ホールは楽器だといわれますが、楽器より演奏家には距離がある存在だけに、ホールの計画には様々な制約あり、主張が飛び交います。敷地や予算の制約をはじめとして、施主の意向、建築設計者のデザイン嗜好など様々ですが、場合によっては演奏空間という本質を見失ったホールも生む危険性を感じることがあります。このような状況の中で、今日わが国のホールの音響効果が国際的にも高い評価を受けておりますのは、これら様々な分野の方々の音響に対する理解と協力がありましたことを申し添えておきます。また、初期反射音に着目した“concert hall acoustics”という室内音響研究の流れが生まれたこと、測定、分析、シミュレーション技術など広範囲にわたる音響技術の進歩と共に、騒音防止対策などの建築施工技術の発達があり、これらの諸分野での進展も音響設計実施上の大きな支えとなってきたことを感じております。この授賞を一つの契機として、長い歴史の中で培われた音楽文化の本質を見据え、残された年月を音響技術の向上と充足に尽くしていきたい所存でございます。