横浜の新しい名所:赤レンガ倉庫
JR桜木町駅を降り、みなとみらい地区を左手に見ながら汽車道に沿って海岸方面へと足を進めると、やがてホテルの間に重厚な赤煉瓦建築が見えてくる。これが、横浜赤レンガ倉庫である。この赤レンガ倉庫は、8年間にわたって行われた保存・改修工事の後、創建後約90年の時を経て、今年の4月12日に「港のにぎわいと文化を創造する空間」としてよみがえった。
赤レンガ倉庫の歴史
横浜赤レンガ倉庫は国の模範倉庫として明治時代の建築家、妻木頼黄(つまきよりなか)により設計され、1号館は大正2年、2号館は明治44年に竣工した。これらは創建後から昭和初期にかけて横浜港の海外貿易の中心的な役割を果たしてきたという。平成元年にその倉庫としての役割を終えた後、平成4年3月に歴史的な資産として保存し、市民の施設として活用するために、横浜市が国からこの倉庫を取得した。その後、平成6年6月から平成11年9月まで保存のための構造補強・屋根・外壁等の改修工事が行われ、さらに平成12年10月から平成14年3月まで活用のための内部改修工事が行われた。改修の建築設計は新居千秋都市建築設計である。
赤レンガ倉庫の建築
この赤レンガ倉庫は、煉瓦組積造3階建(一部、4階)の建物で、2号館は長さ149m×幅22.6m×高さ17.8mという大規模な煉瓦建築である。現在は1号館が2号館の半分ほどの大きさとなっているが、竣工当時は同じ大きさであった。1号館は大正12年の関東大震災により半壊してしまったため、約半分の規模に縮小されている。
煉瓦の積み方は“オランダ積”と呼ばれ、2号館のみで約318万個の煉瓦が使用されている。外壁の厚さは約70cm、間仕切壁の厚さも60cm近くに及ぶ。
再生された現在、1号館1階のエントランスロビーの床には、改修工事でその役目を終えた創建当時の部材の一部が展示されている。また、各室間に配置された重量感のある鉄製引戸とその戸車、1号館妻側に設置されたガラスの階段下の当時荷物の搬出入に使用されていたスロープ、2号館の床スラブ下面の弧状の波型鉄板等、建物内部のあちらこちらに創建当時の倉庫を垣間見ることが出来る。
改修後の赤レンガ倉庫の施設概要
改修後は、1号館を文化施設、2号館を商業施設として利用するよう計画された。1号館はホール、多目的展示室、店舗等からなり、2号館はライブレストラン“Motion Blue yokohama(モーション・ブルー・ヨコハマ)”(ブルーノート東京がサポート)、ビアレストランを始めとする様々な店舗、飲食店からなる。
ホールの音響計画
この倉庫は3階建てで、各室が長さ約12m×幅約21mの大きさに区切られている。ホールの計画にあたり、ホール形態に対応した床面積、天井高さ、動線等の確保を始めとして舞台設備関係の吊り物等の荷重条件、設備機械室の確保、ダクトルート等々が課題となった。最終的には、搬入動線には不利ではあるが、3階の比較的天井高さのある切り妻型の空間2室の界壁を取り払って1室とすることで、ホールとしての必要な空間を確保するとともに、舞台設備計画に対応した構造補強も行った。
本ホールには様々な催し物に対応するため、空間を舞台と客席がフレキシブルにシェアする形態が求められた。そのため、床がフラットな平土間の状態を基本とし、仮設舞台、段床客席ユニットや移動椅子を用いて空間を自由に構成できるようになっている。
音響設計を行うにあたり改修前の倉庫の残響時間を測定した結果、煉瓦とコンクリートで囲われたその空間は、中音域で約4秒と大変響きの長い空間であった。そのため、残響時間の調整、エコーの防止を意図して前壁および後壁に煉瓦の透かし積みの吸音構造を設けた。なお、側壁の遮光装置を兼ねた昇降壁はフラッターエコーを防止するために、表面材のパンチングメタルの裏に折れ壁を設けている。演劇を想定した舞台奥行5.5間、客席数179席、舞台幕設置時における残響時間は満席時1.0秒、小規模コンサートを想定した舞台奥行3間、客席数284席、舞台幕収納時における残響時間は満席時1.1秒である。
ホールの舞台設備計画
舞台機構・照明・音響などの舞台設備は、フレキシブルな使われ方に対応して、様々な要求にこたえるために、自由度の高い設備機材によって構成した。ベースとなる舞台機構は、天井部に電動昇降式1点吊り装置(チェーンブロック)を多数分散配置し、必要な場所に三角形のトラスバトンを吊り上げて使えるように考えた。さらに、その三角トラスバトンに舞台美術・幕類や照明器具、スピーカなどを吊り込むことで、催し物を形成することが出来るようにした。舞台照明設備と舞台音響設備は移動型機材を中心に構成し、様々な演出に対応できることを基本的な方針とした。
1号館ホールは、4月13日の唐組公演「赤い靴」で幕を開けた。その後も演劇・ダンス・映画・落語など様々な催し物が行われ、また計画されている。この赤レンガ倉庫が、今後も横浜の新しい賑わいの場所として、また歴史を感じることの出来る場所として、末永く愛され続けていくことを望んでやまない。(箱崎文子記)
【問い合わせ先】
横浜赤レンガ倉庫1号館 TEL:045-211-1515 http://www.yokohama-akarenga.jp
Motion Blue yokohama TEL:045-226-1919 http://www.motionblue.co.jp
コンサートオルガンの運用
オルガンとオルガン音楽
オルガンおよびオルガン音楽は17-18世紀、バロックの時代に頂点を迎えたといえよう。その後、クラシック音楽が古典派、ロマン派から現代へと変遷するなかで、‘楽器の王様’’といわれたオルガンの地位は逐次薄れ、オーケストラ、ピアノへと移行して今日に至っている。ヨーロッパの著名なホールにおいてすら、そこでのオルガンコンサートや楽器としてのオルガンについての噂や評価はまったくといってよいほど耳にしない。現在のクラシック音楽界からみれば、欧米諸国においてもオルガンとオルガン音楽は特異な位置づけにあるということができよう。
わが国のコンサートオルガン
手元の資料によれば、導入が進められている2館を含めるとオルガンのある公共ホールは30館になる。これはオルガン界においても異例な現象といえよう。キリスト教の礼拝用の楽器として発達してきたチャーチオルガンに対して、現在のコンサートホール用のオルガンはオルガンの歴史の中でも新しい様式の楽器である。
わが国のホールにオルガンが導入されたのは戦後である。その最初の例は武蔵野音楽大学のベートーヴェンホールであるが、ホールのオルガンで大きな話題となったのはNHKホールの5段鍵盤90ストップの大型オルガン(1974)である。
80年代にはいって、全国各地にコンサートホール建設のブームが始まる。この頃から、ホールオルガンが真剣に検討されるようになったといえる。ホール計画と平行してオルガン委員会が設置され、オルガンの仕様、ビルダーの選定が行われるようになった。しかし、各国のオルガンやビルダーの現状については限られた情報でしかなく、ある時代には一つの主張がオルガン界を風靡し、特定の国や地区、当初はドイツ、引き続いて、北欧やアルザス地方のビルダーに集中するといった傾向が見られた。しかし、最近では単に楽器業者の意見、オルガンビルダーのパンフレットなどの間接的な情報だけではなく、オルガン委員が現地に足を運び、ビルダーとの面接や工房の実状の視察を行い、それに何よりも最近のビルダーの作品の音を直に聴く、などという積極的なアクションを通してオルガンの選定にあたっている。その結果、わが国のオルガン界に対してのビルダー側の心構えも変わってきていることも事実である。最近のホールに導入されたオルガンは、国際的に見てもトップレベルの楽器といえる。
わが国のコンサートオルガンに対しての期待─ヨーロッパとの違い
ヨーロッパでは各地に点在する教会において礼拝とは別に、そのオルガンの性格、特色を活かしたオルガン音楽のリサイタルが一般のコンサートとは別に行われているが、コンサートホールのオルガンは、楽曲の中でオルガンが指定されているごく一部の交響曲、たとえば、サンサーンスやR. シュトラウスなどの作品と、大規模の宗教曲の演奏でしか用いられていない。しかし、わが国のコンサートホールでは、ヨーロッパ各地の教会で行われているオルガン曲の演奏がオルガン導入への大きな期待となっているのである。すなわち、わが国のホールオルガンにはオルガンリサイタル用としての性格が要求されるのである。この点がわが国のコンサートオルガンが抱える最大の課題といってよい。なお、アメリカのオルガン事情はちょうどヨーロッパと日本の中間にあると聞いている。
オルガンの運用
このオルガンの運用であるが、本来はホール運用計画の一環として実施すべきである。各ホールで行っているオルガンの運用の状態を紹介すると次のとおりである。
- 内外の演奏家によるオルガンリサイタル
- オルガン音楽の普及およびオルガンという楽器に対しての理解を深めることを目的としたレクチャーコンサート、あるいはランチタイム・コンサート
- 地区の希望者を対象としたオルガン教室
- 新しいオルガン音楽の作曲委嘱とその演奏披露
この場合に必要なのはなんといっても、オルガンのお守り役ともいえる専属オルガニストの確保であるが、現在、これを抱えているホールは10館未満ではないだろうか。愛知県豊田市では今年の夏にオルガン設置工事が開始されるが、これを待たずに専属オルガニストの公募を行った。そこに記載されたオルガニストの業務内容は、以下のとおりである。
<オルガン設置前の業務として>
- オルガン設置工事および整音作業の立ち会い
- オルガン披露の演奏会や各種講座の企画
- オルガンオープニングに向けた準備等
<オルガン設置後の業務として>
- オルガン演奏会、各種講座の企画
- 普及を目的とした演奏会、講座への出演と演奏
- 演奏オルガニストへの楽器の説明
- オルガン見学者に対する説明
- オルガン弾込みと初期故障の検出と対応
- その他、日常の保守と運用に関すること
最後にオルガン運用に関してホール管理者が心得ておいて頂きたいことをまとめる。
- オルガンはホールに固定、設置された楽器である。しかも、一つ一つ異なっているから、その練習はその現場でないとできない。これが他の楽器と異なる点である。とくに、はじめての演奏者の場合、本番前に十分なリハーサルの時間を確保することが必要である。
- オルガンは温度に敏感な楽器である。しかも、調律、整音には時間がかかり、ピッチの変更は出来ない。他の楽器と協演する場合には、ピッチをオルガンのピッチに合わす必要がある。
- オルガン使用料をピアノなどと同様に購入価格に対応した価格設定にするのは、高価になりすぎるため適切ではない。
なお、各地のオルガンコンサートの開催状況その他については、日本オルガン研究会オルガンニュース、事務局通信などを参照されたい。(永田 穂記)
日本オルガン研究会連絡先:Tel, Fax: 03-3237-0340、E-mail: jos@h7.dion.ne.jp
ホームページ:http://www.fuki.sakura.ne.jp/~jporgsoc/
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