多賀町中央公民館 多賀結いの森 オープン
滋賀県犬上郡多賀町に本年3月、既存の中央公民館が建て直されて、隣地に新しい中央公民館「多賀結いの森」がオープンした。多賀結いの森の名称は公募によって決まったもので、「木と木が集まる森のように人と人が自然とつながる場所になりますように」という思いが込められている。設計は大西麻貴さんと百田有希さんが主宰するo+h、施工は桑原組である。永田音響設計は、町の花である“ささゆり”の名称がつけられた“ささゆりホール”という300席の多目的ホールを中心に、設計段階から工事完了時の音響測定までの音響コンサルティングを行った。
多賀町は滋賀県東部の福井県や岐阜県との県境に位置する町である。鈴鹿山系の豊かな山々に囲まれた自然あふれる町で、かつては林業や製材業が盛んに行われていた。また、町内には伊邪那岐大神、伊邪那美大神を祀る滋賀県第一の多賀大社があり、古くから多くの人たちの信仰を集めてきた地でもある。
新しく完成した中央公民館「多賀結いの森」は、既存の公民館のように活動をする人たちしか立ち寄れない施設というのではなく、町の多くの人たちが、日常、気軽にちょっと訪れることができるような施設にしたいという、町や住民、設計者の意図が反映された施設になっている。例えば、公民館として必要な諸室をつなぐ廊下等のスペースは単なる廊下ではなく、少し広くなっていてちょっと寛げる椅子やテーブルなどがさりげなく置かれていたりする。多賀町では、建設準備段階から、町のいろいろな立場の方々が参加する「多賀語ろう会」という会が開催されており、新しい施設のことや完成した後の施設の使い方などが熱心に話し合われたそうである。また、設計から施設が完成するまでの間、建物に使われる木材の伐採の様子や工事状況、施設の内容や施設に係わる方々の紹介など、新しく完成する建物を身近に感じられる情報満載の広報誌「新! 中央公民館ができるまで」という冊子が10号発行されている。このように、早い段階から建物の魅力を様々な角度から発信する仕掛けが作られており、町の方々のこの施設への関心は高かったようである。
施設は平屋の建物で、庭を介しながら廊下で連続するように諸室が配置されている。このように雁行した配置や回遊性のある室配置は、設計者の大西さん曰く、滋賀の民家には多く見られる形式とのこと。構造は木造を主体構造としており、使用されている木材のほとんどは、内装材はもちろん構造材、下地材まで含めて町産材である。屋根は個々の室ごとに片流れの勾配屋根がかけられており、その組み合わされた様が鈴鹿山系の山並みと呼応しており、とても印象的である。屋外に面する壁の多くはガラスになっており、日中は明るい陽光が室内にサンサンと降り注ぐ。一方、夜はガラス面から室内の温かな光が漏れ、建物に誘われる感じがする。
ささゆりホールは、平面図からもわかるように他の施設とは別棟になっている。これはホールを耐火建築物にする必要があったためであるが、音響的にも他の諸室との遮音を図るためには有効であった。ホールは、当初300席が収まる平面形状で計画されていたが、300席が満席になるような使われ方はそれほど多くはないだろうということから、固定席で119席、移動観覧席を設置すると306席になるような計画に変更された。平面図のホール1は固定席のホールで、ホール2は移動観覧席が設置されている平土間のホールである。ホール1〜2の間、ホール2〜ホワイエの間には、それぞれ移動間仕切りが設置されており、これらの間仕切りを開閉することで、119席の固定席のホール、306席の固定席+移動観覧席のホール、そして、ホール2の移動観覧席を収納するとホワイエと連続した平土間の空間ができる。様々な使い方が可能である。
ホール1の天井は屋根の勾配と同様に、舞台から客席後方に向かって高くなっており、舞台先端の高さは約6m、客席最後部で約7mである。公民館のホールということで、スペースや予算など様々な制限がある中、生音の演奏を考慮して、可能な範囲で天井高さを確保してもらった。また、ホール1の天井は梁が露出されたデザインになっており、天井からの音響的に有効な反射音が得られにくい。そこで、天井からの反射音が客席に一様に分布するように、梁の間に反射板を設置した。内装材は、壁は杉板、天井反射板は桧ストランドボードで、いずれも町産材である。舞台は、側面パネルを開閉したり幕類を必要に応じて設置することで、式典や講演会、コンサートなどの様々な催し物に対応するように計画されている。舞台側面パネルを閉じた状態での残響時間(空席時)は1.4秒で、合唱などの生音に適した響きとなっている。
因みに、屋根も木構造のため雨音が懸念されたが、屋根材や天井材の質量を上げたり吸音材を併用するなどで、今のところ支障とはなっていない。
建物に入った瞬間、なんだか懐かしい気持ちになる。やさしく迎えてくれる雰囲気がある。これから様々な活動を通して、町の方々にとって日常の生活に欠かせない施設になることを願っている。(福地智子記)
多賀町中央公民館 多賀結いの森ホームページ: http://www.town.taga.lg.jp/contents_detail.php?co=kak&frmId=1204
マサチューセッツ工科大学の新しい音楽棟
米国ボストン(所在地の住所はケンブリッジ)のマサチューセッツ工科大学(MIT)は、音楽科の新しい建物の計画を進めており、その設計者をコンペにより選定した結果をこの4月に発表した。
MITの人文科学・芸術・社会科学部(School of Humanities, Arts, and Social Sciences、通称「SHASS」)に属する音楽・演劇学科のコースには、現在、約1,500人の学生が在籍している。このうち音楽科は、副専攻として選択している学生を含めると、大学が用意している42の専攻科目の中で最も人気が高い。ただし、最終的に主専攻としている学生は、毎年5-10人程度である。
この音楽科では、演奏科、音響工学、音楽史と音楽文化、作曲および音楽理論等の大学院レベルのプログラムが提供されており、現在は教室、リハーサル室、オフィスおよび演奏スペースが、キャンパス内のいくつかの建物に分散して配置されている。
学生たちは、合唱団、交響楽団、室内楽団、大・小のジャズバンド、そしてバリ島のガムランやセネガルのドラム「Rambax」など、さまざまな演奏グループに参加することができる。また、書類選考とオーディションの手続きを経て奨学金を提供するエマーソン・プログラムを通じて、毎年50人から100人の音楽科の学生がサポートを受けている。
このたび、2010年度のプリツカー賞を受賞した建築設計事務所SANAAが、永田音響設計とともに、新しい音楽棟の設計者として選定された。教職員室、練習室、録音室および教室が一つの建物内に統合されるとともに、新たな演奏スペースとして300席の「Performance Lab」が追加される。
新しい音楽棟は、マサチューセッツ・アベニューの西側のキャンパスの一部として予定されており、モダン建築の巨匠エーロ・サーリネンの設計により1955年に完成した「Kresge Auditorium」の西側に隣接することになる。この敷地は、川沿いに東西に連なる居住者用の建物群(その中にはアルヴァ・アールト設計の学生寮「Baker House」が含まれる。)と、Kresge Auditoriumの北側に面する学生センターのちょうど中間にあたり、学生センターの先にはマサチューセッツ・アベニュー東側キャンパス内の主要な既存の建物が続く。
新・音楽棟の総床面積は 33,000ft²(3,065m²)で、2022年中に完成する予定である。(Daniel Beckmann記)
MITニュース: https://capitalprojects.mit.edu/projects/music-building
MIT音楽科: https://mta.mit.edu/music/about