No.397

News 21-07(通巻397号)

News

2021年07月25日発行
ホール(客席)

港南公会堂がオープン

 今年5月、横浜市港南区にひまわりをモチーフとした新しい公会堂がオープンした。

施設概要

横浜市港南区は、横浜市の南部に位置し、戸塚区や磯子区に隣接している。横浜市を縦断する地下鉄ブルーラインで横浜駅から20分弱のところにある港南中央駅が本施設の最寄り駅で、駅の近くには、新しい公会堂の他に区役所や警察署といった区の主要施設が集まっている。

 本施設が建設されたのは、港南中央駅(地下)の真横の敷地で、敷地の前面に交通量の多い鎌倉街道、その下を地下鉄のブルーラインが通っている。この敷地には、もともと港南区の旧総合庁舎があったのだが、施設の老朽化のため、庁舎は2017年にすぐ近くの敷地に移転し、その跡地に本施設が建てられることになった。新しい公会堂は、その旧総合庁舎内にあった公会堂の機能を引き継ぎ、さらに同区内にあった土木事務所と区民活動支援センターも移転させて取り込んだ複合施設となっている。施設は525席のホールのほか、土木事務所(事務室、会議室2室)、区民用の会議室2室、和室、ギャラリースペース等で構成されている。設計は新居千秋都市建築設計、施工は松尾・大洋・安藤建設共同企業体で、永田音響設計は建築音響・騒音制御・舞台音響設備について、設計段階から竣工測定までの一連の音響コンサルティング業務を担当した。

ホール(客席)
ホール(客席)
ホール(舞台)
ホール(舞台)

遮音計画

施設の遮音計画では、敷地の真横を走る地下鉄からホールへの固体伝搬音の低減と、ホール周囲に配置された運用者・利用者が異なる事務室・会議室等との遮音がポイントであった。

 まず、地下鉄走行時の固体伝搬音については、ホールへの影響を確認するため、敷地に旧総合庁舎が残っている段階で、建物内で地下鉄騒音の聴感的な確認を行った。地下鉄側で走行レールへの防振対策がされていることもあり、地下鉄騒音は僅かに聞こえる程度であった。そのため、本施設では特別な対策は行っていない。施設竣工時も聴感的に確認したが、ホール内で僅かに聞こえる程度で、運用上は支障ないと判断された。

 また、施設内の遮音計画としては、ホールの直下階に土木事務所(事務室や会議室)、車路、遊歩道(屋外)があり、運用者の異なる室や屋外空間がホールに隣接して計画されていたため、ホールの舞台・客席と平面的に重なる下階のエリアに対して、防振遮音天井(石膏ボード15mm 3枚+GWを防振吊り)を採用した。竣工測定時の下階との遮音性能は、60~70dB程度(500 Hz)となっている。
壁面のレリーフ(茎と葉)※丸孔はスピーカ用開口

室内音響計画

旧総合庁舎の公会堂を引き継いだ本ホールは、区民利用を主としており、可動式の舞台反射板を備え、音楽発表会から式典・講演会に対応する多目的ホールである。音響的には、生音の音楽コンサートに適した余裕のある響きとするため、なるべく高い天井高を確保し、客席空間には椅子以外の吸音仕上げを設けていない(舞台反射板設置時の残響時間:満席時1.8秒/500Hz)。

 写真を見ての通り、ホール内には白い壁と天井の中に鮮やかな黄色の客席椅子が並んでいる。これは、港南区の花がひまわりであることから、区民、特に子どもに喜んでもらえるように、ひまわりをモチーフとしたデザインとしているためである。そしてさらによく見ると、白色の壁や天井、舞台反射板にまで、ひまわりの花、茎、葉のレリーフが刻まれていて、見渡すところ全てにひまわりのデザインが取り入れられている。

 これらのひまわりをモチーフとした表面仕上げは意匠デザインからきたものであるが、表面の細かい凹凸は高音域の音を拡散させて反射音を和らげるため、音響的にも望ましいことから採用されている。壁面は、フラッターエコー防止のために平面的に角度をつけて折れ壁形状とした上で、花(深さ5mmのレリーフ)、茎・葉(深さ15~30mmのルーバー)がデザインされている。また客席天井は、客席全体に音を反射させ、客席後方からのロングパスエコーも防止するような曲率の大きい曲面としており、その表面にも花のレリーフが刻まれている。花のレリーフには繊維混入石膏ボード、茎・葉のレリーフには特殊ケイカル板が使われており、どちらもレーザー加工であらかじめレリーフが掘りこまれたボードが現場で取り付けられている。

 舞台音響設備については、プロセニアム中央とサイド(下手、上手)のメインスピーカをプロセニアムアーチ内に隠蔽して配置した。客席の遠方・中央向きのスピーカはラインアレイ型、前方向きのスピーカはポイントソース型として、拡声音の明瞭さと自然さのバランスを図っている。プロセニアム中央とサイドのサブウーハも含めると4Way型となり、音声からバンド演奏まで幅広い演目の拡声に対応できるように計画している。その他に効果音用として、客席天井の中央にシーリングスピーカ、側壁にウォールスピーカを配置し、演劇や映像投影などの催し物にも対応できるようにした。シーリングスピーカとウォールスピーカについては、ひまわりの内装デザインに合わせるように丸い開口部内に納められている。メインスピーカと効果音用スピーカはいずれも内装仕上げの裏に隠蔽されているが、背面からの反射や音のこもりが生じないようにスピーカの背後には吸音処理を施している。客席椅子以外に吸音仕上げがない空間であるが、拡声音は明瞭に聞き取ることができる。

側壁の折れ壁と曲率の大きな客席天井
側壁の折れ壁と曲率の大きな客席天井
壁面のレリーフ(茎と葉)※丸孔はスピーカ用開口
壁面のレリーフ(茎と葉)※丸孔はスピーカ用開口
天井の花のレリーフ(施工途中)
天井の花のレリーフ(施工途中)
天井のスピーカ用開口と空調吹出用開口
天井のスピーカ用開口と空調吹出用開口

完成後のホール

ホールの壁や天井が白色ということもあり、ひまわりの椅子は一層目を惹く。”ひまわりの椅子”と一言でいっても、ただの黄色と緑の組み合わせではなく、生地を間近で見てみると、様々な色合いの黄色、黄緑色、緑色が複雑に織り込まれている。図面いっぱいにたくさんのひまわりが描かれた設計図ではなかなかイメージが出来なかった空間であるが、一面に広がる客席椅子が輝いていて、その丸い形の背が親しみを感じさせる。

客席椅子
客席椅子

 こけら落としは地元の小中学生による公演を無観客で行い、その様子をYoutubeで配信したそうである。本来であれば、ステージ上も客席も多くの地元のお客さんで埋まる機会となっただけに少々残念である。コロナ禍で仕方のないことではあるが、本ニュースをはじめとした記事や動画だけでは、その空間の雰囲気や魅力を全て伝えることはなかなか難しい。このコロナ禍が明けた際には、打ち放しコンクリートやモザイクタイルで構成されたホワイエ、それとは対照的に色鮮やかなひまわりが広がるホール、等々、この施設を是非とも生で体感してほしい。(服部暢彦記)

港南公会堂: https://www.konan-ph.com/index.php