No.355

News 17-07(通巻355号)

News

2017年07月25日発行
本館の外観[正面部分の2,3階が多目的(音楽)ホール]

倉敷高等学校 多目的(音楽)ホール竣工・・・吹奏楽の頂点を目指して!

 倉敷高等学校は、岡山県倉敷市にある普通科・商業科を持つ男女共学の私立の高等学校である。大学入試制度の改革がいろいろと議論されているが、倉敷高校でも、進学や志望にあわせてコースを選択できるシステムを構築したり英語教育に力を入れたりと、変革に向けて新生 倉敷高等学校への歩みを進めている。校舎の新設もその一環で、すでにいくつかの新しい校舎が完成している中で、本年3月、学校の中心部分になる本館の校舎が竣工した。その中に、ここで紹介する多目的(音楽)ホールが併設されている。この多目的(音楽)ホールでは、吹奏楽部の練習や演奏会、その他様々な発表会や講演会などが計画されている。

本館の外観[正面部分の2,3階が多目的(音楽)ホール]
本館の外観[正面部分の2,3階が多目的(音楽)ホール]

 設計・施工は、岡山市の蜂谷工業である。2年前の夏、設計担当の方から電話をいただいた。「倉敷高校の校舎を新設するにあたって、その中に音楽に使用する多目的ホールを計画している。生徒により良い音環境の下で授業や発表会を楽しんでもらいたい、という学校側の思いが強く、音響設計が重要と考えているので是非お願いしたい。」ということだった。それがこの仕事の始まりである。

 倉敷高校では部活動も盛んである。とくに運動部では、昨年12月に京都で開催された全国高等学校駅伝競走大会で初優勝を納めた陸上部を初めとして、剣道部やレスリング部など、全国的にも名前が知られている。さらに、文化部の吹奏楽部にも力を入れようと、有名な指導者を総監督に招聘し、吹奏楽の全国大会を目指して活動を強化しようとしている。設計段階に音響設計の内容を説明するために学校を訪問した時、理事長や吹奏楽の総監督の先生を初め諸先生からホールをそのきっかけとしたいと、熱のこもった話しを伺い、かなりプレッシャーを感じたのを記憶している。

 多目的(音楽)ホールは、本館校舎の2階、3階に位置している。平面は約16m×約17mの矩形で、天井高さは最も高い中央部で約6.2mである。吹奏楽では金管楽器や打楽器などの音量の大きな楽器が多いので、できるだけ天井が高い方が好ましいと考えて、少しでも高く、とお願いした結果、この高さとなった。両側壁と後壁の三方にはギャラリーを設けてもらい、その下面を音響的な反射面として利用している。

 正面壁には、反射と吸音を分散配置した中に少し凹凸のついた木が意匠的に配置されている。側壁には、上を向いた反射面と吸音面を分散配置した。反射面はボードのクロス貼りの上に白の塗装仕上げ、吸音仕上げはグラスウールに黒のグラスクロス包みである。吸音仕上げは、この他に天井の一部と後壁にも設置した。ギャラリー上部の壁面には、残響調整を意図してカーテンを設置した。

 残響時間は、カーテンを開けた状態で約0.9秒(平均吸音率0.21)、閉じた状態で約0.8秒(平均吸音率0.24)である。

多目的(音楽)ホール[カーテン:開]
多目的(音楽)ホール[カーテン:開]
多目的(音楽)ホール[カーテン:閉]
多目的(音楽)ホール[カーテン:閉]
側壁
側壁

 入学式終了後に、吹奏楽の練習を聴かせてもらった。演奏曲目は今年の全日本吹奏楽コンクールの課題曲である。新1年生は練習を始めて数日ということだったが、演奏はまとまっており、そのレベルの高さに驚いた。カーテン開・閉のそれぞれの状態で聞いたが、開の状態でも全体の楽器が鳴った時の音量は飽和した感じはせず、各楽器のバランスも良かった。顧問の先生は気に入って下さったようで、良い評価をいただくことができた。これから、コンクールに向けて厳しい練習が続くだろう。嬉しい知らせが届くことを祈っている。(福地智子記)

倉敷高等学校ホームページ:https://kurashiki.ac.jp/

武蔵野市民文化会館のリニューアル・オープン

 武蔵野市民文化会館は1984年11月、東京都武蔵野市に開館した複合文化施設で、大ホール、パイプオルガンを備えた音楽専用の小ホール、展示室等からなる。公益財団法人 武蔵野文化事業団によって運営されるこの会館では自主事業に力が注がれており、多彩な主催公演、独自の宣伝文句につい興味をそそられてしまうフライヤーなど、積極的な運営が特色となっている。

 この市民文化会館の新築時の設計は、先月号のニュースで改修のご紹介をした宇都宮市文化会館と同じ佐藤武夫設計事務所(現 佐藤総合計画)である。開館から30年を迎えた2014年、今後更に30年活用していくための改修基本計画が策定され、今回の改修設計では大・小ホール天井の耐震性強化、施設・設備の老朽化に伴う更新や機能向上、バリアフリー化等を目的とした大規模改修が計画された。本改修では、改修設計・監理を佐藤総合計画が実施し、永田音響設計はその設計・監理チームの一員として、音響コンサルティングを担当した。改修工事は建築・電気・機械・舞台機構・舞台照明・舞台音響の6つに分離発注され、その内、建築工事はナカノフドー・清本JVが受注した。工事は2016年4月から1年間閉館して行われ、今年の4月に小ホールを除く全館が、5月にパイプオルガンの整音のため1か月ずれて小ホールがリニューアル・オープンを迎えた。

改修の内容

 音響に係る主な改修項目は、大・小ホール天井の耐震性強化および客席椅子の更新(座席幅を拡張)、空調設備・大ホール舞台機構設備等の更新および騒音低減対策、練習室の遮音性能向上対策、舞台音響設備の更新、新設エスカレータの振動低減対策である。

 大・小ホールの内装は、天井の耐震性強化と客席椅子の更新が改修の目的であったため、基本的に天井・ 床仕上げのみが改修対象であった。大ホールの天井は改修後も改修前と同様の段々形状であるが、初期反射音がより均一に客席へ分布するように、変更可能な範囲で天井面の幅や角度を調整した。また、クラシック音楽の公演の多いホールとしてはやや響きが短めであったことから、少しでも響きを長くしたいという改修要望を実現するため、主天井やバルコニー下天井の一部に設けられていた吸音仕上げを反射性の材料に変更した。客席椅子は、この施設の新築当時には一般的であった吸音要素が多い背裏まで布張りの椅子を、座と背表のみ布張りの仕様に変更した。これらの改修の結果、改修前よりも残響時間が長くなり、聴感的にも十分その違いを感じることが出来る。

大ホール(改修後)
大ホール(改修後)
小ホール(改修後)
小ホール(改修後)

 小ホールは、響きがよいと評判のコンサートホールであったことから、改修対象の天井については改修前の形状を復元する方針とした。今回の改修では、響きに影響すると考えられる変更要素は客席椅子の更新のみであったが、それに伴い、少し残響時間が長くなっている。本ホールには後壁に残響可変装置が備えられており、長い響きが好まれるパイプオルガンから、少し抑えめの響きが好まれる演奏会まで、様々な演目に適した響きが得られるよう、それらが積極的に活用されている。

プレオープン・デー

 正式なリニューアル・オープンに先だって、4/16にプレオープン・デーと名付けられたイベントが開催された。朝9時過ぎ、多くの市民の方が見守る中、エントランスホールの大階段で亜細亜大学吹奏楽団によるオリンピック・ファンファーレの華やかな演奏で開幕。いよいよオープンするんだ!と気持ちが高まる。エントランスホールでは、その後もポジティフ・オルガン、市民交響楽団や栗コーダーカルテットと武蔵野市に縁のある方々による演奏が繰り広げられた。その他も、バックステージ・ツアー、大ホールでの和太鼓ワークショップ、小ホールでのパイプオルガン見学会、展示室での写真展や和室での茶道体験など、盛り沢山の催し物が行われた。会館内の各所で子供から大人まで多くの方々が愉しまれていて、この改修が終わるのを市民の皆さんが待ち望まれていたことが伝わってきた。

オープニングコンサート

 大ホールは、4/20リニューアル・オープン記念特別公演 ウィーンアカデミー管弦楽団による「べートーヴェン交響曲全曲演奏会」で幕開けした。4/20〜23の全4回公演の殆どが完売となる盛況ぶりだったよう。小ホールの開館記念コンサートは5/21のラトヴィア放送合唱団による公演。指揮者や合唱団から非常によいホールと言って頂いたそうで、改修に関わった者としてほっとした。

プレオープン・デーのエントランスホールでの演奏
プレオープン・デーのエントランスホールでの演奏

 オープンしたばかりの今は、主催公演が例年よりも多く企画されていて、本ニュースが発行される7月は12の主催公演が行われる。また、この秋、改修で1年延期となった第8回武蔵野市国際オルガンコンクールも開催される。武蔵野文化事業団の方によると、パイプオルガンが改修後の小ホールの響きに合わせて整音されて、丸みのあるいい音が奏でられているそうだ。主催公演のチケットはすぐに売り切れてしまうものが多いようなので、公演情報のチェックはお早めに。(箱崎文子記)

武蔵野市民文化会館:http://www.musashino-culture.or.jp/sisetu/bunka/top.html

ムジカーザでスティールパンを聴く

 代々木上原の“ムジカーザ”で、スティールパン(スティールドラム)のコンサートを聴いた。

<ムジカーザ>

 約100席のコンサート空間(1995年オープン)で、ピアニストでもあるオーナーの黒田珠代さんが目指したのは、“サロンコンサートの雰囲気を持つ、若い演奏者の練習と発表の場”である。建物の平面形は四分円で、ホールのメインフロアはその円の中心をコーナーの1つとする正方形である。通常はこのコーナー部分がステージとなる。ステージの対角はホールに対して円弧状に張り出し、その一部がホール入口となっている。メインフロアのステージから離れた2辺の先は1段高いスキップフロアとなっており、通常は客席が並べられる。さらにホール入口の上部(2階部分)はキチネットを兼ねたメザニンとなっており、メインフロアとは一方のスキップフロアを経て階段で接続されている。フラットなメインフロアには自由に椅子を並べられることから、利用者によっては別の位置をステージとする場合もあるという。特に、階段で繋がったスキップフロアとメザニンを使った立体的演出が思いがけず面白い効果を生む。ここ10年の稼働率はほぼ100%で、大人気のコンサート空間である。

ムジカーザ(鈴木エドワードさん設計)
ムジカーザ(鈴木エドワードさん設計)

<スティールパン>

 ホール主催のコンサートに“珍しい楽器シリーズ”がある。今回は、洗足音大出身のスティールパン奏者・中野優希さんによる解説を交えながらのとても楽しいコンサートであった。スティールパンは、カリブ海に浮かぶ小国トリニダード・トバゴ発の打楽器で、元はドラム缶である。ドラム缶の底板を鍋型に成型し、その中に音階にチューニングされた振動エリアが環状に並んでいる。1枚の曲面の中に、ある規則に沿って鍵盤が並んでいるイメージである。ここではこの振動エリアを“島”と呼ぶことにする。この島の並び方は、座席に配られていたウチワに描かれていた(右図)。中央下から反時計回りに五度ピッチの並びである。ちょうど、楽典に登場する五度圏を水平軸で反転させた配置になっている。1枚の板の中ということで、島は周辺の影響を受ける。隣同士の島の音程の協和性が低いと発せられた音は濁ってしまうので、一度またはオクターブの次に協和性の高い五度ピッチで隣接する島が並んでいる、という説明は腑に落ちた。とは言っても、各島は独立ではなく互いに繋がっているが故に周辺の影響受けて独特な音色を生み出している。他の楽器と同様にスティールパンも音域によって様々な種類がある。コンサートでは主にメロディーを担当するテナーパン、やや低めの音域を担当する2個1組のダブルセカンド、横からはドラム缶にしか見えないベースが使われていた。テナーパンには島を小孔で縁どりしたものもあり、製作者の工夫が見て取れた。スティールパンは、先端にゴムを巻いたマレットで演奏される。硬いスティックで叩くと金属的な音が鳴るが、先端がゴムのマレットで優しく叩くと柔らかく豊かな音が発せられる。一見、楽器に必須の共鳴機構が無いように見えるが、パンの深さに合わせてパンの縁から伸びる”スカート”が共鳴に一役買っているようである。その他、パンに磁石シートを貼ってチューニングと音色を変えたり、水を注いで傾きを変えるとグリッサンドのような効果が生まれるなど、スティールパンの奥深さを堪能できたコンサートであった。(小口恵司記)

コンサートのフライヤー
コンサートのフライヤー
スティールパン ウチワ
スティールパン ウチワ

ムジカーザ:http://www.musicasa.co.jp

中野優希WEB:http://www.yuki-steelpan.com/