団の本拠地。ステージ周りの音響が全面的に改修され、音響反射板が全く新しいものに変更された。

(6) ロンドン・バービカン・ホール(オープン:1982年、改修:2001年):
 ロンドン交響楽団、BBC交響楽団の本拠地。内装の一部変更や、ステージの拡大、天井部分への音響反射板の追加工事等が実施された。

(7) トロント・ロイトムソン・ホール(オープン:1982年、改修:2002年):
 トロント交響楽団の本拠地。ステージ上の反射板として、これまでの円盤分散型のものに代わって大型の一体型キャノピーが新設された。その他、客席についても改修された。今秋、再オープン。

(8) ニューヨーク・リンカーン・センター・エブリー・フィッシャー・ホール(改修予定):
 ニューヨーク・フィルハーモニック交響楽団の本拠地。1962年にフィルハーモニック・ホールとしてオープンしたものの、その音響が不評だったため1976年にその内装が全面的に改装された。さらに1992年には主にステージ周りが改修されて側部に反射パネルが設置されたりしたが、依然その音響性能の問題が取り沙汰されている。近々、全面建て替えに近い改修が計画されており、現在、その担当アーキテクトと音響コンサルタントの選定が進行中である。

シドニー・オペラハウス・コンサートホールの改修プロジェクト

 シドニーのシンボルであり、シドニー交響楽団の本拠地でもある、シドニー・オペラハウスのコンサートホールが改修されることになった。主にその音響性能に対して以前より不満が多かったためである。担当する音響コンサルタントのコンペ(プロポーザル+インタビュー)がこの8月~9月にかけて実施され、永田音響設計が担当することが決まった。

 本プロジェクトは、オペラハウス全体の改修の一環として行われるもので、全体改修については、もともとのコンペの当選者であり現在の外観の考案者であるデンマークのウォッツン氏がアドバイザーとして当たることになっている。コンサートホールについては、今後数ヶ月のうちに、現在の音響性能の分析、改修の全体計画を立てることになる。その後、今回の予算内で可能な範囲内での具体的な改修の工事が実施される予定である。(豊田泰久記)

Fig.4 Sydney Opera House
Concert Hall

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