No.169

News 02-01(通巻169号)

News

2002年01月25日発行
ミレニアムホール

台東区生涯学習センター

 平成10年度から建設が進められていた台東区生涯学習センターが、昨年9月に東京都台東区西浅草にオープンした。設計はI.N.A.新建築研究所である。

 この施設の周辺は、商売用厨房用品や、寿司ネタケース、飲食店客用のテーブルや椅子、赤提灯や縄のれん、蝋細工の見本を作る店など、ありとあらゆる飲食店用品に関する店が建ち並ぶかっぱ橋道具街で、一種独特の雰囲気を持った町並みである。

かっぱ橋道具街通りと
台東区生涯学習センター

施設概要:

 本センターは、地上6階、地下1階建て、曲線をつけた正面外壁が全面ガラス張りで、明るく洗練されたイメージである。エントランスを入るとアトリウムが6階まで吹き抜けになっており、開放的な雰囲気を創り出している。
 センターの中には、中央図書館、ミレニアムホールと呼ばれる小コンサートホール、練習室4室、音楽スタジオ2室、池波正太郎記念文庫、きょういく館などがある。

遮音計画:

 前述のようにホールや音楽スタジオ、音楽練習室といった他の室からの音の影響を極力避けねばならない室あるいは発生音の大きい室が複合しているので、音響計画上の大きなテーマは、運用の支障となるような各室相互の音の影響をなくすことであった。

 本施設の基本構造は鉄骨の乾式構造であり、室の基本間仕切り壁はコンクリート構造ではなく、PC版あるいは押し出し成型セメント版などの乾式間仕切り壁である。また遮音性能を向上させるために、コンサートホールや音楽スタジオ2室、音楽練習室3室では防振ゴムのコンクリート床およびボード多層張りの防振遮音構造を採用している。練習室では、押し出し成型セメント版60mmの2層を固定遮音層とし、石膏ボード21mm×3層を各室の防振遮音構造とした。

 乾式の遮音構造では、施工精度がその性能に大きく影響することから、施工においては、かなり入念な隙間の処理を施し、その上固定遮音層である押し出し成型セメント版60mm  2層の施工完了時に遮音の測定を行い、固定遮音層の遮音性能を確認した上で防振遮音構造の工事をすすめた。その結果、各室相互間で遮音性能D-80以上(85dB/500Hz以上)、各室と廊下間でD-70以上(75dB/500Hz以上)を確保している。

ミレニアムホール(音楽ホール)の音響計画:

 ミレニアムホールは、300人収容のフライタワーのない天井高さ11m、幅12mのシューボックス型のクラシック専用コンサートホールである。内装は壁前面が木質系のパネルで、濃い色のステイン塗料を使って色調を落とした落ち着きのある空間となっている。

 本施設のようにいろいろな用途の空間が複合された施設では、直方形のシューボックス型は室配置上納まりやすく、安易な形状の選択のように思える。しかしながら、地域住民からはクラシック音楽の発表の場として300席程度の使いやすく音響性能の優れた音楽ホールが求められ、シューボックス型コンサートホールは地域住民の要望に適した形状の検討の結果であった。

ミレニアムホール

 300席規模の音楽ホールは、子供達のおさらい会やセミプロクラスの音楽家のリサイタルなど、地域の文化活動を行う人たちの発表会場として格好の場であると言える。

 本ホールの残響時間は1.7秒(空席時)1.4秒(満席時)/500Hzである。

生涯学習施設に期待すること:

 本施設のような生涯学習センターがこれまで日本各地に数多く建てられてきた。この背景には、政府が進めてきた21世紀に向けての教育改革がある。創造的で活力のある社会を築くとした教育改革の基本的なコンセプトは、これまでの学校教育への依存から生涯学習体系への移行という学校中心の考え方からの脱却としている。これを受けて、文部科学省(当時文部省)では生涯学習局を設置し、生涯学習法を制定し、昨年さらに体制強化を図るため、生涯学習政策局と名を改め、本格的に生涯学習への移行に取り組んできている。

 文部科学省では、同省が取り組むゆとり教育と称する学校完全5日制の実施や、カリキュラムの変更に向けて、学校のみならず地域全体で子供を育てる環境を整備し、親子の活動を振興する体制を整備するとしており、これを契機に、地域社会における活動の拠点となるこういった施設に期待が寄せられ、生涯学習施設の建設を促進させている。

 現在多くの学校で問題となっているいじめや登校拒否さらには少年犯罪などが深刻な状況にあり、こうした問題に的確に対応するために、家庭や地域社会の果たさなければならない役割は大きい。これに対応すべき施設のひとつとしてこういった生涯学習施設が設けられ、地域の住民の要望に的確に答えるものとして期待されている。

 そのためには、箱もの行政と言われるようなただ入れ物を作ればよいということではなく、多様化する学習のニーズに適切に対応した事業活動を行っていくことが重要である。生涯学習とは、自分にあった手段や方法によって自己啓発を続ける学習者の立場からの見方であるが、不登校児童などに対しては、生涯学習施設においても学校教育を中心としてきた今まで以上の積極的な指導的機能も発揮しなければならないと考える。

 台東区生涯学習センターの6階には小中学校に行くことができない不登校児童のための学級(あしたば学級)が設けられ、また子どもについての不安や悩みの相談など心のケアにも対応している。台東区生涯学習センターの今後の活発な利用が期待される。

【問い合わせ先】台東区生涯学習課 TEL: 03-5246-5823  (小野 朗記)

劇場のハードとソフト
-新国立劇場技術部長三田村氏にお話しを伺う-

 ホールの舞台設備(機構、照明、音響)の設計では、設計段階から現場で操作される方が決まっていることはまずなく、そのためある程度使い方を想定した設計が行われる。その想定した内容と実際があっていれば使い勝手の良い劇場となるのだが、なかなかそうはいかないことが多い。そこで、最近ではホールの目的に応じて相応しい関係者にいろいろと話を聞くなどして、設計の内容に現場の声を積極的に取り入れることが多くなってきている。また竣工前の早い段階に操作をされる方が決まった場合には、その方の意見を取り入れた内容に変更するというようなことも増えてきている。

 一方、ホールは経年変化とともに建築や設備機器は老朽化していく。また音響や照明設備等はどんどん新しい機器が開発されるので、定期的な改修計画が必要である。東京文化会館も竣工後40年を迎えるにあたって、舞台機構を中心に大規模な改修工事が行われた。これによって新しい演出に十分対応できなかった舞台機構が改善され、使い勝手の良いホールに生まれ変わった。この改修工事は10年ごとに改修計画の見直しが続けられた結果の成果で、ホールのように改修工事が多岐にわたり経費も大きいことを考えると、予算化や時期など早い段階から対処していくことが必要である。

 “ホールは人”とよく言われる。これはホールの企画等の他に利用者への応対や技術的なサポート体制など、対応する人々の態度などがホールの活性化に大きく関係しているからである。せっかくの良いホールにもかかわらず、あの人がいるからあのホールは使いたくない……というようなことは結構頻繁に聞く話である。

 操作性が良く充実した舞台設備、利用者への対応がよく快適な楽屋、雰囲気のよい客席やホワイエ、優れた音響性能など、使い易く喜ばれるホール創りのためには多くの事柄をクリアーしなければならない。そこでハードとソフトに関するいろいろな話題について、新国立劇場技術部長の三田村晴夫氏にお話を伺った。三田村さんは、長い間フリーの舞台監督としてご活躍された後に、銀座セゾン劇場の設立と運営に関わられた。その後、新国立劇場の立ち上がりに尽力され、オープン後は技術部に所属されている。新国立劇場の表から裏まですべてをご存じの方である。

 ここで、少し銀座セゾン劇場の話しをしたい。銀座セゾン劇場は、残念ながら1999年に閉館し、今はル・テアトル銀座と名前を変えて貸し館として活動を続けている。銀座セゾン劇場の開館当時の企画には今までにない斬新なものが多く、演劇ファンならずとも多くの人達が関心を寄せていた。舞台床には自由度の大きいユニット床が考案され、その舞台をフルに使った芝居が企画・上演された。今では多くのホールで採用されているユニット床は、銀座セゾン劇場がその始めで三田村さん等が考案したものである。しかし三田村さんのお話では、公演数が年間10本程度と時間的な余裕があったからこそユニット床が効果的だったのだ、ということで使い方を考えた計画が必要なことを強調されていた。

 新国立劇場については、舞台機構、舞台照明、舞台音響各設備の工事発注案の作成段階から参加されているということである。この案作成にあたっては、当時舞台制作の一線で活躍されていた40代の方々を中心に13~14名程度の委員会が結成されたそうで、三田村さんはそのとりまとめ役をされた。したがって、計画から参加されたも同然で、要望したもののほぼ8割程度は実現していると話されていた。また、今後の機器の改修計画についても、劇場内の全品目について耐用年数の調査を行い、すでに策定が終わっているということである。今後15年毎に見直しを行う予定とのこと。この改修計画は現場にいる人達用というより、他の部署の方達に改修の必要性を知らしめるのに有効なのだと力説されていた。とくに公共ホールでは一朝一夕に改修予算が組まれるのではないため、予めの根回しが必要なようである。

 新国立劇場の技術部は全員で47名(うち、舞台10名、音響6名、照明9名)、委託の方々をあわせて100名程度がローテーションでオペラハウス、中劇場、小劇場、稽古場(19室)、楽屋(700名程度の収容人数)を切り盛りしている。この人数をお聞きして、規模に対して技術部の人数が少ないのにびっくりした。とにかく忙しいということだが、本当に技術部の室は人の出入りが多く活気にあふれていた。またスタッフのほとんどが民間から参加していることもあって、予算枠にあまりとらわれない活動ができているのも活気をもたらしていると話されていた。そこで沈滞化しているホールの活性化の方法についてご意見をお聞きしたところ、公共ホールでは若い人の出番が少ないが、すべてを若い人に任せてみてはどうか、そして、いかに興味を持った人間を配置できるかが活性化の鍵だろうと話されていた。

 海外ではバックステージツアーを行っているホールやオペラハウスは多いが、日本ではまだ少なく定期化しているホールはそれほどない。新国立劇場では現在、毎月2回(3回/日)実施している。募集人員は各回20名、コースは客席、舞台、組立場、奈落を約1時間半で回るという内容である。迫りや舞台機構などは危険なこともあって、見学の最後に動くところをビデオで紹介している。料金は傷害保険込みで500円。非常に好評で、発売1日目でほぼ満員になるということである。見学の際にはハード、ソフトの両方がわかる方々が同行し、質問にはとことん答えるという姿勢で対応しているということだった。募集は2ヶ月に一度、2ヶ月分を募集している。詳細はホームページ(http://www.nntt.jac.go.jp/index3_t.html)を参照していただきたい。

 新国立劇場では今年からヨーロッパのように日替わり公演を開始する。まず手始めが5月のトスカとサロメ。大道具の置き場が足りないということで、中劇場の舞台を置き場として使用する。裏方さんにとっては面倒なことだと思うが、オペラが大好きな人間にとっては非常に魅力的なことであろう。

 お話を伺ううちに話題があちこちに飛び、そのいずれもが興味深い内容だった。ここではその一部をご紹介させていただいた。最後に三田村さんのお話の中で最も印象に残った言葉、そして最も多く発言されていた言葉は、「お客様に楽しんでいただく…」。とにかく劇場に来ていただく方々をいつも念頭において仕事に向っておられる感じを強く持った。
【問い合わせ先】新国立劇場ボックスオフィス TEL:03-5352-9999   (福地智子記)

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