マッキャンエリクソン社 会議室のAVシステム
(株)マッキャンエリクソンからの依頼により、オフィス改装計画の一環として22階会議室ゾーン各室のAVシステムの計画・設計・工事監理業務を実施した。ME社は世界131カ国に事業を展開する外資系の広告代理店で、営団地下鉄青山一丁目駅に隣接する新青山ビル東館に本社オフィスを置く。
改装計画全体のマネージメントと意匠デザインは、李泰久氏主宰のシステムオーデザインアソシエイツが統括して行っており、現在も改装工事は続けられている。当社はAVシステムの計画から基本設計、実施設計、工事監理を経て2002年3月の竣工引渡しまでの業務を担当した。AVシステムの施工は(株)光和である。ここでは、その中でほぼ同一のシステム構成とした大会議室 2室のAVシステムを紹介する。
AVシステムの基本構成
AVシステムとは、Audio and Visual(or Video) Systemの略で、会議中に音と映像(画像)を用いて行われる様々なコミュニケーション、プレゼンテーション、レクチャーのための設備をいう。企業内の大きな会議室では、資料を印刷物として配布する従来の会議のスタイルではなく、ビデオプロジェクタ(VP)の発達に伴い、パソコンを用いて作成した文章や図表を直接、大きなスクリーンに表示することが一般的になりつつある。また、OHP(オーバーヘッドプロジェクタ)で資料をスクリーンに拡大投射することも、今ではCCDカメラを利用する情報提示卓(ドキュメントカメラ)にとって代わっている。
さらに、企業の活動がグローバルに拡大したことから、ビデオ会議システム(TV会議ともいう)を設置する会議室が増えており、とくに外資系の会社では必需品となっている。ビデオ会議システムは、電話回線やインターネット回線で結ばれるTV電話のようなものであるが、相手方の映像のみならずビデオ信号、パソコンデータ、ドキュメントカメラの画像なども同時に送れるような機能が付加されている。
拡張システム
上記が企業の会議室におけるAVシステムの一般的な姿であり、マッキャンエリクソン社においてもそれらの使用目的が満足されるように考えたが、ここではさらにTVコマーシャルなどの映像情報をクライアントに提示するという命題が課せられていた。これは、コマーシャルや企業紹介、販売促進用イメージビデオなどの動画が中心で映画のように演出されているため、自然さや美しさといった美的評価が欠かせず、演出の意図が表現できる性能を維持しなければならない。静止画で色数も限られている文字やグラフを表示することとは、クオリティーの点でかなり異なるのである。さらに、音にも映像にバランスした迫力や臨場感などが求められる。とくに、数年後に始まるTVの地上波デジタル放送において、音声は5.1ch.サラウンド再生が基本になるため、これらを考慮してスピーチ再生用のシーリングスピーカとは別にメインスピーカとサラウンドスピーカを設置した。
表示デバイス
AVシステムでもっとも重要な機器は表示デバイスである。ここでは、基本的にパソコンデータ、ドキュメントカメラ、ビデオ会議の表示は110インチのスクリーンに投射し、コマーシャルなどの映像は42インチのプラズマディスプレイ(PDP)に表示する方式とした。会議ではメモを取ったり手元の資料に目を通したりするため、ある程度の室内照明を残す必要があり、ビデオプロジェクタにはそれに打ち勝つ高い光出力が要求される。計画の当初は精細度が高く明るさも十分なDLPプロジェクタを想定していたが、昨年のNYのテロによる経済的な冷え込みの影響で予算を半分以下に削減せざるを得なくなり、最終的には液晶プロジェクタを採用した。液晶式は動画の表示が比較的苦手なので、実写を見て視感的に良好な性能を有する機種を選定した。完成後に視聴した結果では、DVDなどの動画ソフトはさすがに部屋をかなり暗くしないと良好なコントラストが得られないが、パソコンのデータ表示などはまったく問題がなかった。プラズマディスプレイは、窓のブラインドが開いている昼間でもかなり良好なコントラストと色バランスが得られ、パソコンのデータを表示しても十分な解像度が得られている。もっと安価に製造できるようになれば一般家庭にも普及する可能性は高い。
コントロールシステム
本会議室では、入力機器がVHS、3/4″U-Matic、BETACAMなどのVCR類、DVD/CDプレーヤ、カセットデッキ、ドキュメントカメラ、デスクトップPC、ノートPC×2、ビデオ会議システム、AUX入力など多岐にわたる。出力もVP×1、PDP×2、TVモニター×1、VCR記録と多数あったため、これらの入出力系統の接続設定と各機器の操作にかかる煩雑さを避けるため、統合コントロールシステムを採用した。これは、すべての操作を大型のタッチパネルに集約するもので、欧米ではかなり一般的なものとなっている。ただし、タッチパネルの使いやすさは、カスタムメイドとなるプログラムソフトに依存するため、実際の運用を通して修正調整してゆく必要がある点には十分な配慮が必要である。
おわりにCEOマックス・ゴスリン社長をはじめ関係の方々には、当社の役割を理解され、信頼して業務を任せていただいたことに深く感謝いたします。(稲生 眞記)
喜多方プラザの「うらかた」
施設の概要
福島県喜多方市にある喜多方プラザ文化センターは、施設内に約1,200席の大ホール、400席(移動席)の小ホール、会議室および事務室を備え、1983年(昭和58年)11月にオープンした。管理運営は喜多方地方広域市町村圏組合で、正式な職員はわずか6名である。しかし、年末年始以外にホールの休館日はなく、地域文化の拠点として盛んに利用されている。例えば、オープン以降これまで約20年ものあいだに利用者数は240万人を超え、大ホールの稼働率は50%強、小ホールについては近年80%を超えている。プログラムの内容も常に充実しており、その運営のあり方については、これまでいろいろなところで話題として取り上げられてきた。その成功の秘密は、本ニュース1994-1号(通巻73号)で紹介した、このホールの顔ともいえる薄崇雄(うすきたかお)さんをはじめとする地元の方々のセンスと努力にあることは間違いない。
喜多方プラザを支える団体 ─舞台研究会「うらかた」─
「うらかた」は、その名の通り、ホールの裏方として働く市民グループで、開館の4ヶ月前に結成された。集まった数十名のうちほとんどの方に舞台設備を操作する経験がなかったにもかかわらず、直前の猛勉強、猛特訓で、オープニングセレモニーを乗り切った体験を持つ。このようなスタッフが必要であることを発想し、また実際に募集して育成してこられた、薄さんをはじめとする当初スタッフの方々のご苦労は大変なものであっただろう。今でこそ、ホールが新しく建設される際には、事前にこのような動きがある場合もみられるようになったが、当時としては前例がなかったはずである。この「うらかた」は現在も要請に応じて出動し、機材の保守管理に至るまでホールの活動をあらゆる面で支援している。そのうちに「うらかた」は他のホールのボランティア的な集団と連絡を取るようになり、お互いの催し物を観に行ったり、機材の貸し借りをしたりするうちに、舞台の仕事を手伝うまでに成長し、今では「日本舞台研究者連絡会」という名前で各地のメンバーが毎年集まり、ホームページの立ち上げまで準備しているとのことである。
喜多方プラザの2001年度予算は約1億円ということで決して潤沢とはいえない。しかし施設のさまざまな活動を支える団体は、地域内および周辺に数多く存在する。「自主文化事業推進協議会」は、広域圏組合管理者(=市長)が地域内の民間人および各公民館長に委員を委嘱している団体で、年間平均約15事業を主催している。このほか「きたかた音を楽しむ会」、「喜多方子ども劇場」、「喜多方演劇鑑賞会」および「広域演劇制作委員会」や、アマチュアイベンターの「フレンズ」などがある。さらに、プロの「劇団風の子東北」とはフランチャイズ契約を交わしている。また、「喜多方プラザを支援する会」が1997年に発足し、おもに資金面での支援活動を行っている。
鑑賞型文化事業と参加創造型文化事業
2001年度の自主事業の実施方針には、(1)より深い文化活動がこの地域に浸透するよう文化情報の発信、地域の文化活動への協力など足もと文化活動の基盤整理に努力する、(2)特色ある企画を立案し、鑑賞型文化事業と参加創造型文化事業をさらに推進する、という2点が謳われている。開館当初から、「みる」だけではなく「つくる」ことを常に念頭において運営されてきたことが、閑古鳥が鳴いているといわれるホールとは明らかに異なっている。例えば、毎年行われる自主企画の一つとして「NLCフェスティバル(N=New, L=Life, C=Circle)」が生まれ、地域内の教師が中心となっているグループがこれに参加した。最初のコンサートはソロ演奏の形であったが、やがて「フィガロの結婚」をかなり本格的な演出で行うまでになった。現在では長期間にわたる企画も進行中である。
そのほか、FBSR会という音響技術者のための研修会が今年で14回目となった。ここ数年は喜多方プラザの自主事業の1つとしてほぼ毎年のように組み込まれている。筆者も参加した今回のテーマは「デジタルミキシング」で、近年普及が始まったデジタルコンソールの使い方を、実際の操作を通じて理解しようとするものであった。大ホールでバンドが演奏し、その音をマイクロホンで収音して、場内に設置した各社のコンソールでミキシングしてみるだけでなく、小ホールや周辺の楽屋等にも回線を繋いでそこでも操作するという、大規模でかなり実験的なものであった。
今後の課題
ホールの活動を長年支えてきた「うらかた」にも悩みは多い。一番の悩みは人員不足で、特に、結成当時20代中心だった第一世代を受け継ぐ若い人たちがなかなか集まりにくいとのことである。また、基本的にはアマチュアなので、ミスに対する厳しさに欠けてしまいがちだし、プロの技術者とのあいだに摩擦が起きてしまうこともある。そのほか、自主的に企画を立ち上げていかないと、与えられた仕事をこなすだけの職人的な集団になってしまい、やがて活動が成立しなくなってしまうなど、問題が山積みになっている。これらを克朊していくことが今後の「うらかた」の課題である。
このような課題を解決する糸口として、ホール運営に関するノウハウをプロ/アマの区別なく語り合う場を、従来の会合の形式だけでなく、今後はインターネット上などでも数多く実現することが期待される。全国で一律に通用する運営マニュアルや画一的な催し物を作るためではなく、特色のある企画や技術を互いに認め合えるように意識しながら活用していけば、そのような場も有意義なものになるのではないだろうか。(菰田基生記)
【問い合わせ先】喜多方プラザ文化センター: http://www.kitakataplaza.jp/
〒966-0094 福島県喜多方市字押切2丁目1番地 Tel:0241-24-4611 Fax:0241-24-461
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