帝京大学 八王子キャンパス「SORATIO SQUARE」
帝京大学八王子キャンパス「SORATIO SQUARE(ソラティオスクエア)」が平成29年11月に竣工した。本工事は、地下に500人講堂(小ホール)のある高層棟を中心としたT期工事エリアと1000人ホールやアリーナを含む低層棟が中心となるU期工事エリアに分かれている。T期工事の着工は平成25年2月で平成27年9月に竣工し、続けてU期工事が始まり平成29年11月に本計画の全体が完成した。設計・監理はNTTファシリティーズ、建築工事は大林組が担当した。永田音響設計はT期工事における小ホールとU期工事における1000人ホールを中心として、施設の設計段階から施工段階および竣工時の音響検査測定まで、一連の音響コンサルティング業務を行った。
施設名称
本施設「SORATIO SQUARE」の「SORATIO」とは、無限に広がる空間(大空)、「SORA(宙)」と、ラテン語で「理性」を意味する「RATIO」を組み合わせた造語で、帝京大学の学生の可能性が宇宙のように無限に広がっていく様を表現しているそうだ。また、これらの建物群を広場(SQUARE)として捉え、「SORATIO SQUARE」と名付けられた。
施設概要
この「SORATIO SQUARE」の延床面積は約93,000u、地下2階、地上22階、高さ99.5m(高層棟)で、地震対策として「免震構造」を採用している。本施設は、500人講堂(小ホール)、1000人ホールのほか、教室、研究室、アリーナを備えている。また、学内はもとより広く社会に公開することを目的とした帝京大学総合博物館を設けており、学内の多くの研究成果や研究の過程で収集された貴重な学術資料を展示している。
帝京大学八王子キャンパスは自然豊かな多摩丘陵の端部に位置し、敷地全体が丘陵の地形となっている。本敷地の高低差は9mあるが、「SORATIO SQUARE」は既存の自然環境と一体的につながり、調和が図られている。近くの野猿街道を八王子方面に車を走らせ、多摩川を渡り京王線をくぐる頃になると次第に本キャンパスの高層棟が見えてくる。朝日を浴びると光り輝いているように見え、多摩地域のランドマークとなっている。本キャンパスは学内最大のキャンパスとなるのだそうで、その大きさからも学内の移動のしやすさや部屋の配置の判り易さが重要となるように思えた。本施設は、廊下やラウンジのような共用スペースが広く確保されていて見通しがよく、移動しやすい。また、館内の各室へ導く施設案内のためのサインも解りやすく、かつ学生に受け入れやすいデザインで統一されている。
500人講堂(小ホール)
本ホールは、T期工事の高層棟地下に配置されており、大学の講義はもとより講演会やシンポジウムなど幅広い利用を想定している。また、このホールは特定天井基準の対象となる規模であるが、天井を膜天井として軽量化を図ることで対応している。膜天井は基本的に吸音面となるため天井はほぼ全面吸音面となり、響きはかなり抑えられている。残響時間は、中音域(500Hz)で0.9秒/空席時、0.8秒/満席時と、講演等言葉の明瞭性を求める大学の講堂に相応しい響きとなっている。
また小ホールの直上は新設される大学バスターミナルからのメインのエントランスになるため、そこを通る人たちの歩行音や物の落下音等が小ホールに伝わることが懸念された。その対応として、エントランスプラザの床を発砲プラスチックの緩衝材による浮床とし、歩行音等の衝撃音の低減を図った。その結果、検査時における標準衝撃源による衝撃音が小ホールの客席で全く感知できないレベルまで低減されている。床衝撃音レベルでいうとLL-30未満であり、エントランスプラザで想定される使い方による衝撃音については、全く支障とならない性能が得られている。
1000人ホール(キュリオシティホール:CURIOSITY HALL)
U期工事において小ホールに続いて1000席の大ホールが完成した。使用主目的は小ホールと同様に、講演会、シンポジウムなど幅広い利用を想定している。本ホールの天井は準構造で仕上げを岩綿吸音板とし、天井全面を吸音した。残響時間は、中音域(500Hz)で1.2秒/空席時、1.1秒/満席時と、小ホールと同様、講演等言葉の明瞭性を求める大学の講堂に相応しい響きとなっている。このホールの名称は「CURIOSITY HALL」という。あらゆることに好奇心を燃やして知識欲を高め、己を磨いていく施設、といったところだろうか。
帝京大学八王子キャンパスは、このように教育環境が整い、アリーナや広大なグラウンド、武道場といった運動施設も充実しており、屋外にいても気持ちのいい、学生にとっては快適で理想的なキャンパスと言えそうだ。二つのホールについても、盛んに使っていただき、学業向上に役立てて頂けたらありがたい。(小野 朗記)
ジュネーブ「音楽の街」・新コンサートホールの設計チーム決まる
2016年の暮、スイスの「ジュネーブ音楽の街財団」(Fondation pour la Cite de la Musique a Geneve (FCMG))は、18の建築設計チームを招聘して各々専門分野からなるデザインチームによる、ジュネーブの新しいコンサートホールの設計案の提案を求めるデザイン・コンペを発表した。招聘された建築設計チームは、地元スイスの建築事務所の他、ヨーロッパ、アメリカ、日本からと多岐にわたった。2017年1月9日にコンペ要項が発表されてデザイン・コンペは正式にスタートし、2017年8月9日にデザイン案の提出が締め切られ、2017年10月12日にはコンペの結果が「財団」およびコンペ審査委員長の仏アーキテクト、ドミニク・ペロー (Dominique Perrault) によって発表された。
コンペに勝利したのは、地元ジュネーブの建築家、ピエール=アラン・デュプラ (Pierre-Alain Dupraz) とポルトガル・リスボンの建築家、ゴンサロ・ビィルニ (Goncalo Byrne) との共同チームである。永田音響設計はこのチームの音響設計担当として、また、フランスのThe Space Factoryが劇場コンサルタントとして参加している。
新しい施設の敷地は、ジュネーブ湖(レマン湖)西側のジュネーブ市北部中心にある国際地区の中心部に位置しており、国連ヨーロッパ本部から至近の距離にある。新施設は大小異なったサイズのホールや管理用の諸室で構成され、完成後はスイス・ロマンド管弦楽団 (Orchestre de la Suisse Romande (OSR)) とジュネーブ高等音楽院 (Haute Ecole de Musique (HEM)) の本拠地となる予定である。一般聴衆を対象としたコンサートが提供されると同時に、教育機関が併存することによる音楽文化向上の相乗効果も期待されている。施設の中心となる大ホールは、1750席規模のクラシック音楽用のコンサートホールとして計画されている。プロジェクトはすべて民間資金で賄われることになっており、「ジュネーブ音楽の街財団」が全体の資金調達を行う。
建物の設計はまもなく開始される予定で、デザイン・コンペ案を元にして設計が進められる。それに引き続く建設工事は2020年の後半に開始され、2023年中に完工の予定である。(Marc Quiquerez記)
プロジェクトとコンペに関する詳細な情報は下記のサイトにて入手可能である。(ただし仏語のみ)
https://citedelamusique.ch