No.347

News 16-11(通巻347号)

News

2016年11月25日発行
外観

蓮田市総合文化会館「ハストピア」のオープン

 10月15日、埼玉県蓮田市の総合文化会館「ハストピア」がオープンを迎えた。蓮田市は埼玉県の中東部に位置し、ハストピアは蓮田市の文化拠点の中核施設として、これまで市民に親しまれてきた総合市民体育館「パルシー」の敷地内に建設された。設計は佐藤総合計画、建築工事は大成・岩崎特定建設工事共同企業体である。永田音響設計は、設計から音響監理、完成時の音響検査測定までの一連の音響コンサルティング業務を担当した。

外観
外観

施設概要

 設計にあたっては、市民にとって使いやすく長く親しまれる施設になるよう、市の文化団体や市民公募によるメンバーから構成される建設計画懇話会において、施設・運営計画等についての議論を行いながら、建設の計画が進められた。
 施設の中心には634席のホールが置かれ、その周囲にスタジオ3室、ギャラリー、多目的ルーム、創作ルーム、和室等が配置されている。この施設の建築的な特徴のひとつに、ホール部分のみを3階建ての鉄筋コンクリート造とし、その他の諸室エリアを平屋建ての鉄骨造としたことがある。そうすることで、ホール以外にかかるコストを極力抑え、ホールの天井高や形状等に対して比較的自由な設計が行えた。
いちばん大きなスタジオ1には、スピーカや照明などの舞台設備が必要に応じて設置できる固定バトンが壁の周囲と天井に備えられ、小規模なホールとしての利用にも対応できる。施設のエントランス部分はパルシーとの相互利用を考慮してパルシー側に設けられ、利用者がスムースに移動できるような動線計画となっている。
 ホール部分の外壁は押出し成型セメント板のリブパネルが、いくつかの模様を組み合わせて配置されている。その円筒形状の印象的な外観は、近くを走る東北新幹線の車中からも見ることができる。

施設平面
施設平面
スタジオ1
スタジオ1

騒音防止計画

 施設は東北新幹線の軌道に近い場所に計画され、ホールにおける騒音防止の観点から厳しい敷地条件であった。新幹線走行時の固体伝搬音防止のために、施設と新幹線軌道の平面的な距離は、配置計画に限りがある中で最低でも50m離し、さらにホール部分の底盤下と地下部分の外側にポリエチレンフォーム製の防振材を設置した。ホール部分は400mmの厚いコンクリートの構造体で囲われ、新幹線騒音の遮断のために有効に機能している。完成時のホールにおける新幹線騒音は、空調設備を運転した通常の利用の状態では、ほとんど気づかないレベルであった。
 また、スタジオ3室については、ホールとの同時利用を考慮し、防振ゴム浮床による防振遮音構造を採用した。ホールとスタジオの遮音性能は、平面的な距離があまりとれなかったものの、ホールとスタジオの構造体が違うこともあり、88 dB以上(500 Hz)という高い遮音性能が得られている。

ホールの室内音響計画

 蓮田市で出土した縄文式の土器にちなんで「どきどきホール」と名づけられた634席のホールは、1層のバルコニー席をもつ多目的ホールである。バルコニー席の椅子はより多くの人数が収容できることと、親しみやすさを考慮し、ベンチシート型の客席椅子が採用されている。

 ホールの平面形状は、縄文式土器をモチーフに馬蹄形に近い形が計画されたが、凹面形状による音の集中を避けるため、壁面をいくつかの面に細分化し、それぞれの面の形状と角度を少しずつ変えた。また、壁面には寸法の異なる3種類のリブ材をランダムに配置し、さらにザラツキのある塗装とすることで、音を適度に散乱させることを意図した。舞台の音響反射板は、固定壁として仕上げられた正面反射板、観音開き方式で正面から大きく開閉する側方反射板、舞台上部から吊り下げられた天井反射板から構成されており、動力が必要な舞台機構をできる限り少なくすることで、コストを抑えながら、よりよい音響空間が実現できるような計画としている。ホールの断面形状については、プロセニアム開口の高さが舞台床から約10m、客席の天井は最も高いところで舞台床から15mである。この規模のホールとしては比較的高い天井高が確保されており、音響的に必要な室容積も客席数に対して十分に大きく確保できている。

ホール内観(客席から舞台を望む)
ホール内観(客席から舞台を望む)
ホール内観(舞台から客席を望む) (写真提供(外観を除く):SS東京)
ホール内観(舞台から客席を望む)
(写真提供(外観を除く):SS東京)

 完成したホールの残響時間は、空席時2.2秒/満席時推定値1.8秒(500Hz)であり、生音に適した比較的長めの豊かな響きが得られている。また、舞台反射板を収納し、舞台幕を設置した講演会等で使用する形式では、空席時1.6秒/満席時推定値1.3秒(500Hz)と、十分に響きが抑えられ、音響的に必要な明瞭さが実現されている。

 11月3日の文化の日に、蓮田市出身の若いヴァイオリニストとチェリストのメンバーにピアノを加えた「浅間山重奏あさまさんじゅうそう」の演奏会に足を運んだ。オープン間もない綺麗なホールに美しい音色が広がり、来場されたお客さんも皆満足そうであった。また、この日は、スタジオ1ではピアノ教室の発表会が、ギャラリーでは展示会が同時に開催され、市民の皆さんに活発に利用されていることが窺えた。市民がいつまでも「わくわく・どきどき」できる施設であって欲しい。(酒巻文彰記)

蓮田市総合文化会館ハストピアHP: https://www.city.hasuda.saitama.jp/bunkakaikan/kyoiku/shogai/bunkakaikan/hasutopia_top.html

チャイナ・フィルハーモニック・オーケストラのコンサートホール・プロジェクト

 チャイナ・フィルハーモニック・オーケストラ(略称CPO、中国愛楽楽団)は、2000年に設立された若いオーケストラである。芸術監督・首席指揮者のLong Yu(余隆)に率いられて既に世界各地をツアーしており、2009年には、英国グラモフォン誌によって「世界で最も活躍している10のオーケストラ」の一つに選ばれている。来る12月5日には、ロサンゼルスのディズニー・コンサートホールでも演奏会が予定されている。

施設の外観イメージ
施設の外観イメージ

 CPOはこのたび10月17日に記者会見を開催し、念願の本拠地となるコンサートホールの建設プロジェクトを正式に発表した。北京市中心部の1.2ヘクタールの敷地内に、1,600席の大ホール、400席の小ホール、リハーサル室、レコーディングスタジオなどを計画しており、総建築面積は26,587平方メートル、総事業費は約5.3億人民元(約82億円)である。建築デザインは、今やスター・アーキテクトともいえるMa Yansong(馬岩松)が率いる地元・北京の設計事務所MADが手掛け、永田音響設計は大・小ホールを中心とした室内音響、遮音および騒音防止に関する音響設計を担当している。

 半透明ガラスのファサードに包まれた、まるで翡翠の宝石のように美しい建物が、蓮池に寄り添い、豊かな緑の中にそっと浮かび上がる。大ホール屋根面にはトップライトを設け、蓮の花弁をイメージさせる天井パネルの隙間から、柔らかな自然光がじわりと伝わって来るように計画されている。また、天井面にはプロジェクターからの映像が投影できるようにも考えられている。

大ホールの内観イメージ
大ホールの内観イメージ

 敷地がタイトな上、24mの高さ制限がある建物内に各室をかなりコンパクトに配置せざるを得ないため、室間の遮音の条件は大変厳しい。さらに、隣接する北京工人体育場(屋外施設で、ロック・コンサートの会場としてもしばしば使用される)と、将来建設予定の地下鉄からの騒音・振動などをあわせて検討した結果、大・小ホールなど主要なスペースについては、その部屋全体が防振材で支えられる二重構造を採用した。

大・小ホールの俯瞰イメージ (イメージ提供:MAD)
大・小ホールの俯瞰イメージ
(イメージ提供:MAD)

 アリーナ型の大ホールの平面形は楕円あるいはDの字に近く、複数のパネルで覆われた天井面と合わせ、非常にユニークな形状となっている。そのため、さらに細かく室形を検討できるよう、来春には1/10スケールの音響模型実験を予定している。現在は、中国で施工図設計と呼ばれる段階の作業を急ピッチで進めており、年内には施工が開始されて2019年末の完成を目指している。(菰田基生記)

チャイナ・フィルハーモニック・オーケストラ: http://www.cpolive.com/

駅も“よい音” −台湾の駅の吸音仕上げ−

 前月号で紹介させていただいた台中国家歌劇院の件で、模型実験や施工確認のために10年ぐらいの間、台湾へ通っていた。先日、その約10年間の写真を改めてめくってみると、行くたびに撮っている、同じ場所の写真があった。それは、台湾新幹線、正式名称:台湾高速鉄路(THSR)の台中駅の写真である。THSRは台中国家歌劇院設計中の2007年に開業した。現場が始まってからは、台北から台中までの脚として便利に使っていた。所要時間は約1時間で料金は片道2,500円程度。日本の半額ぐらいだろうか。

 なぜ?毎回、写真を撮っていたかというと、吸音が目についたからである。一番上の写真が台中駅の構内で、広々とした天井の高い空間に、見上げると天井の大面積に有孔板(パンチングメタル)が使われている。もちろん、しっかり天井裏まで覗いたわけではないが、響きの印象から、その背後にはグラスウールなどの吸音材がある事が容易に想像できる。抑制され落ち着いた響きは、旅行者に安心感を与えている。2枚目の写真のTHSR桃園駅でも天井面に吸音が使われているようだった。

 施設が新しいこともあるのだろうが、台北の地下鉄のホームや構内も、多くの駅でなんらかの吸音仕上げが施されているのが見えた。3枚目の写真は、台北市内の地下鉄駅のホームである。吸音材の廻りを孔あき板で囲って作られていると思われる青色の吸音板が、天井から吊られている。4枚目の写真も地下鉄駅ホームであるが、同様な仕上げが見られる。

 さて、日本国内に目をむけると、屋外にあって屋根が多少ある程度のホームは、雨が吹き込むかもしれないが、音は外へ逃げることができるので、まだ感じる騒音は小さめである。一方、地下鉄や、屋外にあっても、おそらく雪などの天候のためにホームが囲われているような駅だったりすると、騒音はうるさい。よく出張で使う多数のホームを持つ新幹線の地下駅などの騒音は、暴力的だと感じる時もある。また、それに輪をかけた音量で拡声される案内放送は、響きのせいで何を言っているのか、わからない。単純な話として、やはり今まで外へ逃げていた分の音は、吸音で処理することを考えるべきであろう。前述の台中駅のホームは屋外にあるのだが、ホームにかかる天井にも吸音仕上げが施されていた。

 “よい音” という言葉は、とかくコンサートホールなどに対してだけ使われがちであるが、どんな空間もそれにふさわしい “よい音” にしていきたい。(石渡智秋記)

台湾高速鉄路 台中駅
台湾高速鉄路 台中駅
台湾高速鉄路 桃園駅
台湾高速鉄路 桃園駅
台北市内の地下鉄 忠孝復興駅ホーム
台北市内の地下鉄 忠孝復興駅ホーム
台北市内の地下鉄 松山機場駅ホーム
台北市内の地下鉄 松山機場駅ホーム