山形勤労者総合福祉センター「山形テルサ」
4月1日、山形駅西口の駅前再開発地域に、雇用・能力開発機構と山形市が共同で計画した山形勤労者総合福祉センター「山形テルサ」がオープンした。山形テルサは雇用・能力開発機構が各地に建設してきた一連の勤労者総合福祉施設(テルサ)の最後の施設となる。これまでのテルサのホールは多目的ホールであったが、山形では本格的なコンサートホールとして計画されている点が他のテルサと異なる特徴である。これには次のような事情があった。山形市には山形交響楽団というプロのオーケストラが活動している。これまでコンサート会場として県民会館、市民会館等が利用されていたが、いずれも多目的ホールであることから、響きの点でコンサートホールが熱望されていた。一時は山形市単独でコンサートホールを建設する話もあったが、諸々の事情から中断されていた。そこで山形テルサ建設の計画に際して、コンサートホールの建設が具体化された。計画当初は走行式反射板をもつコンサート主目的の多目的ホールも検討されたが、市内のホールの使用状況や市民会館等との棲み分けを明確にするということで、本格的なコンサートホールとなった。
施設は800席のコンサートホール「テルサホール」を中心に、リハーサル室、400人収容の多目的ルーム「アプローズ」、研修室、会議室、交流室、フィットネスクラブ、レストランおよび雇用・能力開発機構の事務所で構成されており、勤労者に雇用情報や体力増進、研修等の場を提供する総合福祉施設となっている。設計監理は現代・伊藤・本間設計監理共同企業体、建築施工は大林・淺沼・千歳建設共同企業体、劇場計画はシアターワークショップで、当社は一連の音響設計・監理・測定を担当した。
テルサホール
JR走行時の固体伝搬音防止の観点から、駐車場をJR側に設け、軌道から約80m離れた場所に建物が計画された。テルサホールは建物北側に配置され、建物を南北に二分するロビー空間によって他の諸室と明快に分けられている。これらの箇所はエキスパンション・ジョイントとし、周辺施設からホールへの騒音・振動の伝搬を防止した。ホール形状はシューボックス型を基本としており、客席は主階席をサイドバルコニーのある2階席が取り囲んでいる。天井はコンサートホールにふさわしい響きを確保するためにできるだけ高くし、また客席への反射音の時間的な分布の検討結果から、舞台および後壁側から中央部のシーリングスポットにかけて緩やかに高くなる山形の断面形状とした。ホールの寸法は幅20m、奥行き38m、天井高さは舞台後部において舞台面から13m、最高部で17m、1人当たりの室容積は約13m3である。内装には木質のリブがふんだんに使われている。リブは拡散を意図し、正面形状の異なる6種類のリブをランダムに配列した。またリブ背後には部分的にグラスウールを設置し、意匠を妨げない吸音構造となっている。舞台正面下部のリブ背後には吸音カーテンを設置し、演目に応じた舞台上の響きの微調整を可能とした。残響時間は1.9秒(500Hz、空席時)である。
電気音響設備は、スピーチの明瞭さの確保と高品質な録音、中継への対応に重きを置いた。メインスピーカは天井に6台を分散配置し、客席との距離を短くするとともに客席をくまなくカバーすることで長い残響下でも明瞭な拡声が行えるよう配慮した。また最近よく行われる解説付きコンサートに対して、舞台上に設置しても雰囲気を壊さないようにエンクロージャをホールの壁と同じ木仕上げとした移動用スピーカを用意した。録音については舞台鼻先の3点吊りマイク装置に加え、舞台上にも1点吊りマイク装置を3台設置した。また音響調整室のミキサーとは別に録音専用ミキサー卓を備えるとともに、大楽屋に音響回線を配し録音室としての使用も可能とした。中継については中継用音響盤を搬入口に設け、舞台、録音室、調整室との音響回線を配すとともに、ホール側と録音・中継者側の音響回線が交錯しないよう配慮した。
多目的ルーム「アプローズ」
建物3階にあるアプローズは昇降式舞台、開閉式の舞台天井・側壁および可動観覧席を備え、研修会や講演会から各種パーティ、簡単な演劇やピアノ等の音楽発表会など様々な用途に対応できる多目的空間である。また2重のスライディングウォールによって部屋を2分割できるようにもなっている。コンサート形式時の響きの長さを確保しつつ、平土間時や2分割時に響きが長くなりすぎないよう内装仕上げを検討した。スライディングウォールも有孔板+グラスウールによる吸音仕上げとした。残響時間(空席時、500Hz)は平土間時1.4秒、コンサート形式時1.2秒、講演会形式時1.0秒である。 電気音響設備は、舞台使用時に対してプロセニアムセンター、サイド、固定はね返りの各スピーカを、平土間使用時に対してシーリングスピーカを設置している。また2分割使用時にはシーリングスピーカと移動式スピーカを併用可能とし、小型ミキサーと録音再生機器を収納した操作ワゴンを備えた。市民利用を考慮しできるだけ簡単なシステムとしながらも、多目的な使用にも柔軟に対応できるよう配慮した。
山形交響楽団による演奏会
3月22日に行われた落成式典の後、佐藤寿一氏指揮、山形交響楽団による演奏会が行われた。曲は喜歌劇「こうもり」序曲他4曲で30分程の演奏であった。ホールの響きは低音から高音までバランスが良く、またクリアさと音に包まれる感じとのバランスが心地よいという印象であった。またスピーチの拡声音も聞き取りやすく、担当者としてはほっとした気持ちであった。テルサホールではしばらくの間、見学会や体験会が行われ、5月22日にアリシア・デ・ラローチャ(pf)と山形交響楽団の共演によるオープニングコンサートが催された。市民に親しまれ活気あるホールとなることを期待する。 (内田匡哉記)
【連絡先】TEL:023-646-6677 ホームページ http://www.yamagataterrsa.or.jp
パチンコ店の音響設備改修
このパチンコ店は、都心のベッドタウンに近い繁華街の、駅から徒歩で2~3分程度離れているところにある。最近、より駅前に近く立地条件のよい競争相手の店が改修・新装オープンし集客力が増したのをオーナーが実感されたのが契機となって今回の改修が計画された。競争相手の店の改修は、よくみられるような店内外の意匠的な改装であったが、これに対抗するために本店のオーナーが計画されたのは、大々的な建築意匠の改装ではなく、場内の音環境の改善であった。オーナーは、常々BGMやアナウンスの音質の改善を図りたいと考えられていたようである。この発想は、ご自身が熱心な音楽愛好家であり、とくに音響に関心を持たれていることから生まれたものと思われるが、さらには、外語学院も経営されているという視野の広さも、ありきたりの改修とは異なる音響の改修に矛先を向けられた一因かもしれない。この件は、オーナーから音響設備改修の担当を任された施設担当部長から弊社のホームページをとおして問い合わせを頂いた。ご照会をいただくまでには、音響機器メーカーや設備施工者などに相談されたが解決には至らず、初めての経験で対応に困りインターネットで検索され、弊社のホームページにアクセスしていただいた、というのが経緯である。ただ、われわれコンサルタントの業務内容は、この業界の方にとっては理解しにくいもののようで、“施工もやっているのでしょう?”という認識であった。窓口の一本化で、設計・施工を一括して依頼できれば面倒が省けると思われたようである。この点はよく話し合い理解していただいた。
改修前の音響装置は、12cm径の小型高性能の天井露出型スピーカが多数設置されていた。数量的に不足はないものの、その設置個所と向きが適切でないことが一目でわかった。お客の方にスピーカがほとんど向いていないのである。スピーカはパチンコ台が背中合わせに並んでいるブロック(これを“島”と呼んでいる)の直上近くにあり、お客の方ではなく壁、あるいは島に向かって取り付けられている。これは万一のスピーカ落下に対する安全のためであることは理解できるが、お客に向いていないスピーカには理解に苦しむ。このようなことは他店においても似たような状況であることがその後の調査でわかった。結果としてアナウンスやBGMがよく聞こえないために音量を上げざるを得ず、そのために店内の騒々しさが増し、お客はもとより、スタッフ用無線インカムもよく聞き取れないという業務上の支障も生じている。また、CDプレーヤやミキサー等の機器が、比較的年数が経っていないのに傷みが激しいこと、音質補正用のグラフィックイコライザの設定が適切になされていないこと、などの改善すべき点も判明した。さらに驚いたのは、機器ラックの背後やカウンター内のコントロール機器の配線処理が、ホールや劇場の音響設備のそれと異なり、どちらかというと電気工事の処理そのものであることであった。問題になっていないからいい、ということなのであろうが、店の設備管理担当者に尋ねたところ、それ以上に基本的な問題があるようである。すなわち、メーカー・保守担当者に相談してもすぐ来てくれない、対応があやふや、技術的に信頼がおけない等である。一方、メーカー側からすると、運用方法が理解しにくく、保守時間も閉店時間を過ぎた23時20分以降から翌日開店の10時まで、など対応がしにくい状況があるのだろう。このような状況なので、店側のメーカー(保守担当)に対する評判がきわめて宜しくないのである。
以上のようなことから、音響技術的な改修方法の検討前に、施工者の選定作業を行った。当然、現在の施工者、店の管理担当者紹介の音響機器レンタル・オペレート・工事を一貫してできる会社、本パチンコ店建設関係の会社などが候補に上がった。これらの中で、施設管理担当者紹介の会社が音に関するこだわりが感じられ、“よい音にするには”という提言書を添付していた唯一の会社だったので、迷うことなくこの会社に決定した。
次に改修の考え方であるが、質のよい均一な音を入場者にサービス (オーナーはエントランスでの入店の第一印象にことのほか気を使っておられる) することと、BGMが流れている中でのアナウンスの明瞭度の改善を目的として、現在のスピーカ配置をベースにしてスピーカとその出力系統を対象に改善を行うことを提案した。具体的には、お客の方向にスピーカを向けることと、現状のフルレンジだけのスピーカにサブウーハーを追加して周波数特性を低音側に拡張し、相対的に中・高音の音量レベルを下げるという方法である。すなわち、場内の音量を上げずに、むしろ下げる方向で必要な音量を確保しようという考え方である。そして、スピーカの相互干渉による音質の濁りを抑えるためにスピーカ駆動グループをできるだけ細かく分け、グループごとにDigital Signal Processor(DSP)を設置すること、傷みの激しいCDプレーヤやミキサーなどの更新もあわせて提案した。しかし、予算の制約から、今回はサブウーハー4台を島の上部に天井に向けて新設する他は、フルレンジ型スピーカについては現状のままの台数で配置の変更のみとし、CDプレーヤやミキサーの更新は次期の計画で考える、ということとなった。
改修工事終了後に行ったスピーカーシステムのチューニングについては、おもにアナウンスの明瞭さとBGMのクリアーさを得るためにブーミングの除去とサブウーハーの音量レベルの設定を行った。サブウーハーの追加により低音域にバランスが偏るため、若干、高音域のブーストが必要であった。これらの調整が済んだ後で、閉店後に店員さんに居残ってもらいパチンコ台を使用した店の通常の運用状態でCD再生音の音質とアナウンスの明瞭度、そして無線インカムの聞き取り易さをチェックした。その結果、音質の改善はもとより、音量が小さ目でもBGMやアナウンスがよく聞こえるようになった、との評価をいただき、施設担当部長、オーナーにも改善の効果を確認していただいた。
後日、次期計画であったCDプレーヤが更新され、その音質の確認に立ち会ったところ、再生音がすばらしく良くなったことにオーナーが感激され、この後のシステム機器の更新計画が加速されそうである。
今回は、パチンコの大きな騒音の中でアナウンスやBGMの質のいい音を提供するにはホールや劇場とは違った音響上の工夫をする必要があること、また、パチンコ店ゆえの独特の使用実態に対する理解が特に必要なことを認識した業務であった。(浪花克治記)
シンポジウム・見学会開催のお知らせ
「個性的な劇場・ホール建築は地域にどのように受け入れられているか?」をテーマとしたシンポジウムと見学会が6月9日(土)、10日(日)の両日、島根県の”大社文化プレイス”と”ビックハート出雲”で開催されます。(主催 日本建築学会)
問合せ先:企画担当委員 上西氏 uenishi@uenishi.co.jp (tel.03-3748-3058)
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