No.367

News 18-07(通巻367号)

News

2018年07月25日発行
旧南校舎の講堂

横浜共立学園 新しい礼拝堂

 横浜共立学園は、横浜の山手に校舎を構える140年以上の歴史をもつ中高一貫教育の女子中学・高等学校である。創立60周年の際に建てられた建築家ヴォーリズ設計の木造の本校舎は、87年経った今なお現役の校舎であり、歴史的建造物として横浜市の指定有形文化財(第1号)に登録されている。

 その歴史とともに校舎は老朽化が進んでいたため、校舎の再整備計画が策定された。歴史的建造物である本校舎は改修・保存され、それ以外の校舎については、仮設校舎を建てずに、順次建て替えを進める計画となっており、工事中も変わらない学園生活が送れるよう配慮されている。

 再整備計画の第1期工事である本プロジェクトでは、老朽化していた旧南校舎に代わる新しい校舎(南校舎)が新設された。新しい南校舎の地下には、これまで毎朝の礼拝や学園行事に使用されてきた旧南校舎の講堂(1370席)に代わり、新しい礼拝堂(1200席)が計画された。設計は日本設計、建築工事は安藤ハザマである。永田音響設計は、設計・施工段階における音響コンサルティング業務および、旧南校舎講堂の音響調査、新しい礼拝堂の音響検査測定を担当した。

 プロジェクトの設計段階において、新しい礼拝堂の音響設計のための資料を得るために、旧南校舎の講堂の音響調査測定を行った。講堂は、床にカーペットが敷かれているなど吸音が多めであったこともあり、残響時間は約1.0秒(500 Hz、空席時)と、礼拝堂としては比較的短めの響きであった。新しい礼拝堂の音響設計にあたっては、電子オルガンの演奏や礼拝に適した、やや長めの響きが望まれた。

 新しい礼拝堂は、ワンフロアに全校生徒と全教職員の1200人が着席できる。礼拝堂は地下に計画されたため、天井高に制約があったが、できる限り天井高を確保するため、天井には内装材を貼らずにコンクリートスラブ面を反射面とし、天井高6m程度を確保した。天井のコンクリートスラブ面については、ザラツキのある塗装とし天井からの強い反射音を和らげるようにした。内装仕上げについては、長めの響きとするために、後壁の一部を吸音(岩綿吸音板)とした以外は基本的にすべての壁面を反射面とした。礼拝堂の椅子については、空席時と着席時の響きの違いを小さくするために、椅子の座部分にクッションのある仕様とした。

旧南校舎の講堂
旧南校舎の講堂
新しい礼拝堂(講壇側を望む)
新しい礼拝堂(講壇側を望む)
新しい礼拝堂(後壁側を望む)
新しい礼拝堂(後壁側を望む)

 天井下には、格子状に組まれた設備レールが設けられ、分散的に配置された間接照明や拡声用のスピーカが納められた。設備レールは1.6mm厚の鉄板でできており、鉄板に起因する音鳴りやビリツキを防ぐため、鉄板には裏側からあらかじめ吹付材を塗布し、顕著な音鳴りが起こらないようにした。

 旧南校舎の講堂には、アールボーン社製の電子オルガンが備えられており、その電子オルガンが、スピーカ、コンソールともに新しい礼拝堂に移設された。移設された電子オルガンについては、既存のオルガン用スピーカを礼拝堂の後壁面に納め、講壇側部と天井の設備レール内の新規スピーカを、オルガンの補助スピーカとして使うことで、電子オルガンの音を礼拝堂全体にカバーさせている。

 竣工時の音響測定における新しい礼拝堂の残響時間は約1.6秒(500 Hz、空席時)であり、旧南校舎講堂よりも長めの響きが得られている。音響測定の際には、オルガニストの先生にも立会いと演奏をお願いし、オルガンの演奏のしやすさや礼拝堂の響きについて確認をしていただき、好意的なお言葉をいただくことができた。この4月から新しい南校舎での学園生活が始まった。この校舎で充実した学園生活が送られることを期待したい。(酒巻文彰記)
(礼拝堂の写真撮影:輿水進氏)

天井の設備レール
天井の設備レール
電子オルガンのコンソール
電子オルガンのコンソール
  • 横浜共立学園ホームページ: http://www.kjg.ed.jp/

本郷瀬川ビル 竣工30周年

 私共、永田音響設計が御世話になっている東京都文京区本郷の本郷瀬川ビルが2018年7月1日で竣工30周年を迎えた。その節目にあたる今月、このビルのオーナーである株式会社 昌平不動産総合研究所による感謝の集いが開催された。

 私共とのご縁は2001年1月からになる。その前年、海外展開の拠点をロサンゼルスに設けることにしたこともあり、東京事務所の規模縮小からその移転を考えていた。その移転先候補にこのビルがあった。ここにはじめて伺った折のこと、春日通りから少し入っただけなのに静かな落ち着いた雰囲気の街路であること、大きな、見事なクスノキ、このビルのエントランス奥に見える入母屋造りの素敵な玄関と、それを取り巻く木立がとても印象的で、その佇まいが何とも言えない静寂さを醸し出していたことを覚えている。

 この見事なクスノキは樹齢600年といわれる巨木で、江戸時代から「本郷弓町のクス」として有名であったそうである。今は文京区の保護樹木でもある。それに向かい合うように、SRC構造、地下1階 地上7階の本郷瀬川ビルが、本郷瀬川邸を包み込むように建てられている。クスノキ側から望むと、ビルの正面が大きく開け、その向こうに有形文化財に登録されている本郷瀬川邸(旧古市公威邸)がみえる。この本郷瀬川邸は日本を代表する土木工学者であった古市公威氏(1854〜1934年)の自邸として明治時代の1887年に建設されたそうで、その後、古市氏の娘婿で医学博士の瀬川昌世氏が譲り受け、守り継がれている。玄関から応接間、書院へと、そしてその奥に広間と三畳台目の茶室の一指庵がある。また、青苔の美しい庭隅にもう一つの茶室の苔庵がある。この青苔の生した庭は四季折々の美しさを見せてくれている。

樹齢600年のクスノキ
樹齢600年のクスノキ
本郷瀬川ビル エントランスホール
本郷瀬川ビル エントランスホール

 そうして17年余り御世話になっているが、その間、窓のペアガラスの採用による高断熱化、快適性を重視したデシカント空調、照明器具のLED化による電力削減等の改修を行うなど、東京都地球温暖化対策推進事業所として省エネから地球環境の温暖化対策まで、地域とテナントに配慮したきめ細かな取り組みは、省エネと快適な環境を提供してくれている。弊社の電力使用料をみても、その効果がはっきりと覗える。また、本郷瀬川邸でのお茶会やエントランスホールでのバーベキュー大会、年末の餅つきと、心温まるビル内イベントは恒例になっていて、オーナーと、各テナント間の交流は親しみやすい環境を生み出してくれているように思う。

電力使用料の推移
電力使用料の推移

 これもオーナーの瀬川昌輝社長をはじめ、スタッフの皆様のビル管理のプロとしての姿勢とそのご尽力によるものと、たいへん感謝している。竣工30周年おめでとうございます。 (池田 覺記)